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第3話:雨に打たれる絶望の底で、俺の本当のスキルが目を覚ます

街の灯りは、希望のように見えて、同時に絶望の象徴でもあった。

あそこまで行けば、温かい寝床と食事にありつけるかもしれない。だが、今の俺には、そのための金が一枚もない。そもそも、このずぶ濡れの半裸同然の姿で、街に入れてもらえるかどうかすら怪しい。


一歩、また一歩と、泥濘に足を取られながら進む。

体力の消耗は激しく、全身が鉛のように重かった。雨は体温だけでなく、気力さえも洗い流していく。


(何か……何か食べられるものは…)


生きるために、必死に思考を巡らせる。

知識だけはあった。この森に生えている食用の野草やキノコ。だが、降りしきる雨と、迫りくる夜の闇が視界を奪い、何かを見つけ出すのは困難を極めた。

それどころか、ぬかるんだ地面に隠れた木の根に足を取られ、俺は派手に転倒してしまった。


「がっ……!?」


泥水が口に入る。全身を強かに打ち付け、もう立ち上がる力も残っていなかった。

仰向けに倒れたまま、灰色に染まった空を見上げる。冷たい雨粒が、容赦なく顔を打ちつけた。


その時、脳裏にあの男の声が響いた。


『てめぇのせいだ、アルト!』


そうだ。リーダーであるガレスの判断ミスが、あの惨事を招いたはずだった。俺は、ちゃんと警告した。それなのに、全ての責任を押し付けられ、追放された。


『あなたのような無能がいると、こっちのレベルまで疑われるもの』

『仕方ないよ、アルト。君は、僕たちとはもう釣り合わないんだ』


リリアナの嘲笑。ケビンの諦観。

5年間、尽くしてきた仲間たちの、あまりにも無慈悲な言葉が、何度も何度も頭の中で反響する。


俺は、間違っていたのか?

俺が、本当に無能だったから、こうなったのか?


いや、違う。

断じて違う!


俺は俺なりに、必死でパーティーに貢献してきたはずだ。

ガレスの無茶な突撃をフォローするために、誰よりも周囲を警戒し、リリアナの詠唱時間を稼ぐために、その身を挺して敵の注意を引きつけた。重い荷物を背負い、誰よりも長く歩き、武具の手入れも、野営の準備も、全部俺がやった。


それなのに、全てを奪われ、ゴミのように捨てられた。

この理不尽が、許されていいはずがない。


「……っ、くそぉっ…!」


悔し涙が、雨水と混じり合って頬を伝う。

怒りと、悔しさと、そしてどうしようもない無力感が、ぐちゃぐちゃになって胸の奥で渦を巻いた。


もう、どうでもいいか。

このまま、ここで朽ち果てるのも、一つの結末かもしれない。

そう思った瞬間、意識が急速に遠のいていくのがわかった。身体の感覚がなくなり、闇がすぐそこまで迫っている。


――本当に、それでいいのか?


心の奥底で、誰かが問いかける。

このまま死んで、あいつらは何も知らずにのうのうと生きていく。手柄を独り占めし、俺のことなどすぐに忘れて、また新しい荷物持ちを見つけるだけだ。


――そんな結末、お前は受け入れられるのか?


嫌だ。

嫌だ、嫌だ、絶対に嫌だ!


俺は死ねない。

こんなところでは、絶対に。


『生きたい』


その渇望が、魂の絶叫となって内側から突き上げた、まさにその瞬間だった。


《生存への渇望を確認》


冷たく、平坦で、どこか機械的な声が、頭の中に直接響いた。

幻聴…? いや、違う。あまりにも鮮明だ。


《長期間にわたる理不尽な苦難に対し、魂の抵抗値が規定値に到達》

《ユニークスキル【無限成長】が完全に覚醒します》


声が響き終わると同時、目の前に、ありえない光景が広がった。

半透明の青い板――まるでゲームのウィンドウのようなものが、宙に浮かんでいる。


そこには、無機質な文字が並んでいた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前: アルト

称号: なし

レベル: 1

HP: 1 / 125

MP: 1 / 45

筋力: 18

体力: 22

敏捷: 15

魔力: 9

器用: 16


スキル:

【アイテム収納(小)】

【鑑定(劣)】

【無限成長】 - NEW


経験値: 9,999,999 / 10

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「……は?」


喉から、間抜けな声が漏れた。

ステータス…? まるで、ギルドの水晶で見るような情報が、目の前に表示されている。

HPもMPも、残りは1。まさに死の淵だ。


だが、それ以上に俺の目を釘付けにしたのは、スキル欄に燦然と輝く、見慣れない文字。


【無限成長】


そして、極めつけは一番下の経験値の項目だった。

レベルアップに必要な経験値が「10」なのに対し、俺の現在値は「9,999,999」。桁が、おかしい。


「なんだ……これ……?」


雨に打たれ、泥水にまみれたまま、俺は呆然と宙に浮かぶウィンドウを見つめることしかできなかった。

それは、地獄の底で見つけた、あまりにも非現実的な、一筋の光だった。

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