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虚栄  作者: 竹取夜鷹


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12 高馬 Day2

先輩が恥ずかしそうにトイレに向かっていった。寒かったからトイレに行きたくなっちゃったって。気遣いかもしれないし、本当かもしれない。知りたいわけじゃないし。とりあえずお土産コーナーに向かう。

大きめのサメのぬいぐるみにペンギンのキーホルダー。水族館を模した栞や日記帳。サメの修道服にカジキを模した弓とかシャチの「完了」の印鑑など色々なもんがあるんだなーって眺める。別に欲しいものはないけど。小倉にも買っていってあげようかなとスマホをつける。着信が2件。チャットには「風邪?大丈夫?バッグとか靴は宅配ボックスに入れておくからね」とのメッセージが。・・・。返信しかけた指を抑え、既読も付けずに仕舞おうとしたが、加藤からもメッセージが届いてた。

「支倉蛍雪。多分この人だな。飯奢れ」

ご丁寧にSNSのアカウントを見つけてくれたみたいだ。あいつ、何て良い女なんだ。愛してるぜ。

「あの、写真撮ってもらっていいですか?」

知らない女性3人に声を掛けられた。写真ねぇ。生まれてこの方スマホの写真機能使ったことないんだよな。見て覚えればいいし。

「・・・申し訳ないが、写真を撮ったことがないんだ。他の人を当たってくれ」

「あははっ何それ!草!」

「そんな人いるわけないよ」

「兄さんその断り文句アタシも使ってもいい?」

当たり前のようにスマホを渡された。えーっと、こうか?見真似でスマホを向ける。スマホの画面に3人が写った途端、少し腕が震えだした。嘘だろ、運動不足が過ぎないか?カメラ持って前に出しただけで腕が震えるってヤバいぞ。

「撮ります、はいちーず」

それっぽいボタンを押し、写真を撮る。酷いブレだ。そうはならないだろ。

「見せて見せて・・・ぷっ、こんなにっw、ぶれるのはww才能だよ!」

「あははははっ、カメラの手振れ補正を超える男現るwww!」

もう1人に至っては蹲って笑ってらっしゃる。舐めやがって。

「兄さんほんとに写真撮ったことなかったの?」

「た、高馬、どうしたの?」

先輩が駆け寄ってきた。

「や、写真を撮ってほしいみたいなんですけど、生憎上手く撮れなくて」

「そ、そう。じゃあ、私が撮ろうか?」

「いや、大丈夫です」

「もう撮ってもらったんで!」

「兄さんまたねー!」

あっとゆーまに行ってしまった。なんだったんだ?

「知り合い?」

「初めましての方々です」

「よかった。知らない人に高馬君が絡まれてるからびっくりしちゃったよ。それと待たせてごめんね」

「構いませんよ」

まだ震えたままの両手をポケットに入れ、階段を上りふれあいコーナーに足を踏み入れる。どういうところかわからないまま来たけど、亀だとかナマコだとかヒトデだとかに触れるってコーナーだ。先輩は躊躇なく両方の袖をまくり水の中に手を突っ込んだ。

「わっ、冷たい!」

先輩は不思議そうにナマコを触っていた。俺も左手の袖を捲り、腕を水中に手を入れる。怖々ヒトデをつついてみる。ザラザラと古くなった漆喰のような手触りでヤな感じだが触っていたい感触だ。うーん、なんか新感覚。

「こんなところに可愛い生き物が!」

先輩はそう言って水中で俺の手を握った。俺の手をしばらくニギニギしたあと、先輩はゆっくりとこっちを見た。

「あ、あの、何か言って欲しいかな。冗談だよ」

俺は何も言わずに先輩の手を握り返した。先輩は顔を真っ赤にしながら指と指を絡めて恋人つなぎをした。うん、やっといてなんだけど、そうだな。うん。あれだ。すげー恥ずかしい。冷たい水の中だからか先輩の手を感じる。

「私はさ、君が初めての恋人でさずっと上手くしなくっちゃって、年上なんだからリードしなくっちゃって、思ってたのに、高馬君に引っ張られてばっかりだよ」

先輩は水面に映る俺ら2人と無機質な照明を真っすぐ見つめている。

「ねぇ高馬君、本当に私でよかったの?私は世間も知らないし、顔も普通だし胸も大きくない。穏やかさしか友達に褒められたことしかないし将来の見通しも何にもないよ。なんで私が好きなの?」

・・・なんで好きかって。ここで嘘って言えたらどれだけ楽になれるんだろうか。幼馴染みから逃げるために彼女の振りを頼みたかっただけだって。先輩のことは恋愛対象に入れたことがなかったって。先輩より小倉の方が好きだって。

「・・・自分でもわかりません」

言えるはずもなくお茶と言葉を濁すばかり。俺は何をしているんだろう。後ろめたさが足元から這い上がり、喉を震わせ、口から美辞麗句を吐き出す。ただの化け物じゃあないか。

「ねぇ高馬君、私、君のこと何も知らないよ。何が好きとかなんで好きとか君は自分のことを話さないからさ。私、不安だよ。面倒くさい女でごめんね。でも高馬君のことが好きで大事で離れたくないから、わからないことがあると怖いの。君を失いたくないの。これ以上失いたくないの。高馬君、なんで私でいいの?」

水滴が1つ水面を揺らす。俺は何も言わず掴んだ手を自ら水から引き上げた。

「・・・風邪、引きますよ」

「・・・うん」

手を放し、蛇口でレモン石けんで一緒に手を洗う。うっかり指輪をつけたまま洗ってしまって、ポケットに指輪を仕舞う。

「少し、歩きませんか?まぁ土地勘ないんですけど」

先輩は何も言わず、俺の左手を握った。水族館の敷地から出て大通りに出る。このままだと先輩に車道側を歩かせることになるので1度、つないだ手を離した。

「あっ」

先輩はもう1度手を手を繋ごうとしたが、それだと状況は変わらない。俺は掴もうとする手を躱し、前を通って車道側に出ようとする。

「ま、待って!どこ行くの!」

先輩が両手を広げて立ちふさがった。

「え、車道側

「待ってよ。もう私に飽きたの?ヤダよ。高馬君、やめて、そんなことしないで言わないで」

先輩は顔を赤くし目を揺らしている。

「先輩落ち着いてください」

「やだよ。高馬君もみんなと一緒なの?」

「先輩、落ち着いて」

「なんでみんな私を置いてくの?」

「先輩

「やめてよ。1人は怖いから、お願い、何か言ってよ」

「支倉さん!」

先輩はピタッと止まった。加藤ありがとう愛してる。

「支倉さん、落ち着いてください。別に逃げようとかそういうのじゃあないです。車道側を俺が歩こうとしただけです」

先輩は潤んだ目のままだ。俺は両手を広げたままの先輩にそのまま抱き着いた。

「落ち着いてください、支倉さん。俺は貴方が思ってるより貴方のことが好きです。落ち着いてください。大丈夫です、俺はどこにも行きません」

先輩は震える手で俺の背中に手を通した。

「先輩、愛してます」

「・・・蛍雪。蛍雪って呼んで」

「・・・・・・蛍雪さん、愛してます」

「・・・・・・私も。悠太君」

また、逃げ道が崩れていく。

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