7' 小倉 Day2
玄関前の姿見で何度も確認する。自分で髪の毛を切ったけど、Webとかいろいろ見てからやったから、そこまでおかしくはないはず。大丈夫。私は可愛い。まぁ、可愛くする理由が無くなっちゃったけれど。
バッグから香水を取り出し、玄関に置く。もう、必要ないかな。最後に手首に少しだけつけ、名残惜し気に少し延ばす。もう忘れよう。今日が最後だ。
ローファーを履き、スマホと財布をポケットに入れる。少し待っていると、隣の部屋が開く音がした、少しだけ躊躇ったが、意を決してドアから飛び出した。
「おはよう」
「おはようさん。いい朝だね」
なぜだか妙に緊張して4文字しか喋られなかった。なぜだかたかが昨日よりも遠くに見える。
「テストはどうだ?」
「私が悪い点取れるように見える?」
「どうだかな」
どうだかなって。私は君にもう1度頑張ってほしいから当てつけのように1位を立て続けに取ってるんだけれどね。
「・・・髪、どうしたんだ?」
女の子が髪を急に切る理由なんて1つしかないのに。ニブチンめ。私は口を開いた。
「ん?ああ切ったんだよ。願掛けでね」
・・・情けないな。私は君に好きだってことも好きだったことも伝えられない。
「願掛け?なにか願い事でもあるのか?」
「秘密さ。どうだい、髪が短い私もキュートだろう?」
「・・・」
え、やっぱり似合ってない?最悪。本当にやらかしたか?死にたい。
「何とか言えよ」
「まあ、似合ってるよ」
まあって何。
「そんな口調で、っ、彼女さんに言ったら振られちゃうよ」
血を吐く覚悟で軽口を叩く。振られちゃうよって。まるで私がそう望んでいるかみたいじゃない。つくづく私って浅ましいな。
「お前はお前、彼女は彼女だ」
歯牙にもかけないって?私は思わず口を開いた。
「酷いね。君は私のことを女って思っていないのかい?」
・・・っしまった。余計なことを言った。慌てて再度口を開く。
「ああ嘆かわしい。男尊女卑もここに極まれし。普通に考えて女性が他人と会うのに容姿をに気を付けないわけがないだろう?だから出会ったときに服装がいいのはいわば、当たり前なんだよ。私たちが言われたいのは似合ってるって言葉じゃあなくて、可愛いだとか美しいだとか、胸とか顔とか服とかじゃあなくて全体像を見て言って欲しいんだよ。これだからノンデリ野郎は」
何言っているんだろう私。支離が滅裂している。髪型のことなのに服装のことを言い出したり、可愛いって言われたいって口走ったりと。本当に酷い。恐る恐る横目でたかを見てみる。
「はいはい可愛い可愛い」
別に何か私の発言から察したりもしていないみたいだ。よかった。・・・よくないか。
「フンだ」
「昨日は大丈夫だったのか?」
大丈夫なわけがないでしょ。君にフラれて、知りたくもない親の性事情も知って。
「昨日?ああ、気にしなくてもいいよ。家族のことでナーバスになってただけだから」
少しだけ、少しだけ言ってみる。もし、たかが聞いてくれてならば、全てを言おう。
「家族か。俺からは何も言えないな」
知ってた。たかは絶対に踏み込んでこない。
「言わなくていい。同情は嫌よ」
「なんにせよ、相談なら何でも聞くぜ」
たかはなんてことないように言い放った。
「家族みたいなもんだから」
死ね。
「・・・・・・言ってろよタラシ野郎」
なにが家族だ。何も知らないくせに。私のことを気にも留めていないのに。何も言わないくせに。
「だれがタラシだ」
赤信号で止まる。目の前には大量の車が通っている。もし、飛び出したら、ひとたまりもないだろう。そうしたら、たかはずっと覚えててくれるかな。
中々のスピードでワゴン車が通った。あそこで曲がったトラックに飛び出して死のう。怖くはない。もう、いいや。何も考えたくないし感じたくない。これ以上、傷つきたくない。
「何よジロジロ見てきて。私の魅力に篭絡されちゃった?」
よく見ててね。たか。きっとずっと君の脳裏に残るよ。愛してたよ。
「・・・ふっ」
・・・待って、今笑った?私の発言に?魅力がないって言いたいの?
「な・・・殺してやる!んだその小馬鹿にした笑いは!殺してやる!3枚におろして全国の家庭に笑顔をお届けしたやる」
目の前をトラックが通り過ぎる。
「怒んなって」
「怒るなァ!?貴様人を馬鹿にした挙句それを怒る権利すら剥奪しようとするなど、言語道断の恥さらしのベトコン野郎だ!貴様が生きていること自体が地球の損害になりうる!このイロコイボケの微笑みデブ野郎!」
何言ってんだろ私。いろいろな感情が口から飛び出て来て死ぬ気が失せた。まぁ、いっか。
「おうおう叫ばない叫ばない。まだ朝だよ」
「はぁはぁ、次私の容姿を馬鹿にしてみろ。マジ殺すからな」
「悪かったよ・・・馬鹿にはしてねーだろ」
「何か言ったか?」
「空耳幻覚聞き間違い。病院行ってこい」
幻覚は違うだろ。
「あ?」
「怒んなって。カルシウム足りてねーからだろ」
「お前私の背が低いって言いたいんか!?」
「それは被害妄想が過ぎる」
「ネンデリチンパン性欲猿め」
「お前こそ失礼な野郎だな。口からクソを垂れる前にちったぁ頭を使えよ」
「なんつっただ!」
「だから叫ぶなって。中身入ってないんか?叩いたら食べごろのスイカばりにいい音鳴るんか?」
「だれが散切り頭だ!」




