第1話 I‘m Teller and
2026年11月28日
10:44
日本の排他的経済水域、EEZ上空に黒色の飛行物体が出現。
それはEEZの形と完全一致していた。
10:54
日本全土の大型小型含め全ての発電所、蓄電施設で同時サーバー攻撃を受ける。
各発電所は直ちにログの確認および攻撃の特定を急ぐ。
が、既にプログラムの9割以上に侵入。
サーバーの切断を試みるも妨害を受け失敗。
また電力供給機器を通して非常用電源が破壊。
発電所では電力生成が不可能に、
蓄電施設では全ての電気が放電された。
それにより電気系統機器は全ての機能を失った。
と同時にEEZの境界より高さ7キロ以上の強大な壁が出現。
その後上空の飛行物体と接続。
外部からの光が遮断された
日本から光が消えた。
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2026年11月25日 神奈川県 横浜市
もう紅葉した葉はすっかり枯れ葉となり潮風は冬の気配を感じさせる。
俺は天城氷璃高校1年生。
平凡で穏やかな高校生活を送っている。
俺は家に帰るとネットの通販サイトで買い物をする。
お会計659,000円。
買った物は乾パン540食分、缶詰1080食分、ミネラルウォーター2L810本、その他防寒着など。
それに加えて漫画やラノベ、とにかく時間をつぶせるものを買った。
正直こんなにかかるとは思っていなかったが仕方ない。
命には代えられない。
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2026年11月28日
11:00
各地域の屋外スピーカーから声が流れるとともに頭の中に映像が流れてきた。
そこには顔がなく黒い人型の何かが映し出されていた。
この国の国民に対するメッセージだそうだ。
『ハロー久しぶり日本人の諸君。僕はアクス。君たちの監視役さ』
『君たちは僕らの実験のモルモットさ』
『僕らがこの星を作ってから46億年。君たちは目まぐるしい進化を遂げたよ』
『でもそれは僕らが望んだ結果ではない。少し与えすぎたようだ』
『僕らが見たかったもの。それは君たちが戦い奪い合い必死に生きようとする姿、生物の本質だ』
『紀元前くらいまではよかったんだけどなぁ。今は生への執着どころかそれが当たり前になっている』
『今の環境に満足しない欲。それが良いところだと思ってたんだけど』
『裏目に出たようだ。君たち、進化しすぎだよ。』
『だから一旦リセットする』
『今この国には外部からの物資が一切ない。僕らが全部覆ったからね』
『さらに発電所と蓄電施設をすべて破壊した。電気もない』
『物資と光。君たちに与えすぎたものだ。』
『没収だ。君たちはまた原型に戻る。期間は一年。前回は短すぎたからね』
『この実験と並行してもう一つの実験を行う』
『こうなることを事前に知らされていた者は何をするのかというものさ』
『その者をTellerとでも呼ぼうか』
『彼はこうなることを誰にも告知しなかったようだけどね』
『この状態で来年の11月28日まで何が起きるのか。楽しみだね』
『君たちは必ず変化する。華ならずだ』
『それでは始めよう。期待しているよ』
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先ほどの音声の聞こえた30分後、ラジオにて国からの直接放送が始まった。
先ほどの声が言っていたことは事実だということ。
脱出を試みたものの失敗に終わったこと。
そして貿易によって支えられてきたこの国は資源不足になる可能性があるということ。
それらを説明された。
国民はそれぞれ近隣の避難所へ避難を要請された。
自衛隊が派遣されサポートに回るそうだ。
まあ俺には関係のない話だが。
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俺は先日買った本を部屋で寝転がりながらじっくり丁寧に読んでいた。
そう、『Teller』とは俺のことである。
なぜ誰にも知らせなかったのか。
未成年の子供が急に日本が光を失って物資が底を着きそうになって争いになるかもしれませんと言われて誰が信じるのか。
気が狂った中二病の痛いヤツになるだけだろう。
だから誰にも知らせなかった。
誰がどうなろうと知ったことではない。
俺が助かればいいんだ。
それにしても乾パンが想像以上にうまい。
缶詰もいい。
本も面白い。
風呂、洗濯は買っておいた海水のろ過装置で作った水を使うから問題なし。
玄関、窓は防犯用の鉄格子やら板材やらで強化したから防犯も万全。
快適だ。
楽しい一年間になりそうだ。
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15:19
避難所
「誰か天城君見てませんか?」
そう大声で叫んでも誰も返事を返してはくれない。
私の名前は実倉晴空。
天城氷璃君のクラスの学級委員です
避難所でみんなの安否確認をしています。
天城君以外全員避難しているのですが彼の姿が見当たりません。
まだ家に残っているのでしょうか。
「みんな見つかりましたか」
誰も頷きはしない。
「やっぱりまだ家に残ってるんじゃないのか」
幼馴染の青葉花翔言った。
彼は勉強ができ少し抜けているところはありますが優秀です。
最近は話すとき少し目線が下に動きます。
なぜでしょう。
「迎えに行ったほうがいいでしょうか」
皆がざわざわ言っている中一人が言った。
「職員の人が動くなって言ってたしいかないほうがいいんじゃないか」
「でもいかないと天城君が――」
「おまえは行きたいの行きたくないの」
青葉の声と共にざわめきが収まった。
「私は・・・行きたいです」
「一緒に行くよ。俺も天城のことが心配だ」
私は彼の躊躇のない言い方に違和感を覚える。
まるでシナリオがあったかのような。
「花翔君、そんなに天城君と仲良かったんですか」
「さ、最近仲良くなったんだよ」
「そうですか」
ぎこちない言い方でしたがまぁいいでしょう。
私は納得して避難所を後にした。
15:33
二人が避難所を出た数分後二回目の放送が始まる。
ただし今回の放送は脳内に映像は流れない。
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16:05
各避難所で放送が始まる。
『久しぶり、と言いたいところだけどまだ5時間ちょっとしか経ってないよ』
『この国の人間の9割が避難所に避難したことを確認した。よって放送を始めるよ』
『今回の目的は報告だ。やはり君たちは変化するようだ』
『まず窃盗が109件、器物損害が158件、その他の罪87件』
『そして性的暴行が1件、殺人はまだ0件のようだね』
『防犯カメラがない。明かりがなくて顔が見えない。司法機関が機能しない』
『人は罰されないと分かった瞬間こうも変貌するようだ。法がどれだけ君たちを縛ってきたか分かるね』
『しかしこれもまた一つの本質だ。素晴らしいよ』
『以上で報告を終わるよ。またね』
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15:47
天城君の家に着くまで15分ほどかかってしまいました。
私はインターホンを押しましたが反応がありません。
何度押しても物音ひとつ聞こえません。
いないのでしょうか。
「いないようです。私たちと入れ違いで避難したのかもしれません」
「本当か。本当にいないんだな」
「はい?そうですけど」
「そうかそれは――」
「――よかった」
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15:47
俺の家のインターホンが鳴った。
俺は足音を完全に消してモニターへ向かう。
見ていると学級委員の実倉がいた。
実倉は成績優秀容姿端麗俺とは別次元の生き物だ。
なぜそんな奴が俺の家に。
どうだっていい。
お引き取り願おう。
俺は居留守を使う。
俺のパーフェクトライフを邪魔されるわけにはいかない。
それにこの期間中は人とはあまり関わりたくない。
何度もインターホンはなったがすべて無視した。
そのあとすぐ何か奇妙な音が聞こえた。
肉と肉がぶつかり合うような音と何かの喚き声だ。
俺はカーテンをめくり外の様子を見る。
実倉と青葉が子づくりしていた。
イチャラブS〇Xだね。
じゃなくて何でうちの玄関前でやるんだよ。
地面が汚れるだろ。
あいつらが帰ったら掃除しなきゃいけないじゃないか。
面倒くさ。
その後30分ほどその音は続き俺はその間ずっと本を読んでいた。
音が鳴りやむと俺は外に誰もいないことを確認してドアを開けた。
地面が相当汚れていたためブラシでこすって洗った。
掃除が終わった後何かを引きずった跡のようなものを見つけた。
それは中庭に続いていた。
それを追うと見るも無残な姿になった全裸の実倉がいた。
肌はべとべとで気持ち悪い。
しかし置いておくわけにもいかない。
とりあえず浴槽にぶち込んでおいた。
そのあと体をきれいにして寝巻きを着せてベットで寝かせた。
俺はまた寝転がって本の続きを読み始めた。
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18:03
実倉が目を覚ました。
「こんにちは実倉さん。起きたなら今すぐ帰――」
ボフッ。
激しい音を立てて俺の顔に枕が投げつけられた。
「あなた誰ですか。って天城君でしたか」
「まずは一言謝ったらどうです?」
「これは失礼しまし・・・」
実倉は10秒ほどフリーズして
「私何であなたの家にいるんですか!しかもベットの上!さらに服まで!」
布団の上にあったイヤホンや充電器を投げつけながら大声で言った。
「ブレスレット。ブレスレットはどこですか」
「汚れてたから2つとも洗って乾かしてます」
「そうですか」
「大切なものなんですか?」
「はい。とても大切なものです」
この人めっちゃ可愛いな。
そう思った。
「で、なんで私は天城君の家にいるんですか?」
「実倉さんここに何で来たとか何があったかとか覚えてないかな?」
「それは――」
彼女は吐いた。思いっきり吐いた。
ここが他人の家のしかも他人の部屋であることなんてお構いなしに。
「実倉さんマジ何してんの!ここ俺の部屋なんだけど!」
俺は洗面器を片手に叫んだ。
そこから1、2分の沈黙が続いて、
「私もう生きていけません」
いつものしっかりとした顔を涙とゲロでぐちゃぐちゃにして弱弱しく言った。
「はぁ、避難所まで送ってやるから。着替えは俺のやつあげますから」
彼女の顔がさらに白くなった。
「それだけは嫌です。帰りたくないです。あの、あの人に会いたくないです」
必死だった。
本能的にという言葉が正しいように感じる。
いつもの実倉さんはどこかに行ってしまったかのような。
「じゃあ今日はいいです」
彼女の顔色が少し戻った。
今日はだがな。
明日には必ず帰ってもらう。
この期間中はできるだけ人とは関わりたくないのだ。
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「みんな晴空がさらわれた」
鬼の形相で避難所に青葉が飛び込んできた。
「さらわれたってどういうことだ」
晴空の兄実倉南空が聞いた。
彼は勉強こそできないものの妹思いの優しい兄である。
「わからない天城の家の前に着いたら急にいなくなって」
「それでお前は晴空を置いて逃げてきたということか」
「違う。辺りを必死に探したがどこにもいないんだ」
「じゃあどこに行ったんだよ」
「天城が攫ったじゃねーの」
誰かがそんなことを言った。
「そうだ天城だ。あいつに違いねぇ」
青葉は難を逃れた。
その後明日の早朝実倉救出作戦が決行されることとなった。
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飛行物体内部
アクス様は設置されたカメラから国民の様子を監視している。
表情は分からないが少し楽しそうな気がする。
私はアクス様の部下の一人だ。
一緒に働き始めてもう2年になるがこんな雰囲気アクス様は初めて見た。
だから思い切って聞いてみることにした。
「アクス様の言っていた『Teller』とは何者なのでしょう?」
「それはだね。僕が唯一生物と認めた人間さ」
「生物の前提には生きるという本質ががあると思うんだ。本質は個体によって違う。でもその根底には生きるために他者を殺すのをためらわない。そんな思想がある。それを理解している者さ」
「本当は伝えるつもりなんてなかったんだけどね。彼からはまた面白いものが見れそうでね」
雰囲気だけではないアクス様は確かに楽しそうだ。
「そうですか、それは楽しみですね」
私はなんだかうれしい。
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アクスが言及しなかったことが二つある。
こうなることを知っていたのは『Teller』だけではない。
一つ目は『Teller』に与えられたのは情報だけではないということ。
それと。
事前に情報を伝えられていた者を『Teller』と呼ぶ。
また初めから知っていた者にも呼び名がある。
それは前回の生存者。
『liver』の存在を。