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虚栄  作者: 竹取夜鷹


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10’ 小倉 Day3

スマホをもう1度みてまた溜息。結局チャットも電話も返ってきていない。あのバカ鞄も靴も学校に置いたまま帰るなんてどうかしている。もしかしたら体調が悪くて早退して寝たきりかもしれない。呼び鈴を押すかは昨日100回くらい迷ったけれど、もし寝込んでいるなら、呼び鈴で起こすのが忍びなくてできなかった。もやもやした気持ちと一緒に物理の教科書を押し込み、ローファーを履きなおす。サイドポケットから香水を取り出そうとして苦笑する。未練は喉に刺さった魚の小骨みたいに痛くて、気になって仕方がない。

エレベータで1階まで降り、エントランスから出ようとしたとき、高そうな赤い車が止まった。運転席からは見たことのない女性、助手席からはたかが降りてきた。私は慌てて郵便受けがある方に身を隠した。後ろめたいことなんてあるわけないのに。むしろ聞きたいことは山ほどあるのに。誰なの?どこに行っていたの?その首に巻かれた包帯はなに?頭の中が整理できない私は、目を背けることもできずに、ソレを見ていた。たかはその女性とハグをし、唇と唇を重ねた。5秒か10秒かそれとも1時間か。わからないほどの時間の後、たかは女性と別れ、マンションの中に入ってきた。すれ違いざまにふわっと、嗅いだことのない匂いがした。

私はその場から動けないでいた。1時間以上経って、会社に出勤する人の群れを見てようやく体が動くようになった。重たい足で部屋に戻り、ドアノブを引こうとしたとき、母親が家から出てきた。

「あらぁ、おかえり。じゃあママちょっといってくるんぇ」

焦点の合わない目。歪に弛んだ頬。私は思わず目を背けた。通り過ぎるときにありふれた林檎の臭いがした。私の大切な人も消えて、思い出も未来も汚されていく。私は這いずるようにして部屋に戻り、布団を頭からかぶって大泣きした。

「大丈夫だからね。僕が笑わせてあげるからね」

君がそういうから泣かずに頑張ってきたのに。

もう、私、無理だよ。生きていける気がしない。

スマホが鳴る。震える手で確認すると、たかからだった。

「いろいろ込み合ってて気が付けなかった。息災だから気にしないでくれ」

込み合って。私はたかとあの女性が交わるところを想像して、吐きそうになった。スマホの写真の非表示のページ。そこには私がこっそり撮影したたかの笑顔、寝顔、そして寝込みを襲った時の裸の写真。

この裸はもう、私だけが知ってることじゃないんだ。

真夏に咲く向日葵達のよう、みんなが貴方を見てるわ。

私もその中の1人なのね。そんなの分かってる。

貴方が覚えていないような事も私には宝物なの。

それを貴方に壊されないように、大切に持ってる。

叶わない恋なのは分かってるよ。

ただ貴方を想っていた時間を何に使って良いか分からないまま、日が暮れていく。

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