6-1:お忍び旅行は冒険者パーティで
今回から新章開始です。
「ここが彼の言っていた地、イゼルパレス跡地に近い街なのですね。神聖ストラシャペル法王国、初めて来ました。」
「ええ、敬虔な信徒が多い、法の整備がとてもしっかりとした国家ですわね。
お隣のキャスタブール魔法王国と一時期はよく争っておりましたが、ここ最近は色々と和解が進んだようで、今はとても平和な、住みやすい国になっておりますわね。」
「フィルメリアから普通に訪れるとなると、南北に長いアールランドと、大国ラグラシア連邦を超えた向こう、かなりの距離になるな。馬車で来ると思うと気が遠くなる。」
「セラ様の転移魔法はズルいですよね。まあずっとご一緒してる私もズルいですけれど。」
フィルメリアから旅立った四人は、ファウストに聞いた地、旧イゼルパレス帝国の跡地を調査するために、セラフィーナがかつて訪れ、目印を残した地へと空間転移魔法で移動してきた。
その地は神聖ストラシャペル法王国の北部にある街、ノースチャペル。この国は東西南北にひとつずつ、神殿を中心とする大きな街を持ち、国の中央にはセントラルパレスと呼ばれる、巨大な宮殿兼神殿がある王都がある。
「フィルメリアと比べると、ずいぶんと宗教色が強い国ですね。観光客や他国の者はともかく、国民はほぼ皆ストラス教の信者。この国で宗教のお話をするのはあまりよくないですね。」
シェルンが説明し、それに頷くアセリア姫とセティス。
二人はごく一般的な、魔法使いと剣士の姿である。シェルンもメイド服はやめて軽装の旅人服。
今回の旅は、四人組の冒険者パーティとして動いている。
その中で一番困ったのはセラ様の服。いつもながらのお姫様スタイルを貫こうとしたので、シェルンはかつてこの国を訪れた時の苦労を思い出して、必死にお願いをした。
「今回はセラ様と私だけじゃないんです。お忍びのお二人が目立たない姿なのに、セラ様が全力で目立ったら台無しです!さすがにお着替えしてください!魔法で色々創れるじゃないですか!」
最終的にはシェルンの説明に渋々納得し、セラフィーナも一般的な魔法使いルックになっている。
その結果このパーティは、瑠璃色のローブに白銀の髪を持つ魔法使いと、純白のローブににプラチナピンクの髪を持つ魔法使い。
見目麗しい二人の魔法使いを擁する、お姫様スタイルじゃなくてもとてもよく目立つパーティとして成立した。
もっともそれは生まれ持った姿なのでどうしようもない。
頑張ればちょっと高貴なお嬢様二人を護る旅人一行という雰囲気に見て取れなくも無いので、姫君二人はマントとフードで目立つ長い髪と、お姫様なお顔も普段は隠すことにした。
「ここはずいぶんと大きな街ですね。王都フィルメリアと比べても遜色ないどころか、我が国の王都より大きそうです。」
「それは国の規模が違いますからね。ストラシャペルの国土はたぶんフィルメリアの三倍くらいありますよ。」
物珍し気にまわりをキョロキョロ見回しているアセリア姫に、シェルンが解説しながら街の路地を進みゆく。
かつてセラフィーナがこの地を訪れたのはおおよそ25年前で、その時懇意になった宿屋に向かい歩みを進める所であるが。
「ありゃ、お宿の入り口が閉まってますね。休業でしょうか?」
目的の宿、その名も『北の最果て』は、入口にCLOSEDの札がかかっており、お休みのようだった。
「なあシェルン、なんで宿の名前が北の最果てなんだ?」
北が海に面する、大陸最北端のフィルメリアから見れば、ストラシャペルは国土の広い大国を2国も挟んで南側にある国である。
それなのになぜか最果てを名乗っているので、真面目なセティスにはそれが無駄に気になってしまう。
「それはですね、一応この国の中では一番北にある宿だから、という事らしいです。私も初めて聞いたときは同じことを宿の大将に聞きました。」
シェルンが懐かしいですねー、と言いながら説明する。
ちなみに旅に出る前に、四人は女性だけの冒険者という設定で出発した為、リーダーであるセラフィーナ以外は皆呼び捨てという話で纏まっている。
―― 旅立つ直前の打ち合わせで。
「旅の間、わたくし達は冒険者のパーティとでも致しましょう。せっかく仲良しの女の子パーティですから、皆呼び捨てというのは如何でしょう?」
女の子というには人生経験が長すぎるいにしえのお姫様が、さも当然というように仲良しを強調しながら突然パーティ結成を提案し始めた。もちろん身分を偽装するための設定である。
ついでに今まで親しくなった人には皆、様付で呼んでくるので、呼び捨てして欲しいと楽しそうに提案する。
だがセラフィーナを呼び捨てをするのは。
「さ、さすがにわたくしにそれは。」
「ああ、いくらセラフィーナ様が気さくな方と分かっていても、呼び捨ては少し、私にも難しい。」
アセリア姫にもセティスにも非常にハードルが高く、断固拒否という感じである。
いくら設定とはいえ、自国の始祖ともいえるエルフィリアの姉君であり救国の英雄。さらに世界の力を具現化した存在。
とても親しく、優しく接してくれているが、先祖だか神様に近い存在にたいしてさすがに呼び捨ては難しい。
シェルンもセラ様と呼び慣れているし、1800年以上ずっとセラ様と呼んでたので、性格的にすぐボロを出しそうである。
そう、セラフィーナとシェルンは偽名を名乗る事すらとても難易度が高い。なので変に取り繕わない方が安全なのである。
「ではセラ様をリーダーとした冒険者パーティ、という設定にすればいいのでは?それなら一応様付けで呼んでも大丈夫です。
冒険者としてはアセリア様とセティス様は魔法使いと剣士、私は拳法家とでもしますか。セラ様は。」
「魔法使いに決まっているでしょう。災厄の魔女ですわよ。」
「あー、魔法使い二人というのはパーティ的にアレですが、まあいいです。セラ様もアセリア様も、魔法使い兼神官みたいなものですし。出来ればセラ様は魔法剣士とかのがよかったですが。」
「私のように剣を身につけていないと、なかなか剣士とは名乗りづらいだろう。魔法使いならロッドが無くても誤魔化せる。」
シェルンの希望にセティスが真面目に切り返し、そこから少しパーティの設定や目的を考え始める。
当初の目的はエルフィリア復活だが、同時にフィルメリアの二人が見分を広める旅でもある。
その目的と身分をやんわり隠すため簡単に検討して、最終的には前衛二人、後衛二人の、それなりにバランスが取れた女子四人の冒険者パーティとして決定した。
ちなみにファウストを連れて行くという案もあったのだが、
「彼にはしっかりと基礎的な人としての教育が抜けています。それに女性四人に彼が同伴となると、色々誤解も生まれるでしょう。」
と、最終的に情報だけ聞いてフィルメリアに置いてきた。
アセリア姫をはじめて見た時に内心とてもときめいていた?彼は少し寂しそうにしていたが、四人は気にすることも無く。
幼さを残した未熟な少年の初恋は、あっという間にフラグを折られ心に謎の傷を負い、ここから彼はしっかりと成長していく。
はずである・・・。
―― 再び旅先、ノースチャペルの町。
「馴染みの宿がお休みとなると、拠点はどういたしましょう?」
「そうですわね。フィルメリアのように目立たない所におうちをたてて隠蔽してもよいのですが、冒険者っぽくなくなりますわね。」
「他にいい宿が無いか、少しあたってみるか。」
「あー、ちょっとその辺の人に聞いてみますね。」
ここからの予定を考え相談する中、シェルンは持ち前の人懐っこさを全力で活用し、道行く人々に話しかけていく。
元気な笑顔でポンポンと情報を収集し、あっという間に任務完了して戻ってくると。
「セラ様、事情が分かりました。最果てが最果てではなくなってました。」
「あらあら、どういうことですの?」
「ここからもう少し北に行ったあちらの角を曲がったところに、その名も『ホテル最北端』というのが出来て、ここのお宿は名称詐称になるからという事で、店じまいしたそうです。」
お休みどころか、廃業していた・・・。
「それは残念ですわね。折角パーシルさんに、久しぶりにご挨拶できると思いましたのに。」
「そうですねー。パーシルさんのお料理は結構美味しいし、サービスも良くてとてもいいお宿でしたねー。」
残念そうに話す永遠の二人。その姿に少し苦笑しつつ、
「ではやはり、別の宿を探すか。」
セティスは先に提案した通り、新たな宿を探そうとする。
「いえ、姉様、せっかくですからその、最北端というところに行ってみませんか?」
「ああ、そうか。ココが潰れてしまった原因ではあるが、その宿に行ってみるのも悪くはないな。」
「ええ。どうして最果てより北で営業されたのかも聞いてみましょう。なんだか気になりますわ。」
「それじゃ行きましょうか。こっちです。」
割と簡単に方針が決まって、皆はシェルンに案内されて、最果てから最北端へ。
場所的には大陸中央からやや南なんだけど。
歩く事数分。割と近くに最北端は存在した。
「おー。さすが綺麗ですね。新しい宿です。」
「佇まいは悪くないな。掃除も行き届いている。」
「シェルン、4人が泊れるか聞いてきてください。滞在期間はひとまず七日間としましょうか。」
「承知しました。ちょっと待っててくださいね。」
リーダー命令にシェルンが宿に入っていき。というか二人旅だった頃はセラ様がお姫様してたので、基本的にすべての対外交渉ややり取りはシェルンが担当している。
待ってる間の三人は、そのことがふと気になって。
「そういえばセラ様、前からずっと想っていたのですが、どうしてフィルメリアではずっとあのドレス姿だったのですか?」
似合っているがとても目立つ衣装、というかそれを普段着にするという所業は一国の姫君でもちょっと不思議である。
「お話しておりませんでしたかしら。一応わたくし、前にも言いました通りクリスティアラの王女です。
国土も民も失いましたが、クリスティアラという国の存在意義である、世界の力を守護する役目。
今はわたくし自身がその世界の力として動き、それを悪用されないように護り続ける役目を負っておりますわ。
つまりわたくし自身をもって、今現在もクリスティアラという国として存続しております。
その戒めとして決して立場を忘れぬよう、役目を違えないように、わたくしは王女としての姿を保ち続けておりましたの。」
少しわかりにくいかもしれないが、セラフィーナは自身の考えを一切隠すことも無く、アセリア姫に打ち明ける。
セラフィーナ自身がクリスティアラという国であり、その国を治め守護する、母から受け継いだ役割を担う。
ただ正当な継承はしておらず、王位継承の証であるティアラも妹へと渡したため自身は女王を名乗らず、ずっと王女のまま。
セラフィーナ自身、心の持ちようだけと分かってはいるが、亡国の王女は、今は本来亡き国を自身の中に保ち続ける。
セラフィーナの言葉を聞き理解して、アセリア姫もセティスも、少し申し訳ないような気分になる。
気楽にドレス姿を続けていた理由を尋ねたはずなのに。
その想いは、役割はとても重く。
「セラ様、おっけーですよー。四人泊まれます。というかもう宿泊の手続き済ませてきました。あと、きっとセラ様ビックリするので早く中に入ってくださいね。」
少しだけ、かつての話を聞いたあの時を思い出して沈みかけた気持ちが、シェルンの人懐こい声にかき消され、「あらあら、こんどはなんですの?」と問いかけるセラフィーナに続き。
「ありがとうございますシェルン。それでは一度、お部屋に参りましょう。」
アセリア姫は明るい笑顔で、お忍びの外国旅行、その初めての宿泊先に、セティスと共に嬉しそうに入っていく。
そしてすぐ。
「おじゃましますね。あら、パーシルさんですか?あらら?」
受付で待っていた男を見て、セラフィーナが首をかしげる。
「いらっしゃいませ。ホテル最北端へようこそ。って、旅の方、親父をご存知なんですか?」
セラフィーナの問いに、笑顔で答える男。
(やっぱり息子さんでしたか。よく似てるはずです。)
実は最初に入った時、シェルンもその姿に驚いたが、セラフィーナも店主も驚かせたかったので、特に何も言わずに宿の空き確認と宿泊手続きだけを済ませていた。
その結果は想定通りで。
「あらあら。お父様ということは、あなたはパーシルさんの御子息なのですね。なるほど、とてもよく似ておられますわ。」
セラフィーナはとても嬉しそうに微笑む。セラフィーナが世界を巡る中で、最もうれしいことのひとつ。
かつて知り合った人々が幸せな家庭を持って子を成し、その子孫にあたる者たちに出会えること。
人々が世代を超えて連綿と続いていくことが、絶えず新たな命を大切に育まれていることが、セラフィーナにはとても幸せ。
おおよそ25年ぶりに訪れたこの地で、馴染みの宿が無くなっていたことに内心少し寂しさを感じてはいたが、結果的にはとても嬉しい、世代交代によるお店のリニューアルだった。
その後ひとまず宿の部屋に行き。
「よ、四人部屋、ですか。」
「あたりまえですよー。男の子はいないから問題ないです。むしろアセリアやセティスが個室だと逆に心配です。」
セラ様以外は呼び捨てという事で、シェルンもフィルメリアの二人を呼び捨てにする。
その呼び方は特に違和感なく、シェルンが目上の者を呼び捨てすることも不思議に感じるのだが。
当のシェルンは「セラ様の子孫」みたいに捉えているので、セラ様の義姉であるシェルンから見れば、本来は敬意を払う必要が無いと言えばない間柄。
フィルメリアでは対外的に見て問題にならないように、侍女として振舞っているだけであった。
部屋に入って、少し落ち着いて。
朝から出発して、セラワープであっという間にここまで来ているので、まだまだお昼には早い時間。
「では遺跡への出立は明日として、今日は一日この街を散策しましょう。皆様それでよろしいですか?」
パーティリーダーの提案に、もとより見分を広める事も目的の二人は当然頷いて、シェルンは基本方針についてはセラフィーナの思うがのままに、なので、さっそくみんなで街へ繰り出す。
「では、あちらに確か美味しいお店がありましたから、まずは」
「セラ様、お食事はお昼になってからにしましょう。せっかくここに来たのだから、まずはこの街の神殿に参りましょう。」
宿から出てすぐ、当たり前のように提案してきた食欲魔人なリーダーの意見は速攻で却下され、見分を広めたいお姫様が、この街にあっては至極真っ当な提案をする。
町の中心にある神殿。通称ノースパレス。ノースチャペルの街を統治する政府機構の建物であり、宗教国家としての礼拝堂でもある巨大な建築物。
その建築様式はこの国の特色である、屋根が丸く滑らかな形状でお城のような外見を持つ神殿である。
「わ、わかりましたわ。まずは神殿に参りましょう。」
少ししょんぼりしながらも、真っ当な提案に我欲で押し通すわけにもいかず、賛同するセラフィーナ。
今朝もシェルンのスペシャルモーニング(4人前)を食べてきたというのに、どうしてもうお腹が空いているのか?
いにしえのお姫様が抱える不思議はおいておき、四人は宗教国家として統一された、整然とした街並みを眺めながら街の中央へと歩みゆく。
そんな四人の行く先、神殿ノースパレス。
その中でも中心にある大きめな執務室で、二人の男が緊張感を感じる声でやり取りをしてた。
「アルフレート様、これから如何致しましょう?」
「まだ中央には報告しないでくれ。おおごとにはしたくない。」
「承知いたしました。ですが。」
「もちろん捜索隊は出すし、私もこれから探してくる。お前は礼拝堂の対応を頼む。」
「わ、わかりました。お気を付けを。」
この街の執政と神殿の長を務める男、アルフレート・ノーティス大司教が、憔悴しきった表情で執務室を出て行った。
「クリス様、どちらに行かれたのか・・・」
執務室に残されたアルフレートの補佐を務める男、マイアス・レーテ司祭は、与えられた役割を果たすため。
朝から神殿にお祈りに来る信者を迎えるために、礼拝堂へと重い足取りで向かっていった。




