9 高馬 Day2
結局脅しに屈して、デートの時間を後ろに回してもらった。申し訳ないな。言った本人は素知らぬ顔で堂々と炬燵の中に制服で入ってる。ちなみに俺は私服に着替えた。カーキのズボンに黒いシャツ。指輪をひとつだけ。
「これがコタツか。生まれて初めて見たよ」
机の上にルイボスティーのコップを置く。加藤はありがとと疑うことなく口につけた。不用心だな。
「日本の誇りだ。なんでデート後回しにする必要があったんだ?」
「楽しみにしてるの?」
「そりゃあ初めてのデートだしな」
「緊張してる?」
「些かね」
「普通に大学の時間的に先輩さんが急がないといけなさそうだと思ったからだよ」
「ならそう言ってくれればいいのに。・・・てかなんで大学の時間なんて知っているんだ?ひとりっこだろ?」
「一般常識だよ。むしろ知らなかったの?」
「うーん、俺が物を知らないだけか」
「てかお腹空いた。なんか食べ物ない?」
「盗人猛々しいな。待ってろ」
冷蔵庫にも戸棚にもろくな食べ物が入っていない。かろうじて非常用食料の乾パンの缶があったので持っていく。
「お待たせ、乾パンでよかった?」
「いいて言うとでも?なんで乾パンなの?他に何もなかったの?」
「悲しいことに何にも」
「じゃあ、私なんか買ってくるからお金頂戴」
「・・・」
「早く早く、背と腹は買わないよ」
「いろいろ違うだろ。いいよ、俺買ってくるから寛いでいてくれ」
財布を持ち、スーパーに向かう。田舎を舐めるなよ。コンビニよりスーパーのが近い。
スーパーでカップ麺を2つと総菜弁当も2つ買い、部屋に戻る。
「はい。唐揚げ弁当かカツ弁当かだ」
「カツで。わざわざありがとうね。・・・一応聞くけどどっちも食べるとか宣わないよね?」
「食べないんか?」
「今からデートなのに満腹で寝たら別れ話だよ。それに一緒に食事が楽しめなくなるかもじゃん」
「成程。いろいろ参考になるな」
「そう言いながらケトルに水を入れんな。我慢しろ我慢」
いただきますを唱和し、一緒に食べる。うまいうまい。
「その唐揚げのこの筑前煮取り換えっこしない?」
「シャークトレードすぎる」
「ケチ。日本の弁当ってなんでこんなにおいしいのかね」
「さぁ、俺は日本から出たことがないからわかんねーや」
「ご両親は海外で働いているって言ってたけど、どこで働いてるかとか知ってる?」
「や、マジで知らないんだよ。親戚からは連絡機器を持ち歩けないようなえげつないビジネスをしているとか言ってたけど、どうなんだろうな。毎月お金が振り込まれてるから生きてるってことは知ってるけど、これが途絶えた途端息絶えるしかない」
「・・・ふーん」
「なんだ聞いておいて興味なさそうな声あげやがって」
「気にしないでくれ。少し考え事をしたいんだ」
「俺の家でよくそんなに寛げるな」
プラスチック容器をすすぎ、袋に入れる。これはスーパーの資源ボックスに入れる。あとは適当に市指定のごみ袋に押し込む。
「そろそろ行こうか」
「うん」
同じ高校の服を着た生徒が歩くのを流し見しながら駅についた。加藤に千円札を手渡す。ここからは別行動をとると言って違う車両に行ってしまった。猫かよ。
待ち合わせの駅に着いたのは11時45分。そろそろ頃合いだ。大きく息を吸って、吐く。大丈夫、なんとかなるてかなんとかするから大丈夫。待ち合わせ場所はそこにあるコンビニだから、とりあえず中に入ってコーヒーでも買おうと思っていたら、丁度コンビニから先輩が出てきた。
「あ!」
先輩が駆け寄ってきた。
「久々です。今日はいきなり呼び出してすみません。どうしても会いたくなっちゃって」
「いやいや、全然うれしいよ!とりあえず時間も時間だし、カフェで昼食がてらコーヒーでも飲まない?」
「いいですね。近くにカフェってあるんですか?」
「うん、さっき調べたんだ。こっちだよ」
駅の横の小道の奥、小さな喫茶店に入った。
「よくこんなわかりにくい店を御存じですね」
「知り合いがここでバイトしてるんだよ」
先輩はサンドイッチバスケットとクリームソーダ、俺はアイスコーヒーとカツサンドを頼んだ。
「高馬君、お腹減ってる?別にもっと頼んでよかったよ?」
「や、俺が払いますよ。そんなに腹が減っていないだけです」
「何言ってるのよ。私が払うよ」
「男として払わせてください。お金を払ってもらう男にはなりたくないです」
「君ってちょっと古臭いね」
ふ、古臭い?まじすか。しょっく。
「ご、ごめん、そんなに落ち込まないでよ。大丈夫、高馬君はダサくないよ」
「べつにきにしてません。おちこんでないです」
「ごめんって」
「冗談です」
運ばれてきたカツサンドとバスケットに入ったフルーツ系のサンドイッチ。いい見栄えだ。早速食べようとするが、スマホのカメラを向けるのを見て手を引っ込める。ついでに写らないように隣の席に移動。
「なんで動いちゃうの?そこだと写らないよ」
「や、お邪魔しないように」
「何言ってんの?デートなのに彼氏が写真の邪魔になるわけないんだから。なんなら積極的に映してみんなに自慢しなくちゃ。ほらほら、隣座って」
写真は嫌いなんだけどね。まぁ意地を張る理由はないからいいか。
「はいちーず・・・もっと笑ってよ。真顔で写真に写っちゃだめだよ。遺影用じゃあないんだから」
「ふふっ遺影て」
「よし、いい顔で撮れたよ」
写真に写る自分は腑抜けた顔をしていて寒気がした。なにしてんだ。俺。
追い打ちをかけるように電話が掛かってきた。相手は小倉だ。




