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Relife  作者: 橋本 海里
11/19

幕間  二人の早朝

「…………んん……くぁ……」

 翌朝、暗い部屋で託が目を開くと真っ先に見慣れた天井が映った。

(今、何時だ……?)

 緩慢な動作で体を起こし、時間を確認出来る物を求めて周囲を手で探り、枕元のスマホを手に取る。

(時間は……五時、ねぇ……。もう少し、寝れるな。う……寒い)

 夢うつつな状態で考えていると外に出た上半身が震え、託は全身を入れるため布団を捲ろうとして何かが引っ掛かる。その引っ掛かりを外そうと布団の中に手を入れると、むにっとした不思議な感触を覚えた。

 それが何なのかは分からないが、寝ぼけた託にそれを違和感とする程の思考力は備わっておらず、更にその下に手を通して例の引っ掛かりを外した。

(よし、これで寝れる……)

 再び布団に潜った託は目を閉じるとすぐに寝息を立て始めた。

 一方でベッドの側面から落ちるように一つの影が現れると、そのままベッドを背もたれに座り込み、表情を隠すように口元に両手を当てた。

(さ、流石にばれちゃったかな?でもまた寝ちゃったし、ばれてない……かな?)

 ベッドから現れた影……蓮音は顔を真っ赤にして託の寝顔を覗く。見る限りではぐっすり寝て当分起きそうにない。

 蓮音が布団の中にいた理由はおよそ三十分前、昨日号泣して早い時間から寝た結果早起きしてしまったのが始まりである。

 最初こそただ寝顔を見に来る程度のつもりだった蓮音だが、体が冷えた事と一緒に寝たいという欲望に抵抗できず、ちょっとだけと布団に入った拍子に託が起きて今に至る。

「寝ぼけていたのかもしれないけど……びっくりしちゃった」

 蓮音は自身の脇腹をさすりながら呟く。先程、託が触れた箇所だ。

(動きが違ったらあのまま抱き枕になってたかな?それはそれで良かったかも……って、そんな恥ずかしい事出来ない!)

 一日経って自分が昨夜した事を自覚したからなのか、蓮音は普段より異性との接触に対して鋭く反応して、羞恥で床を転がり回る。

 布団に潜り込んでいた時点で、恥ずかしいのは今更ではあるが。

(昨日は勢いで……き、きす。しちゃって、すぐ寝ちゃったけど…………託はどう思ってるのかな?いやらしい女だなんて思われてないよね?で、でも、無断でしちゃった訳だし……ううぅ……!)

 何かしらの記憶を振り返る度に、また恥ずかしくなって床を転がる。

 暖房の効果も随分前に切れて室温は氷点下近い筈だが、蓮音の中にはそれを打ち消すように熱が籠っていく。

(あの後もちゃんと起きていたらどうなってたのかな……?え、えっちな事とか……興味が無い訳じゃないけど……)

 託との距離感がおかしかったとは言えど、蓮音も多感な女子高生である。関係が変わればそういう事を考えるのも無理はなく、むしろ気になってしょうがないくらいだった。

(た、託が相手なら何でも……は言い過ぎだけど、私が持っているものは全部差し出せるし、私も託の全部が欲しい。けど、私に残された時間はあまりにも足りない……)

 妄想の世界に現実問題が入り込んでくると瞬時に頭が冷えて、全ては叶わないであろう事を嫌でも自覚する。段々と高揚感は薄れ、無力感だけが強く残る。

(……寒い。託なら、温めてくれるかな?)

 それは気温だけの話ではなく、蓮音の心の温度の話でもある。

 体も冷えてきて、蓮音はベッドの縁から託の顔を覗く。蓮音がいるとは微塵も思っていない、喜怒哀楽ゼロの寝顔が映った。

(愛の力で病気が治ったなんて、都合の良い展開があれば嬉しかったんだけどね)

 そんなものはないと再認識して、更に心が冷たくなって、蓮音は諦めたような溜息を吐いた。

(……そろそろ風邪引きかねないし、帰ろうかな……)

 蓮音は身震いしながら立ち上がる。ここからが大変で、自室に戻るには託をまたいでその先の窓に行かなければならず、慎重に足元を見て布団の上に立つ。

「…………一回だけ、ほっぺたになら、寝てる相手でもいいよね?」

 蓮音はそう呟くと託の横に寝転がり、彼の顔を間近に見て狙いを定める。

(お、落ち着いて私。一回、一回だけなんだから……)

 深呼吸をしてガッチガチに緊張した体を緩めると、目をつむってそっと託の頬に唇を触れさせた。

(ほ、ほんとにしちゃった…………)

 二秒程の短い時間だったが、離すと蓮音は確かな感覚に一人静かに悶絶する。冷えた心も、少しだけ温かくなったようだった。

「……託……まだ起きてないよね……?」

 一度顔を上げて、託の顔を確認する。まだ、起きる様子はない。

「……す、少しだけ……」

 蓮音はそう呟いて布団に潜り込むと託の手を見つけて捕まえ、手の平を自身の頬に持っていく。

「えへへ……託の手、大きくて温かい……」

 頬ずりをしながら独り言を零す蓮音の表情は緩み切っており、一人でないと見せないようなものだ。

「起きないのが悪いんだからね?こんなに可愛い彼女と一緒に寝ているのに」

 なんて冗談めかした事も言いながら、掌を堪能していた蓮音。しかしその行為は徐々にエスカレートしていき、最終的には腕枕をさせて勝手に添い寝を楽しみ始めた。

「ん……眠くなってきちゃった。帰んないと……託にバレちゃう……」

 蓮音は段々とまぶたが、体が重くなってくるのを、思考力が鈍ってきているのを感じる。起きる時間が早すぎた結果、体内時計が普段の生活に戻そうとしているのだろう。

「別に気にしないから、寝ていいよ」

「そっ、か……じゃあ、おやすみ……」

 聞き慣れた優しい声と共に背中をさすられ、蓮音はゆっくりと眠りに就いた。そして残された託は拳を作り、目の前の蕩けた蓮音の寝顔を見てガッツポーズをした。

(俺の彼女……可愛過ぎる……!)

 歯を食いしばって、心の中で叫ぶ。

 かなり力んでいるのは勿論蓮音の寝顔を噛み締めているからだが、同時に超至近距離で吹きかかる甘い吐息に耐えているという一面もある。それくらいしないと理性に影響が及ぶ程、今の蓮音は破壊的だった。

(……まあ、やり返すくらいならな)

 託は柔らかく微笑み、起こさないよう慎重に蓮音の頬にキスした。

「……ふわぁ、俺ももう少し寝るか……」

 五秒程触れた後に小さな欠伸をすると、空いている腕を蓮音の背中に回して託も眠りに就いた。

 アラームで蓮音の目が覚め、顔を真っ赤にするまで、残り一時間。

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