表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目覚めたら即バッドエンド!? 悪役令息に憑依したら、すでに死んでいた。  作者: おしどり将軍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/78

第67話 災禍の神域

王宮の一室。

薄明かりが差し込む窓辺で、イリアス・バッシュはゆっくりとまぶたを開けた。


「……ん」


耳に飛び込んできたのは、隣で豪快にいびきをかくジェスタの寝息だった。


窓の外は、もう朝焼けに染まり始めている。

夜は明けた——それなのに、何一つ解決していない。


(ディルクさんは……倒れたまま。ユリアさんは、まだ戻ってこない)


胸がぎゅっと締めつけられる。

これほどまでに世話になったクラネルト家が、無残に引き裂かれていく。

彼女にとって、それはまるで自分の家族が壊れていくような痛みだった。


(ボク、何もできなかった……!)


ぎゅっと拳を握る。

爪が手のひらに食い込む痛みすら、今は悔しさの証のように感じた。


「……ユリアさんは、どこにいるんだろう」


ぽつりと漏らした言葉が、静まり返った部屋に吸い込まれていく。


イリアスはじっとしていられず、部屋の中をうろうろと歩き始めた。

そのとき、ふと思い出す。


(そういえば……)


倒れたディルクを見下ろすソウスケの、あの目——

何かに気づいたような、確信めいた眼差しだった。


(ソウスケは……何か、気づいたような顔をしてた)


直感が告げていた。

ソウスケは、なにかを“知っている”。


その瞬間、イリアスは迷わなかった。

ベッドで眠るジェスタを一瞥し、そのまま部屋を飛び出していた。


——ユリアを見つけるために。

——そして、ソウスケが気づいた“何か”を知るために。


彼女の足は、すでに王都のとある宿屋を目指して走り出していた。



王都の西、およそ十キロ。


“災禍の神域”──かつて魔族が支配していた忌まわしき地に、俺は一人、足を踏み入れた。


ここは本来、立ち入りが厳しく禁じられた区域だ。

高い塀にぐるりと囲まれ、内部の様子は外からは窺えない。


だが、長く続く平和のせいか、物々しい外観に反して警備は手薄だった。

兵士がときおり周回するだけで、緊張感はほとんどない。


「……王都が築かれる前は、この辺りまで魔族の勢力圏だったのか」


周囲の気配を慎重に探ったのち、俺は壁の一部を転移させて穴を開け、潜り込んでから、再び元に戻す。


塀の内側は、まるで別世界だった。


風に乗って、草木のざわめきが耳に届く。

崩れかけた石の柱。ひび割れた大理石の階段。 苔むした石畳。

かつて邪神を祀った神殿跡地は、今や時間に取り残された墓標のように、沈黙を湛えている。


一見、ただの瓦礫と、朽ちた祠の残骸が広がるだけの、忘れられた場所。


だが——


(ここだ。たしか、あのときも……)


俺は石段を上がり、広場の中央へと足を進める。

そこは、かつて祭壇が設けられていた場所。邪神への祈りが捧げられていた神域の核心だ。


過去にやったゲームの記憶を辿るように、俺は祭壇跡の中央に立ち、静かに右手を掲げる。


「……」


魔力を右手にこめた。


風が止み、空気がわずかに震えた。

足元の石に刻まれた紋様が淡く輝き、静寂を破るように光が走る。


そして──

地下へと続く封じられた入口が、ゆっくりとその口を開いた。


(間違いない。ゲームと同じだ)


だが、今回は“遊び”じゃない。


この先に、ユリアがいる。

そして——カサンドラが待っている。


俺は、わずかのためらいもなく、光差す階段を踏みしめた。

闇の深奥へ、静かに、そして確かに。



「ジェスタ、起きてよ、ジェスタ!」


イリアスがジェスタの腹の上で跳ね回る。その振動と甲高い声に、ジェスタは呻きながら目を開けた。


「……なんだってんだ、イリアス……朝からうるせぇぞ……」


「大変だよ! ほんとに大変なの! これ、見て!」


イリアスは一通の手紙をジェスタの顔に押し付けた。

それはソウスケ宛に書かれた、カサンドラからの手紙だった。


ジェスタは寝ぼけ眼のまま手紙を掴み取り、目を走らせる。

そして次の瞬間、まるで雷に打たれたように飛び起きた。


「……災禍の神域、だと!? あそこにユリアがいるってのか……!」


「ねぇ、“災禍の神域”って、何?」


「魔族の聖地だよ。……今はもうガラクタしか残っちゃいねぇ場所だが、まさかダンジョンがあったなんて話、聞いたことねぇ……!」


「どこにあるの、その“災禍のなんとか”って」


「西だ。王都から十キロってとこだ……くそっ、こんなとこに行きやがって……。この手紙、どこにあった?」


「ソウスケの宿の部屋。朝、様子を見に行ったら、彼もう出発してて……手紙がベッドの上に置いてあったの」


ジェスタは眉間に深い皺を刻んだ。


「なんてこった……。一人で行きやがったのか、あいつ。あれだけ“何でも一人で抱えるな”って、言ってきたのによ……!」


「でも……手紙には、“一人で来い”って、書いてあるよ?」


「そんなもん、奴らの罠に決まってんだよ! わざわざ名指しで呼び出すなんて……殺る気満々じゃねぇか!」


拳を握りしめるジェスタ。その目に、怒りと焦りが混じっていた。


「ソウスケを死なせるわけにはいかねぇ……! 今度こそ、俺が……剣聖の意地にかけて、絶対に助ける!」


「ボクも行くよ、ジェスタ!」


「お前はダメだ。子供が危ない橋を渡っちゃ——」


「だったら、ジェスタだって同じだよ! 一人で突っ走るの、やめようよ。……ボクたち、仲間なんだから!」


イリアスはまっすぐにジェスタを見つめた。

その目に、恐れも迷いもなかった。


「ソウスケだって、ユリアだって……みんな“ジェスタの仲間”だよ。ボクだって、その一人だ。仲間を助けたい。そのためなら、ボクは何だってやってみせる」


ジェスタは言葉を失い、しばしイリアスを見つめ返す。

やがて、肩をすくめてため息をついた。


「……ちくしょう、お前には勝てねぇな。ついて来い、イリアス」


「やった!」


「でもな、イリアス。戦場に行ったら、もう子ども扱いはできねぇ。その覚悟、最後まで持てるか?」


「うん、分かってるよ。()()()()は、絶対に負けない。……ソウスケも、ユリアも、絶対に助け出すんだ!」



 薄暗い通路の先から、かすかな風が吹き抜けてくる。

 どこかで空気が流れている……ダンジョン内部は、まだ“生きて”いる。


 石造りの壁に、松明の炎がゆらりと影を落とす。湿気を帯びた石の匂いが鼻を刺し、足音すらも重く響いた。


 このダンジョンは、全3層。最下層には、魔族の神ゾラス=ダインの神像と祭壇、そして歴代魔族の王の墓所がある。

 ゲーム本編では、カサンドラとの最終決戦の舞台として用意された場所だ。


 ヴァンピール3体を前座として倒し、その後にカサンドラとの死闘が始まる——

 本来なら、勇者パーティ全員が揃い、共に挑むクライマックスイベントの一つだった。


 だが、今ここにいるのは、俺一人。

 七大美徳スキルを持つ人間は、ここにはいない。


 圧倒的に不利な条件。


 ……ただし、ゲームと違う点もある。

 前座であるヴァンピール二体は、すでに倒している。


 問題はここからだ。

 ゲームの進行と現実の状況が、何もかも異なりすぎている。

 もはや、ゲーム知識はあまり役に立たない。


 ——いや、カサンドラの能力を知っているだけでも、まだマシか。


 俺は左手にはめたイレーナの指輪に視線を落とした。


 これだけが、今の俺に残された切り札。

 カサンドラはヴァンパイアの真祖。他の魔族幹部とは違い、“不死”の存在だ。

 完全に滅ぼすには、聖なる魔力を直接、心臓に流し込むしかない。


 イレーナが指輪に託した聖なる魔力を、長刀へと流し込み——

 その刃で心臓を貫く。

 ……勝ち筋は、それしかない。


 (ジェスタを呼んだ方がよかったか……)


 ジェスタは七大美徳スキル“忍耐”の持ち主。

 彼の攻撃には、聖なる魔力が宿っている。

 彼が一撃でカサンドラの心臓を突けば、指輪など使わずとも勝てたかもしれない。


 だが、手紙には「一人で来い」とあった。

 命令に従わなければ、ユリアの命はない——そう匂わせる内容だった。


 もちろん、敵の言葉を信じたところで保証などない。

 だが、もしこちらが勝手な動きをして、ユリアの命が絶たれたとしたら……

 その時、自分を許せる自信はない。


 それに、ジェスタは……

 もしかすると、カサンドラと戦えば、殺されてしまうかもしれない。


 ——ゲーム序盤のイベントで、彼は命を落とす。

 主人公イリアスはその死を知り、“師の仇”としてカサンドラに立ち向かう決意をする重要なイベントだ。


 だが、そんな展開は——正直、見たくない。


 俺は、できるだけ全員が生き残るようにゲームを進める主義だからだ。


 静かに息を吐き、階段を下りきる。


 ——第一層。


 目の前に、重厚な扉がそびえていた。


 何が待ち構えているのかは、もう分からない。

 

 「……来い」


 覚悟を込めて、扉を押し開いた。

お読みいただいてありがとうございます。


評価⭐️やブックマークしていただけると大変励みになります。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ