表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目覚めたら即バッドエンド!? 悪役令息に憑依したら、すでに死んでいた。  作者: おしどり将軍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/78

第44話 剣聖との再戦

あれから、ひと月ほどが経った。


入道雲が、青空を押し上げるように湧き上がっている。


夏の空気は乾いていて、それでも刺すような熱気だけが肌にまとわりつく。


「ぐえぇ……もうダメ……」


隣では、イリアスが地面に大の字になって伸びていた。


額には玉のような汗。口元は、どこか満ち足りた笑み。


──やりきった顔、というよりは、やられきった顔だった。


クラネルト伯爵邸では、相変わらず鍛錬の日々が続いている。


そして俺は、その傍らで、ひそかに辺境伯家の情報を集めていた。


ステファノ・カーティス──俺の“義弟”は、正式に辺境伯の座についた。


……特に感慨はない。まあ、予定通りってわけだ。


ステファノは就任式のため、王都に一度だけ姿を見せたが、その随行にカサンドラの姿はなかった。


ヤツ(カサンドラ)が王都に出てくるなら、こちらから仕掛けることも考えていたが──


本拠地で仕掛けるとなると、そう簡単にはいかない。


……まだ、今の俺じゃ勝てない。剣聖から、もっと吸収しなきゃならない


そんな思考を断ち切るように、木刀がぶつかり合う乾いた音が響いた。


視線を向ければ、ジェスタとユリアが稽古をしている。


ジェスタは木刀一本、ユリアは木刀と小ぶりな盾を携えていた。


「はっ……!」


ジェスタの鋭い打ち込みを、ユリアは咄嗟に盾で受け止める。


聖騎士の基本は剣と盾。


彼女の戦い方は、堅実で、どこかひたむきだった。


何度叩かれても、怯まずに立ち向かい、姿勢を崩さず反撃の機をうかがう。


盾役としての資質は、間違いなくある。


「なかなか、よくなってきたじゃねぇか。……お嬢ちゃん」


「“お嬢ちゃん”は余計です!」


「んじゃ、こうきたらどうする?」


「えっ──」


不意を突いた一撃に、ユリアの盾が派手に弾き飛ばされる。


「盾役が盾を剥がされたら、終いだぜ」


「……どうもすみません」


「皆の命がかかってるんだ。気合い入れろよ」


「はい!」


そんなやり取りをしながら、ジェスタは俺の方に目を向けて歩いてきた。


「おう、黙って見てないで、お前も来いよ、ソウスケ」


俺は一度、ジェスタと剣を交えて以来、もっぱら見学組だ。


だが、剣聖の動きは、見ているだけでも十分に学ぶものがある。


──そろそろ、再戦してもいい頃合いか。


俺は木刀を握って前に出た。



俺が木刀を構えると、ヘラヘラ笑っていたジェスタも少し真面目な顔で、構えをとった。どちらも中段の構え。互いに隙を伺い合う形になっている。


イリアスもユリアも真剣な眼差しで、俺たちの勝負の行方を見ている。


少しづつ、横に滑るように俺はステップを踏んだ。ジェスタもまた、俺に合わせて剣先を向ける。


張り詰めた緊張の糸を最初に破ったのは俺の方だ。


分身ダブル


そっくりそのまま、剣聖の技を模倣する。2体に分身したように見せかける動きで、意表を突いてジェスタに二方向から攻めかかる。


だが、さすがは本物の剣聖。その攻撃は受け切られた。


「テメェ、いつの間に身につけやがったんだ」


「真似するだけなら、それほど難しくはない」


「言ったな。上等だよ、なら……本物を見せてやるよッ!」


地を蹴った瞬間、ジェスタの姿がふっとぶれた。


「……っ!」


今度は本家本元の「分身ダブル」だ。それは本当にジェスタが2体に分裂したように見えた──視覚だけでなく、“気配”までもが複数に分かれたように感じる。


(なるほど……あれが“本物”か)


右からの斬撃──かと思えば左からも。まるで幻影に踊らされているようだ。


激しく木刀の応酬がしばらく続いた。


「すごい」


イリアスとユリアが息を呑んで見守っている。


やがてジェスタは、さらに分身体を増やした。全部で4体。


「こいつで、けりをつけてやる」


「こっちもこれで終わりではないんでね」


俺もまた、同時に4体に分身した。


幻の群像が交錯し、木刀が火花を散らすようにぶつかり合う。


「やるじゃねえか。だが、まだまだだな」


徐々に押されていく。ジェスタの攻撃は、やはり一枚も二枚も上手だった。


——このままではいけない。


雷鳴波ソニックブーン


「何、そこまで、真似できるのかっ」


俺はジェスタが前に使っていた雷鳴波ソニックブーンを放つ。風圧で分身が吹き飛び、本体同士が対峙する。


「しばらくやらないうちに、ずいぶんと腕をあげたじゃないか」


「剣聖のファンなんでね。真似できるものは全部頂こうかと」


「はっ、この技身につけるために、何年かかったと思うんだ。ふざけやがって」


そう言って、ジェスタの雰囲気が変わる。魔力が剣先に集中し、熱を帯びていく。


「こうなりゃ、とっておきを見せないとな…… ファンサービスってわけだ」


——固有スキルか…… 剣聖の固有スキルはなんだったっけか。主人公の回想シーンにしか出ないから、固有スキルがどんなものか分からない。


「言っておこう。これは誰にも避けられない技さ。いわば必中の剣、それが俺の固有スキルだ」


——必中だと。


「行くぞ、ソウスケ。手加減は出来ねぇから、覚悟しておけ」


ジェスタは木刀をゆっくりと振り上げた。


剣先に集束する魔力が白熱し、空気がねじれるように揺れる。


「——見せてやるよ。“天理必裁斬インファリブル・ストライク”」


低く呟いた瞬間、大地が鳴動した。


風圧が弾け、空気が震える。剣先の光が直線となって襲いかかる。


(これは……まずい!)


本能が告げた──逃げろ、と。俺は両脚に魔力を集中し、回避の準備を整える。


しかし、想像以上に伸びる剣先が、直感に「避けきれない」と警鐘を鳴らす。


空間転移ディメンショナル・フォールド


ジェスタの背後へ跳んだ── が。


「っ、嘘だろ……!」


 背後を取ったはずの視界に、伸びる剣先が現れる。


 必中


おそらくそれは、「どんな手を尽くしても避けられない結果」を強制するスキル。


(なら──叩き落とすしかない!)


「はあああッ!」


 俺は咄嗟に木刀を叩きつける。剣先が交差した刹那、白い閃光が目の前で炸裂した。


 *パァンッ!!*


 鈍い衝撃音と共に、両者の木刀が中央から裂けた。


 破片が舞い上がり、雨のように降り注ぐ。


 ──沈黙。


 ジェスタは、空になった右手をじっと見つめ、乾いた笑みを浮かべた。


「やりやがったな……俺の“必中”を……」


「……本物の剣だったら、今ごろやられていたな」


俺もまた、折れた柄を見下ろし、小さく息を吐いた。


 剣聖の力を侮っていたわけではない。だが、それでも格が違う。


ジェスタの力は圧倒的だ。しかも彼は本来、二刀流。そこに七大美徳スキル《忍耐》が加われば……


 視線を向ければ、イリアスとユリアが呆然と立ち尽くしていた。緊張が解けたのか、イリアスはぺたんと尻もちをつく。


「テメェも、まだ隠してやがったのか。その固有スキル、物を転移させるだけじゃねぇってのか」


 ジェスタがそう言って笑い、俺はそれに肩をすくめて返す。


「いろいろ勉強になったよ。さすがは剣聖だな」


「真似できるもんがあるなら、真似しとけ。だがな──言っとくが、俺はまだ4体は分身を出せる。お前と一緒にすんじゃねぇぞ」


「剣聖のファンだから。そいつもありがたくいただくよ」


 その時、静寂を破るように──パチパチと、乾いた拍手の音が響いた。


「実に見応えがあったよ」


 現れたのは、この伯爵邸の主。ディルク・クラネルトだった。

お読みいただいてありがとうございます。


評価⭐️やブックマークしていただけると大変励みになります。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ