表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/78

第12話 反撃の準備

俺は、不思議と気分が高揚しているのを感じていた。


以前の俺なら、もっと冷めていたはずだ。


攻略のために、感情に流されず最適解を追い求める。


ゲームでも、現実でも、それが俺のやり方だった。


人との関係は、なるべく波風を立てず、必要最低限にとどめる。


感情が絡めば判断は鈍る。職場でも、誰とも深く関わらないようにしていた。


——けれど、この世界で、俺はあまりに多くのものを見てしまった。


アーヴィン。アレン。シア。


そして、執事のドミニク。アーヴィンの母・イレーナ。


彼らは運命に翻弄され、理不尽に傷つき、それでも懸命に生きていた。


……もう、見て見ぬふりはできない。


知ってしまった以上、背を向けることはできなかった。


それに、カサンドラ、エリザベータ……あの女たちに対する怒りが、俺の中で、確実に膨れ上がっている。


カサンドラに勝つ術は、正直いまの俺にはない。


おそらく眷属ヴァンピールになっているエリザベータですら、手に余る相手だ。


昔の俺なら、無理せず強敵を避けつつレベルを上げ、装備を整え、すべてが万全になってから挑んでいただろう。


けれど、それでは遅い。アレンが処刑されてしまう。


彼らを見殺しにするという選択肢は、すでに俺の中から消えていた。


——どうする?


俺は、自分自身に問いかけた。



執事のドミニクを部屋に呼ぶと、俺はまず訊ねた。


「シアはどうしている?」


「先ほどお休みになられました。相当、疲れていたようです」


ドミニクは痛ましげな表情を浮かべた。


「ドミニク、お前はどう思う? シアは本当に俺を刺したと思うか?」


「……断定はできません。ただ、不可解な点がいくつかございます」


「聞かせてくれ」


「アレンと同じく、シアもアーヴィン様に強い恨みは抱いていないはずです。それなのに、気づけばナイフを手にして刺していた。しかも、当人にその記憶がない——。にわかには信じがたい話です」


「同感だ。これを見てくれ」


俺はシアが持ってきた古びた日記の1ページを開き、彼に見せた。


「これは……?」


「俺が記憶を失う前に書いた日記だ」


ドミニクは黙って読み進め、やがて目を見開いた。


「これは……本当なのですか? 奥様が……吸血鬼ヴァンパイア……」


日記には震える文字で、こう綴られていた。


✳︎✳︎✳︎


『継母が、父の首筋に牙を立てていた。そばでエリザベータが薄ら笑いを浮かべている。父は目を見開いたまま呻き声を上げていた。あれは……血を吸っていたんだ。僕は……逃げた。』


✳︎✳︎✳︎


ドミニクは呆然と宙を見つめ、かすかに手が震えていた。


「もし、これが事実なら……辺境伯領はすでに魔族に取り込まれている……。奥様が来られてから、確かに奇妙な点はありましたが……まさか……」


「エルザの正体は魔王軍幹部、7大罪のうちの1人……『色欲』のカサンドラだ」


「『色欲』の能力……まさか、人の精神を操る……?」


「その力があれば、シアを操って俺を闇に葬ることもできる」


「エリザベータも共犯、というわけですか」


「十中八九、奴はカサンドラの眷属だろう」


ドミニクは顔を青ざめさせた。


「……王国に報告すべきです。旦那様が危ない」


「すでに血を吸われて、なお生きているのなら、父はすでにカサンドラの支配下…… ヴァンパイアの眷属、ヴァンピールに成り果てているはずだ」


「ならば、なおのこと急がねば!」


「だが、辺境伯領の軍事力は王国の三分の一。『王国の盾』と称されるほどの地だ。父はすでにカサンドラの支配下だ。辺境伯を捕らえようとしたら、最悪全面戦争になる。証拠もなしに王国は動けない」


「……それでは、どうすれば?」


「時が来るまで俺たちが気づいていることを悟られないようにする。まず、アレンを助け出す。協力してくれ」


「承知しました。しかし、逃がしたことが彼らに露見すれば……」


「だからこそ、計画が要る。こうしてほしい」


俺は、アレンとシアを逃がすための策を伝えた。ドミニクは真剣な面持ちで頷いた。


「……分かりました。なんとかいたします」


「俺は作戦の準備のため、王都を視察に行く。母の遺品——あの剣を持っていくぞ」


「蔵から出しておきましょう。ただ、1人で大丈夫ですか? 今は時刻も遅く……」


「この時間がいい。それより、エリザベータは、いつアレンを処刑すると言っていた?」


「辺境伯の許可を得しだい、と。早馬で往復三日はかかるでしょう」


「……時間との勝負だな」


俺は、ドミニクから母の長刀を受け取った。


そして——夜の王都へと飛び出した。

お読みいただいてありがとうございます。


評価⭐️やブックマークしていただけると大変励みになります。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ