表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/30

第4話:ユニークスキル【無限成長】、そのとんでもない効果とは

目の前に浮かぶ半透明のウィンドウ。

死の間際に見る夢か、あるいは幻か。俺は泥だらけの手で、力いっぱい自分の頬をつねった。


「いっ…つぅ!」


鈍い痛みが、これが紛れもない現実であることを告げていた。

俺はもう一度、信じられない思いで目の前の光の板――ステータスウィンドウに視線を戻す。


HPは1、MPも1。まさに風前の灯火。

だが、経験値の項目は、どう見ても異常だった。レベルアップに必要な「10」という数値に対して、蓄積されているのは、その百万倍近い途方もない数字。


そして、スキル欄に輝く【無限成長】の文字。

俺は、震える意識をそのスキル名に集中させた。祈るような気持ちで。


すると、ウィンドウの表示が切り替わり、スキルの詳細説明が目の前に現れた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

【無限成長】 - ユニークスキル


効果①: あらゆる行動が経験値に変換され、ステータスやスキルレベルが際限なく上昇します。

効果②: レベルアップに必要な経験値は、いかなるレベルにおいても増加しません。

効果③: 獲得経験値は、行動の負荷や難易度に比例して増加します。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「……あらゆる、行動が…経験値に…?」


言葉の意味を、ゆっくりと反芻する。

レベルアップに必要な経験値が増えない? 行動の負荷に応じて経験値が増える?


――だとしたら。


俺の脳裏に、この5年間の地獄のような日々が駆け巡った。

他の冒険者の何倍も重い荷物を背負い、来る日も来る日も歩き続けた日々。

強敵の囮にされ、死の恐怖と戦いながら逃げ惑った日々。

罠を警戒し、五感を極限まですり減らした日々。

武具の手入れで、来る日も来る日もタコができるほど手を動かした日々。


無駄だと思っていた。

搾取されるだけの、意味のない時間だと思っていた。


だが、もしこのスキルが本物なら――?


「あの5年間が……全部、この経験値になったっていうのか…?」


だとしたら、それはもはや地獄ではない。

世界で俺だけが行うことができた、最高の『レベル上げ』だったということになる。


絶望が、稲妻に打たれたような衝撃と共に、希望へと反転した。

身体の奥底から、熱い何かが込み上げてくる。


「……う、ぉぉ…」


俺は、震える腕に力を込めた。

生きるために。この奇跡を確かめるために。

泥水の中から、ただ身体を起こす。それだけの、単純な動作。


その瞬間だった。


《経験値を1獲得しました》


脳内に響く、あの無機質な声。

そして、ステータスウィンドウの経験値が 9,999,999 から 10,000,000 になったかと思うと、続けざまに高らかなファンファーレのような音が鳴り響いた。


《レベルが2に上がりました!》


ズクン、と身体の中心が熱くなる。

次の瞬間、信じられないことが起きた。

温かい光が俺の全身を包み込み、あれほど苦しめられていた寒さや空腹、疲労感が、まるで嘘のように消え去っていく。HPとMPが、瞬時に全快したのだ。


「すげぇ……力が、みなぎってくる…!」


だが、驚きはそれで終わりではなかった。

ファンファーレは、鳴りやまない。


《レベルが3に上がりました!》

《レベルが4に上がりました!》

《レベルが5に上がりました!》


ステータスウィンドウのレベル表示が、凄まじい勢いで上昇していく。

それもそのはずだ。俺の蓄積経験値は、1レベル上げるのに必要な量の、実に百万倍。

レベルアップに必要な経験値が「10」で固定されているため、俺は今、百万回近いレベルアップの権利を一度に手に入れたのだ!


「うわっ、うわわわわっ!?」


《レベルが10に到達。称号【努力家】を獲得しました》

《レベルが50に到達。称号【不屈の魂】を獲得しました》

《レベルが100に到達。スキル【身体強化】を獲得しました》


もはや、何が起きているのか理解が追いつかない。

俺の身体は眩い光の奔流に包まれ、内側から細胞の一つ一つが作り変えられていくような、熱く、そして心地よい感覚に満たされる。


雨はいつの間にか止み、雲の切れ間から差し込んだ月光が、光の柱と化した俺を照らし出していた。


「俺の身体に……一体、何が起きてるんだ……っ!?」


森の獣たちが、ありえない光景に恐れをなして遠ざかっていく。

レベル表示のカウンターは、まだ止まる気配を見せない。


5年間の絶望が、今、百万回の祝福となって俺に降り注ぐ。

万年Dランクと蔑まれた冒険者の、誰も見たことのない伝説が、今この瞬間、静かな森の奥で産声を上げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ