6-15:発見したモノ
すみません。0時に間に合いませんでした。
「皆様、やる気に満ちてますわね。」
セラフィーナはクリス王女を城に送り届けた後、王城の傍で実施されている鍛錬の場へと赴いた。
国の防衛力をあげる為、フィルメリアの二人がそれぞれ指南をしている現場である。
神官戦士団はセティスが、神官術士団はアセリア姫がそれぞれ指導を行い、セラ様がみた時はもう打ち解けていて。
「実力を隠していたとか、そんな次元ではないということだけはしっかりと理解した。無礼な物言いをして済まん。」
改めてセティスに指導を受けた神官戦士長のローレンスは、手合いの後に投げかけた言葉を素直に詫びていた。
セティスの指導は神官戦士団の皆に対しとても丁寧で、そのうえ魔獣戦で培ってきた実践的なもの。
剣戟も踏み込みから身のこなし、他者との連携や集団戦での動き方など、非常に多岐にわたっていた。
しかもそのどれもが、神官戦士団として比較的容易に、実運用まで持っていけるものばかり。
確かに個々の戦力をあげるのは時間がかかるが、集団での戦い方はコツを掴めばすぐにでも運用できるものが多い。
つまり、即実戦に応用できて、戦力の底上げができる。
その上練度が上がればその戦い方自体がより強固なものとなり、連携の幅も広がっていく。
個人の技術ではなく、仲間との連携を重視した教えは互いの命を護るという意思にもつながり。
「我々の戦い方が、如何に個に依存していたのかがよくわかった。改めて、礼を言う。」
線の細い女騎士と、最初は侮っていた内心を自分の中で改めて、ローレンスは最大限の敬意を払い。
「いえ、お気持ちはよく分かります。高みを目指すのは我々騎士とて同じこと。その上で、如何に魔獣との闘いで仲間を護れるか。我々はそこを重視してきただけです。」
観点が違うだけだと、セティスもローレンスの気持ちを理解しながら言葉を返す。
結局二人は実力に大きな差は有れど、共に大切な部下の命を預かる身。目指したいところは同じ。
大切な部下の命を、出来る限り護る事。
手合いでは少し誤解も生じかけたが、こうして指導の場でしっかりと言葉を交わし。
フィルメリア王国の筆頭騎士団長はその容姿も相まって、気が付けば神官戦士団の人気者になっていた。
:
:
「こうして、こう織り成せば。」
「おおっ!たったこれだけの違いで、こんなにも性能が変わるのですかっ!これは凄い。この魔法なら・・・。」
神官戦士団と違い、神官術士団の指導を行っているアセリア姫は、最初は座学から始めていた。
座学と言っても、姫が今まで織り成してきた数多の魔法のうち、神官術士団の者に近い魔法をピックアップして。
「はい。そうです。ここの違いだけでいろんなバリエーションが作れるんです。」
それを目の前で織り成し、改造して、紡いで。
魔法の応用方法を、ひとつひとつ丁寧に説明していた。
姫のホーリー・レイを見てしまった以上、皆あの魔法の術式が気になってしまうのは当然。
ただアレには、クリスティアラの金色、世界に助けてもらうというチートが入っている。
なので見せてあげたはいいが、理解ができる者は一切おらず、皆が困り果てていたのを見て。
「ではこうしましょう。わたくしは皆様の使われる神聖魔法も得意ですわ。ですからこうして。」
と、目の前で神聖魔法の術式を突然織り成し、紡いで、完成させて。それを神官術士長ミリアムに渡し。
「まずは、魔法の織り成し方、応用についてのお話を、皆様にお伝えしたいと思いますわ。」
と、魔法を使うことよりも、魔法を学ぶことを中心に、指導を始めたのである。
異国の美しい姫君が、すぐ目の前でひとつひとつの魔法をキラキラと織り成し、組み替える様はとても幻想的で。
「あなたたち、アセリア様に見惚れてばかりじゃなくて、ちゃんと魔法を理解しなさいよ!」
なんて、ミリアムが突っ込む一幕もあったりした。
結局姫は神聖魔法のうち、神官術士団の者たちでも扱えそうなレベルの魔法をいくつか選び手ほどきして。
「神聖魔法に限らず、魔法は織り成し方でいくらでも変化いたしますわ。ですから基礎こそが重要ですわ。」
と優しい笑顔で皆に基礎の大切さを指南する。
魔法の指導はもちろんの事、あのホーリー・レイを操るという圧倒的な能力も、即席で魔法を織りなす手腕も。
そして当代最高の美姫と謳われる、清楚可憐なフィルメリア王国の王女が魅せるその笑顔も。
気が付けばアセリア姫は、あらゆる面で神官術士団のハートを鷲掴みにしていた。
それはもう、男女問わずファンクラブが出来てしまいそうなほどに、アイドル的な感じで。
「皆様、ちゃんと魔法の織り成し方を聞いて下さいねっ」
「はい!!」「聞いてますっ!」
なんとなく、お姫様も気付いてはいたようである。
―― 一通り終わって。
セラフィーナ達が寝泊まりする宿、ノースチャペルの北の最果て。より北にある、ホテル最北端。
「ただいまー。食材はそこそこ仕入れてきましたよー。」
その宿の中、少女四人が泊る部屋に明るく人懐こい声で帰宅を告げながら、シェルンが帰ってきた。
「おかえりなさいシェルン。もちろんメロンはいっぱい買ってきましたわね?」
「もちろんですよー。厨房借りられるかな?」
帰って来れば、セラ様が聞くのは本来の任務ではなく、あくまでお楽しみの方。
西の街でメロンの仕入れをお願いをされたけれど、アレは南の街の方が安く手に入る。
輸入元のマルス共和国がお隣だからである。
その為隠密行動を終えたシェルンは、最初は西の街でメロンを探していたが。
(アレ?なんかちょっと、高い気がしますね。)
と、わざわざ南の街まで飛んで買いに行ったのである。
いつもながら、苦労が絶えない侍女である。
シェルンが帰って来た時には、当然部屋にはほかの三人が帰ってきていた。
今日の指導が終わったアセリアとセティスは、セラフィーナが空間転移でお手軽帰宅させたのである。
アセリアとセティスは、神官戦士や神官術士達の指導を行うという立場。そして遠い国の重鎮。
本来であれば城がもてなすはずの立場ではあるが、お忍びということでお城からは招待されたが辞退した。
なにより、せっかく予約した宿に申し訳ない。
ただ、セラフィーナにとってはもうひとつ、この宿で寝泊まりする事には理由がある。
それは、シェルンに調査させたこと。
城の者にはあまり聞かれたくない。そんな話。
ただ、そのことについてはまだ、アセリアとセティスには何も話していない。
これからお宿の夕食を頂いて、その後シェルンに仕入れたメロンで創ってもらう予定のデザートを食べて。
お話は、それからである。
それから、なんだけど・・・。
「そ、それで。このスイーツは、一体何といいますの?」
「これは今日仕入れたマルスメロンを使った、メロンのムースですね。あっちはメロンパフェです。」
夕食後、宿の厨房を借りてシェルンが創ったのは、仕入れたメロンをメインにしたムースとパフェ。
シェルン謹製、究極の絶品スイーツである。
ムースはスプーンをいれればすっと何の抵抗もなく入っていき、食べる前からその柔らかさが想像できて。
「い、いただきますわ。」
少し震える手で、スプーンに載せたムースのひとさじをお口に運ぶアセリア姫。
そして、ぱくり。
すこし、固まって。
それから目を閉じ味わって。
目を開いたときにはもう、その瞳はとてもキラキラと輝いていて、今回も初めての食感に感動する。
お口に入れた瞬間、ふわぁッと広がるムースの甘さ。
最高のくちどけで、お口の中で即座に融け消えて。
同時にメロンそのものの味を最大限引き出した、メロンの甘味がお口いっぱいに広がっていく。
少し大きめの器に入ったムースは、まだまだたっぷりと堪能できるくらいに残ってはいるのだが。
「しぇ、しぇるん・・・あの、お、おかわりは?」
美味しいスイーツを食べると、どこか変なスイッチが入ってしまうアセリア姫、今回も即スイッチONとなっていた。
早速好評と受け止めたシェルンは。
「セラ様に合わせて、一人前四つで作ってますよ。」
とてもダメな返事を返してしまう。
「よっつ!よっつも!?ああ、至福ですわ~。こんなに美味しいスイーツが、四つも頂ける・・・。」
その答に、あっという間に表情が蕩けてしまうフィルメリアのお姫様。
その顔に、隣で食べている騎士団長はどことなく危機感を感じて、姫が誤った道に進まぬよう軌道修正する。
「アセリア、落ち着け。今全部食べれば、明日の朝食べる分が無くなるぞ。」
いや、そういう軌道修正でいいのかは分からないが。
「あ!?ね、姉様。ねえさまはその、四つもお食べにはなられません・・・わよね?」
「ダメだ。私の分はあげないぞ。」
というか、会話が子供の会話になってきているが。
「う・・・あう。ね、ねえシェルン。その、追加の」
「材料は全部使っちゃいましたよー。っていうかアセリアは食べすぎです。私達と違って太りますよ?」
「う゛・・・!」
スイーツなら別腹というように、いつもあるだけ食べてしまうアセリア姫に、シェルンがダメだしする。
なおシェルンとセラ様はどれだけ食べても体形が変わらないので、文字通りスイーツ食べ放題である。
「ねえシェルン、最初から二つと言えばよかったのではなくて。そうすればアセリアは明日に残すか悩みませんわ。」
自分も4つしかないと理解して、アセリア姫と同じ悩みに突入しそうになったセラフィーナ。
とりあえず自分の悩みを優秀な侍女のせいにして、それでも明日に残しておくか無駄に悩み。
「まあ、今日は皆様二つで。あとの二つは明日です。」
切り盛りするシェルンが強制的にその悩みを断ち切って、ムースはそれからあっという間に食べられた。
それは続くパフェも同様で。
「あああ、パフェってこれほどまでに美味しいものなのですね。シェルン、国に帰ったらスイーツショップに」
「伝授しませんよ?そもそも私じゃないと使ってる材料が作れませんからねー。」
お姫様のたくらみを即粉砕したシェルンは、なぜか一緒に撃沈している自分のご主人様をジト目で見つつ。
今夜のスイーツタイムも、とても幸せに幕を閉じ。
―― それから湯あみして、皆ベッドの上で。
「ではそろそろ、ちゃんとお話ししましょうか。」
「はい。結界は、展開済みですね。」
至福のひとときを味わった四人は、ようやくと言った感じで、寝る前の時間、真面目な雰囲気となる。
これからのお話は、シェルンが調査してきた結果。
ここにいる四人以外には聞かれたくない話でもあるので、セラフィーナは事前に消音結界を展開済みである。
調査内容は、セラフィーナとシェルンがウェストパレスで感じ取った、何らかについて。
当然事前にアセリア、セティスにも南、西で対話した内容を一通り伝えて、セラフィーナの懸念も共有済み。
その上で、フローレンス大司教と会話していた時に感じ取った、明らかに異質なものについての調査結果である。
「まあ、想像通りだったんですけどね。ウェストチャペルの神殿、ウェストパレスを調べて、見つけました。」
それは本来、そこにあってはいけないもの。
「見つけた場所は、あくまでこれは推測ですが、おそらくアマンダ司祭と思われる方の部屋になります。」
セラ様もシェルンも、それがあってはいけないと、そう思うモノがアマンダ司祭の部屋にあった。
「おそらく、私達の目的地であるイゼルパレスの遺跡で見つけたものと思われます。」
淡々と語るシェルンの報告内容に出てきた名に、アセリアとセティスにも今までと違った緊張が走る。
イゼルパレスの遺跡。
かつてクリスティアラを滅ぼした国の、遺跡。
その地で見つかった古代の兵器たちは、セラフィーナがいなければ、フィルメリアを滅亡させていた。
そんな遺跡を調べたがために、幼いままに多くの過ちを犯してしまった少年は今、フィルメリアで更生中。
あの遺跡にあるモノは、使い方を間違えれば大きな過ちに繋がってしまう。
そんな、危険な歴史の産物。
「それの型式は 試作型自律投影人形:BGACT。」
ここで、シェルンにしか分からない言葉が出てくる。
以前、ファウストの分身体みたいなものと相対した時に初めて聞いた、そういった感じの名前。
―― はい。私とは違うタイプです。これはおそらくですが。試作型投影人形。型式SE-COND。 ――
シェルンはあの時、そう言って説明した。
アセリアとセティスには分からなかったが、セラフィーナはそれを聞いて理解をしていた。
「おいシェルン、それは!」
思わず声をあげるセティス。
今までの話で、この国の現状は、皆国を想う気持ちが空回りしていただけだったと。
なんとなく、そんな結論になるように考えていた。
だが今聞いた話は、下手をすればフィルメリアと同じように、何らかの意図が働いているようにも思える。
そのくらい、アセリアとセティスには驚愕の報告。
だが言葉を受けたシェルンは落ち着いたまま。
「はい。私、試作型遠隔制御人形:CHE-RUNとはまるで違う、人をベースとしないタイプの兵器です。」
自分の事すら説明に載せて、話を進めていく。
その時初めて、アセリアとセティスは。
シェルンというその名の、理由を知って。
言葉を、挟めなくなる。
だって、今の型式は。
あの、聞いただけでも悲しみしかなかった、悪夢のような出来事を、ダイレクトに思い起こさせるもので。
試作型の、遠隔制御人形。
人を人形に仕立てて、遠くから魔法で操作する。
その操作を、たとえ受け取る側が望んでいなくとも。
意識を保ったまま、強制的に操作するという。
そんな、非人道的極まりない、悪魔の所業。
今までとは心持ちも表情も変わったフィルメリアの二人に対し、シェルンは表情を変えず、淡々と。
「BGACTは、特定の人物の姿をそのまま投影して、自立して動く魔法の人形です。」
見つけたモノについての、説明を続けていく。
「私が発見したものは、三人の人物を投影した実績がありました。もちろん、まだ投影可能な状態でした。」
投影。
つまり、他者を投影して、成り済ませるような。
そんな、悪魔のような兵器。
「実績はフローレンス大司教、カズア神父と。」
渦中にある、二人の偽物と。
「もう一人は、エデュアル王子、でした。」




