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6-16:疑わしき状況

「これで、おおよその話は繋がりそうですわね。」


 シェルンの説明を一通り聞いて、セラフィーナが自分の想定と照らし合わせて状況を考える。


 魔法の人形に投影されていた人物は三人。


 フローレンス大司教を投影した時は、南のバルエル大司教に対して、マルス共和国が軍備増強というデマを伝えた。


 カズア神父を投影した時はエデュアル王子に国の軍備増強を吹き込むために利用した。


 そしてエデュアル王子を投影した時は、姉君、クリス王女に信仰心が地に堕ちたというような話をした。


 セラフィーナの中では、おおよそ筋が通ったような感じはしている。今までの矛盾も解消するはずだし。


「ただそうなると、何故アマンダ司祭という方は、あんなものを持っていたのか。」


「そうですわね。それに何故こんなことをしたのか。そこがまだ分かりませんわね。」


 セラフィーナの説明を聞き、頷きながらも新たな疑問に首を傾げるセティスとアセリア姫。


 その言葉はその通りで、セラ様もシェルンも頷きながらその理由を考える。


 実際のところは、アマンダ司祭に直接問いかけなければ分からない事ではある。


 少なくとも投影された三人は、皆国を憂う気持ちを持ってはいるが、その気持ちを利用されただけに過ぎない。


 そしてその話は基本的に軍備増強、他国との戦に備えるという方向に皆を誘導している。


 つまりあの投影人形の使用者は、そこまでして軍備増強を急かせようとする理由があると考えられる。


 かねてからの懸念通り、この国を他国と争わせるために進められた、戦争の火種なのか?

 あるいはこれも含めて、国を憂う気持ちが強く出た結果なのか。それは分からない。


 そしてもう一つ、セラフィーナの中で腑に落ちない事。


 国の防衛力が落ちていることを憂うのは分かる。


 ただこの国の人々を見ても、皆しっかりとストラス教を信じて日々を過ごしている、敬虔な信徒に見える。


 だからどうしても、信仰心が地に堕ちたというあの言葉だけは、何のために出てきたのか分からない。


「ところでセラ様、こういった話をする場にクリス王女はいなくてもいいのですか?もとはと言えば彼女が。」


「わたくしもそれは思いました。なぜセントラルで、王女を交えてこのお話をされないのですか?」


 セラフィーナが少し思案していると、シェルンとアセリア姫が少し違った話を聞いてきた。


 そう、確かに今まで、四人はクリス王女の願いを聞いてこの国の問題を調査している。


 こういった話をする場に、どうして王女がいないのか。


 当然それは、皆が着にするところだが。


「そうですわね。少し難しい話といいますか、わたくしの勘なのですが。クリス様は少し信頼できなくて。」


「え?」


「それは何故ですの?クリス様は国の事も、弟の事も親身に考えてらっしゃる、とても素敵な方でしたわ。」


「セラ様を頼ってこられた方が、なぜ信じられないのですか?それは一体どういう理由です?」


 ここへきて、セラフィーナからまさかの発言である。


 これには聞いた三人は驚きを隠せず、シェルン以外の二人は思わず少し声を強める。


 今までのクリス王女を見て、何ら気になる点は無い。


 寧ろ自分たちが進んで協力したいと思わせるような、必死に務めを果たそうとしている王女だった。


 だがセラフィーナは、そのクリス王女を疑っているようで、三人にはその理由が分からない。


 それでもその中で、セラフィーナと長き時を共にするシェルンだけが、驚きはしたが反論は一切しなかった。


 シェルンにとって、今のセラフィーナは責務を果たそうとする、自分のみが仕える王女として振舞っているから。


 クリスティアラ第一王女として動いているセラフィーナには、シェルンは基本口を挟まない。


「お二人がそう思われるのも無理はありませんわ。ですから少しだけ、説明いたしますと。」


 セラフィーナはアセリア姫とセティスに向き直り。


「どうにも、魔法以外の何かで操られているような、そんな気がいたしますの。」


 そこから、感じ取っている事を話し始める。


 ずっと行動を共にしていたから気になった違和感。


 もとは弟がおかしくなってしまったのを救いたい、そんな話でセラフィーナ達に助力を請うて来た。


 そして話を聞いていくうちに、確かにおかしい状況になっていることを感じ取り、調査を進めた。


 ただこうして状況を負ってみると、皆国の防衛力を憂いている事だけは間違いないようなのだが。



 それだけでは、セラフィーナの助力をどうしても必要とする理由が、あまり感じられない。

 父王に話をして、王子ともしっかり対話して、懸念している防衛力についても別途しっかり相談すればいい。


 それなのに一足飛びに、セラフィーナに助力を請うために連絡手段を持っている者、パーシルを訪ねたのは何故か。


 更にずっと腑に落ちていない、信仰心が地に堕ちたという話。それを王女がいつ聞いたか覚えていない事。


 どうにもセラフィーナには、クリス王女の行動がなぜ自分を必要としているのか、そこがあいまいに感じられる。



 そうしてずっと、行動を共にしていた時は観察し続けていたセラフィーナは、ひとつだけ気付いた点があった。


 クリス王女は、セラフィーナから見てもそれなりに行動力があり、かつ聡明な王女だ。


 だがサウスチャペルでは町の人々の状況、南のマルス共和国との間になんらわだかまりが無さそうな雰囲気。


 戦争など起きそうにもない状況を、遠回しに説明してやっと気づく感じだった。


 さらにさかのぼって、ノースチャペルで最初に行動していた時は、ずっとシスターグレイスを疑っていた。


 状況から仕方ないと言えなくも無いが、それでもあの状況で、ずっと一緒に居たシスターグレイスを行動を開始する時にも疑うのは、なんだか不自然な感じがする。



 それで行きついたのが、別の意思の介入。


 セラフィーナは当然、精神支配系の魔法などかけられていれば、瞬時に見破り、必要に応じて解除する。


 魔法でセラフィーナを出し抜くことはほぼ不可能。


 だが魔法以外の何らかの方法で、クリス王女本来の意思に別の意図が介入していたのなら話は別である。


 そして。


「わたくしの持つ知識、アレグレットの記憶の中にですね、催眠術、というものがありましたの。」


 魔導文明が盛んで、精神操作なども基本的に魔法を中心に考えられるこの世界。


 だが確かにセラフィーナの知識には、魔法以外で人を操る術が存在すると教えている。


 それは当然異世界の知識だが、それでも何者かがこの世界でそれを開発し、陰で利用している可能性はあり得る。


 そういったもろもろの説明を聞いていくうちに、アセリア姫もセティスも徐々にその表情は厳しくなり。


「あー、だからサウスチャペルで念話した時、クリス様には話をするなって言ってたんですね。納得です。」


 シェルンは南の街でセラフィーナから受けた、おそらくクリスティアラ王女としての命令に納得していた。



「それで、これからの方針はどうするのです?」


 セラフィーナがクリス王女を疑っていることを知った面々は、それからもこの話について続けていき。


「結局のところ、まずはアマンダ司祭と会う事が先決ですわね。それに何故、魔法兵器を持ち合わせているか。」


 話の結論としては、再びウェストチャペルに赴いて、アマンダ司祭と対話する。


 その方針で、この場では決定となった。



―― そして翌日。


 今日も神官戦士団と神官術士団の鍛錬のため、朝のもろもろが終わった後は、王城へと転移する四人。


 そしてそこでアセリア姫とセティスを残し、セラフィーナはシェルンを伴って西へと空間転移する。


 目的はもちろん、アマンダ司祭との面談。


 ただしこの場に、クリス王女は呼んでいない。


 城で王女にあった時は、暫くは二人で情報収集をすると言って、王女は王子の傍に居るようお願いした。


 王女からは一緒に行動したいという話も当然されたが、そこはやんわりとお断りした。


 もちろん嘘がつけない二人はその理由も正当なもの。


 手分けして調査するので、どちらにしても一緒に動けないという形でお断りしたのである。


 もちろん手分けはちゃんとして調査する。


 シェルンはコミュニケーション能力を活かして、アマンダ司祭と会える方法を実際に聞き込みしてまわり、セラフィーナは隠蔽して、魔法兵器の詳細調査である。


 アマンダ司祭に会えるのであれば、その時は念話を使って合流し、二人で対面する予定である。


 そもそも、アマンダ司祭が病気で休んでいる、というのは二人はおかしいと考えている。


 アセリア姫しか治せないような、魔法の疫病にかかったのならともかく、それ以外は神術で治療できるはず。


 よほどの大病ならそう簡単ではないが、少なくとも昨日フローレンス大司教と話をした限り、大病にかかっているような話や悲壮感はまるで感じられなかった。


 つまり軽い病気。あるいは仮病。


 その前提で、シェルンはウェストパレス、西の神殿に勤めている者たちと談笑しながらアマンダ司祭の行方を聞き。


 セラフィーナは隠蔽して忍び込み、シェルンが一度確認した魔法兵器のある場所へと調査に向かう。


 部屋の中に入れば一度隠蔽を解き、軽い足取りで、というかふわふわ漂いながら部屋の中を探す。


 だが、そこで。


(あら、ありませんわね。シェルンが言うにはこのあたりのはずですのに。近くに検知は出来てますから。)


 アマンダ司祭の部屋と思しき部屋の中、シェルンが教えてくれた場所には存在しなかった魔法兵器。


 セラフィーナは検知魔法を頼りに、今置いてある場所へと近づき、その兵器を見つけて。



「貴女はだれですか?なぜこの部屋に?」



 そこには、なぜかアマンダ司祭の部屋に一人でいるフローレンス大司教の姿。


 当然セラフィーナは気付いている。これは偽物。


 つまり魔法兵器が起動して、大司教を投影しているという状況である。


 問われたセラフィーナは鋭い視線を向け。


「兵器に答える必要はありませんわね。それよりも貴女、なぜ今動いているのです?」



 アマンダ司祭が不在の中で、起動している魔法兵器。



 人の姿を模した試作型自律投影人形に、セラフィーナは逆に問いかける。



 当然部屋には、既に音を阻害する結界を展開済。



「なるほど、私を捕えるつもりですか。では。」



 それを読み取った人型の魔法兵器は、両手に魔力を集めて戦闘態勢をとり。




 セラフィーナは、変わらず静かな佇まいで。




 なぜか動いている兵器を、どうやって壊さず止めようかと少し頭を悩ませながら。




 セラフィーナは、その兵器と相対し・・・。


なんだか想定外な方向に話が転がっていますが。

クリス王女の立ち位置は?

兵器の目的は?

そのあたりは、追々、ということで・・・。

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