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目覚めたら即バッドエンド!? 悪役令息に憑依したら、すでに死んでいた。  作者: おしどり将軍


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第47話 ダークエルフの悪巧み

「……影武者を立てます」


ディルクが静かに口を開いた。


「影武者、ですと?」


ハウゼンが顔をしかめ、すぐさま異議を唱える。「それはまるで、国民を欺くような行為ではないですか!」


「落ち着いてください、ハウゼン殿」


ディルクは手をやんわりと上げて制する。


「この巡礼において、最も危険なのは道中――特に、山に入る手前の森林地帯です。奇襲には格好の場所であり、敵が仕掛けてくるならあそこしかないと考えています」


俺も内心で頷いていた。ゲームの知識が正しければ、まさにその辺りで伏兵イベントが起きるはずだ。


「……しかし、それでも尚、第三王女がこの身で巡礼を果たすことに意味があるのです。国民にその姿を見せるからこそ、信が得られるのでは?」


「もちろんです。だからこそ、正面から出発し、堂々と出立の儀を行います」


ディルクが続ける。


「だが、“本物”は途中で入れ替わり、聖地入り口で再び戻る。これで儀式的な正統性と安全性、両方を保てます」


「ふざけた話だ」


「……いえ、合理的です」


意外にも、ミスティアが静かに口を開いた。


「目的は巡礼を果たすこと。そして、王国の未来に対して覚悟を示すことです。道中に命を落とせば、すべては水泡に帰します」


「殿下……!」


ハウゼンは言葉を失いかけたが、すぐに姿勢を正した。


「……して、その影武者とは?」


ハウゼンが沈黙を破ると、ディルクは穏やかな微笑を浮かべて応じた。


「私の娘、聖騎士ユリア・クラネルトです。殿下と体格が近く、なにより信頼に足る者です」


「ユリア・クラネルトです。私が殿下の盾となります。どうかお任せください」


毅然とした声で名乗り、すっと立ち上がったユリアを、ミスティアは真っすぐ見つめた。


「……よろしくお願いしますね」


「はい」


短く、だが力強く応じたユリアに、空気が引き締まる。


「騎士団長には、剣聖ジェスタ・ハイベルグが我が陣に加わりました。彼がいれば、百人力です」


「ほう……あの剣聖。勇者パーティの英雄の一角。これは、実に心強い」


ハウゼンもついには目を見張り、感嘆を洩らす。


だがすぐに、険しい顔で問い返した。


「では、肝心の殿下は、どうなさるのだ?」


ハウゼンの問いに、ディルクはひと呼吸おいて答える。


「娘の聖騎士の装束をまとい、護衛の一員として隊列に紛れていただきます」


「な、なんと……! せめて侍女の姿ではいけないのか? 聖騎士など、あまりに無謀だ。負担が大きすぎる!」


「いえ、むしろ聖騎士の格好のほうが自然です。全身鎧で顔を覆えますし、万が一襲撃があっても、防具である程度は防げる」


「だが、聖騎士として振る舞うには、それなりの所作や鍛錬が必要だ。立ち居振る舞い一つで、素人と見破られかねないぞ」


ハウゼンがなおも食い下がった。


「……訓練は、必要になるでしょうね」


ミスティアが穏やかに、だが確かな意志をこめてうなずく。


「私は、これまで剣を握ったことがありません。でも、この機会に挑戦してみたい。自分の足で立ち、前に進めるように」


……そうか。 この時点では、彼女はまだ“固有スキル”を持っていないのか。


ミスティア・ハーヴェス──将来、魔剣士として覚醒する王女。 ゲーム本編では、六年後に勇者パーティの一員として成長し、この巡礼イベントに挑んでいた。だが、今はまだ……剣も知らぬ少女にすぎない。


しかも、この巡礼イベントには、イリアスをはじめ、他の勇者パーティの主要人物が全員参加していた。彼らも、六年分の成長を経た状態だった。


(今回、戦力として期待できるのは、ジェスタを除けば……イリアスとユリア。だが二人も、まだ修行中の身だ)


俺は、無意識に拳を握っていた。


(……これは、かなり厳しい戦いになるかもしれない)


「だが……殿下の傍には、誰がつくのだ? ジェスタ殿が護衛につくなら、影武者の意味がなくなるが」


ハウゼンのもっともな指摘に、ディルクは薄く笑った。


「ご安心を、ハウゼン殿。我々には“とっておき”がございます」


「ほう……ジェスタ殿以外に、そんな人物が? それは聞き捨てならんな」


「ソウスケ・タジマです」


名を呼ばれて、俺は立ち上がるしかなかった。


「ソウスケ・タジマです。……よろしくお願いします」


殿下に向かって、軽く一礼する。


ハウゼンの眉がぴくりと動いた。


「……何かの冗談ではあるまいな、ディルク殿?」


「いえ、本気です。彼はまだ若いですが、剣聖ジェスタ殿とも互角に渡り合いました」


「冗談も大概にしろ! どう見ても、ただの子供ではないか!」


ハウゼンが声を荒げたその時、ジェスタがふっと笑い、口を開いた。


「……こいつは強いぜ。間違いなくな。少なくとも、俺が同じ年だったら、勝てる気がしねぇくらいにはな」


「ほんとうですかっ!」


ミスティアが身を乗り出すようにして、俺をまじまじと見つめる。


「私と、そんなに歳も変わらないのに……」


「ジェスタに勝てるとは言わない。だが——護衛の仕事は、きちんと果たすつもりだ」


そう応じると、ミスティアはぱっと花が咲くような笑顔を見せた。


「……私、やります」


その瞳には、揺るぎない意志の光が宿っていた。


「失敗は許されんのだぞ」


ハウゼンがディルクに低く念を押す。


「もちろん。私の命を懸けて、やり遂げます」


ディルクが静かに決意を表した。


「……お前の命など、殿下の足元にも及ばんわ」


ハウゼンが苦々しげに吐き捨てた。


「どちらにせよ、火中の栗を拾うと決めた以上——我々にできることは、あらゆる手を尽くすことだけです。……やり遂げましょう」


ミスティアがまっすぐに言い切ると、その場の空気が、ぴたりと引き締まった。


次の瞬間、誰からともなく頭が垂れる。


まだ少女でありながら——彼女はすでに、堂々たる“王女”の風格を備えていた。



王宮の地下深く——


一部の王族しか存在を知らない密談室がある。かつては書庫だった空間を改装し、防音と結界によって外界から完全に遮断されたその部屋は、今や政治的な闇の取引が交わされる“影の玉座”となっていた。


その一角。重厚な革張りのソファに、背筋を伸ばして腰かける人物がいる。


スラリとした長身、漆黒の髪を持ち、鼻梁にかけられた眼鏡の奥からは、冷ややかな視線が鋭く光っていた。


ゼファル・ハーヴェス——ロンダリア第二王子。


その背後に控えるのは、痩せ細りながらも威圧感を放つ老人。鋭い眼光と細身の杖を持つその男は、三大公爵家の一角、ガルノード家の当主ザラード・ガルノードだった。この密談は彼の取り計らいによるものである。


ゼファルの前に跪いていたのは、黒衣をまとった妖艶な女。


レヴィア・アスフォーデル。魔族にして〈嫉妬〉の名を冠する幹部のひとり。


「このたびは、お目通りいただき、誠にありがとうございます」


顔を上げてにこりと微笑むレヴィアに、ゼファルは一瞥をくれただけで応じた。


「……用件を。詳細を話せ」


「かしこまりました、ゼファル殿下」


レヴィアは流れるように姿勢を正し、静かに語り始めた。


「第三王女ミスティア・ハーヴェス殿下を、確実に排除する策を整えてございます。鍵となるのは、彼女の“聖地巡礼”。この旅路の中で、我々にとって最も都合の良い狩場がございます」


「北の山道、あの森林地帯か。クラネルトの連中が通るなら、伏兵を想定して警戒は怠らぬだろう」


ゼファルが眼鏡のフレームを押し上げながら言う。


「ええ。しかし、そこで仕掛けるのは“囮”にすぎません。本命は、その先です」


「ほう、続けろ」


「儀式は山頂にて行われる予定。かの大聖堂にて、王族の誓いと祈りが捧げられる……その最中に、大部隊で一気に包囲殲滅するのです」


「……包囲する戦力があればの話だ。正規軍はこちらでは動かせん。傭兵部隊で補える規模ではないはずだが?」


「そこで我々の“切り札”の登場となります」


レヴィアは指を鳴らした。


その音に応じるように、奥の扉が静かに開いた。


そこに現れたのは、漆黒の法衣をまとい、褐色の肌に長い耳を持つ、ひとりのダークエルフの少女だった。クスクスと笑いながら、彼女は一礼する。


「テスタ・ラジーネと申しますの〜。これから、よろしくしてくださいねぇ〜……ふふ、ふふふふふ……♡」


その声は、妙に高く、ねっとりとした響きを持ちつつ、どこか狂気をはらんでいた。


ゼファルの眉が、わずかにぴくりと動いた。


「わたくしぃ〜、実験体をたっくさん飼ってるんですの。うふふ♡ 数千体以上! みーんな、魔物と魔物を混ぜこぜにして、特別な“スパイス”で仕上げた自慢のコたちなんですの〜」


「……つまり合成獣か」


「そ・れ・で・す・わっ♡ その言い方、ステキ〜っ。もっと言ってくださいな〜? も〜っともっと、強く、怖く……暴れて、壊して、嬲って……♡ それが彼らの生きる意味ですの」


ゼファルは冷ややかに応じた。


「だが、ジェスタ・ハイベルグがいる。腑抜けとはいえ、あの男は七大美徳スキル〈忍耐〉の持ち主だ。そう簡単に崩れるとは思えん」


「うふっ、ちゃんと織り込み済みですの〜? ジェスタ・ハイベルグ様ぁ……♡ と〜っても魅力的な実験素材♡」


テスタはくすくすと笑いながら、ゼファルを見つめた。


「もし捕まえられたらぁ、もっと素敵な獣ちゃんを創れそうですわ♡ 殿下のご希望があればぁ〜、お好みに合わせて“カスタマイズ”して差し上げますの〜♪」


「……つまり、始末できる算段はある、ということだな」


「もちろんっ♡ 彼を倒すための“特製ちゃん”も、ちゃ〜んとご用意済みですの〜。うふふふふ……もう魔物って枠に収まらないの。ほんとにぃ、“と〜くべつ”♡」


テスタは熱に浮かされたかのように、しゃべり続ける。


「いくら彼が、そのぴっかぴかの剣で百匹斬ったって〜、あそこは山頂。逃げ場も、助けもない、ただ狩られるだけなの。ちっちゃな王女様なんて守れるわけ、ないですの♡」


ゼファルは一瞬沈黙し、目を細めてから低く告げた。


「……よかろう。任せてみるとしよう」


「ひとつだけぇ〜、殿下にお願いがあるんですの〜♡」


「なんだ」


「王女様の……ご遺体、いただけませんこと〜?」


「どうするつもりだ」


「だってだって〜、ミスティア・ハーヴェス様って、すっごぉく綺麗なんでしょう? その素敵な“素材”を使ってぇ……わたし、ひとつアート作品を作ってみたいの♡」


吐き気を催すような悪寒が、ゼファルの背をかすめた。


テスタの目からは何の感情も見出せない。彼女はもしかしたら、目の前のゼファルさえも実験の材料として見ているのかもしれない。


「よかろう、好きにしろ。だが、失敗だけは許されんぞ」


「はぁ〜い♡ ありがとございますぅ〜♡ じゃあ、すぐに準備しちゃいますの〜♪」


テスタはレヴィアと共に、音もなく退室していった。


静寂が戻った部屋で、ゼファルは冷え切った声でつぶやいた。


「……あれが魔族というものか」


「いえ、正確には亜人。エルフ族の末裔ですな。もう片方は魔族ですが……見たこともない種族です」


ザラード・ガルノードが、杖を支えにしながら淡々と補足する。


「どちらにせよ、薄汚い連中だ。だが――今は利用価値がある。刃向かわれぬよう、綱だけは握っておくんだな」


「御意にございます、殿下。あの者たちを見事操ってご覧に入れます」

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