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虚栄  作者: ラフレシア
1/1

学校帰り、俺は一人でファミレスに来ていた。両親は共働きで自分の飯は自分で稼いで何とかしろと親に吐き捨てられている。ひどくね?だから俺は高校が終わったらバイトして、それで朝昼晩の飯代をどうにかしてるってわけ。まぁ、ソシャゲも無課金だし趣味もないから飯代以外は貯金できてることはいいことだ。っと店の中が混みだしたな。最後にメロンソーダをもう一杯だけ飲んでから帰るか。

メロンソーダを注いで席に戻ると嫌な人物が俺の席に座っていた。

「やあ。たか。久しぶりだね」

幼馴染の小倉だ。うざいから嫌いだ。俺は無視して正面に座りメロンソーダを飲む。黙殺だ黙殺。俺の目の前には誰もいない。財布の中身を確認。野口さんがトリオ組んでるなら大丈夫そうだな。コップを音を立てて置き伝票を持って立ち上がる。

「おいおい、無視とはひどいなぁ。涙が止まらないよ。滂沱だよ滂沱。それよりこれは君のヘッドフォンだろ?教室に忘れていくとはずいぶんマヌケだね。治安が分刻みで悪くなっていく日本で油断をさらすなんて馬鹿の極みだよ。馬と鹿だよ。つまりジビエ。ああ、お肉が食べたいなぁ。ねぇたか。私は君のヘッドフォンと空っぽのお腹を持っているけれどお金は持っていないんだよ。どこかに親切な人が現れたらこのヘッドフォンを売ってしまうかもしれないなぁ。確かこれは限定品だってクラスメイトに自慢していたよねぇ。生産数が限られてるとかなんとか自慢げに話していたよねぇ」

「くっそ」

俺は財布から野口さんを召喚。机の上に投げる。

「ほら。金ならやるから返して」

「か、え、し、てぇぇ?」

「・・・返してください。お願いします」

「あっはっはっは。ヤァァァァァダね」

コイツ殺す。

「おっと掴みかかってこないでくれよ。何かのはずみでヘッドフォンが逆向きに折れるかもしれないんだから座って座って」

「・・・」

「よーしよしきちんと座れたみたいだね。いいこだよ。愛い奴め。今日は母さんも父さんも仕事で帰りが遅くって夜ご飯を一人で食べなくちゃあいけないんだよ。んで私は人と喋りながらじゃあないとご飯を食べられない宗教の元で育ったから必死に会話相手を探してたってわけ。んでいいところに大好きなたかがいるじゃあないか。これは運命感じちゃって迷わず入店しちゃったね。んでとりあえず私サラダが食べたいな。サラダとパスタとハンバーグ。ドリンクバーもお願いね」

コイツマジで足元見てやがる。店員さんを呼び、注文した。

「ふふっ、ありがと愛してるよ。コーラ持ってきてあげる」

アイツ用心深くヘッドフォン首から下げていきやがったな。溜息が止まらん。アイツも満腹になったら満足して帰るだろ。

「お待たせ。どっちかがゼロコーラでどっちかがコーラだよ。どっちがいい?」

「左」

臭い的にゼロコーラだなこれ。

「最近、たかバイトしてばっかりだよね。旅行でも行きたいの?」

「や、暇だからバイトしてるだけ」

「えー暇なら私に構ってよ。私だって今みんなテスト勉強に必死で遊んでくれないんだよ。ってか今回もテストの順位勝負する?前回も前々回も私の勝ちだったけれど今回もする?するってんなら本気で勉強しちゃうけど」

「しない」

「あれあれぇ?戦意喪失?敵前逃亡は処刑だよ?たか君のかっこいいところ見たいなぁ」

無視だ無視。

丁度店員さんがバカの餌を持ってきた。

「ありがとね」

おいしそうにサラダをむさぼる姿を見るとなんだかんだ許せてしまう。甘くて悪かったな。

「たふぁあこんふぁいのてすとふぁいふぉうふなの?」

「飲み込め」

「ん・・・たかは今回のテスト大丈夫なの?」

「別に赤点はとらないだろうし大丈夫」

「・・・たまには本気出してほしいな」

「本気?なんのことだか」

「中学受験してたときのあの頭脳をもう一回みたいなぁって思ったり」

「なんのことだか。それよりヘッドフォン返せ」

「・・・」

「・・・もういいだろ過去のことは。俺は努力をしなくなって順位は下から数えた方が早くなったし、お前は努力して学年トップを取った。それだけのことだよ」

「ふーん。まぁいいや。それより少し私の愚痴を聞いておくれよ。最近よく喋ってるみんながBLだとかの話しかしないんだ。まったくどうして同性愛なんて不合理的なものが淘汰されなかったんだと思う?私は男同士が抱き合ってるのを見ると虫唾が走るし、なよなよしている男もまとめてネコソギラジカルくたばってしまえって思っているんだよ。それなのにやれあの男の子は可愛いだとかどっちが攻めでどっちが受けでだとか馬鹿も休み休み言って欲しいね。というか同性愛なんていう文字通り生産性が存在しないものが存在するってことは神様はきっと腐女子、腐男子に決まっている。世界を作った神様が腐っているんだから今の日本の政府も世界情勢も腐り散らかしているのは世界の道理って・・・聞いてる?」

「ん?聞いてなかったしもう一回言わなくてもいいぞ」

「死ねよ。まあ私ばっかり喋っていても仕方がないな。最近どうなんだ?入学したときは色々な女から告白されてたじゃあないか。それなのに浮ついた話のひとつも聞かせやしないなんて。もしかしてお前はホモなんか?ならばこんな美少女が話しかけてもいい反応してくれないわけだ」

「くたばれ。別に魅力的じゃあなかったから丁重にお断りさせていただいたよ」

「まあ私がいるしね」

「自惚れんな。てめえと付き合うなんて絶対にない」

「こっちから願い下げよ」

小倉はからのコップを掴んで行ってしまった。溜息が止まらない。なんでいっつも俺に付きまとってくるんだよ。中学受験したのも逆に学力落として普通の高校に行ったのもこいつから逃げるためなんだよな。

人をデフォルトに見下している性格だったり、素直じゃあないところだったり、口数が多いところとか生理的に無理。お互いの母親同士の仲がいいから無下にも邪険にもできない。八方が塞がってる。・・・てか上下左右前後だとしたら二方向余るし、八方位だったら上下に逃げられるんだから八方塞がり言葉欠陥だろ。

「はい。コーヒーでよかった?」

「ありがと」

ゼロコーラ飲み終わってないぜ。

「お前少し前に誰かと付き合い始めたって言ってたけど、そいつはどうした?」

「何か月前の話よ。ひと月付き合って顔以外に魅了がなかったからすぐに別れたわよ」

「・・・」

「逆にあんたは誰とも付き合ったことないのよね?」

「いや、今付き合ってる人がいる」

「・・・え?」

やべぇ反射的に見栄張った。

「誰?誰のこと?クラスメイト?同じ学年?学校?」

「質問は一個に絞れよ」

「誰?」

「誰が言うか」

やばいな。思ったより食いついてきたな。ふーんくらいで流してくれると思ったんだけれどな。撤回するか。今なら冗談で済ませられる。

「・・・ねえ本当に言ってるの?」

「・・・勿論」

や、吐いた唾は飲めない。

「ふーん。これ、返すよ」

やけにあっさりヘッドフォンを返された。

「・・・帰っていいか」

「っ、さっさと行きなよ!」

「言われるまでもないさ」

机の上に代金を置き店から出る。災難な一日だ。


帰り道とりあえずバイト先の先輩にダメ元で電話をかけてみる。

「もしもし、先輩今大丈夫ですか?」

「高馬君?ちょうど今空きコマだから大丈夫だよ。どうしたの?バイト変わってほしいの?周回のお誘い?」

「や、ちょっと事情があって俺の彼女の振りを頼めませんか?」

「・・・」

「・・・」

「・・・ごめん、聞き間違いかな?もう一回言ってくれるかな」

「ですから、俺と付き合ってくれませんか?」

「・・・冗談?エイプリルフールはとっくに終わってるよ」

「や、マジっす」

「マジかぁ・・・」

うーん断られそうだな。他に打診できそうなのは二人しかいないな。

「・・・高馬君は私のことが好きなの?」

あれ?

「勿論っすよ。じゃなきゃああんな忙しいバイトとっくに辞めてるっす」

「・・・今日の夜、空いてる?」

「勿論っすよ」

「・・・また連絡するね。バイバイ」

「はい。お疲れ様です。失礼します」

チョロいな。彼女の振りしてもらってそれを小倉に見せればアイツも納得するだろう。肩の荷が下りた。

ついでにスーパーに言って安かったカップ麺と牛乳とコーヒー豆を買って家に帰る。


俺んちは普通にアパートの401号室だ。エレベーターから一番遠いのは嫌だ。

「ただいま」

返事はない。あっても困るけどな。牛乳を冷蔵庫に入れテレビをつける。別に見ないけれど何か音がしないと嫌になってしまう。コーヒー豆を瓶に詰め、ついでに4杯コーヒーを淹れる。・・・することがないな。制服も脱がずに椅子に座った。スマホを取り出し、少し弄る。


スマホの振動で目が覚めた。寝てしまっていたようだ。先輩からの着信だ。

「もしもし、今大丈夫?」

「はい、丁度暇してたっす。何か御用っすか?」

「高馬君の家って確か木浦公園の近くだよね」

「はい。目と鼻と口と顎と首の先っす」

「意外と距離があるんだね。じゃあ近くにバーがあるのはご存知?」

「や、寡聞にして」

「ハートバーンていうバーが近くにあるからそこに来て」

「ドレスコードとかあったりします?」

「バーに?はははっあるわけないよ。制服以外なら何でもいいよ」

・・・

「わかりました。15分ほどで行きますね」

「待ってるね」

テレビを消し、制服から私服に。長袖のシャツにジーパン。キャップとネックレス。履きなれたジョーダンで家を出る。

「・・・」

「・・・よう」

小倉とばったり会った。まあ隣部屋だから会うことは多い。

「なんか言ったらどうだ?」

「・・・別に」

そのまま家に入ってしまった。うーんいつもあの喧しさに辟易していたが、いざ急に静かになったら少し気持ちが悪いな。まあいいや。エレベーターのボタンを押す。


少し道に迷いながらもバーについた。ハートバーンって確か胸焼けって意味だろ?小首をかしげながら店に入る。

「いらっしゃい。・・・未成年かい?」

そりゃあまだ俺17やしな。

「別に入るのが構わないけれど、コーラとかジンジャエールくらいしか出せないよ」

「大丈夫っす」

「こっちこっち」

テーブル席にいた先輩が手を振ってきた。そっちに向かうと先輩は見たこともないようなワンピースとドレスの中間みたいな服装だった。

「ごめんなさい遅れました」

「大丈夫だよ」

「その服似合ってますね」

「えへへ、ありがと」

すでにいくつかの空の小さなグラスが置いてあるから少し吞んだみたいだ。先輩はバーの兄ちゃんに聞いたこともないようなお酒を二杯注文した。運ばれてきたお酒は両方とも先輩の前に置かれ、俺には大きなグラスに入ったコーラが出された。レモンまで刺さってる。

「んで、なんの用なんですか?」

「一つしかないじゃない。電話の返事だよ」

「はい」

「高馬君は私のこと好きなの?」

「勿論。じゃなきゃあこんなこと言いませんよ」

「・・・わかった、ちょっと待ってね」

先輩はそわそわと姿勢を変え、両手を机の上に置き、何度か深呼吸をした。

「私も、高馬君のことが好きです、お付き合いさせてください」

「・・・勿論、願ったりです。よろしくお願いします」

あの、そこまで求めてないんですけれど。そんな改まって言われると言い出せないんですけれど。

「ふぅ、緊張しちゃった。どうして急に告白なんてしてきたの?というか私のどこに魅力があるの?」

「・・・帰り道にふと先輩の顔が思い浮かんで、ああ好きだなって思ってその勢いで告白したってかんじっすね」

嘘は言っていないからヨシ!

「君って結構大胆なんだね」

「先輩はどうしてOKしてくれたんですか?」

「ん?・・・別に一緒にゲームしてて楽しいし、可愛い後輩だと思ってたからだよ。まぁ恋愛感情は持ってなかったけれど、告白されたら好きになっちゃった」

・・・俺はこんな純真無垢な先輩の人生を歪めてしまったのか。

「私は高馬君と違って初めての交際だから変なとことかやなとこは何でも言ってね」

「や、恥ずかしながら俺も初めてです」

「そーなの!?結構遊んでそうに見えるよ」

「心外っすよ。俺は先輩一筋っす」

「そういうところだよ」

先輩は照れたのを誤魔化すようにグラスのお酒を流し込んだ。

「ふぅ、君も飲むかい?」

「や、遠慮っす」

「このお酒は私の兄が好きな銘柄でよく家でお父さんと一緒に飲んでいるんだ。だから私もお酒を飲むときはコレって決めているんだ」

「おいしいんですか?」

「うーん、辛口で好みがわかれる味。高馬君も二十歳になったら一緒に飲もうね」

「是非」

先輩は二つ目のグラスも流し込むように飲み、立ち上がった。

「行こっか。支払ってくるから外で待ってて」

「幾らですか?」

「子供が甲斐性を見せなくてもいいの」

少し外で待つとすぐに出てきた。

「ごめんね。お待たせ」

「さすがに俺のコーラ代は出します」

「いいよ。奢ってあげる」

「じゃあ甘えます。いつかまた何か奢りますね」

「うふふ、楽しみ」

無邪気に笑う先輩に少し罪悪感。でも本当のことを誰にも言わなければ俺は彼女ができて、先輩は彼氏ができる。じゃあもうそれでいいんじゃあないかな。って思った。

「帰ろっか。帰って電話しない?」

「いいですね。俺送りますよ」

「うーん、お願いするよ」

あっちだよと指さす方に一緒に歩く。

「・・・」

「・・・」

「・・・ねえ」

「はい」

「手、なんでいっつもポケットに入れてるの?」

「別に理由はないっすね」

「じゃあ私と一緒にいるときは入れちゃダメね」

「どうしてですか?」

「手が繋げないじゃん」

「・・・」

俺はポケットから左手を出し、先輩の右手を握る。柔らかくて簡単に折れそうだなって思った。

「・・・」

「・・・」

「・・・照れるね」

「そうっすね」

「高馬君はいっつも綽々としていてずるいよ」

「そうでもないですよ。今必死に心臓止めてるっすよ」

「自殺じゃん」

「先輩のお宅ってどの辺ですか?てか市内ですか?」

「市外だよ。電車で帰るんだ」

「じゃあ駅までですね」

どこからか冷たい風。春でも夜は寒い。先輩は少し身震いした。こういう時上着を掛けてあげられたら紳士だが、生憎上着を俺が着ていない。

「・・・あの、高馬君、近いよ」

「すみません。先輩が寒そうだったので」

けっ。童貞が気を利かせようとするからこうなるんだよ。ああ恥ずかしい。ああ無常。少し距離を取ると先輩が俺の腕を抱きかかえるように密着してきた。・・・その、いや指摘すべきか?俺としてはこのままでも全然今晩オカズを探す手間が省けるだけだけど。

「先輩」

「な、なに?」

顔が真っ赤だ。俺は指摘しないことにした。沈黙のまま3分ほど歩き、駅に着いた。腕から離れた名残惜しい感覚。

「じゃあね。また連絡するね」

「はい。先輩」

「ん?」

「愛しています。おやすみなさい」

「・・・」

先輩は何も言わず改札の向こうに行ってしまった。俺も帰ろう。踵を返し、帰路に就く。途中、コンビニがあったからより、新商品を軽く見る。うーん気に入ったものがないな。レッドブルだけ買って帰ろう。

「・・・」

「・・・今日はよく会うな」

たまたま小倉が店の中に入ってきた。小倉は驚いたような顔をしたが何も言わず後ろを通り、文具とかレターパックが置いてある方に向かった。

「一緒に買うから貸しな」

「・・・ありがとう」

小倉が渡してきたのは大きめのハサミとブラックのペットボトルのホットコーヒーと板チョコ。併せて千円ちょっと也。

「ほれ。袋ごとあげた」

「ありがとう」

「・・・調子でもわるいんか?」

「まぁね」

「だったらカフェインなんか取らずに寝なよ」

「・・・今日は眠れないかも」

「話し相手くらいならなれるぞ」

「気持ちは嬉しいけど、気持ちしか嬉しくない」

「ショック」

小倉は袋からチョコを取り出して包み紙を開けて、小さく一口齧る。

「・・・甘い」

「そりゃあな」

「・・・ねえ。もし信じて疑わなかったものが突然崩れ去ったら、たかならどうする?」

「急になんだよ。うーん、目一杯絶望して、それで立ち上がるかな」

「・・・そっか」

「何の話なんだ?」

「別に」

「気になんな」

「お前には関係ないよ」

「関係ないって・・・お前俺と何年一緒にいたと思ってんだよ。悩みくらい相談しろよ」

突然食べかけのチョコが口に押し込まれた。

「死ね!」

走り去ってしまった。なんなんだアイツは。


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