6-14:手がかり
「こちらのお店、とても美味しかったですわー。マルス共和国特産、マルスメロンはとても甘いですわね!」
「そうですねー。色々終わったら、お土産に買っていきましょう。セラ様の言ってたぱふぇも創ってみたいですし。」
クリス王女とバルエル大司教の対話が終わり、隠蔽をしたまま話を聞いていた二人は、カズア神父と対話もほんのり行い、すぐにサウスチャペルの街へと繰り出していた。
神父との話を聞くまでもなく、隠蔽して聞いていた大司教の話で次の予定が決まってしまったこともあるし。
カズア神父が実は先日、西のフローレンス大司教とまさにこのお話をしていた。
ただその時は、キャスタブール再侵攻についての備えと、信仰に関する懸念について話し合ったという。
ちょっとだけ、情報がかみ合わない。
「お二人とも!少し暢気すぎやしませんか!?こんなのんびりおやつなんて。先ほどのお話がどれだけおかしいか」
「まあまあクリス様、落ち着いて下さい。どれだけ気が立っても何も変わりませんよー。」
一緒におやつを頂いたクリス王女は、どことなくのんびりとしている二人の雰囲気に少しご立腹。
もちろんおやつは美味しかったし、満足そうなセラフィーナの姿は微笑ましくも感じるが。
「ですがあれだけはっきりと、王宮に伝えたと言ったのです。何かおかしなことが起きているとしか・・・。」
西のフローレンス大司教が伝えたという、南の国マルス共和国の軍備増強。
そして懸念されていた、南からの侵略。
どれもこれも国として把握していなければならない情報なのに、父王すらも知らなかったという現状。
クリス王女にとっては、とてものんびりしてはいられない状況としか思えないのだが。
「クリス様、先ほどのおやつで頂いたメロン、あれはマルスの特産ですわよね。」
「それは、そうですね。とても美味しいので、この時期になると毎年たくさん輸入している果物です。」
王女の焦りは置いておき、セラフィーナはまだおやつのネタを振る。そのことにも難しい顔で応える王女。
だが、セラフィーナが言いたいのは。
「これから争いになるかもしれない、そんな国の割には皆様とても印象がよろしかったですわね。」
「そうですねー。少なくとも国民レベルで仲違いをしてそうな雰囲気は全くなかったですよね。」
実はセラフィーナ、状況を見るためにわざと南の国境近くにあるお店を探してもらい、そこでおやつを食べていた。
その時、お店の人や市井の者たちとシェルンが色々おしゃべりをして、国民感情を調査していたのである。
調査の結果、国境付近の関係は至って良好。シェルンが持ち前の人懐こさで色々情報を聞き出したが。
国境警備の兵が増えた記録もなければ、国民同士が仲違いしたような形跡も無い。
皆マルスの事を良い隣人と感じているようだし、滞在していたマルス共和国の商人もとても友好的だった。
それどころか。
「ほとんどの国民がフリーパスみたいな感じで行き来してますよね。顔パスみたいで。」
「ええ、お互い信頼し合っていなければとてもできない国交ですわ。関税も殆どなし。美味しい果物も比較的安価に輸入出来て、とても良い関係ですわね。」
二人の会話に、徐々に言わんとすることを理解するこの国のお姫様。
要するに、フローレンス大司教が伝えたという南の国の軍事増強、それ自体が誤情報の可能性があるということ。
ならばなぜ、そんなことをサウスチャペルに伝える事になったのか。その点はまだ分からない。
そしてそれを、なぜバルエル大司教以下、サウスチャペルを治める者が鵜呑みにしているかも分からない。
操られた形跡も無いし。
人々は皆悪意を持ってなさそうだし。
(これはもしかするとですが、ただの杞憂が独り歩きした結果、大ごとになってるだけかもしれませんわね。)
(なんだかそんな感じですねぇ。でもそうなると、どこからどう修復すればいいか分かりませんね。)
少し悩むシェルン。ただ、そこで考えてしまった事は。
(んー、うちのお姫様は脳筋だから、こういう頭使わなきゃいけない感じになると難しいかなぁ。)
(シェルン!?脳筋ってどういうことですのっ!?まるでわたくしが)
(あーなんでもないですっ!っていうか考えてる事筒抜けって勘弁してくださいっ!)
念話でさらりと筒抜けになる。
ある意味隠し事ができない二人。便利でもあるが、油断してると思ったことが伝わっちゃう。
もっとも今はすぐ傍に居て、念話で会話していたからそれも致し方ないのだが。
(ただですね、わたくし、今までのお話でおかしな点が二つある、そう思っておりますの。)
(ふたつですか?先ほどの、南のマルス共和国が軍備増強しているというデマっぽいお話と、も一つは何です?)
(そのデマ自体はともかく、それを伝えた西の大司教が、カズア神父との会話では東のキャスタブールを懸念していた、というのが一つ目ですわね。)
デマっぽい話は確かにあったが、それを伝えた本人が全く違う懸念をしていた。
どちらかと言えばデマ自体よりも、その話の齟齬が非常に気になっている。
(じゃ、もう一つは何です?)
(クリス様が仰った、弟さんが『この国の信仰心も地に堕ちた』と言ったみたいなお話ですわ。)
(あー、なんかそんな事を聞いたと言ってましたね。)
(ですが、王女がいつそれを聞いたのかよく覚えてらっしゃらない。そして王子は、言った記憶がないそうですわ。)
一番引っかかっていることは、コレ。
王女がいつ聞いたかはともかく、言ったはずの本人は言った記憶が無いし、地に堕ちたなどと思ってもなさそう。
今回の件、話を聞いた相手は皆この国の事を想って色々と考えているみたいだけれど。
ところどころ、おかしな話が混ざってる気がする。
(それはちょっと、引っかかりますね。これからの会話では私も気にしておきます。)
(ええ、それとシェルン。クリス様には、まだこのお話はしないでくださいね。)
(ふぇ?・・・!!はい。承知しました。)
そこだけは、なんとなくセラフィーナがいつものぽやぽやした感じではなく。
クリスティアラの王女として、シェルンに命じたように感じられて。シェルンはそれには即従う。
こうしていくつかの意思疎通をしたが、基本的に超高速な念話はすぐに終わる。
そこに二人の話を聞いて、色々理解した感じのクリス王女が、自分の考えがあっているかを確認する。
「つまりお二人は、フローレンス大司教から伝わったというマルス共和国の軍備増強自隊が誤情報と。」
目を閉じ、自分の考えを纏めながら。
「そうなると、その情報を齎したものこそが今回の、エデュアルが少し変わってしまった事の元凶となりますね!」
心得たとばかりに頷き、その結論に至る。
それは確かに、間違っていない。
ただ、セラフィーナもシェルンも既に、違う答えに行きついていて。
というか、そう言う誤情報を意図的に流したものがいるのであれば、その元凶を掴まえて、この国の法にのっとって裁いてもらえば済む話である。
だが、皆がただただこの国の将来を憂い、ほんの少しの行き違いで誤った情報が肥大化しただけだとしたら。
「クリス様、確かに今回の件、そういった情報が元凶となるかもしれません。ですが。」
セラフィーナはシェルンと頷き合い、二人の推測を改めて伝えてみる。
ただそこに、先ほどシェルンと確認した2つの疑念については一切さしはさまずに。
誰も悪くないかもしれないし。
ただただボタンの掛け違いなだけかもしれない。
そこまで聞いたクリス王女もまた難しい顔になり、その場合はどうすべきかに頭を悩ませ。
「考えても仕方ありませんわね。そのフローレンス大司教にもお話を伺いましょう。」
結局結論を出すには皆の話を聞くしかなくて、三人はそのままウェストチャペルへ。
そこでもクリス王女の顔パスでフローレンス大司教に目通りし、一通り話を聞いて。
「やはり皆様、国を憂いているだけでしたわね。」
「そうですねー。それにフローレンス大司教、やっぱり南の国が軍備増強してるなんて言ってないですね。」
「ですが嘘を言っているという可能性も。私にもそうは見えませんでしたが。」
「セラ様の前で嘘はつけませんからね。そんなことしたらすぐわかっちゃいますよ。」
その結果は想定通りというか、こちらの大司教も国の将来を憂いて、かつてよりも大幅に軍事力が落ちている事を懸念しているだけだった。
状況としてまとめれば、こんな感じ。
フローレンス大司教は国の防備が弱まっていることを懸念していて、それを部下のアマンダ司祭に相談した。
アマンダ司祭は旧知である、南のカズア神父と北のマイアス司祭に話をして、それぞれは真逆の反応を示した。
カズア神父は自身の属するサウスチャペルを治める大司教、バルエル大司教にもその話を相談した。
そこから国の防衛力低下を、バルエル大司教の元エデュアル王子にも伝えた。
さらにバルエル大司教には、フローレンス大司教から南の国も軍備増強しているという情報が届いた。
ただそれは王宮にも届いているという話だったが、伝えたはずのフローレンス大司教はそれを知らないと言った。
国防については改めて、各街を治める大司教にはフィルメリアのお二人に指南を受けている神官戦士達を見てもらうことで、納得してもらえないかを検討するとして。
「やはりフローレンス大司教が伝えてないはずの事が、バルエル大司教に伝わっている。ここが一番不可解です。」
「そうですわね。あとは今日不在だった、アマンダ司祭様にもお話を聞ければ一番よいのですが。」
話に出てきた人物の中で、唯一会えていないのはアマンダ司祭。フローレンス大司教同様、女性の司祭様。
西の街にきて、大司教と話をする際に一緒に会えればと思ったのだが、今日はお休みということだった。
どうやら体調不良らしい。
結局東、実際に懸念しているキャスタブールと面している街以外の3つを巡り、おおよその状況も掴めたけれど。
(シェルン、気付きましたか?)
(もちろんです。むしろアレは私の方が、セラ様よりも認識できてると思います。)
クリス王女には気付かれぬよう、二人は何かについて念話で確認しあう。
ただそのことには一切触れず。
「クリス様、今日はひとまず戻りますか。一気に二つの街で聞き取りをしましたし。」
「そうですね。おおよその話は把握できました。あとはアマンダ司祭との対話だけですね。」
大司教と話をした時に、アマンダ司祭が復帰したら連絡するようにも伝えたし、今できる事はもうなさそう。
「それじゃセラ様、クリス様をお願いしますね。」
さあ帰るぞ、というタイミングで、セラフィーナはクリス王女を抱っこしてセントラルパレスに送るが。
「あら、シェルンさんは一緒に行かないのですか?」
なぜか、シェルンは残るようで。
「あー、セラ様がですね、この街で美味しい食材を仕入れてから帰って来いと言いますので。私は残業です。」
「お願いしますねシェルン。あのメロンは必ず買って帰ってくださいね。」
「はいはい。他にもいいものがあったらちゃんと仕入れて帰りますからねー。」
さいごまで微妙にほのぼのとした感じで、セラフィーナはシェルンを置いて、クリス王女と空間転移する。
目的地はもちろん、王城の。
「だからっ!私の部屋に直接入るのはやめてくださいっ!」
クリス王女の部屋に直接転移したら、とても叱られて。
―― 残ったシェルンは。
(はぁ~。やっぱり食材仕入れるなら、お仕事はちゃっちゃと片付けないと、お店が閉まっちゃいますよね。)
心の中で、溜息をつき。
それからすっと表情が変わり、先ほどまでの人懐こい笑顔が消えて、まるで別人のように。
単独で、隠密行動をするときのように気配を消し、人気を避けて、上空へ。
(では姫様、行ってまいります。)
ストラシャペルに来てから初めて、シェルンは氷のように冷え切った、研ぎ澄まされた雰囲気となり。
再び、西の街中央にある、ウェストパレス。礼拝堂と政府機構がひとつになった、荘厳な建物へ。
大司教との対話をしている間に気付いたソレを確認するため、シェルンはまた、人外レベルな隠蔽に身を包み。
ソレを検知した部屋へ。こっそりと。




