第9話【卑弥呼復活編・最終話】愛!それは強さの本質!
ハルノブ「卑弥呼さん!行くってどこに行くんだよ!」
卑弥呼「31層じゃ!じゃが、その前にやることがある故、30層の入り口まで戻る!どっかの馬鹿な駄犬どもが階層遮断結界を壊してくれたからの!簡易的にじゃが結界を張る!人の侵入くらいは防げるようにせんとな」
そう言って卑弥呼は宮殿の中を歩き出した。
マサチカ「待ってくれ、門の外にはグールがいる!どうするつもりなんだ」
卑弥呼「……浄化する…あれらは…我が民じゃ…‼︎」
ユイ「卑弥呼さん…」
卑弥呼「なんじゃユイ!力無きものが我に共感するでないわ!我は…我は大丈夫じゃ……」
そう言って前を歩く卑弥呼の背中は小さく震えていた。
卑弥呼「人の御霊・神の御霊・合わさりて・今!黄泉のお力頂戴仕る!神羅万象に誓いて!ここに安らぎと浄化の祈りを奉らん!神器顕現……………八尺瓊勾玉」
五芒星の中から黒曜石の勾玉を顕現させ、卑弥呼は静かに門を開くと、300体を超えるグールの群が呻き声をあげてノロノロと集まってきた。
しかしグールの群は卑弥呼を前に皆、口を手で抑え黒く汚れた涙を流し立ち止まるのだった。
ハルノブ「何が起きてるんだ…なんで襲ってこないんだ⁉︎グールとしての捕食本能に抗ってるっていうのか!」
マサチカ「いや…まさか!グールになれば自我が!意思があるわけがない!」
ユイ「うっ…うっ…まるで卑弥呼さんを待っていたみたいに…」
卑弥呼「皆…誠にご苦労であった。辛かったであろう…苦しかったであろう…寂しかったであろう…心からの感謝を…今卑弥呼がそなたらを安らげる黄泉へ送ろうぞ…皆んなッ…皆んなぁッ……ありがとうぅッ…さらばじゃ…清めたまへ祓えたまへ!八尺瓊勾玉!!」
卑弥呼が勾玉を月に翳す(かざ)と月明かりが集まり、光がグールを包んだ。月明かりが当たると皆かつての姿を取り戻し卑弥呼を囲むように歩み寄って行った。
民は笑顔で卑弥呼に語りかけていた。
「なんだい卑弥呼様はまた泣いてるのかい?」
「卑弥呼様の好物のもろこしうちの蔵にまだあったかな?」
「寂しい思いをさせてごめんね」
「ほら見て!卑弥呼ちゃんのおかげで怪我治ったよ!やっぱり流石だねぇ!」
「卑弥呼ちゃんまた、けんけんぱで遊ぼうね」
「あはは卑弥呼様の泣き虫は昔から変わらないね」
「ありがとうな!やっと妻とガキに会えるよ!」
「悲しまないで、あなたはとても立派よ」
「そうよ大丈夫!少し遠くに行くだけだから!」
「いつものお日様の笑顔はどうしたんだい?」
「元気だしてくれよ!あ!見てくれよ田植えの時の尻の食い込み!いつもこれ見て笑ってたろ!」
「あんたは黙っていればいい漢なんだけどねぇ〜」
「あはは!父ちゃんつまんな〜い」
「粟飯また食べような!」
「生きるも死ぬも順番こさ!気にしない!気にしない!生きても死んでも私は華を咲かせるよ〜」
「よしよし、また怪我してないかい?」
「卑弥呼様ありがとう!妹を逃してくれてありがとう!」
長老「卑弥呼ちゃん、私たちは先にいくけど前を向いて歩くんだよ?お日様は顔を前に向けていれば…顔の正面が白く照らされて…」
卑弥呼「生きることが面白いって教えてくれる…」
長老「その通り、よくできたねぇ卑弥呼ちゃん偉いよ〜」
卑弥呼「ははは!爺ぃは…そればかりだったから…嫌でも覚えているわ!」
国民「卑弥呼様、万歳!万歳…ありがとう…お日様の笑顔の卑弥呼様…ありがとう…どうか元気でね…悪いけど時間みたい…先に行くね…バイバイ…ひみこちゃん…卑弥呼さま…バイ…い…」
皆が月に吸い込まれていくように光となって消えてゆくと、振り向くことなく卑弥呼は静かに30層の入り口に歩みを進めた。
卑弥呼「ここじゃ…」
卑弥呼が空に五芒星を描き光の壁が30層の入り口を塞いだ。
卑弥呼「これで人は入れんじゃろ、魔物も低級であれば通れぬはずじゃ」
ゆくぞ…次は31層じゃ!
卑弥呼の眼には活気が宿っていた。
ハルノブ「あんた・・・すごいな…」
マサチカ「・・・」
ユイ「これが…卑弥呼さんの強さなのね」
卑弥呼「聡いのだなユイは、見どころがある駄犬じゃ」
卑弥呼が道に建てられた鳥居に五芒星を描くと31層へと繋がる階段が現れた。
ハルノブ「これは神話の……ははっ、参ったこんなの見せられたらもうなんでも信じてしまいそうだな…」
マサチカ「・・・・」
ユイ「すごい…」
卑弥呼「天浮橋じゃ。人とそうでない物を繋ぐ橋。かつての名残じゃ。心せよ!31層に国はなく、あるのは広大な密林じゃ。其方らを殺める程の低級の魔物ならわんさかとおるぞ!メソメソしとる余裕はない!気を引き締めて着いてまいれ!」
マサチカ達は卑弥呼とともに31層へ向かった。




