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星辰のレヴァリエ  作者: やよい
夜は明けず、少年は夢を見る
3/4

#3 褪せ色の虚夢

金曜日に投稿したいと言っておきながら、二話連続ですっぽかした愚か者は私です

安定するまでしばらくは不定期投稿になると思います


 ここは、とある孤児院の一室。優しげな笑みを浮かべた女性が、数人の子供達に囲まれている。

「▉▉さん、今日の夕飯は何だ!?」

その中の一人、白髪の少年が目を輝かせて言った。

「そうだねえ、みんなで何が食べたいか決めて欲しいな」

女性のその言葉に、子供達は歓声をあげた。絶対にこれだ!と、譲らない者。何が良いか迷う者。反応はそれぞれ違うが、一つ、全員に共通していることがある。彼らは皆、とても晴れやかな表情をしている。きっとこれは、なんて事ない日常の風景なのだろう。しかし、それはかけがえのない、幸せな日常なのだろう。


 「───ッ!」

突然、風景が切り替わった。紅蓮に包まれ、焼けただれ、崩壊していく孤児院を、白髪の少年は目撃した。この残酷な世界では、幸せなんてものはいとも容易く、そして呆気なく壊されるものなのだと。白髪の少年は知った。

「───。」

思考も、後悔も、そして幸せも。余分なものは全て放棄して。ただ、絶望だけを背負い、白髪の少年はひたすらに走った。

「「~'~”’^"~”^’^~’~~~’”^~!」」

不意に、重なった声が聞こえた。何を言っているかなんて、分かるはずもない。不快な雑音など無視し、白髪の少年は走り続ける。

 

 「~~'’”~|^”'恨’~”'^”め」

やけに鮮明に聞こえた、その言葉に従って。奪われた分だけの憎悪を抱いて、白髪の少年は炎に触れた。



 「うわあぁぁぁぁっ!」  「えっ?うわっ!」

そんな絶叫と共に、僕の意識は覚醒した。視界に映るのは、見覚えのある天井と、必要最低限の物だけが置かれた殺風景な部屋。そして、雫さん。

「なかなか起きてこないから起こしに来たんだけど……凄くうなされてたし、汗もびっしょり。大丈夫?」

雫さんにそう言われて、僕は自身の現状を把握した。身体中の水分を放出したんじゃないかと思いそうになるほど、汗をかいている。百km走ったところでこうはならないだろう。

「大丈夫……とは言いきれませんね。なんでこうなったかは僕にも分かりませんけど……」

とは言ったものの、原因に心当たりはある。あの、不吉な夢。夢の内容は忘れてしまったが、とても不吉な夢だったということだけは覚えている。

「とりあえず、シャワー浴びて来るといいよ。そのままじゃ気持ち悪いでしょ?」

僕があの夢について考えていると、雫さんがそんな提案をしてくれた。ありがたい。ここは雫さんの言葉に甘えるとしよう。


 「星夜くんがシャワー浴びてる間に洗っておくから、ゆっくり入ってくるといいよ」

壁を一枚隔てた所から、雫さんの声が聞こえてきた。頼れる人がいるということに安心を覚えながら、汗を吸って重くなった服を脱ぐ。

「よく見てみれば、これ女物だ……」

まあ、この家には雫さんしかいないんだし、当然といえば当然かも。そんなことを思いながら、脱いだ服をカゴに入れて、僕は浴室の扉を開けた。

 「……困ったな」

浴室に入ったはいいものの、肝心のシャワーの使い方が分からない。レバーらしきものは見当たらず、石鹸と何の使い道もなさそうな突起があるだけだ。

「雫さんに聞いておけば良かったな……」

ただ立っていても何もならないので、とりあえず手を動かしてみよう。

「どうやって使うんだろ」

目に付いた突起に手を起きながら、呟く。すると──

「うわっ」

突然、勢いよく水が出てきた。しかも、何もない空中から。

「……まぁ、おかしくはない……のかも?」

僕は記憶喪失なわけだし、僕が知らない技術があってもおかしくはないだろう。そう納得して、シャンプーを手に取り、髪を洗い始める。

「あの夢……やっぱり、何かあるよなぁ」

夢の内容はまったく覚えていないのに、夢を見たということをはっきりと認識している。しかも、比較的涼しい時期にも関わらずあんなに汗をかくなんて、異常でしかない。きっと、ろくでもない夢を見たんだろう。

「夢は記憶を整理するためにあるとはよく聞くけど……」

今の僕は記憶喪失であり、衝撃的な体験をした覚えなんてない。つまり──

「以前の僕の、記憶?」

その問いは、浴室に反響する水の音にかき消された。勿論、返答なんて返ってくる訳もなく。僕は、髪を洗っていることも忘れて立ち尽くした。

 「いたっ」

呆然としていた僕の目に、泡が入った。そうだった。髪を洗っている最中だった。

「どうかしたの?」

すると、浴室の外から、雫さんの声が聞こえてきた。そういえば、洗濯をしておくと言っていたけっな。

「何もないです。ただ、泡が目に入っただけなので」

泡を流してから、そう雫さんに返答した。

「そう?それならいいけど」

と、雫さんから言葉が返ってきたタイミングで、僕は気づいた。

「あれ?そういえば止め方も分からないな……」

すぐそこにいるみたいだし、雫さんに聞いてみよう。

「雫さん、少し聞きたいことがあるんですけど……」

「…………」

返事がない。どうやら雫さんは、既に洗濯を終えて出ていってしまったらしい。



 あれから僕は、試行錯誤を繰り返して、何とかシャワーを止めることに成功した。無駄に水を使ってしまって申し訳ないな……

「雫さん、ただいま上がりました」

髪をタオルで拭きながら、雫さんが待っているであろうリビングに行く。

「お、星夜くん。朝食できてるよ。早速食べようよ」

雫さんのその言葉を受け、テーブルの上に目を向ける。

「おぉ……」

テーブルの上の光景を見て、僕は思わず感嘆の声をあげた。朝食のメニュー自体は簡素なもので、焼いたトーストと目玉焼き。それでも、僕にとっては初めての朝食で、しかも雫さんと二人で。こんなに嬉しいことはない!

「うんうん、嬉しそうで何よりだね!」

僕はきっといま、感動で顔を染めているだろう。

「さあ、座って!」

雫さんに促されて、僕達は席に着いた。

「「いただきます」」

二人揃って手を合わせてから、目玉焼きを切り取って口に運ぶ。

「美味しい……!」

なんというか、安心する。上手く言葉に出来ないけど、僕がいて、雫さんがいて。こうやって、二人で朝食を食べる。その事実に、安心している。

「そう言ってくれてよかったよ」

雫さんは、そう言って僕に微笑みかけてきた。

──あぁ、わかった。僕は、繋がりに飢えているんだ。全てをリセットされた僕にとって、人との繋がりは何よりも重要だ。だから、僕は今、安心しているんだ。雫さんとの確かな繋がりを、実感できるから。



 「「ご馳走様でした」」

僕達は揃って手を合わせ、朝食の時間を終えた。

「雫さん、これからどうするつもりなんですか?」

僕の質問に、雫さんは首飾りに手を当てて、考えている様子だった。

「そうだね……郷を歩いて、買い物しようか!」

「ずっとあたしのお古を着せているのも申し訳ないし、服や日用品を買いに行こう」

僕がこの郷に来たのは昨日のことなので、まだ郷の事を何も知らない。これからここで暮らしていくなら、早いうちに郷のことを知っておきたい。

「そうですね。ぜひ、お願いします」

なので、断る理由は特になく、僕は頷いた。

「じゃあ、準備して出かけよう。でも、きみは特に準備することは無いし──そうだね、申し訳ないけど、ここで待ってて欲しいな。すぐ準備してくるからさ!」

雫さんはそう言って、リビングを去っていった。

「月見郷か……どんなものがあるかな?」

僕はソファに腰掛け、郷に思いを馳せる。

──あの不吉な夢のことが、僕の記憶から薄れ、褪せていることには、気づきようもなかった。

 それから十分後。雫さんが、リビングに戻ってきた。

「どうかな?」

雫さんは、先程までの部屋着から着替えたようだ。薄い水色のシンプルなワンピースを身にまとい、両手でスカートの裾を、少し持ち上げて。僕にそう尋ねてきた。

「……綺麗です。とても」

心の底からの感想を、雫さんに述べた。

「ふふっ。ありがと♪」

その瞬間、僕が見たのは雫さんの最大級の笑顔。僕が見た中で──もっとも、まだ二日目だけれど──。一番の、笑顔。本当に、笑顔が眩しい人だと、僕は思った。

「それじゃあ……行こっか?」

「はい。雫さん」

思えば、まだ外に出たことはなかったな。この扉の先には、どんな世界が広がっているんだろうか?

「準備はいい?」

雫さんが、扉に手をかけて、言った。

「勿論!」

言うまでもなく、準備は万端だ。高鳴る鼓動が、それを証明している。

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