4' 小倉 Day1
「いや、今付き合ってる人がいる」
この言葉がグルグルと頭の中を回っている。嘘だ。嘘だ。本当の訳がない。夢なのか。悪い悪夢なのか。頭痛で頭がひどく痛い。思考がまとまらない。
「嘘だ」
手が震える。何も考えられない。脳が揺れる。何も受け入れられない。たかが立ち去った後も同じ席から動けないでいる。もしかしたら、もし、ここで待ち続けていたらたかが満面の笑みで冗談って言ってくれるかもしれない。
わかってる。わかってる。わかってる。そんなわけないことぐらい知ってる。
どれくらいの時間そのまま動かないでいたのだろうか。店員がたかが食べた皿を片付けていった。それを見た私は発作のように立ち上がり、代金を机の上に置いたまま店を出た。
あてもなくフラフラと歩いていると、家から少しだけ離れた公園に着いた。ベンチに腰を掛け、風に揺れる木々をぼんやりと眺める。あの木は小学校の時にたかと一緒に登った。あの大きな木の下にはどんぐりが落ちてる。あの曲がった木のうろにリスが住んでいた。次々思い出す情景、目から感情が零れ落ちていくようだった。
気が付けばあたりは暗くなり、公園からは噴水の音しか聞こえなくなっていた。揺れる水面には欠けた月が笑ってる。こんなにも近いのに、揺れて、届かない。
雲の合間に月が消えて頬を伝う涙。
貴方がくれたのは泡沫のような恋。
どんなに優しく抱いても弾けて消えていく。
・・・帰ろう。
重い足を引きずって家に着いた。エントランスを抜け、エレベーターに乗り込む。重力が掛かり、少しだけ目の端を拭う。すぐに4階に着いた。もっと長くていいのに。下りて廊下を歩く。402号室に着き鍵を差し込む。ちょうど隣のドアが開いた。
「・・・」
「・・・よう」
たかと会った。心臓が跳ね上がる。失恋したってわかっているのに、体は正直だ。
「なにか言ったらどうだ?」
なんていえばいいんだろう。本当に付き合ってるの?私が貴方を好きなことには気が付いてるの?その人と別れて、私と結婚できない?
「・・・別に」
言えるわけがない。ドアを開け、逃げるように部屋に入る。
「だれだぁ!」
部屋の奥から叫び声がする。だから帰りたくなかった。
「帰ってきたらママにあいさつくらいせんかぁ!」
無視して速足で部屋に逃げる。後ろ手で鍵を閉め、ドアにもたれかかるようにして座り込んだ。
たかは知らない。私の母親はアル中で父親は帰ってこないことを。
「酒臭い・・・」
窓を開ける。外ではオシャレしたたかが通りを歩いているのが見えた。きっと、彼女に会いに行くんだろう。
もし、願いが叶うなら、流星になりたい。




