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6-18:解決。したけれど、解放されません!

 あれから二日後。


 クリス王女にお願いした、状況を説明する日。


 セラフィーナにとっては、出来ればもう少しだけ余裕が欲しかった日程だが、のんびりもしてられない。


 説明の場に集まってもらったのは、当然セラフィーナに助力を求めてきたクリス王女と、法王ストラス・カーディナル27世、そしてエデュアル王子。


 更に東西南北の街を治める大司教。


 そしてセラフィーナ達四人の、計11人。


 ちなみに本来であればここに来るべき人物の一人である、アマンダ司祭は呼んでいない。


 彼女をこの場に連れて来ることができるならば、セラフィーナも催眠術の解除など覚える必要が無かった。


 だが直接皆の前でクリス王女の催眠を解除するとなれば、そこから責を問われることは間違いない。

 アマンダ司祭自身もこの国の将来を憂いていた人物の一人であるし、悪意無き事も確認済み。


 それなりに年を重ねた司祭が、とある場所で知ってしまったがために、王女に試した催眠術。


 催眠状態の王女は、本来その場にいないはずの弟に会い、民の信仰心が地に堕ちてしまったと聞かされた。


 魔法兵器に投影させた、偽物の王子に。


 アマンダ司祭は少し国教に対する信心が篤すぎて、投影した王子に、そんな言葉を言わせてしまった。


 そしてそれは、王女には真実として心に記され、催眠状態から戻った後も、弟に言われた言葉となった。


 だからこそ、それをどこで言われたのか記憶がない。


 ただそう言われたと、それが真実だと記憶が認識してしまっているだけ。



 さらにもうひとつ、王女にはアマンダ司祭の思惑とは、少し違った催眠がかかってしまっていた。


 それは近しいものから距離を取るという暗示。


 王子の発言を、本来いないはずの場所で聞いているのだから、色々と整合性が取れなくなってくる。


 それを無理やり真実と思い込むために、クリス王女は王子はおろか、父王も各地の大司教も司祭も。


 自分にとって近しいものと対話すると、矛盾が表に出てしまう可能性がある。

 クリス王女は催眠状態で聞いた言葉を信じる為に、自分も知らず、近しいものとの深い対話を避けるようになった。


 その結果王女は父王や弟、大司教たちと直接対話して解決しようというあるべき行動を避けるようになり。


 会ったことすらない、それでもこの現状を解決してくれそうな伝説の人物を頼り、北の宿を探し始めた。


 クリス王女にかかった催眠、暗示はこの二つ。


 アマンダ司祭と対話して、そしてこれまでの現状を照らし合わせて行きついた答えは。


 結果として実害も無く、悪意もない。


 もちろんセラフィーナはアマンダ司祭と対話した際、会話の内容と魔法兵器の記録と照らし合わせもしていた。


 結果、司祭は本当に国の未来と、信仰心の低下をずっと憂いていただけ。

 非常に信心深いアマンダ司祭だからこそ、今の民は信心が薄いと感じてしまっていた。それだけ。


 司祭の性格と心を、魂の色を見て理解したセラフィーナはとても責める気にはなれず。


「王女にかかった暗示だけは解かなければなりません。ですがそれは、わたくし達がなんとか致しますわ。」


 なんて、責務なんだか人助けなんだかよく分からない理由で請け負った。


 すべての責を、魔法兵器に押しつけるつもりで。




 そしていま、説明の場に集った皆の注目を受け。



「では、今回の件について説明しますわね。」



 セラフィーナは一人立ち上がり、この場に集った者達へ説明を始める。



「まずわたくし達が調査した限り、この国において悪意のある者はいなかった、それが結論になります。」



 悪意というと、少し語弊があるが。



 各国の大司教も司祭も神父もシスターも、この件に関わった者で、私利私欲であったり国家転覆だったり。


 この国の者たちに被害を出そうと考えている者などは、誰一人としていなかった。


「ただ、皆様国と民を大切にしたいという思いが行き過ぎてしまい、そこにひとつ、おかしなものが混じりまして。」


 セラフィーナは説明をしながら、隣に座るシェルンにお願いして、ひとつのモノを手に取り皆に見せる。



「セラフィーナ様。それは一体何か、ご説明を。」



 聞き手の中では代表して、法王ストラス27世が確認の言葉を出し、疑問に思う皆もそれに頷く。



 手に取って見せたものは、ひとつの巨大な魔石ルーン


 一般的に市販されているモノとは明らかに違う、大きい中にも何か特殊な雰囲気を感じさせるもの。


 セラフィーナは一度皆を見回し頷いて。


「これは皆様もよく知る魔石に似ておりますが、わたくしは魔法兵器、そう呼んでいるモノになります。」


 セラフィーナの言葉を聞いた瞬間、それがどういうモノかを知っているシェルン達以外にどよめきが走る。


 魔石としての大きさもかなりのものだが、何よりもその呼び名に「兵器」と付けられていること。

 つまりこれは、人を攻撃するものであるということで。


「この魔法兵器は、この国からほど近い地、イゼルパレスの遺跡で見つけられたものになりますの。そしてこれが。」


 ひとつひとつ説明しながら、セラフィーナは視線をウェストパレスのフローレンス大司教に移し。


「これが、アマンダ司祭の部屋から見つかりましたの。」


 その説明に、フローレンス大司教は「え?」と一瞬驚き、そこから信じられないという顔となる。


 自分を長い間補佐してくれていた、アマンダ司祭。


 その人物が何故、そんな兵器を持っているのか。


「大司教様、ご心配はいりませんわ。これはもう無力化したものですし、コレが何をしたかも調べましたわ。」


 兵器という物騒な言葉が齎す危機感に、ひとまずセラフィーナは安心するよう言葉を選び。


「まずはこの魔法兵器が、どの様な機能を持っているのかをこの場でお見せしますわ。」


 無力化した魔石の、プログラムとなる魔法を起動する。



 そこに現れたのは。



「え!?ボ、ボク?」



 エデュアル王子の姿を投影し、立ったままで佇んでいる魔法兵器。その姿は服こそ違えど、王子そのもの。



「ええ。王子様のお姿ですわね。この兵器はこうして人の姿を投影し、その姿で色々な行動をするものになります。」



 セラフィーナもいつも浮かべている慈愛の微笑が消えて、少し嫌悪感を感じさせる表情で説明を続ける。


 それは当然、この兵器に対する想いが出ているわけで。


 この兵器を悪意を持って運用すれば、例えば近しいものに成りすまして簡単に暗殺することもできる。

 誤情報を流すことも容易だし、今回の件でもその使い方で各自に誤った認識をさせていた。


 そういった状況を、セラフィーナは魔法兵器の投影する人物を切り替えながら、順次説明していく。


「まず、エデュアル王子にはカズア神父の姿で面会し、軍備増強を促すように情報を流しましたわ。」


 それを聞き、王子は驚きながらも頷き。


「次にフローレンス大司教の姿を模して、 バルエル大司教にマルス共和国の軍備増強を伝えました。」


 その言葉に、西と南、二人の大司教が顔を見合わせ、互いに首を振ってから、目を閉じその所業に心を痛める。


 互いに、騙し、騙される立場となったのだから、その心境は決して晴れやかなものではない。


「そして最後に王子様の姿で、クリス王女に誤った情報を吹き込んだ。信仰心が地に堕ちたと。」


 セラフィーナの言葉に、クリス王女が目を見開いて驚愕する。自分の記憶が、偽の弟に吹き込まれたこと?



 ここで今まで話を聞いていた者たちの中で、王女だけが少し違う反応を示す。


 エデュアル王子、フローレンス大司教、そしてバルエル大司教の三人は、偽物に吹き込まれた誤情報だと。


 今までの説明と、目の前に見える魔法兵器の投影から、正しくそう認識した。


 だがクリス王女だけは、その説明に理屈では正しいと分かっているが、なぜか心が拒絶する。



「ま、待って下さい!私は確かに、その言葉が真実だと理解しています。偽のエデュアルだったなんて、そんな。」



 自分でも分からないままに、思ったことを口にする。


 催眠状態で聞いていた言葉は、心の奥底に深く定着してそれを真実と見做し、否定されれば心が拒絶する。



 王女の様子は今までの、冷静に話を聞いていた姿とはまるで違う切羽詰まったものとなり。



「どうしたクリス?お前らしくもない。いつもは理路整然と説明されれば容易に理解しているだろう。」


「父上、なんだか姉上の様子がおかしいです!」


 皆が驚く中たった一人、本来はこの国の安寧を目指し、セラフィーナにまで助力を請うたクリス王女が。


「嘘よっ!そんな、そんなはずがないっ!」


 突然錯乱したように取り乱す。



「うわ、セラ様、これってこういうモノなんです?」


「い、いえ。わたくしも初めて見る状況ですから。まさか事実を知った途端こんな風になるとは思わずに。」



 魔法であれば偽りの記憶を解除すればいいだけ。


 もちろんソウルドレインのように魂を食われていれば、その断片が無ければ元に戻すことはできない。


 だが偽の記憶を植え付けるマインドドミネーションであれば、その魔法を解除すれば元に戻る。


 本来の記憶が戻っても、取り乱す事などない。



 催眠により擦り込まれてしまった暗示と、真実の間で心が軋みをあげているクリス王女は、自分でも分からずに。


 まるで何かに襲われているかのように周りを敵視して、皆から距離を取るように後ずさる。



「マズいな。このままではクリス様が。」

「ひとまず抑えましょう。あとはセラ様に任せれば。」



 今にも逃げ出すか、暴れそうな様相になっているクリス王女を見かねて、アセリアとセティスが立ち上がり。


「な、なによっ!?わ、わた、わたしは間違ってなんか・・・えっ!?」


 ヒステリックになりかけている王女に、二人が瞬時に近づいて、傷つけないよう優しく取り押さえる。


 その速さは、今まで神官戦士団や神官術士団に見せた事もないような素早さで。


 セラフィーナとシェルン以外は、目に映らない程で。


「あっ!?」


 抑えられた王女はそれでも抵抗しようと試みるが、フィルメリアの二人は共に圧倒的な能力もち。


 いくらお転婆でそれなりに戦えると自負しているクリス王女でも、とても相手にはならない。


 セラフィーナも当然、この状況を早くに解決すべく。



「クリス様、少し我慢してわたくしを見てください!」



 王女に近づき、正面から見つめる。



「いやよっ!放しなさい!なにをする・・・あ。」



 暴れようとする王女を、仕方なく魔法で動きを固定してしっかりと目を見つめるセラフィーナ。


 クリス王女も抵抗する中、目が合った瞬間に躰が一度ビクン!と跳ねて、そのまま脱力する。


 その表情は、呆けたようになっている。



「う、上手くいきましたわ。ええとこれで。」


「セラフィーナ様!何をしているのですっ?娘は、クリスはいったいどうしてこんな!?」



 催眠状態に陥った王女に対し、心に刻まれた暗示を解こうとアマンダ司祭から聞いた手順を反芻するセラ様。


 そして父として、訳の分からない状況にさすがに耐えられなかった法王ストラス27世。


 だが法王の話に付き合っている余裕もなく、状況を見てシェルンが法王に説明を始める。



 その間セラフィーナは、王女の目をしっかり見つめ。



「ええと、魔法を叩き込むのではなく、こうして。クリス様、わたくしのいうことが聞こえてますか?」


 セラフィーナは聞いた通りに、クリス王女の催眠を解くためにひとつひとつ進めていく。


 セラ様の言葉に、クリス王女が力無く頷くのを確認し。



「貴女は今、この状態で聞いた事を覚えてますか?」


 もう一度、コクリ。


「実はそのお話は、間違いだったのです。これからわたくしが手を叩きますわ。そうしたら。」


 無抵抗になって、言われるがままに頷く王女に。


「貴女はこの状態で聞いた事も、思ったことも全部、きれいさっぱり忘れます。いいですね。」


 コクリ。


「では行きますわ。さん、にー、いち」


 パチンッ!!




 混乱しつつも周りの者が見守る中、セラ様は内心。


(魔法じゃないのにこうするのは、なんだかちょっと恥ずかしいですわね。ちゃんと効いているのかしら?)


 と、第三者視点だとかなりアレに感じられる状況を、柄にもなく久しぶりに恥ずかしいと感じながら。



「さてこれで、貴女にかかった暗示は無くなりました。私がいいですよ、と言ったら元に戻って下さい。では。」


 説明を聞き、また頷いたのを確認して。


「では、いいですよ。」


 優しく、声をかける。



「・・・ん。あ、あれ?ん、わたし、あれ??」



 同時にぼんやりとしていたクリス王女が、元の意識を取り戻して、状況に少し瞬きし、混乱して。


 もちろんアセリアとセティスも王女を介抱し、今は三人に囲まれて立った状態。



「クリス様、エデュアル様とお話した時、彼は貴女にどんなことを言ったか、覚えていらっしゃいますか?」



 セラフィーナはまた、いつもと違い少し硬めな微笑を浮かべて、上手く解除で来たかを確認する。


 その、結果は。



「エデュアルが二人きりで、言ったこと。ええと。」


 少し、思い出そうとする素振りをして。


「ええと・・・あっ!エデュアル、思い出したわっ!」


 突然、なんだか起こったような感じになる。


「え?姉上、何を思い出され」

「あなたこの前、私に色気が無いからもっとオシャレしろとか、女性らしく振舞えとか言ったでしょうっ!!」



 ・・・なんか、全然違う話を思い出したみたいで。



「セラ様、これってうまくいった、と考えても問題ないですかね?痴話げんかは凄いですが。」


「そ、そうですわね。まさか王子様が、あんな言葉を投げかけていたとは思いもしませんでしたが。」


 シェルンの確認に、呆れた感じで答えるセラフィーナ。



 弟君はどちらかというと気弱で、姉君が強いと言ったパワーバランスなのは間違いないはずなのだが。



「ああ、エデュアルはクリスにそういった話が無いことを心配していてな。よくそういう独り言は言っていたが。」



 どうやら、その独り言を聞かれていたようである。



 ともかく、暗示の解除は上手くいったようで、そこからはまたどうしてああなったのか。



 クリス王女がどんな状況だったのか。



 それを皆に、改めて伝えていき。



「そうでしたか。アマンダ司祭はそこまで思いつめて。そして偶然見つけてしまったこれで。」


「ええ、どうやらこの兵器が、クリス様に暗示をかけてしまったらしいですわ。」



 催眠をかけたのは司祭ではなく兵器だったと、セラフィーナはボロが出そうな嘘をなんとか頑張って口にする。



 催眠のことも、説明もそれなりに大変ではあったが。



 この説明会で、一番大変だったのはコレ。



 今回はアマンダ司祭を護る為、あえて無理やり嘘をついて兵器のせいに仕立て上げた。

 皆はもちろん、このような兵器なら催眠などという所業が出来てもおかしくはないと、疑うことなく納得したが。


(やはり、嘘なんてつくものじゃありませんわ。)

(ですよねー。話題に出たらポロっと言いそうです。)


 結果セラフィーナとシェルンだけが、今後ボロを出さないかと戦々恐々とするというオプションは残った。


 だがそれでも、セラフィーナの責務として調査した事。


 ストラシャペルで起きかけていた、疑心暗鬼からの軍備増強と、他国との軍事衝突は避けられた。


 これでようやく、本来の目的であるイゼルパレス遺跡の調査へと繰り出すことができるのである。




「ところで私達は、どのくらい彼らを鍛えればよいか?」


「そうですわね。法王様、わたくし達はどのくらいの間、指南をすればよろしいでしょうか?」



 繰り出せるはずなのだが。



 行きがかり上、指南役のお仕事を請け負ってしまった二人は、一通り事件が解決した後も続けるのかが気になって。



「で、出来ればもう少し!我が国の兵を鍛えて欲しい!」




 そっちのお仕事は、つづける事となった。


バトル無しの内容で、あちこち引き回されたお話もようやく終わりです。

筆者の技量不足で、ナゾトキっぽいお話が上手く書けてませんが・・・。

お姫様と同じで脳筋なだけ、かも?


次回以降、イゼルパレス遺跡編になりますが、本章執筆がかなり粗削り状態から一気に書いていたので、そうとう無理がありました。

ので、暫く休止して内容をもう少し細かく創り込んでから執筆をしたいと考えています。


いつも読んで下さっている方には申し訳ございませんが、少々お休み(というか内容練り込み期間)とさせてください。

出来上がってきましたら、また再開いたします。

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