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5-11:大浴場!そしてとうとうスイーツです!お泊り会?

「ふぅ。落ち着くな。」

「これはとんでもなく贅沢ですね。」

「ああ、一般公開するとなると目玉の一つになるな。」


 メルヘン城でディナーを終えた後、ちょっと謎のスイッチが入ったようなアセリア姫が凄い勢いで入浴をすすめ、皆少し微笑ましい気分になりながらも大浴場へと向かい、今その素晴らしさをゆっくりと堪能していた。


 大きな湯船の一角でゆっくりと暖まっているのは。


 フィルメリア王国国王クラード。


 これは姫方ではなく殿方の湯の実況である。


 国王陛下の隣にはかつての弟子であり元騎士団長でもあるアルヴィンスが、鍛え抜かれた状態を晒しながらもゆったりと落ち着き、反対の隣にはシェフィールド領主グライスが、ごくらく極楽と言った風情でのんびりと湯を愉しんでいる。。


 向かい合う形で若輩のレイノルドとグラツィオ、ラムザス、そして少し遠慮がちなリッチェルが並んで浸かっている。

 ディナーの時にメルヘン城を娯楽施設として一般公開したいと要望をしてきたセラフィーナの言葉、そして大まかな施設についての情報を聞いたグライスは、今実際にこの大浴場を堪能して感動していた。


 王宮にすら存在しないような、豪華な大浴場。魔法で創られている為浴室全体が非常に丈夫で傷つくことも無く、セラフィーナが解除しない限り永続するという夢のような設備。

 そしてセラフィーナが謎の魔法で構築した、水温自動調整機構と水質管理機構。大浴場はとてもいい湯加減で、しかも湯の中を清浄魔法が循環してずっと清潔を保っている。


 こんな魔法技術はフィルメリアどころか、いま世界中を見渡しても存在せず、それだけでもセラフィーナが異世界から来た者の知識を受け継いでいる、という話に納得できる。


 だがここから、更に先があり。


「なあグラツィオ、あの扉なんだと思う?」

「いや、あっちが脱衣所だろ。全く逆だな。なんだ?」


 大浴場は階段を上った先に男女に分かれた入口があり、そこから脱衣所を抜けて入る構造になっているが。

 そのさらに奥、海を見渡せる大きな窓の横にある扉。

 その存在を兼ねてから気にしていた若い二人が話にあげて、グラツィオが扉に向かい、開く。そして。


「うおっ!?なんだこれ!おいレイノルド、ラムザス、リッチェルさんも来てくれ!コレすげえ!!」


 仕事時以外は、いや仕事中も必要なければ常に軽いノリのグラツィオが興奮した感じで皆を呼ぶ。


「どうしたんだよ。ん、おお!」

「マジか!外なのか!」

「こ、こんなところに。これはすごいです!」


 呼ばれてきた三人はそれぞれ驚きを隠せない。


 扉の向こうにあったのは。


 露天風呂。成人男性が30人位は余裕をもって入れそうな、大浴場ほどではないがかなり大きな湯舟である。

 メルヘン城の外見とまるで一致しない、和風の趣も見せる石造りの浴槽は、外で直接シェフィールドの美しい海岸線を見ながらお湯に浸かる事が出来るという、贅沢な施設である。


 この世界に、露天風呂という概念はない。なんなら温泉が存在しない。フィルメリアを含むこの地域、少なくともフィルメリアから見て東にある森、さらにその向こうの大山脈で分断されているこの地域において、火山が存在しないのである。


「旦那様!これは本当に凄いです。娯楽施設の目玉ですよっ!」


 興奮したような雰囲気で主人を呼ぶリッチェルに、国王と並んでのんびり湯を楽しんでいたグライスも何事かと足を運び、今まで見たことも無い、建物の外にある湯船に驚く。


 当然残った二人も続き、同じように驚いて。


「いや、外に風呂を作るなどという発想は無かった。しかしこれなら窓から外を見るよりずっと綺麗に見えるぞ。」

「天気さえよければ、これはとてつもない贅沢ですな。」

「アルヴィンス様。アレはたぶん防護結界の発生装置じゃないですか?雨が降ったらたぶん自動で屋根ができるのでは?」


 部屋の全容を確認していたレイノルドが、陛下の言葉に頷きながらも天気を気にしたアルヴィンスに指差し教える。


「あの魔石、あれか。たしかにそう見える。あの方はどれだけ魔法というものを自由な発想で扱われているんだ。」


 皆一様に驚きながらキョロキョロして、一通り設備を見てから石造りの湯船に浸かって、月明かりに煌めく夜の海を眺める。



「これほどの景色が、この地にはあるのだな。」

「ここを娯楽施設に。民の為に使ってほしいというセラフィーナ様の言葉。実現するためには定期馬車の運行も考えねばな。」

「グライス、国からも補助を出す。ここは宿泊施設もあるのだろう。シェフィールドだけに留めるのは勿体ない。」


 気が付けばメルヘン城を民の為に使ってほしいというセラフィーナのお願いは、領主だけでなく国王にも伝わって。


 これからしばらくの後、メルヘン城改め、娯楽施設名「セラ様のお城(グラツィオ命名)」は、シェフィールドのみならず王国全体から大人気の施設として、多くの人が集まる事となる。


 ちなみにその命名が後々戻ってきたセラ様を、国民全体が認知してしまうという結果に導くことを彼らは知らない。



―― オッサン達・・・国王たちが感動していたころ。


 こちらは姫方の湯の実況。


 当然こちらでも皆がその贅沢な施設を堪能していた。


「ちょっとレアニール、貴女前もここに泊ったじゃない。その時もまさかこのお風呂に入ったの?」

「え、ええ。姫様もお嬢様も一緒に入れと仰られて。」

「ねえレアニール、それは当たり前でしょ。貴女一人だけ別になんてできるわけないじゃない。そうよねマリアリス。」


 湯船の一角ではシェフィールド邸に使える使用人二人がお嬢様と共に元気にお話をしていたり。


「あの、団長。コレ騎士団宿舎にも同じ施設作れませんか?間違いなく皆の英気を養える素晴らしいものだと思います。というか幸せです。私毎日入りたいくらいです。」


 大きな浴槽の中、あまりの快適さと幸せに、欲望ダダ洩れでセティスに問いかけるクラリスがいたり。


「いや、クラリス、言いたいことは分かる。だがこれは我々で何とかできるモノでもないだろう。」

「ありがとうクラリスさん、お気に召したようで何よりですわ。」


 ラムザスへのお願いが叶ってしまい、いつもの生真面目さがなりを潜めて甘えた雰囲気になっているクラリスに対し、現実的な回答をする騎士団長と、嬉しそうな制作者本人。


 その嬉しそうなご主人様に一抹の不安を抱えた侍女は。


「セラ様、もしかして騎士団宿舎にも作っちゃおうかなぁ。なんて思ってたりしません?」

「え?いえ、まあ、ご要望があるようですし。」


 その不安通り、天然のお姫様は割と軽いノリでもうひとつ作ってもいいかなぁ、なんて考えていた。

 故にその考えは、侍女の言葉に一刀両断される。


「それやると、皆が欲しいって言いだして収拾がつかなくなりますよ。騎士団の皆様だけを贔屓にするわけにもいかないですし。」


「そ、それもそうですわね。それにわたくしがあまり干渉しても、いい結果にはなりませんわね。」

「そ、そうですね。すみません。ぜいたくを言いました。」


 シェルンの言葉にちょこっとしょんぼりしながら、それでも規格外な自分の干渉は最小限にとどめるべきと考えるセラ様。


 同じくしょんぼりした感じで、自身の欲望を諦めるクラリス。


 こちらの四人も、大きなお風呂を目いっぱい楽しんでいる。


 だが一人だけ、湯船の隅っこで何かいつもと違う感じになっている少女がいて、少しだけ離れた位置から母に見守られていた。

 その表情はまだ長く湯船に浸かったわけでもないのに、少しのぼせたような、ぽぉ~っとした顔になっていて。


「アセリア様?もしかしてのぼせてます?」


 心配したシェルンが近づき、声をかける。するとお姫様は何だかどこかにトリップしていたようで、少し間をおいて。


「・・・・え!?あ、はい!大丈夫ですわ。食べ過ぎたりはしませんわ。ご安心を・・・あれ?」


 目の前にシェルンを認めて、ようやく現実に帰って来てた。


 そのお顔は少しキョトンとした感じ。


「アセリア、せめてもう少し落ち着きなさい。いつもの貴女は一体どこに行ってしまったの?」


 見守っている母は少し呆れた感じで娘の様子に苦笑い。


 だがこれは仕方のないことで、魔法マニアのアセリア姫にとって甘いモノは、魔法と同じ位置にあるくらいに最高のご褒美であり、姫にとって唯一ともいえる純粋な楽しみなのである。


 そして先ほど聞いた、シェルン謹製のスイーツ。信じられない程に美味しいお料理を今まで何度も作ってくれたあのシェルンが作った、セラフィーナも絶賛する一品。


 それがもうすぐ頂ける。


 このあと皆で迎えるスイーツタイムがあまりにも魅惑的過ぎて、待ち遠しくて。その表情はまた少しほわぁ、とした感じになる。


「あの、王妃様。アセリア様っていつもこんな感じなんですか?」


 普段のお姫様とはあまりに違うその様子に、少し心配したように母親に聞くシェルン。


「お恥ずかしい所をお見せして、ごめんなさいね。この子は甘いものが大好きでして。もう目が無くて。」


 母として少し恥ずかしいですわ、みたいな感じで、娘の甘い物好きすぎを苦笑いで見つめるシルヴィア王妃。


 だが彼女は、そのアセリア姫の母である。


 それはつまり?



「アセリア様、甘いものには昔っから目がないですよね。」


 幼馴染で親友でもあるミリエラもアセリア姫の元に来て、よく知っているお姫様の好みを語りだす。

 子供の頃、一緒に遊んでいた時に迎えたオヤツタイムは、とても幸せそうだった。


 さらにお姫様の甘いモノ好きについては、あまり繋がりが無さそうなクラリスまでも語りだす。


「姫様の甘いモノ好きはすごくてですね、王都にあるすべての甘味処やスイーツショップをご存知なんです。

 私もおすすめを色々教えていただいていますし、お店もアセリア様のお眼鏡にかなうようにと、日々精進してるんです。

 最近はどんどん美味しくなっていくお店がすごく楽しみでして、非番の時は姫様に今おすすめのお店を教えていただいて。あ!」


 ここまで話をして、急にしまった!という顔をするクラリス。もちろん今のお話だけで、なんで前回も今日も非番のクラリスをアセリア姫が簡単に見つけられたのか、セラフィーナもセティスも明確に理解してしまう。


 せっかく秘密にしてもらったのに、盛大に自爆して。


「なるほど。姫様はクラリスを探す時、事前に教えた甘味処を回っていたのだな。」


「あ!いえ、その。団長。えっと、その・・・」


 セラフィーナに呼ばれる時は今回のような状況か、国家存亡にかかわりそうなときというイメージだから仕方ないのだが、団長に知られてしまうと、緊急以外のお仕事でも呼ばれちゃう。


 クラリスは勤務中はとてもまじめで優秀、さらに騎士団随一の魔法の使い手という事もあり、騎士団長には結構頼りにされている。

 ただ出来れば、休日はアセリア姫に教えてもらって以来ハマっている甘味巡りをしたい気持ちが強くてナイショにしていた。


「セティス様。クラリスさんはお休みくらい甘いモノを楽しみたいというようなお顔をしてますわよ。」


 その気持ちを汲み取ったセラ様だが。


「いえ、私も休日を蔑ろにするつもりはありませんので、余程の緊急時以外は呼ぶつもりはありません。

 だがクラリス、魔法のお話をしたいときに一緒にお店に行く、というのならどうだろうか?迷惑になるか?」


「い、いえ。それならまだ。迷惑という事は。」


「それに私の都合で話をしながら甘味屋に行くという時は、もちろん私から出させてもらう。経費としてもいいが私自身の知見を広めるためだ。そのくらいは自費で出させてもらうよ。」


「そ、それでしたら!ぜひっ!」


 なんだかうまいこと言いくるめているように感じられなくもないが、休みの度にお店に行くとそこそこの出費になる。

 もちろん夫婦共に騎士団上位のクラリス、お給金的に困る所などないのだが、それでも団長の奢りはちょっと嬉しい。


 結局アセリア姫のおかしな状況から甘味のお話が広がり、姫方の皆さまは露天風呂を堪能することも無く。


 後にセラ様が「忘れておりましたわ!失敗でしたわ!」と騒ぐのだがそれは後の祭りである。



―― 皆さっぱりして、ほっこりして。


 お風呂のとき以上にテンションが上がっているアセリア姫を微笑ましく見守りながら、皆再びティールームに集合する。


「あなた、甘いモノは苦手でしたよね。わたくしが頂いても」

「いや、シェルン殿の作だ。さすがに俺も食べたい。」


 なんだか徐々に娘と雰囲気が重なり始めたお母さんもいるが、ともかく待望のスイーツパーティが始まって、今回は侍女と料理長の三人だけで給仕を進めていく。


 そもそもスイーツ自体は既にシェルンが作ったものを魔冷庫、魔石で冷やす冷蔵庫に入れて冷やしている状況なので、あとはお皿に載せて皆様にお届けするだけである。


 こうしてシェルン謹製、セラ様の記憶から引っ張り出したこの世界には本来ないはずのスイーツが、テーブルに並べられる。


「え?こ、これ。スイーツですの?食べられますの??」


 最初に出されたのは、色とりどりの果物をカットして上部に敷き詰められ、ゼリーで固められたフルーツのタルト。

 透明感のあるゼリーはこちらの世界ではほとんどお目にかかれないが、そこに並べられたカットフルーツはその透明コーティングでキラキラと宝石のように輝いて見える。


 フルーツの層にはブドウやリンゴ、イチゴにブルーベリーと季節感がまるでない色々なフルーツが並び。

 対象の時間を操るシェルンのズルであり、それぞれの季節に入手した果物を時間停止させてたくさん保存しているのである。


 タルト生地はフィナンシェでも利用したフィルメリア産、レーベルグのバターとカーランドの小麦をふんだんに使っている。

 タルト生地とフルーツの間には、こちらもレーベルグで取れた新鮮な牛乳とたまごを使ったカスタードクリーム。


 あの短時間でどうやって作ったのかと疑うしかない、とても綺麗なタルトである。


 各テーブルごとにホールで用意されたタルトを丁寧に切り分けて皆様の手元へ。

 シェルンが切り分けている間にレアニールとマリアリスはシェルンに指示されて、見たことがない黒い飲み物をティーポットからカップへと注いでいく。

 テーブルにはそれに合わせてクリームと角砂糖も用意され。


「お待たせしました。皆様どうぞ、お召し上がりください。」


 お料理をみんなに喜んでもらえる事がとても嬉しい永遠の侍女は人懐こい笑みを皆に向け、スイーツパーティ開始を宣言する。


「すごく綺麗。な、なんだかもったいない気もしますけれど、頂きますわ。ん・・・!!!!」


 スイーツを楽しみにし過ぎていたアセリア姫が先陣を切って1ピースからフォークで切り取った一口を頂き、そのお顔が一度とても驚いた表情になって。


 そこからゆるゆると、蕩けるように至福のお顔となる。


 何も言えない程に、シェルンのタルトは絶品で。


 願わくばずっと味わっていたいほどの完成度。


 季節を無視した新鮮なフルーツはどれも濃厚なお味で、軽い酸味としっかりした甘さがお口の中にさっと広がり。

 それを後押しするかのように、すっきりしていてコクもある、軽い食感のカスタードクリームの甘さが広がる。

 それらを支えるタルト生地は濃厚なバターの味に、小麦そのものの味もしっかりと感じ取れる味わいで。


 それらがどれも邪魔をしないように渾然一体となり、お口の中に幸せな世界を創り出す。


 最初の一口で全てを悟ったお姫様は、もう涙を流すほどに喜びながらその一口をしっかり味わい。


「シェルンさん、こんなに素敵な逸品をありがとうございます。」


 感動したように言葉にする。


 ほんとうにこのメイドさんは凄すぎる。戦いの場でも、癒しの力においても、あらゆる面でアセリア姫とセティスを軽々上回る技量を持ちながら、これほどお料理も得意。


 アセリア姫の感動している姿を見て、少し過剰な反応を微笑ましく見守っていた他の皆も頂いて。


 姫君同様、一度固まる。


 そのタルトの破壊力は、老若男女問わず皆に愛される絶妙なさじ加減で、年齢を重ねた身でもペロリと行けるこの軽さ。

 それなのに重厚で複雑な、もっと欲しくなるこのお味。


 1ホールのサイズはそこそこ大きいので、各テーブルでは食べ奨めた者たちからどんどんおかわりを頂いて、あっという間に全てが食べ尽くされてしまい。


「わ、わたくしもっと食べたいですわ。シェルンさん、これはもうございませんの?」


 滅多なことでは我欲を出さないお姫様が、この時だけはもう居ても立っても居られないという雰囲気で次を求める。


「あはは。アセリア様はホントに甘いモノがお好きなのですね。でもごめんなさい、これは今ので打ち止めです。」


 キッチンに戻って何やらしながら返すシェルンの言葉に、お姫様は何だかショックを受けたようにしょんぼりして。


「今のうちにお飲み物も頂いて下さいね。ソレ、すごく飲みやすく仕上げてますから。」


 次を用意するシェルンは、レアニールとマリアリスに注いでもらった飲み物をお勧めする。


 皆それを、見たことがない黒い飲み物を口に含み。


 最初はちょっと、ん?という顔をして。


 それから少しずつ飲んで、だんだん味わって。


「こ、これはなんだ?すごく良い香りとフルーツのような味わい、キツさがまるでない苦さ。そしてさっぱりした後味。」


 国王陛下が知らない飲み物に感動する。フィルメリアに限らずこの世界にはお茶、紅茶や緑茶は存在するが。


 コーヒーが存在しなかった。


 そこでセラフィーナの知識をもとに、同系統の植物を探して、そこからは魔法でズルして色々変化させ、セラフィーナの味覚に合った豆を創り出した。

 完成すればあとは時短魔法で大量生産して、豆を焙煎したら一番いい状態で時間停止して保存する。

 セラフィーナ自体が世界そのものと繋がっていて空間移動は自由自在なので、時間さえ止めてしまえば世界の裏側にまわって、どこにでも保存し放題である。


 そんな、とてもズルい方法で数百年前から保持しているコーヒー豆を使ったコーヒーは、紅茶やハーブティと並ぶ、セラフィーナが朝を迎えた時に頂く楽しみの一つである。


 今振舞っているのはそんな、この世界には本来存在しないはずのコーヒー。苦いものが苦手な人でもブラックで行けてしまうほどに雑味やエグみを無くし、甘くないのにほんのり甘さを感じさせる、セラ様好みの至高の逸品である。


「これは美味いな。甘いモノばかりだとどうしたモノかと考えていたが、これは実に美味い。先ほどのケーキ・・・タルトか。アレの甘さもすっと消えて、いくらでも行きたくなるな。」


 普段は甘いモノなど食べないアルヴィンスも、国王クラード同様コーヒーを絶賛する。

 実は苦いモノが苦手で、濃いお茶が飲めないアセリア姫もこのコーヒーはフルーティな香りに躊躇なく頂き、喜び。


「レアニール、コレは頂いてないわよね。」

「はい、シェルンさんにお分け頂いたのは、ハーブティに使う数種類のハーブだけですね。」

「そっか、コレも欲しかったな。」


 騎士団組テーブルにいるお嬢様が隣のテーブルに問いかけ、ちょっとしょんぼりする。

 その父もシェフィールド組テーブルでしょんぼりしていた。


 コーヒーで一息ついた面々をよそにシェルンはキッチンでサクサク次の品を用意して、またテーブルへと運ぶ。


 次に出てきたのは、というかコース料理後なのでこれが一応最後のスイーツになるのだが。


 ひとつのお皿に載っているのは、むき身の瑞々しい桃と、その横にはホイップクリーム。

 その皿の隣には、なんだか分からない白く柔らかい塊。そこにはミントの葉が添えられている。


 先ほどとは違い、見た目はとてもシンプル。特に桃は本当にこの世界にもある桃を剥いただけ、にみえる。


 先ほどより見た目のインパクトは少ないが、それでも美味しそうな桃は皆の食欲を刺激して、そこにシェルンの説明が入る。


「こちらは桃のパフェとバニラアイスになります。バニラアイスは溶けてしまうのでお早めにお食べ下さいね。」


 桃のパフェ。見た目はただの桃なのに?


 そして問題はバニラアイス。実はこの世界、アイスクリームが存在せず、冷菓は基本シャーベット的なモノである。

 凍らせるだけであれば魔法を使えばとても簡単。だがシェルンはセラ様の記憶にあるアイスクリームを実現していた。


 桃はすぐに分かるので、皆スプーンをまずはバニラアイスに運んで、それを一口。

 もちろんこれもシェルン手作りの逸品。フィルメリア、カーランドの乳製品はとても質がよく、あの領主の元で酪農家の皆さまはホントによくやってくれてたなと感心するほどであり。

 ウィンストが失脚した後は民想いの人選で領の運営も進めているので、おそらくこれまで苦しい想いをしていた領民達にはしっかり還元してくれる、ハズである。


 と、話はそれたがアイスクリーム。しかも絶妙にソフトクリーム感を出したやわらかなくちどけのひとしなは、シャーベット以外の柔らかい冷菓という知らない食感を齎して。


 口にした皆はそのくちどけの良さと、良質なミルクから成る高い乳脂肪分のコクがあるお味、さっぱりした後味に、スプーンを運ぶ手が止められなくなり。


 溶ける心配など不要とばかりに、あっという間に食べ尽くす。


 そうなればあとは桃のパフェ。と言っても丸ごと桃があるだけでパフェ要素がどこにもない。

 ともかくこれも食べて見れば、と、用意されたフォークをスッと桃に入れると思いのほか柔らかく桃の実は切れて。


 内側には種が無く、淡い桃色のクリームがぎっしりと詰め込まれていた。実はそれもアイスクリームで。

 桃の果汁をたっぷりと使ったうえで作られた、桃アイスである。それを柔らかい果肉と共に口に運び。


「ん!・・・・」


 実は果物好きなシェフィールドのお嬢様が、先のタルトから続く新鮮なフルーツ攻めに感動したような表情になる。


 だがそれ以上に、スイーツ大好きなお姫様は。


「ん~~~~。」


 なんかもう、恍惚と言った表情で頂いていた。


 なんだかティールームが静かになり、もう皆黙々と桃のパフェを食べ進め、あっという間になくなって。


 最後にまたコーヒーを頂いて。



「お父様、お母様。わたくしここに住みますわ。もう一生シェルンさんのお傍から離れませんわ。」



 お姫様が、暴走し始めました。



 もちろん普段のアセリア姫なら冗談で済むのだが、この状態のお姫様はダメだと母は分かっていて。


「ええアセリア、私もお供しますわ。」



 それどころか、同じ血を持つお母さんも暴走していました。



 他のテーブルを見るとダンナに無理難題を吹っ掛けている、お姫様の甘いモノ好き仲間が居たり。



「マリアリス、これだけでもいい。レシピを身につけてくれ。」



 料理長に無理難題を吹っ掛ける領主が居たり。



 メルヘン城のスイーツパーティは、多くの犠牲者・・・今後それがおいそれと食べられない事に心理的ダメージを負ったものを生み出して、失意の中?でお開きとなった。



「セラ様、皆様の目が怖いです。なんだか誘拐されそうです。」



 永遠の侍女に謎の危機感を植え付けて。



 だがこの後は、お泊り会。皆宛がわれた部屋へと向かい。



「いや、ダメではないが・・・むぅ。」



 レイノルドとミリエラが同じ部屋というセラ様の割り振りに、お父さんはちょっと複雑な心境で。

 認めているし、祝福もしているのだが。


 セラ様はまたアセリア姫の部屋にこっそり入ろうとして、止めようとしたセティスが両親に阻まれたり。


 なので今日はお姫様二人は同室でお泊りである。


 もちろん夫婦と近いうちに夫婦になる二つのペアはそれぞれ同じ部屋となり、今日はレアニールがリッチェルと同室なのでシェルンはもう一人の使用人のお部屋に突入し。



 きっと皆が寝るまで、楽しい夜になりそうで。



「騎士団では私と兄上だけが一人部屋ですね。そろそろ兄上もお相手を見つけてください。」


 お相手を見つける気がすでにない騎士団長は、義兄に謎のはっぱをかける。それを聞いていたもう一人は。


「いや団長、俺を忘れないで欲しいっす。」


「ああすまん。お前も一人だったな。ついでに言っておくが私の部屋に来たら斬るからな。ところでグラツィオ、お前浮いた噂を聞かないが、気になる子はいないのか?」


 存在を忘れられたかと焦ったグラツィオには、意外と恋愛ごとをぐいぐい押していく騎士団長にからかわれたり。


「いや、最近気になる子は出来たんですが、脈は全く一切、これっぽっちもないですね。」


「ほう、誰だ?私にできる相手なら取り持つぞ。」


「あー、シェルンちゃんっす。」


「そうか。無理だな。そして気安いな。」


「無理ですよね。気安いのはまあ、俺ですし。」



 幼馴染が既に幸せになっている男は、軽い感じで本気で惚れかけてる相手を溢したり。



 メルヘン城の夜は、こうして更けていき・・・。


なんでもできる万能メイド、そしてお料理が超絶美味しい。

普通ならシェルンは引く手あまたな気がします。

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