第2話 もう一つのモノ
こんばんわ。
天城氷璃です。
俺には1人自分の家から出て行ってほしい人がいます。
それは俺のクラスの学級委員、実倉晴空さんです。
彼女俺の非常食を結構食べたしその後俺のベットで寝たし。
ここはお前の家じゃないんだぞ。
今日はいいですなんて言うんじゃなかった。
そのせいで俺はソファで寝る羽目になった。
明日には必ずご帰宅願おう。
『通信。応答しろ。ツーツー。俺だ』
『なんだいこんな時間に』
『原稿は作った。合図とともに放送しろ』
『了解』
最後の承諾の言葉は少し楽しそうな声だった。
____
2026年11月29日
7:20
俺の家。
俺は目を覚ます。
外は暗いままだ。
ベッド(俺の)では実倉がすやすやと寝ている。
俺は殴りたい衝動をぐっと抑えて自律を保つ。
今日ででご退居だ。
我慢だ。
俺はキッチンへ行き非常食を用意する。
今日はお楽しみの米にしようか。
俺はガスコンロで湯を沸かし乾燥米1つに入れる。
出来上がりまで15分。
実倉のはだって?
あいつは乾パンでいい。
俺はできるまでの間ラジオ放送を聞く。
発電所はいまだ復旧のめどは立たず依然犯罪行為は収まらない。
またスーパーでは買い占めが始まった。
しかしすぐにスーパー側が店を閉め騒動は収まったそうだ。
俺はに主菜の魚の缶詰。
副菜の野菜の缶詰を開ける。
ちょうど15分経ったので俺は米を茶碗に注ぐ。
その後実倉をたたき起こしに行った。
するとまた俺は枕を投げつけられた。
「またかよ!わざとなの?」
彼女は俺の顔を見るなり急に顔が暗くなった。
そのあと一言
「やっぱり夢・・じゃないですよね」
「そうです。現実を受け入れてください」
実倉は起きてそのまま席に着こうとする。
が、俺はそれを阻止する。
「嗽をしろ」
「・・・はい」
やっぱりテンションが低い。
俺は自分の茶碗を実倉の席に移動させた。
「米じゃないですか!」
彼女の顔が少し明るくなった。
別に情が移ったわけじゃない。
ただ少し気の毒に思っただけ。
それに今は米の気分じゃないし。
俺は自分の乾パンを早々と食べると実倉のほうを見た。
それにしてもこいつ。
めちゃくちゃおいしそうに食べるな。
作った側としては嬉しいことだ。
湯を入れただけだけど。
俺はしばらく実倉を眺めた後自室へと戻ろうとした。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
7:39
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何度もチャイムが鳴った
「天城君でなくていい――」
俺は人差し指を唇へと近づけ彼女の目を真っすぐ見た。
その後すぐ外から声が聞こえてきた。
「天城!いるんだろ。出て来い!」
実倉が動こうとしたのでつい強い口調で
「動くな」
と言ってしまった。
俺の声にびっくりして実倉はよろよろして椅子を倒しながらぶっこけた。
「いるじゃねぇか。出て来い」
ドアを蹴る音が聞こえる。
「動くなって言ったじゃないですか」
「でもあの声――」
「――お兄ちゃんのだったから」
俺と実倉は二階へ上がり玄関の見えるベランダに出た。
そして俺は強者感が出るように思いっきりそいつらを見下した。
暗くてほとんど見えないんだけどね。
俺は下の連中が見えるように上からベランダの照明で照らす。
そこには実倉の兄がいた。
実倉とおそろいのブレスレットをつけている。
「お前が天城か!俺の妹を、晴空を返せ!」
「お兄ちゃんちが――」
実倉の声が止まる。
下の連中の中には青葉花翔もいたのだ。
彼女は俺の後ろに隠れて小刻みに震えている。
息も荒い。
「返せって、お前らの仲間の青葉とかいうやつが乱暴したうえ置いていったんだろ」
敬語で話さない。
舐められるからだ。
「はぁ?お前が晴空を攫ったんだろ。現にそこに晴空がいるじゃねぇか」
南空は不機嫌そうに言った。
「俺はそいつが置いていった実倉さん保護しただけだ。」
俺は淡々という。
事実だからだ。
「さっきからお前は俺の仲間が全部悪い。そう言ってるのか」
お兄さん顔が怖いです。
「そうだ」
「撤回しろ。それに晴空を返せ」
「仮に俺が彼女を返したとして俺は誘拐犯の烙印を押されたままってことですよね」
「当たり前だ。それが事実だろ」
「だから俺は攫ったんじゃ――」
「だまれ!俺にどうやってお前を信用しろと?」
ブチッ。
頭の中で何かが切れた音が聞こえた。
ダメだ話が通じない。
「チッ。これだから話の通じない低能は。そんなんだから妹に見劣りするんだよクソシスコンが」
自分でも信じられないくらい冷たい口調で言った。
「は?」
南空から弱弱しい声が出た。
何か思い当たることがあったのだろうか。
しかし今の俺にはそんなことは知ったことではない。
俺は深呼吸する。
事前準備はすべて問題ない。
『Teller』に与えられたもう一つのモノ。
それは事実に基づいた放送内容の解像度への干渉。
特定の人物の情報の削除もしくは情報の大幅開示を可能とする。
ただしその人物は『Teller』の知る人物でなければならない。
そして今回はその条件を満たしてる。
罪を犯したものを罰する力。それが――。
「TellOrder」
俺の合図とともに脳内に映像が映し出される。
そこのはヤツが映っていた
顔がなく黒い。
アクスだ。
『君の予想は当たったようだね。では何をご所望かな?』
「昨日渡した原稿を読め。範囲は日本全土。出力方法は脳内投影」
『了解』
アクスはまた楽しそうに言った。
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8:51
3度目の放送が始まる。
1度目と同様今回の放送は脳内に映像が流れる。
ただし1点、1度目との相違点がある。
それはこの放送は人の意志によって行われたことということ。
国民全員の脳内に映像が流れる。
『TellOrder』
『こんにちは日本人の皆さん。今からある犯罪を犯した人の情報を開示します』
『て、これ全部敬語じゃないの』
『2026年11月28日15時47分1件目の性的暴行事件が起きました』
『犯人は神奈川県横浜市在住 青葉花翔 17歳』
『彼は被害者女性と友人を迎えに避難所を出ました』
『その後友人宅に人がいないことを確認し被害者女性に性的暴行を加えました』
『――堅苦しい原稿だね』
『今話したことはすべて事実だよ。人間は貪欲な生物だね』
『以上で放送を終えるよ』
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放送が進むごとに青葉の顔がどんどん真っ青になっていった。
放送が終わるとともに南空が青葉をギロリと睨んだ。
青葉はすぐに弁明した。
「あんな放送内容デタラメだ。俺はそんなことしてない」
「放送は嘘はつかない。今までの放送はすべて事実だ。お前が罪を犯した直後にはすでに性的暴行事件が一件になっていた。奴はすべてを見ている」
「だそうだ」
南空は怒りの混じった声でそう言いうと青葉を地面にたたきつけた。
そしてあっという間に青葉は取り押さえられた。
「俺はしてない。そ、そうだお前が作ったんだろ。お前が何か言った後に始まったしな」
「は?何逃れようとしてるんだよ。お前はもう詰んでるんだよ」
照明の逆光で俺の顔が黒く染まる。
まるでアクスのように。
そこに氷璃の面影はなかった。
「ひっ。お前は・・何なんだ」
青葉は怯えている。
「俺は――」
「――天城氷璃だ」
____
青葉を縛り上げ庭の木に吊るしたところで話し合いが始まった。
なぜか俺の家で。
「お兄ちゃん!」
俺は実倉が実倉兄に抱き着くところを和やかな目で見た後ご帰宅願ったが断わられた。
そして自分の家のように席に座った。
こいつらほんと兄妹だな。
「すまなかった。疑ってしまって」
机に頭をつけて深々と謝ってくれた。
「いえいえ悪いのは全部青葉なんですから」
「妹が連れ去らわれたと聞いて血が上ってお前の声を聴こうとしなかった」
「仲間を疑いたくない気持ちはよくわかります」
俺もそうだったから。
だからもう作らない。
そう言えば俺もひどいことを言ってしまっていたな。
「こちらこそ感情に任せてついひどいことを言ってしまいましたすみません」
誠意には誠意で答えるもの。
「顔を上げてくれ。俺がもっとお前の話を聞いていればそれもなかったことだ」
俺と実倉兄は見つめあった。
そして手を出して握手をした。
「これからは仲良くしましょう」
「おう!」
この人。
根はいい人なんだろう。
自分の非を認めしっかりと謝ってくれる。
見習いたいものだ。
「あの良ければお兄さんと呼ばせてもらってもよろしいでしょうか」
「お義兄さん!?それはまだダメだ」
まだ?
どういうことだ。
まぁいいか。
「俺の名前は実倉南空。南空って呼んでくれ」
「はい分かりました」
1時は面倒くさいことになったと思ったが丸く収まってよかった。
よしご帰宅願おう。
「お前は避難所に来ないのか」
南空が聞いてきた。
「はい今の生活に満足してるので。漫画もありますし」
あ、口が滑った。
「そうなのかどんな漫画だ」
圧がすごい。
「ええっと。異世界物が主体ですけど基本的に全部あります」
いやな予感がする。
「そうか」
気のせいか。
俺が見送りに行くと実倉さんが来てもじもじしながら何かをくれた。
それはブレスレットだった。
彼女が2つ付けていたものの1つだ。
「あげます」
「これは・・」
それを手渡した後実倉は手を振って南空の元へ行った。
「俺たちは避難所に帰るから来たくなったらいつでも来いよ」
そう言って青葉を抱えて俺の家を無事出て行った。
そう思っていた。
彼の別れ際の言葉を聞くまで。
「たまに漫画読みに遊びに来るからな」
え・・・。
マジか。
いやな予感気のせいじゃなかったです。
俺は数分前の自分を呪った。
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飛行物体内部
アクスは地上の様子を見ながらワインらしきものを飲んでいた。
そして一言。
「『liver』が動き出すね」
そう言った。