6-10:南か、西か。いえ、まずは懸念の解消です
調査を進めるはずが、違う話に転びます。
クリス王女の相談から始まった神聖ストラシャペル法王国での不穏と感じられる動きについて、ほぼ調査ばかりとなった一日。
ノースチャペルの街、ホテル最北端では、ノースチャペルの街とセントラルパレスに分かれて調査を進めた皆が部屋に集まっていた。
その中にはなぜか、セラ様パーティメンバーではないはずのクリス王女も混じっており、これからの予定についてすり合わせ中である。
「結局最初に疑われていたマイアス司祭は真っ白でしたね。明日からは南と西、別途調査といった感じですねー。」
「話を聞く限り、王子様もクリス様の懸念されたほどに傾倒しているわけではなさそうでしたわ。心根も正直でしたし、ただ・・・。」
シェルンの言葉にセラフィーナが続き、エデュアル王子についての話もシェアしていく。
「ただ、なんでしょう。弟にやはり気になる点が?」
セラフィーナが少し考えたような素振りをして、その言葉尻にクリス王女が不安そうに続きを促す。
やはり弟は何かおかしなことを吹き込まれているのか?
平和を乱そうとするような話にも聞こえている状況で、クリス王女は肉親がおかしな考えになってないかが一番の不安である。
「気になるというよりは、彼自身の心持ちですね。クリス様と違って王子様は自分が力無き事をとても気にしているようでしたわ。」
民を想う気持ちは強いけれど、自分には何もできないというような雰囲気で将来を憂いていた。
そのことも一通り伝え、弟の抱いている懸念があながちおかしな発想ではないという事もクリス王女には伝えていく。
「ところでクリス様、エデュアル王子が貴女に仰ったことですが、『この国の信仰心も地に堕ちた』と言った感じのお話はどんな時に聞いたか、覚えておいでですか?」
その中でセラフィーナがひとつだけ引っかかった点。
この国の民は皆敬虔な信徒という印象は、25年前からずっと変わらず感じているが、王女に放った弟の言葉はそれを否定するもの。
確かに平和の中にあって、徐々に信仰心が薄れていく可能性は無いとは言い切れないが、少なくとも地に堕ちたという状況ではない。
「そ、それはですね。ええと、いつだったかかしら。ごめんなさい、すぐに思い出せないです。」
クリス王女は少し考えるそぶりを見せ、思い出せず。セラフィーナもその点については想い出せたらという事で保留とする。
「それでセラ様、明日はどっちに行きますか?それとイゼルパレスはどうします?もちろん戦の火種だとしたら、こちらが最優先ですが。」
「それはもちろん、こちらの懸念が全て片付いてからで構いませんわ。」
当初の目的については、こちらもとりあえず保留。
何よりもまず、この国で起きていることが本当に戦の火種なのか。そうであればどのように解決すべきなのか。
セラフィーナとしてはそれが最優先で解決する事案である。
「わたくし達はどういたしましょうか。このままセラ様の責務をお手伝いするというのが一番妥当だと思いますが。」
ここまでの話を聞いていたアセリア姫は、自分たちの行動についても検討する。
セラフィーナとシェルンはもとより自分たちの責務を果たすだけだが、アセリア姫もセティスも、意見は出せるが纏まって動くメリットはあまり見いだせていない。
「そこは、そうですわね。実は一つ、エデュアル王子とお話をして、わたくしが気になったことがございまして。」
アセリア姫の言葉に、セラ様はそうですわ!なんて感じで今思いついたような事を語りだす。その内容は・・・。
「なるほど。国家間の交流にもなりますし、それなら王子の懸念についても少しは解消できるかもしれません。」
「わたくし達でその役が務まればですが。その点は如何でしょう?」
「もちろんお二人なら十分以上と思いますわ。わたくしが把握している限り、この国の神官戦士達はフィルメリアの騎士団とそれほど大きくは変わらない実力。お二人なら十分務まるかと。」
セラ様とアセリア姫、セティスが話を進め、なんとなくそれで決定というような雰囲気になってきて。
「ちょ、ちょっと待って下さい!突然そう言われましても、お二人の事もまだよくわかっておりませんし。それにいきなり指南と言われても。」
指南。
セラフィーナの提案は、アセリア姫とセティスの二人に国交のための交流を兼ねて、ストラシャペルの誇る神官戦士団への剣術と魔法の指南をしばらくの間担当してもらうという事だった。
二人の実力なら間違いなく神官戦士達を鍛えられるし、王子の懸念である防衛力の底上げも出来る。
国を護る者たちにも、他国にはこんな者がいるのだと危機感を持ってもらう事が出来るし、その上で指南を賜れるなら願ったりのはずである。
だがその提案にフィルメリアの二人はさも当然のように頷いて話を進めるが、聞いていたクリス王女にとっては信じられない話である。
自分自身、お転婆と言われるくらいに剣術や魔法をかじっているが、神官戦士の上位にいる者たちには、全くかなわない。
女性ながらに騎士団長を務めているというセティスであれば、ある程度は戦えるかもしれないが、神官戦士は皆屈強。
「さすがに貴女方が指南というのは難しいかと思います。わが国の神官戦士はそれなりに手練れ。私もその実力は把握しています。」
とてもではないが、線の細いお姫様や、女性の騎士団長が相手どれるような者たちではない。
敬虔な信徒から構成される神官戦士団は剣技、魔法、そして屈強な精神力と、国を護るために厳しい鍛錬を日々続けているのだから。
「あー、お二人とも見た目は綺麗なお姉さんとお姫様ですからね。でもクリス様、セラ様と私も、そういう感じに見えます?」
「え?ええと、その。はい。いくら25年前の話を聞いたとしても、さすがにその、俄には信じがたいです。」
今日一日で、その行動力と洞察力、調査能力や話の進め方についてはしっかりと理解できた。
だがやはり、セラフィーナとアセリア姫は、どう見ても線の細いお姫様というイメージが払しょくできない。
「それじゃこういうのはどうですか?アセリアとセティスの二人はクリス様に取り持ってもらって、王城に表敬訪問するんです。」
「表敬訪問ですか。たしかにフィルメリアの王族がお忍びとはいえわが国に訪問されているのであれば、ご挨拶頂けるのはとても有難いですが。」
シェルンの提案には、クリス王女も賛同する。遠い国である以上戦になることは考えにくいし、友好を結んで悪いことは何もない。
「そこでですね、セティスが騎士団長として、御前試合する、というのは如何でしょう。フィルメリア王国騎士団筆頭団長という肩書だけで、儀礼的な試合であれば受けていただけるかと。」
「それは、そうですね。そう段取りを組めば出来ると思います。」
「で、その試合の席で、ほんの少しだけセティスがやらかしちゃえばいいんですよ。それだけで全部分かりますから。」
「はい?」
「シェルン、私は力をひけらかすつもりは無いぞ。午前試合というからにはそれなりに礼節をもって」
「目的が違うのですよー。それにひけらかさなくても、たぶん実力の半分も出さなくても大丈夫ですから。」
あくまでも目的は、神官戦士達の指南。その為のおぜん立てをするだけという事を改めて説明し、クリス王女に根回しをお願いし。
「わたくしからも法王様にお願いしますわ。昨日王子様が懸念されていた侵略に対する護りの力。大切なのは兵の数だけではないという事を、王子様にお伝えするにはいい機会でしょう。」
そこはセラフィーナも協力するとして、クリス王女を納得させて。
そして翌日。
とりあえずセラフィーナはもうやらかす気満々で動き出す。
具体的には・・・。
「ではそろそろ皆様、参りましょう。わたくしの側へ。」
「はいはい。」「お願いしますね。」「行きますか。」
「え?」
朝食を終え、身支度を済ませて。
これから馬車で王都まで、と考えていたクリス王女は、いきなり集まってと言われてちょっと首を傾げる。
昨日セラフィーナが単身王都へ向かったことは知っていたが、その移動手段がアレだなんてことは聞いてなくて。
転移を見ちゃったタイレル神父はこの場にいないし、なんならクリス王女は便乗して、昨夜はホテル最北端に泊ったから聞いてないし。
もちろん、今回はノースパレスの皆に伝えての所業である。前回勝手に出て騒ぎになったので。
「クリス様、もう少しこちらに来てくださいね。」
セラフィーナがいつもの微笑で王女を誘い、クリス王女も首を傾げつつ皆が集まっている傍へ。そして。
「では、目を閉じて頂いて。」
「???」
言われていることはよくわからないけれど、皆がそうするので同じように目を閉じるクリス王女。
そしてその次には。
「はい。着きましたわ。」
と言われ、目を開き・・・。
「!!!???」
先ほどまでホテル最北端の部屋に居たのに。
視界に飛び込んできたのは、王都セントラルパレスの一室。というか。
「え?ここ、私の部屋!?なんで?」
王女様、大混乱である。
実は昨日法王と王子、二人と対話してきた古のお姫様は、王城の中を旧知の者たちと談笑していた際、この城のお姫様が普段寝泊まりするお部屋についてちゃっかり場所を聞いておき。
「今後来るときはわたくしがここに飛べるように、目印の魔法を壁にこっそり設置しておいたのです。」
と、とてもひどいことを言う。
いや、そう言われても分からないけれど。
クリス王女はキョロキョロと周りを見回し、そこが間違いなく自分の部屋であることをあちこち回って確認して。
「一体何が?これはどういう・・・」
想定通り、全力で混乱していた。
―― 王女様にある程度説明して・・・
セラフィーナが持つ超常の力を改めて説明し、自分が今までお話をしていた、どこかぽやぽやした感じのお姫様が、本当にかつて隣国との戦を諫めた、人知を超える存在だという事を身をもって実感し。
「は、はい。お父様に、お話してきます。」
まだどこか呆けた表情のまま、フィルメリアの二人が法王と会談できるように依頼、根回しを行うため、部屋を出る。が、すぐに。
「ってダメですっ!ここは私の部屋ですから、皆様は来賓室に移動してくださいっ!こ、こんな、はずかしい・・・。」
真っ赤になって、戻ってきた。
だって幼いころからお転婆と言われて、現在もどちらかと言えば男勝りの、凛々しい感じで通しているつもりのお姫様のお部屋が。
意外と少女趣味で、ファンシーな感じだったから。
こんなお部屋に来客を待たせておくなんて、何を見られるかもわからないし、そもそも私室だしっ!恥ずかしすぎるっ!!
どこか少し不機嫌になったクリス王女にセラ様は首を傾げつつ、「とても可愛らしいお部屋でしたわね。」なんて火に油を注ぎつつ。
「皆様は、ここでお待ちくださいっ!いいですねっ!!」
来賓室に皆を閉じ込め、じゃなくて案内してくれたクリス王女は、プンスカ、と言った風情で、ズンズンと足音を立てて去っていった。
それから数分の後。
王女が手配したのか、来賓室には城に仕える侍女がお茶を入れに来て、四人はお茶を楽しみつつクリス王女を待っていた。
「ね、とても美味しいでしょう。やはりメルシアの側というのはとても贅沢な立地ですわ。」
「ほんとに。このお茶、香りはとても爽やかですのに、お味は濃厚で。でも後味はすっきりしていてとても飲みやすいです。」
新旧のお姫様は趣味が合うのか、振舞われたお茶の素晴らしさを二人で語り合い、とても幸せそうである。
なのでとてもいい、至福の瞬間と言った雰囲気に合わせ。
「で、セラ様は昨日、法王様にお願いするみたいなこと言ってませんでしたっけ?クリス様の言葉だけで段取り取れますかね?」
「あ・・・」
シェルンが昨日聞いた言葉を、楽しそうに思い出させる。
ちょっとイヂワルである。確信犯である。
「え、えっとその。わたくしも行ってまいりますわ。」
「道、分かります?」
「・・・知ってる人に、聞いてまいりますわ。」
どうやら人懐こくて有能な侍女は、昨日セラフィーナが迷子になったことを、もう少しいじり倒すつもりらしい。
どうにも過去のあれこれを克服したシェルンは、今まで以上にセラフィーナに対して遠慮が無くなっているようである。
そんなこんなで、セラフィーナも法王の元に向かい、ほどなくしてクリス王女と一緒に戻ってきた。
その結果は。
「お父様は公務がありますので、ご挨拶は午後になりそうです。ただその、御前試合の件なのですが。」
「神官戦士長さんがご興味を持たれて、是非一度剣を交えたいって向こうから言ってくださいましたの。」
と、まさかの御前試合以外で、剣を交える機会が出来た。
「それと、アセリア姫様のお話は全国的にも有名です。疫病すら撲滅されたという魔法の使い手、我が国の神官術士長がぜひお手合わせをと。」
それどころか、セティスの件だけでなく、アセリア姫の魔法も見たいという話が飛び出した。
これらは25年前の戦を停めたセラ様の存在と、その人が推薦するものの実力を見たいという興味、そしてアセリア姫の名声の賜物である。
かくして御前試合ではないが、セントラルパレスに併設されている神官戦士の訓練施設に皆向かい、手合わせの場となって。
「これはなかなか、いい見世物になりそうだ。」
施設の中にある広い訓練所、その中でも手合いを行う会場に案内されれば、そこはまるで闘技場のように多くの神官戦士が詰めかけていた。
自分たちの神官戦士長が、他国の騎士団長と手合わせする機会など滅多に無い。
実力でその地位にいる自分たちの長と、他国の長がどこまでやり合えるのか。たとえ命を狙う本気でなくとも、皆興味津々である。
もちろん魔法についても、全国的に有名なフィルメリアのアセリア姫が来たというのだから外せない。
結果この場は最低限の警戒組を除き、王都に詰めている神官戦士と神官術士がほぼ全て見物に来た、大規模な大会のようになっていた。
その場にはクリス王女の弟、エデュアル王子も観戦に来ている。
自国と他国の個々の力がどれほどのものか、王子にも知ってもらおうという父王の判断である。
「それで、ルールは?」
「お嫌でなければ、実剣を魔法コートで。使い慣れた武器であればこそ、実力が出せるとおもいますので。」
魔法コート。剣の切れ味をゼロにするための、訓練用の魔法。刃をコーティングするように展開して、誤って切り伏せる事を防ぐ手段である。
だがそれでも高速な打撃、魔法コートで衝撃を吸収するとはいえ、一歩間違えば命の危険がある。
この方式を採用するということは、出来る限り本気の勝負をしたいという意思表示。この国の神官戦士長は真剣なようである。
「わかった。コートは互いに、だな。」
「はい。」
相手の武器を、自分の魔法でコーティングする。自分が切り伏せられないようにするためには当然の処置である。
かくして準備は整い、セティスは手合いの場に立ち。
相対するは、セティスより高身長で、年齢はそう変わらない程度に見える凛々しい青年。全身は神官戦士共通の鎧を纏っている。
互いは向き合い、軽く礼をして。
「神聖ストラシャペル法王国神官戦士長、ローレンス・クルセイドだ。よろしく頼む。」
「フィルメリア王国筆頭騎士団長、セティス・エル・クレーディアです。よろしくお願いします。」
名乗り合い、互いに剣を抜き構える。
セティスはいつもの長剣。華奢ともいえる女性騎士が扱うにはちょっと長すぎるくらいの剣を、両手持ちで斜め後ろに構え。
神官戦士長ローレンスは右手に一般的なロングソードに見える剣。左手にはかなり大きく、上下が尖った形のシールドを構え、相対する。
互い準備を整え。向き合って。
「それでは、はじめっ!」
なぜか審判役を買って出た、クリス王女が合図して。
セティスの、フィルメリア王国の筆頭騎士団長、その実力が。
セラフィーナが伝説になっている、遠く離れた国で。
新たな伝説の、ひとつになる。
やっぱり騎士団長様にも、お姫様にも見せ場が欲しいのです。
特にフィルメリアではあまり実力が目立たなかったセティスも、実際はトンデモ性能なので頑張ってもらいたい。
なので次回は騎士団長様とお姫様が無双の予定?




