18 高馬 Day2
支倉さんは戸棚から車の鍵を取り出した。
「もう今から行く?それとももう少しゆっくりしてく?」
「え、俺今マジで金ないっす。家まで送ってってくれれば自分の服を取りに行きますよ」
「や、買ってあげるよ」
支倉さんは鍵をくるくると回しながら言った。
「本当に大丈夫です。俺今服欲しいわけじゃあないですし」
「遠慮しないでよ。服があって困ることなんてないでしょ」
そりゃあこんな広い家に住んでりゃあね。俺はマンション暮らしだぞ。毒を吐きそうになり、紅茶をまた1口飲む。
「それにさ、私には兄と弟がいるんだ。2人は私と違ってきちんと子供だけど。だから、家族とかにモノを贈るの、憧れてるんだ」
んなこと言われたらさぁ。俺は立ち上がった。
「じゃあ、すみません。お願いします」
「いいよいいよ。じゃ、行こうか」
駐車場には黒い車と赤い車が止まってた。赤い車の運転席に支倉さんが乗り込む。俺も唾を飲み込み、車に乗り込む。
「じゃあ、お願いします」
「まっかせて」
低いエンジン音と共に動き出した。
「車に乗るの、随分久しぶりです」
「あ、そうなの?」
「はい。両親が家にいませんから運転できる人がいないんですよ」
「あ、そういうことなのね」
支倉さんはサングラスをかけた。俺の分は残念ながらなさそうだ。
「高馬君、音楽流してよ。ブルートゥースで繋げるからさ」
「了解っす。何聞きたいです?」
「ん?普段君が聞いてる曲」
普段聞いてる曲かぁ。洋楽だけどここで流したらカッコつけてるって勘違いされうるなぁ。トップソングでいいか。流れてきた超有名な邦楽に支倉さんは何とも言えない顔をした。
「・・・ねぇ、この曲知ってるの?」
「はい。程々に」
「程々?私、君の好きな曲が聞きたいんだけど」
バレるのが早いぜ。まだイントロなのに。
「ん-、でも支倉さんが絶対知らないバンドですよ」
「構わないよ。君が普段聞いてるバンドを私も聞きたいの」
じゃあ、僭越ながら、俺の好きな曲を流させて頂こう。とんがったバンドだから、1番刺激がなさそうな曲にしよう。
ギターなのかベースなのかわからない楽器が鳴った後、夏の熱いアスファルトに投げ捨てられたような声が車の中に響く。
≪Summer has come and passed The innocent can never last ≫
支倉さんは驚いたように車のブレーキを踏んだ。前につんのめった。危ない危ない、シートベルトのおかげで顔を強打せずに済んだ。
「どうしました?」
「・・・や、ごめん。何でもないよ」
支倉さんはサングラスを外し、俺に渡してきた。
「ごめん、ちょっとかけてて」
声が少し震えている。俺は何も言わずに色眼鏡をかける。支倉さんは目の前のコンビニの駐車場に車を停めた。
支倉さんは車の中で声をあげて泣き出した。子供みたいに。俺はどうすればいいかわからず、支倉さんに手を伸ばし、途中で引っ込める。俺は何も言わず、前を向いた。




