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目覚めたら即バッドエンド!? 悪役令息に憑依したら、すでに死んでいた。  作者: おしどり将軍


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第41話 お使い

日は傾き、暑さのピークは過ぎていたが、空気にはまだ熱気がこもっている。


俺はクラネルト伯爵邸の応接間にいた。ディルクが話があると言ってきたからだ。


──何の用だろう。


クラネルト伯爵は聖騎士団の有力な後援者であり、自身もまた聖騎士だ。


聖騎士とは、国教とも言える創造神イル=ファルマ信仰を守護する存在で、この国では広く尊崇を集めている。


俺自身は、あまり宗教に心を寄せるタイプではない。


神を信じているからといって、信用できるとは限らない。


……とはいえ、魔族が信奉する破壊神ゾラス=ダインよりは、創造神イル=ファルマのほうがまだマシに思える。


「やあ、お待たせして何よりだ」


ディルクはいつもの穏やかな笑顔を浮かべて部屋に入ってきた。


「いったい、何のご用件ですか?」


「まあまあ、そんなに構えずに」


苦笑いを浮かべ、手のひらをひらひらと振る。


窓から涼しい風が流れ込む中、彼は額をハンカチで軽く拭った。


「人払いは済ませてある。この部屋の話は誰の耳にも入らない。安心してくれ」


「……どういう意味ですか」


「さて。ところで、私が第3王女を支持しているという話は、知っているね?」


「ええ、まあ」


今、王室は3つの派閥に分かれている。王太子派、第2王子派、そして第3王女派。


中でも王太子派は、当の王太子が“暗愚”と噂されていることもあり、苦戦を強いられていた。


「正直、そういう権力争いには興味がありません」


「そう言ってもね。たとえば──“辺境伯が魔族と通じている”なんて話を聞けば、君だって少しは気になるだろう?」


「……何が言いたいんですか?」


「辺境伯は魔族と結託しており、第2王子派はその資金提供を受けているらしい。それがどれほど危ういことか……多くの貴族は、まったく理解していないんだ」


ディルクは憤りを抑えきれずに机を叩いた。


──意外と、熱い人なのかもしれない。


「いまや、王都では第2王子派が主導権を握りつつある。彼らの背後に“辺境伯”と“魔族”がいるならば……このままでは国そのものが呑まれるぞ」


前のめりになっていた彼は、一度紅茶を口に含んで、落ち着きを取り戻す。


「そこで──辺境伯の暗殺だ。実行したのは、彼の息子アーヴィン・カーティス。まだ10歳の少年だ。どうだい? まるで愛国の士のようではないか。君は同じ10歳として何か感じるものはないのかい」


──つまり、俺を疑っているわけだ。


「辺境伯を殺すことが、正義につながるわけじゃないと思いますが」


「彼はすでに王都を救うため、“ヴァンピール”まで倒している。なんて素晴らしいんだ。あの少年は、この国のために陰ながら動いている……そう思わないかね?」


「ヴァンピールは冒険者たちに討伐されたと聞いていますが」


「B級冒険者に? 冗談じゃない。何人束になったところで勝てはしない。それほどの脅威に、無名の連中が挑んで勝てるはずがないだろう」


「でも──アーヴィン・カーティスはたかが10歳の少年です。子どもがそんな化け物を相手にできるとは思えませんが」


「私も、以前はそう思っていたよ。……この間までは、ね」


室内の空気が一瞬、ひやりと冷えた。


「君はその年齢で、剣聖と渡り合うほどの力を持ち、固有スキルまで備えている。成人にも満たぬ身で、それだけの能力を持つ者が他にもいたとして── たとえば、ヴァンピールを倒せたとしても、驚くには値しないだろう?」


「何が言いたいんです?」


「いや、あくまで仮の話だよ。だが、もし彼がこの邸を訪れるようなことがあれば──私は彼に力を貸したい。法に反する? 構わんさ。この国を守るためなら、私は何だってやる。クラネルト家はこの国の……いや、創造神イル=ファルマの守護者だからね」


「国を救うという大義には、あまり興味がありませんけどね」


「……そうか。まあ、いい。つまり、私は“君の力になってあげたい”と思っているということさ。それだけ知っておいてもらえれば」


「そのお気持ちだけ、受け取っておきます」


ディルクは軽くうなずいた後、思い出したように声をかけてきた。


「そうだ、ひとつ“バイト”をお願いしたいんだが」


「バイト、ですか?」


「イリアスが、一度実家に戻りたいと言っていてね。できれば、君に付き添ってもらえないかと思っている」


「実家に帰るだけでしょう? それほどのことなんですか」


「君もそうだが──イリアスも、特別な存在だ。仮に王都に魔族の手が及んでいるなら、彼女が狙われる可能性もある。君が一緒にいてくれれば、安心なんだが」


イリアスは、まだ覚醒していない。


今すぐ狙われるような立場にはないはずだが……警戒しておいて損はない。


「まあ、付き添うくらいなら構いません」


「助かるよ」


そう言って、ディルクは金貨を一枚、指で弾いてよこした。


俺はそれを受け取り、掌で転がす。


「……こんな依頼にしては、随分と奮発してくれるんですね」


「言ったろう。私は君を高く買っているんだよ」


「それは光栄です。……ありがたく、受け取っておきます」


金貨の重みを指先に感じながら、俺はひとつ息をついた。


──さて、護衛役とはいえ、イリアスとのお出かけか。


少しは、のんびりした時間になればいいが。



「じゃあ、行ってきまーす!」


出かける格好のイリアスは、今にも外へ飛び出していきそうだった。


しかし、その腕をユリアがしっかりと掴んで引き止める。


「ちょっと待って。寄り道は禁止、無駄遣いもダメ。ちゃんとソウスケの言うことを聞くのよ。分かった?」


「うん、分かったよ。じゃあ……」


──と言いつつ、またしても駆け出そうとするが、まだユリアに腕を掴まれている。


「はい、これ。忘れていっちゃダメでしょ?」


そう言って、ユリアが金貨1枚をイリアスの手に握らせた。


「ありがとう!」


「じゃあ、ソウスケ。お願いね」


「ああ、任せてくれ」



弾むような足取りで、イリアスは先を歩いていく。


少年のような装いの彼女の背中を見ながら、思わず俺は苦笑した。


シャツに短めのズボン、サスペンダーをつけた姿は、どこにでもいるやんちゃ坊主そのもの。


ただ、背中に背負った小ぶりの片刃剣だけが、その格好に場違いな印象を与えていた。──いや、なぜか妙に似合っているのが不思議だった。


「ねえねえ、ソウスケ。せっかくだし、ちょっとだけ寄り道してもいいかな?」


「……さっきユリアに寄り道禁止って言われてただろ」


「うん。でもね、それは“無駄な”寄り道でしょ? “必要な”寄り道ならセーフだと思うんだよねっ」


無邪気に目を輝かせて言うその姿に、思わず言葉を失う。


理屈が通っているようでまったく通っていないが、本人は大真面目だ。


「で、どこに行くつもりなんだ?」


「えーとね、まずは武器屋さん! 新しい剣が見たいの! それと甘いお菓子のお店、それから──」


矢継ぎ早に飛び出してくる“必要な”寄り道の数々に、俺は内心でため息をついた。


だが、不思議と嫌な気分ではなかった。


イリアスの楽しげな笑顔を見ていると、どこか気が抜けていく。


この街の喧騒までもが、ほんの少しだけ優しく感じられる。


「……まったく。仕方ないな。一ヵ所だけならいいぞ」


「やったーっ! ソウスケ、大好きっ!」


「はいはい」


軽く受け流す俺の横で、イリアスはすたすたと歩みを早める。


「こっちこっち! ボクの好きなりんご飴のお店、そっちなんだよ!」


──まるで、弟を見守る兄貴のような気分だ。


だが、同時に忘れてはならない。


この無邪気な少女は、いずれ、“勇者”となる者。


戦災で全てを失い、それでも前に進もうとする、不器用でまっすぐな魂の持ち主。


「……あまりはしゃぎすぎるなよ。目立つと、面倒だからな」


「へーきへーき!」


そう笑って振り返るイリアスの背中を見つめながら、俺は小さく肩をすくめた。


──“護衛”のバイト、なんて気楽な響きだが……どうやら、油断はできなさそうだ。

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