1-9:真実と目的と
前回のあらすじ
ミリエラ「うぇ~ん」
セラ「よしよし」
( ^^)ノ(;;)
セラ「シェルンさん、やっておしまい!」
シェルン「がってんしょうち!」
ミリエラから求められた、セラフィーナの目的。
疑わしきを疑うではなく、恐れて隠すこともなく。
あくまでも真っすぐに真実を求める、ミリエラという少女の、その心の有り様を見て。
ここまで聞いたセラフィーナは、より一層ミリエラを助けたい気持ちが強くなる。
(やはりいい子ですわね。
確かにわたくしはどう考えても怪しいですし、それでもそう思った自分を隠すことなく、まっすぐに向き合って。)
「そうですわね。
ミリエラさんがわたくしを疑われるのも、あの状況を考えれば当然のことですわね。」
「そ、それはそうかもしれませんが。」
自分が襲われたとき、相手に一切の抵抗を許さず自分を助けてくれた。あの瞬間はミリエラにとって忘れられない衝撃的な出来事だ。
そしてそんな相手と。もし争うとなったら、話にすらならない相手に、面と向かって疑っています、と話す。
ミリエラの、そのまっすぐな気持ち。
もちろん、セラフィーナには分かっていた。
男達の魂を視た時に、一緒に視えたミリエラの魂は、とても綺麗な、透き通った色をしていて…
その中に、想い人に対する気持ちだろう、ほのかな淡い桜色が揺れていて。
大丈夫。この子になら真実を打ち明けても、決して誤った選択はしない。
「順を追ってお話しますが。
まず貴女を助けたことについては。」
「はい。」
しっかりと、セラフィーナの目をみて頷くミリエラ。
「わたくしの目的に、とても都合がよいから。
むしろありがたいくらいですわ。」
「つ、都合がよくてありがたい。ですか?」
セラフィーナの目的。自分が助力を乞うべきかどうか、その判断にとても大切なものである。場合によっては考えを改めなければならないかもしれない。
少なくともセラフィーナは、ミリエラではとても相手にならない程圧倒的に強い。
そんな人物がシェフィールドに来た目的。
私を助ける事が都合がよい?それはどうして?
「ごめんなさいね。
この街の状況やお父様の事を考えれば、ありがたい、という表現はよくありませんわね。」
「いえ、それは。その、セラフィーナ様の目的。
差し支えなければお教えいただけませんか?」
「そうですわね。ではまず、わたくしたちの目的の前に、そもそもわたくし達は何者なのか。そこからお話しますね。」
「は、はい。お願いします。」
目的を聞きたかったが、確かにそれも気になる。
セラフィーナという人物。その姿も、その強さも、謎が多すぎる。ドレス姿で街を歩いている以上、隠すつもりが無いのかもしれないが。
間違いなく高貴な身分、としか思えない人物から、身の上を明かされる。
ミリエラも貴族である。セラフィーナの言葉に、これまでとは違う緊張を感じて背筋を伸ばし、次の言葉を待つ。
一度目を閉じ、少しの間を置いて、セラフィーナは口を開いた。
「わたくしはセラフィーナ、と名乗りましたが、実はもうひとつ、多くの方に知られている名がありますの。」
「多くの方に知られている名。ですか?」
「はい。あなたも貴族の御令嬢。でしたら、歴史についても学ばれているかと。
その中で、聞いたことはあるかと思いますが。」
(歴史?確かに学んでますが。
それってかなり昔の事ですよね。どういうことです?)
「わたくしは昔、といいますか歴史上では。
<災厄の魔女>と呼ばれておりますの。今から1500年以上も前のお話ですわね。」
「はい?」
間の抜けた声をあげ、首をかしげるミリエラ。
目の前の、どう見ても二十歳に満たなそうな綺麗なお姫様が、いったい何の話を。
「そういう反応になりますわね。ですが事実なのです。
わたくし、こうみえて1800年以上は生きておりますの。」
かわらない微笑を浮かべ、何でもない事のように語るセラフィーナ。一方のミリエラは、
「はいぃぃぃぃ???」
ポカーンとした表情で固まる。
失礼だけど、とても面白いし、かわいらしい。
セラフィーナはこういうのが意外と好きである。
(面白いくらいの茫然自失ですわね。このままもう少し待ちましょうか。)
(放っておいたらずっとこのままな気もしますよ?
というか、説明したら戻ってこれますかね?)
「え、えっと!その、1800年以上生きてるって?
そんなこと、ありえるのですか?」
(あ、自分から戻ってきた。)
ミリエラの知る限り。
人の寿命は長くて70年くらいである。1800年という途方もない期間、人が生きられるはずがない。
そして目の前の二人はとても若々しく。その前にシェルンさんは?シェルンさんも?
「どういう理由でこれほどの年月を生きられるのか、といったところはごめんなさい。
説明しますと少々長くなりまして。」
「そ、それは。それも気になりますが。
その、もう一度お聞きしてもよろしいですか?」
「えぇ。1800年以上」
「いえ、そこではなくて、その。セラフィーナ様が仰った、多くの方に知られている名前って。」
「はい。<災厄の魔女>ですわ。
歴史上ではとても恐ろしいものとして、魔王や邪神と同列に扱われているかと思います。」
(本当に?こんなに優しい方が、本当にあの伝説の?
恐怖の魔女?)
「その、どこか遠くの国のお姫様とか、そういった高貴なご身分を明かされるかと思っていたのですが。」
とりあえず、思っていたことを素直に言葉にする。
伝えられた話がどうにも信じられない。
清楚で高貴な外見に優雅な物腰。ひとつひとつの所作が洗練された、王族としか思えない振舞い。
そして男達から護ってくれた時も、ミリエラの話を親身に聞いていた時も。セラフィーナは常に優しく接してくれる、思いやりに溢れた素敵な女性だった。
だが、歴史、伝説として出てくるあの魔女は。
多くの国々を滅ぼし、数多の命を奪った、恐ろしい存在とされている。
「そうですわね。わたくしも身の上をお話して、そのまま信じて下さる方にお会いしたことは一度もありませんわ。」
あたりまえですわね。
と、楽しそうに笑うセラフィーナ。そのまま
「冗談ですわ。」とでも言いそうな雰囲気だが。
「でも、現実としてわたくしは長きにわたり、こうして生きております。こちらのシェルンも。」
「シェルンさんも1800歳超えてるんですかっ!?」
「歳って言わないでくださいっ!
お婆ちゃんみたいじゃないですか!」
慌てて否定するシェルン。
「ご、ごめんなさい!お二人ともとてもお若いですし。
そんな昔から生きてるなんて、ありえなくて。」
(というか1800歳のお婆ちゃんってなんですか!?
そもそもそんな人いませんって!)
心の中でツッコミつつ。
先ほどから思考がまとまらない。
父や領の事を考えていた時と違い、暗い気分にならないのが救いではあるが。
「そうですわね。わたくしは17歳、シェルンは18歳の時から。姿形については一切変わっておりませんの。」
「いわゆる不老ってやつですよね~。
まあたぶん、不死ではないと思いますよ?
死んだことないですが。」
あっけらかんと笑いながら語るシェルンと、落ち着き払ったセラフィーナ。
外見は確かに、聞いた通りの年齢くらいに見える。
いや、シェルンのが年上というのは若干違う気もする。絶対セラフィーナの方がお姉さんっぽい!天然っぽいけど。
「で、では本当に昔から。それに災厄の魔女って、
本当にあの、数多の国を滅ぼしたっていう、あの。」
徐々に声が小さくなっていく。
歴史通りだとすると、目の前の人物は、かつて一人で国家をいくつも滅亡させたことになる。
そんな恐ろしい存在を相手に、今面と向かって話をしているかもしれない。
そう思い至った瞬間、これまでとは違う感情が頭をもたげてきた。
怖い。ただただ純粋に、怖い。
それは人知を超えた存在に対する、根源的な恐怖。
「別にフィルメリアを滅亡させるために来たわけではありませんから、そんなに怖がらなくて大丈夫ですわ。」
「はい。」
心の中に沸き上がった恐怖心を見透かされたように感じ、そのことにまた恐怖する。
「ミリエラ様はどちらかというと、セラ様の天然でポンコツなところに気を付けた方がいいですよ~?」
悪戯っぽい顔で笑いながら、突然そんなことを言ってくるシェルン。
恐怖に竦みかけた心に、ポンコツ。
間の抜けた響きの言葉が柔らかく入ってくる。
ポンコツ。確かに、出会ってからそれほど経ってないはずなのに、思い当たる点がいくつか。
一瞬沸き上がった恐怖心が霧散し、出会った時のセラフィーナについて思い出す。
どうして、ドレス姿でスラムにいたんだろう?
どうして、その姿が。そんな高貴な姿で街にいるのが、不審に思われるって気づかないんだろう?
そういえば。
なんか男に面倒なことを丸投げしてたような?
「シェルン!ミリエラさんになんてこと言うのですか!?誰がポンコツですかだれが。」
「でもセラ様?ミリエラさんに初めてお会いした時も、その姿ですよね?」
(そう!なぜかドレス姿だった!)
「もちろんですわ。
わたくしの普段着であり正装ですもの。」
(ドレスが普段着ってなんですか!?)
「ね。ポンコツですよね。」
「は、はい。その、えっと。」
「ちょっと、お二人とも?なんですかミリエラさん、
その『納得した~』というお顔は。」
失意、絶望、恐怖、疑念、混乱。
色々と負の感情がせめぎあう中で、明るい感情。
楽しい。この二人とお話してると、なんだか気持ちが軽くなってくる。
これもお二人の、気遣いなのかな。
「まったく。もういいですわ。お話を進めましょう。」
「・・・・」
「ミリエラさん、よろしいですか?」
伺うようにミリエラを見るセラフィーナ。
長い髪がはらりと肩から流れ落ち、考えがちなミリエラの視界に入る。
はっと気づき。
「あ、あのっ!
セラフィーナ様がその、伝説の存在だったとして。」
まだ信じられない気持ちはあるけれど。
「私なんかに。初対面の私なんかに、そのことを打ち明けられてよろしいのですか?」
打ち明けられた真実の大きさに、思わず聞いてしまう。
「もちろんですわ。つらく苦しい心中を、初対面のわたくしたちに包み隠さず伝えて下さった。」
「・・・・」
当たり前のように答えが返ってきて。
「わたくしとの出会いに疑念を持っても、目をそらさず真っすぐ向き合って下さった。」
「は、はい。」
ミリエラの気持ちを、想いを。
しっかり受け止めてくれていて。
「そんなミリエラさんだからこそ。
わたくしもお話したのです。
もっとも、話が突飛すぎますので、にわかには信じられないのも無理ないですわね。」
だからこそ、話してくれた。
自分の話が信じられないような内容であることは、セラフィーナ自身が一番理解している。
だからこそ、告げる相手は選ぶ。
「で、ですが。その結果わたしが恐怖で逃げ出したりとか、衛兵に通報するとかは考えなかったのですか?」
「確かにそうすることもあり得ますね。
ですがミリエラさんがそうなさるとは、一切考えませんでしたわ。」
「ど、どうして?」
「簡単な事ですわ。ミリエラさんが、とてもいい子だったからです。」
「え?」
「貴女はとても聡明で、そして優しい子ですわ。つらい気持ちを耐え、わたくしの事を気遣って。」
ミリエラの琥珀色の瞳、先ほどまで涙に濡れていたその瞳を見つめ。
「そ、そんな、いい子、というわけでは。それに気遣いはセラフィーナ様こそ。」
ミリエラは少し恥ずかしそうに、セラフィーナのまっすぐな称賛を受ける。
ここまでの会話だけでも、少なくともセラフィーナは、伝説にある邪悪で恐ろしい存在とは思えず。
なのでもう一つ、もとより聞いていたことを、改めて確認する。
「で、では、シェフィールドに。
いえ、フィルメリアに来たセラフィーナ様の目的とは、一体何なのですか?」
(私を助け、優しく親身になって対応してくれた。
少なくともこの方が、フィルメリアに。私たちに害になるようなことはしないはず。)
自分が信じる気持ちの、裏付けが欲しいだけなのかもしれない。そんな、祈るにも似た気持ちで、セラフィーナのこたえを待つが。
「それはですね、世界で最も美しく、高貴で至高の姫君といわれている、アセリア姫様に。」
ここで突然、自身の親友であり、この国にとって至宝でもある、アセリアの名が出てきた。
え?姫様に?どんな御用なのでしょう?
「アセリア姫様に、わたくしの妻になっていただこうかと思いまして。」
「はい?妻?」
(セラフィーナ様、女性ですよね?
まさか殿方じゃないですよね?
女性と結婚するんですか?)
意味不明な言葉をぶつけられ、再びポカーンとしてしまうミリエラだった。
そして立ち直るまでに十数秒。
少しの間フリーズしたミリエラが再起動すると。
その口からはセラフィーナに影響されたのか、なんかズレた質問が飛び出てしまう。
「えっと、セラフィーナ様は。
女性と結婚なさるのですか?」
(違うそうじゃない!けど何をどう聞けばいいの?)
「ふふ。気になりますか?」
悪戯っぽく笑うセラフィーナ。
もしかして、からかわれてる?
「セラ様、妻なんて言い方をしたら、ミリエラさんに勘違いされますよ?」
「ええ。分かっておりますわ。
でも先ほどミリエラさんがみせて下さった、ぽか~んとしたお顔が可愛くて、つい。」
「セ、セラフィーナ様?もしかして、私からかわれてます?」
「い、いえ。そんなつもりはございませんわ。
ただ、先ほどはミリエラさんのかわいいお顔が見られてよかったな、と思っただけですわ。」
急にバツの悪そうな。
ごまかすような笑顔で答えるセラフィーナ。
「それってやっぱりからかってるのでは。」
なんかどっと疲れた気がするミリエラを見て、セラフィーナは苦笑すると。
「ごめんなさいね。ちゃんと説明しますわ。」
「はい。お願いします。」
やっぱり。からかわれてますよね。
なんとなく釈然としないミリエラであった。
セラ様、ようやくミリエラさんに身の上を告げられました。
次回でやっと振出しに戻れます。




