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目覚めたら即バッドエンド!? 悪役令息に憑依したら、すでに死んでいた。  作者: おしどり将軍


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第27話 出発

俺は封蝋を開けて中身を読んだ。


フローラが心配そうにこちらを見ている。


俺は読み終わった後に、その手紙をフローラ兄妹の前に差し出した。


「何が書いてあったんだい?」


「ええ。至急、辺境伯領に戻ってこいと。さもなくば、貴族社会から追放する……と書かれていました」


「なるほど、そう来たか」


✳︎✳︎✳︎


「辺境伯ハロルド・カーティスより。


貴殿に対し、直ちに本領への帰還を命ず。応じぬ場合、当家は貴殿を嫡子より除籍し、


貴族会議を通じて、社交界・貴族社会から永久追放せしめることを通達する──」


✳︎✳︎✳︎


「……そんな、追放だなんて……!」


フローラが唇を噛みしめる。


「貴族社会からの追放……。これはかなり手厳しいね。彼らの主張が貴族会議で受理されてしまえば、覆すことは難しい。でも、今、辺境伯のもとに戻っても……」


レナードも思案顔を浮かべる。


貴族社会から永久追放となれば、フローラとの婚約継続はもちろん、デミエス家の養子縁組の話も消えてしまう。


追放の理由が捏造されたものであっても、反証は難しい。 貴族会議の裏で手を回されていれば、なおさらだ。


俺にとって“貴族”という立場自体に未練はない。 だが、ステファノとフローラの婚約が強引に進められるような未来だけは、絶対に阻止しなければならない。


——となれば、やはり直接出向くしかないか。 俺は……あの女に勝てるのだろうか。


「俺は行こうと思う。しっかりと話をしてくるよ」


フローラが不安そうにこちらを見る。


「実家に、いじめられない? ひどい家だって言ってたじゃない」


——彼女には、まだカサンドラの正体を伝えていない。 単なる家庭内の不仲と思っているのだろう。命の危険があるなどとは、言えなかった。


それでも、これは俺が決着をつけるしかない問題だ。 カサンドラを倒し、辺境伯家を取り戻す。それが、亡きアーヴィンにできる唯一の弔いだ。


「僕もついていこうか?」


レナードが言うが、当然断らざるを得ない。 彼を危険に巻き込むことはできない。


「ありがとうございます。でも、これは僕一人で片をつけるべきです。今まで助けて頂いて感謝しています。ここから先は、自分の力で乗り越えます」


「支援が必要なら、何でも言ってくれよ」


「ねえ、アーヴィン」


「なんだい、フローラ」


「帰ってきたら、私たちの別荘に行ってみない? すごく景色が綺麗で、とっても大きな湖があるの。子供のころ、お兄様と一緒に魚を捕ったりしてたのよ」


帰って来られるかどうか分からない。 だが、俺は微笑んで答えた。


「もちろん、行こう。きっと、すごくいい場所なんだろうね」


「もちろんよ。ねえ、お兄様?」


彼らはカサンドラのことを何も知らない。


本当は助けてもらいたい。でも、これ以上、彼らを巻き込むわけにはいかない。 自分一人で逃げることも考えた。 だが、それではフローラがステファノと結婚させられ、魔族の毒牙に落ちてしまう。


ここで退くわけにはいかない。 覚悟を決めよう。


今まで、いくつものゲームを攻略してきた俺だ。 修行も重ね、固有スキル『空間操作』も応用できるようになってきた。 あとは最後の一手――それは、すでに用意してある。


この手でカサンドラを倒して、必ず帰ってくる。何があっても。


俺はそう誓った。



最後の1ピース。それは……


俺は手に持った指輪を見つめた。


イレーナが遺してくれた指輪。


指にはめた瞬間、まばゆい光が溢れた。その輝きに、ほんの一瞬、暖かな温もりを感じる。


カサンドラを倒すには、“聖なる魔力”が必要。 そして、偶然分かったのだが、この指輪には、イレーナの魔力が多量に宿っていた。 死の直前、彼女が指輪に魔力を託したのだろう。


そして、もう一つ。


イレーナの長刀。


この刃も、魔力を込めることができる。 そして、指輪を通じて“聖なる魔力”を注ぎ込めれば……


指輪をつけた状態で、少しだけ魔力を流すと、刃が淡い金色に染まり、祈りのような振動が空気を震わせた。


この長刀に聖なる魔力の力が加わった。


——これが、七大美徳スキルを持たない俺が、七大罪“色欲”を持つカサンドラに挑むための、唯一にして最後の切り札だ。


本来なら、勇者パーティの力も借りたかった。 だが、今はまだ彼らと出会う時期ではない。 王立学校編に入れば合流できる仲間も、今はどこにいるか分からないし、フローラのようにまだ覚醒していない人もいる。


時期が早すぎた。 でも、もう待ってはいられない。


そして、出発の時は来た。



俺は馬車に乗り込んだ。


ドミニクが無言で見送ってくれる。 戦闘が無理な彼には後詰めを任せてある。万が一の時の逃走経路や隠れ家の確保など、万全の準備を依頼した。


「お気をつけて、アーヴィン様」


「ああ。後のことは頼んだ」


多くを語らなくても、お互いにすべてを理解している。


そのとき、声が響いた。


「アーヴィン!!」


ドミニクの背後から、フローラが駈けてきた。


「これを……」


手渡されたのは、サファイアのブローチだった。 彼女の瞳の色をそのまま閉じ込めたような、美しく澄んだ青が輝いている。


「お守りだから……実家との話し合いがうまくいくように。祈ってる」


「ありがとう。きっと、うまくいかせてみせるよ」


言葉とは裏腹に、交渉で終わる可能性は低い。 けれど、彼女の気持ちを無下にはできなかった。


「約束、覚えてるよね?」


「ああ。もちろん、忘れていない」


彼女は黙って俺を見つめていた。 それは不安を必死にこらえているように見えた。


「それから……おまじない」


フローラは小さく深呼吸をしてから、そっと身を寄せてくる。 そして、戸惑う俺の頬に、そっと優しく、軽く触れるようなキスをした。


「じゃあね。絶対に……待ってるから」


言い終わると彼女は顔を伏せてすぐに走り出し、一度も振り返ることはなかった。


——どうもありがとう。


俺は心の中で、そうつぶやいた。


馬車が軋んだ音を立てて動き出す。遠ざかる邸宅の影に、俺はそっと背を向けた。

お読みいただいてありがとうございます。


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