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目覚めたら即バッドエンド!? 悪役令息に憑依したら、すでに死んでいた。  作者: おしどり将軍


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第69話 ヴァンピールたち

 ドミニクは無言のまま、一歩、二歩と後方へ下がった。

 

 それに呼応するように、鋼鉄の鎧を纏ったハロルドが前に出る。


 「……来るか!」


 咆哮とともに、ハロルドが突進。

 巨体とは思えぬ速度で、地を蹴った。


 ハロルドの持つ長剣が唸りをあげて振り下ろされる。

 咄嗟に長刀を構え、受け止める。刃と刃が激突し、火花が弾けた。

 腕に痺れるような衝撃が走る。


 受けながら反撃に転じる——が、間髪入れず次の一撃。

 斬り上げ、突き、袈裟斬り。

 一発ごとに、骨まで響く重さ。切れ目のない連撃。


 「くっ……!」


 剣と刀が幾度も打ち合い、金属音と火花が空間に散る。

 押される。じりじりと、押し返される。


 ——そのとき。

 背後から、ぞわりと肌を撫でる魔力のうねり。


 反射的に振り返る。

 黒衣の女、エリザベータ。

 血のように紅い魔力をまとい、妖しく微笑んでいた。指先が、俺を指す。


 ——《鮮紅鞭ブラッディ・ウィップ


 次の瞬間、空間が裂けた。

 うねる鞭が、真っ赤な蛇のように鋭く迫ってくる。


 咄嗟に刀を跳ね上げ、弾き返す。

 だが、ハロルドが再び距離を詰めてきた。


 「っ……!」


 二方向からの挟撃。さばききれない。

 このままじゃ押し切られる——!


 俺は強引にバックステップを取り、間合いを開ける。


 ——だが、次の異変。

 ハロルドの足元が、淡く輝いた。


 「っ……重力魔法か!」


 ——《王威グラヴィティア


 空間がぐにゃりと歪む。

 重力が倍化し、足が沈む。

 全身に鉛の鎖を巻きつけられたように、動きが鈍る。


 ——まずい!


 エリザベータの指先から、鮮血がほとばしる。

 紅の鞭が、音を裂いて迫る。


 「鮮紅鞭ブラッディ・ウィップ!」


 逃げられない。避けられない。

 この距離、この重さ、このタイミング——


 「空間転移ディメンショナル・フォールド!」


 空間を裂き、跳躍。

 直後、紅の一閃が通過し、空間が割れた。

 外套が裂け、頬をかすめて血が滲む。


 辛うじて離脱。着地と同時に、周囲を確認。

 エリザベータとハロルドから距離は取れた。


 ——だが、肝心のドミニクの姿が見えない。


 「……どこだ?」


 返答はない。代わりに。


 空間が“ぬるり”と、ありえぬ形で開いた。

 そこから、無数の剣先がにゅっと突き出る。


 「——っ、次元書庫ディメンション・アーカイブ……!」


 気づいたときには、すでに遅い。

 虚空の裂け目から、殺到する武器の群れ。


 「くそっ……!」


 再度、空間転移で跳ぶ。

 が——全ては避けきれなかった。


 右腕に鋭い衝撃。

 袖が裂け、鮮血が飛ぶ。


 ——斬られた。


 ドミニクは、自身の存在を空間に溶かし、姿も気配も消している。

 虚無に潜み、狙いすました一撃で殺しにくる。


 そして左右には、ハロルドとエリザベータ。

 正面、背後、虚空の三方向から、殺意が同時に押し寄せる。


 ——このままじゃ、確実に削り殺される。



 じっとりとした汗が滲み、視界が揺れる。

 

 あれから、もう一時間以上は戦っているだろうか。

 

 時間の感覚すら、とうに曖昧だった。


 三方向から、絶え間なく襲い来る殺意。

 正面のハロルド、背後からのエリザベータ、そして虚空に潜むドミニク。


 一瞬でも気を抜けば、即、命を落とす。

 すでに身体中、傷だらけだ。

 剣を振るうたびに筋肉が悲鳴を上げ、脚を動かすたびに関節がきしむ。


 刀で鞭を弾き、横合いからの斬撃を受け止め、空間転移で逃れる。

 ——だが、もう限界は近い。


 呼吸は浅く、足取りは重い。

 裂傷と打撲の痛みがじくじくと身体にまとわりつく。


 致命傷は免れている。

 だが、それも時間の問題だ。

 かわし続けるだけでは、いずれ潰される。


 (……何か、突破口はないのか)


 思考は何度も巡ったが、どの策も確実性に欠ける。

 いかに優れた戦術も、この包囲と奇襲の中では、すべてが博打にすぎない。


 また、ドミニクの気配が——消えた。


 「……っ、どこだ……!」


 音もなく、予兆もなく、奴は“開く”。

 空間の裂け目から殺意が現れ、剣が飛び出す。


 何度目の空間転移だ?

 どれだけ魔力を使った?


 分からない。ただ、消耗だけが蓄積していく。


 (このままじゃ、削られて……死ぬ)


 焦燥、疲労、痛み、恐怖——それでも、俺は踏みとどまっていた。

 ユリアが、この先にいる。

 そして……カサンドラも、まだ残っている。


 「まだ、倒れるわけには……いかない……!」


 血の混じった唾を吐き捨て、刀を握り直す。

 指先は震えている。だが、視線は——まだ、怯んでいない。


 一か八か……やるしかない。


 俺はジリジリと、ハロルドへと詰め寄る。

 横目でエリザベータを睨み、ドミニクの姿はすでに消えていた。


 ならば——前へ出るだけだ。

 俺は全魔力を叩きつけるつもりで、ハロルドへ一直線に突っ込んだ。


 「おおおおっ!」


 力任せの斬撃。猛然と攻めかかる。

 剣と刀が何度もぶつかり合い、火花が散る。少しずつだが、確かに押し込めていた。


 そのとき——背後に、魔力の気配。


 ——来た!


 気配を読み、寸前で身を捻る。

 空を裂いて振るわれた《鮮紅鞭ブラッディ・ウィップ》が、俺の肩をかすめて通過し——


 それは、目の前のハロルドに直撃した。


 「……っ!」


 激しく弾けた血の鞭が、ハロルドをひるませる。


 ——今だ。


 「空間転移ディメンショナル・フォールド!」


 刹那、俺は空間を裂いて跳んだ。

 次の瞬間、転移した先は——エリザベータの眼前。


 「トドメだッ!」


 俺は長刀を、その胸元を狙って突き上げる。

 だが——


 左目の端に、空間の“歪み”が見えた。

 現れたのは、ドミニク。


 「ッ!」


 奴の剣が、俺の脇腹を正確に狙ってくる。

 攻撃動作の途中では避けきれない。俺は身を捻り、なんとか逸らした——が。


 ——ズッ!


 左脇腹が、斜めに裂けた。


 「ぐっ……!」


 激痛に歯を食いしばる。

 そして——そのドミニクの背後から、再び強烈な魔力。


 エリザベータが、指先をこちらへ向けていた。


 「——!」


 避ける間もなく、血飛沫が槍のように飛んできた。

 右肩に激痛が走る。

 俺の身体が、後方へ弾き飛ばされる。


 立て直す間もなく、ドミニクが迫る。

 剣を振りかぶり、俺に白刃が迫る——


 (……しまった!)


 回避が間に合わない。

 剣が、振り下ろされる、その瞬間——


 「——雷鳴波ソニックブーン!」


 轟音が響いた。

 目の前のドミニクの剣が吹き飛ばされる。


 何が、起こった?


 俺はぼんやりと、その方向を振り返る。


 ——そこには。


 「……遅くなったな」


 駆けつけたのは、ジェスタ。そして、そのすぐ後ろにイリアスの姿が見える。


 救いの二人が、ついに到着した。

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