5-9:驚きの希望?それよりもディナーの準備ですっ
お話が進むどころか、謎の流れになってきました。
「え、あの少年を、ですか?どういったお願いでしょう?」
アセリア姫が少し不思議そうな表情で、突然お願いというか、自分とセティス、さらに何も関りの無いようなファウストを借りたいと言い出したセラフィーナに首をかしげる。
隣で聞いていたセティスも同様、セラフィーナが何を考えているのかがまるで分からない。
まだ子供、しかも年齢以上に幼い精神を持つ少年はアセリア姫の願いを皆が聞き入れ、フィルメリアで保護する形となっている。
その少年を借りたいという事は、彼の力が必要という事で、かつて自分たちの国を滅ぼした兵器を操る少年に何を求めるのか、どういった理由なのかをまず把握したい。
聞かれたセラフィーナは、もうすっかりいつもの雰囲気で、それどころかとても嬉しそうな表情でアセリア姫の問いに答える。
「ええ。あの少年です。もちろんアセリア様のご協力も必要ですし、セティス様にもお力添えをお願いしたいですわ。
彼の知識、力を借りて、そしてシェルンの知識も借りれば実現できるかもしれない事がございますの。」
そして立ち上がり、アセリア姫の元へ歩み寄り。
今は姫の前、テーブルの上に置かれているクリスタルのティアラにそっと触れて。
「アセリア様が受け継いでくださったこのティアラ、その中に今は眠っているエルの意識を新たな体に宿らせて、アセリア様のお身体を借りずに今の時代を生きる事が出来る。
少しわたくしも信じられませんでしたが、シェルンの記憶にはそんなことを可能にする技術も含まれていたそうですの。」
セラフィーナの妹が、エルフィリアが文字通り現代に蘇る。
今の言葉をそのまま聞けばそれはつまりそういう事で、その言葉にはアセリア姫やセティスだけでなく、国王クラード、シルヴィア王妃も驚きを隠せない。
ミリエラとレアニールはぽかーんとした表情で、先ほど感動の再会をしていた姉妹の事を思い出す。
「そ、それはセラフィーナ様、本当ですかっ!?わたくしの事をずっと見守ってくれたエルフィリア様が?」
「はい。確実、とは言えませんが、彼があの技術を見つけた地にはそれを実現する手立てが残っているかもしれません。
それにわたくしが先日確保したあの魔法兵器、あれもより良い形で使う事が出来るかもしれませんわ。
ですからわたくしは、近いうちに皆様のお力をお借りして、その地へと赴きたいと、そう考えておりますの。」
アセリア姫の言葉に微笑みながら頷き。
「わたくしもエルともっとお話ししたいですわ。わたくしにその可能性を教えてくれたシェルンも同じでしょう。」
自分にこの可能性を伝えてくれたシェルンにも言葉をかける。当然シェルンもうんうん、と頷いて肯定する。
「お父様、これはとても大切な事案ですわ!ぜひともわたくしと姉様に時間を。」
「当り前だアセリア。俺もこいつを助けてくれたエルフィリア様にはお話をうかがいたくて仕方ない。先ほどはすぐ戻られてしまったから、お声をかける機会さえなかったからな。」
「わたくしもお話は出来ませんでしたが、貴女のようにずっと守っていただきましたわ。またお会いできるのであれば、まずは一言お礼を申し上げたいですわね。」
娘の言葉をみなまで言わせず、両親はこの話に賛成である。何より自分たちの国にとって始祖にあたり、この国を代々に渡り見守り続けてきたエルフィリア。
国の代表として、護られたものとして伝えられるのであれば礼を伝えたいというのはごく自然な発想である。
結局この話についてもフィルメリア王家は全面的に協力してくれる事となり、詳細はまた詰めたうえで後日調整していこうという話となった。
昼食のコースと共に始まったセラフィーナの話も一通り終わり、時間は既に夕刻。日は落ちかけて空も紅く染まり始めている。
伝説となっていた魔女の一部始終も現代に初めて伝わって、話を聞いた者たちは皆様々な想いを胸に秘め解散となる。が。
その恐怖を齎した魔女は、現代ではとても温和でポンコツな、能天気なお姫様だったので。
「ところで皆様、わたくしのお話もとても長くなってしまいましたし、今日はもうこちらでゆっくりされてはいかがでしょうか?」
セラフィーナが魅惑の言葉を発しました。
その言葉に、またですかー。と言う感じのシェルンと、ねえレアニール、せっかくだからお父様とリッチェルも来てもらうというのは如何かしら?なんて侍女の苦労を考えないお嬢様。
だってココのお城、お風呂がとても素敵だし、今はもう夕刻。間違いなくシェルンさんの夕食も頂ける!
そんな計算をして自分に仕える侍女に告げた言葉をセラフィーナも耳にして、嬉しそうにミリエラに言葉をかける。
「グライス様もお仕事が終わっていれば、ぜひ来ていただきましょう。わたくし相談したいことがございますの。それとリッチェルさん、というのはどなたでしょうか?」
今日ミリエラを迎えに行ったときに出会ってはいるのだが、その場で誰も名前を呼んでいないのでセラフィーナは知らない。
「リッチェルは今朝セラフィーナ様がお迎えにみえた時に応対した守衛です。それと、ほら、レアニール。」
「は、はい。ら、来月から私の、夫になります。」
お嬢様が答えたうえで、侍女にその先を説明させる。それを聞いたセラフィーナはそれはもう幸せそうな笑顔になる。
このお姫様、ミリエラとレイノルドの時もそうだが、将来幸せが待っている二人を祝福するのが大好きである。
未来に向かって幸せを掴み、温かい家庭を築いて次代に受け継いでいく。それは人の輪から外れてしまったセラフィーナにとって、この上ない幸せなことで、大切なことで。
「そうなのですね!それは是非お祝いをいたしませんと。お祝いと言えばミリエラさん、貴女の伴侶もご一緒は如何ですか?」
レイノルドも誘おうとするセラフィーナ。そしてそんな、メンバーがどんどん増えていく話をなんとなく聞いていたセティスが。
「そういえば先日の殲滅戦の結果を聞いたときラムザスがなんか言ってたな。どうやったらシェルンさんにコースをお願いできるんだとか。」
「ラムザスさん、といいますと。ええと。」
「第一大隊、兄上の隊の副隊長だ。第三大隊長クラリスの旦那でもある。そういえば妻にお願いされたとか言っていたような。」
ぼんやりとした記憶を思い出しながら語るセティスに。
「クラリスさんの旦那様ですのね。でしたら是非お二人にも先日のお礼を兼ねてお招きしましょう。それとセティス様のお兄様も。」
どんどん増えるお客様に「あーもう今日は好きにしてください。私今のうちに仕入れに行ってきます。」とシェルンは早々に諦めて再び狩りに向かおうとする。
それを見たレアニールが「私もお手伝いしますっ!」とすぐに侍女魂を見せ「でしたら買い出しの方お願いしますー。これ、必要なモノのメモになります。」シェルンも阿吽の呼吸という感じでレアニールにお願いする。
なんだかこの二人、ものすごく息が合ってきた。
その後も。
「なんかレイノルド様やラムザス様もお招きしたら、グラツィオ様があとから文句言いそうですね。」
「グラツィオ様もお招きすればよいですわ。ああでも騎士団のトップを皆様お呼びするとなると、少し手続きが大変ですわね。」
と、訳の分からない形で話がどんどん膨らみ、国王陛下、騎士団長とも相談して、手薄になる際はセラフィーナが再び国土全体に監視網を張ってフォローすることで無茶な話も承諾された。
承諾されてしまった。
「殿方もこれだけおみえになるのでしたら、今日は殿方向けの大浴場もしっかりお湯を張っておきますわ。」
なんだか既にお泊りコースを想定しているこの城の主と。
「クラリス様は恥ずかしがりそうですね。」
お泊りに何の疑問も持たないお嬢様。
「それではわたくしはお招きする方々を呼んでまいりますわ。国王陛下とアセリア様、セティス様にご同行頂ければ助かりますわ。」
こうしてなし崩し的というか、もはや大宴会することが確定になってしまい、セラフィーナはお呼びする皆様の元へ。
皆に話を通すためまた国のトップを連れて、いつぞやの急ぎ過ぎの緊急招集のように領主邸と王城へと向かうのであった。
やっぱりワープできるというのはとてもズルい。
「グライス様、今朝方ぶりですわ。もしお仕事が終わっているようでしたら、少し相談がございますの。わたくしのお城で・・・」
「ええ、ええ。レアニールさんの旦那様とお伺いしましたわ。ぜひとも祝福して差し上げたいと思いまして。」
シェフィールド領主邸でお誘いする方々にお声がけして。
「わ、私も行きたいですっ!屋敷の料理はもうすべて終わってますのでぜひ!シェルン様のお料理を勉強したいのですっ!」
ミリエラのおうちに向かって予定していた二人を誘ったら、なぜかシェフィールド邸の料理長もくっついて来たり。
「ん?俺とラムザスを?ありがたい話だが騎士団の責任者がゼロになるわけには。ん?またあの監視魔法を使って頂けるのか。なら話はかわるな。第一大隊、今日は待機無しでいい!」
「おいグラツィオ。お前もだそうだ。皆は今日は上がってくれていいぞ。セラフィーナ様の魔法で国を護ってくれるそうだ。」
騎士団の者を迎えに行くと、第一、第二大体は問題無くお誘いする事が出来たのだが。
「クラリス様?はい、今日は非番です。」
また第三大隊の第一小隊がタイミング悪く非番で、なぜか前回同様アセリア姫がクラリスを見つけて来たり。
「アセリア様、前回もそうでしたが、なぜクラリスさんの所在をおわかりなのですか?」
「それはですね・・・」
「姫様っ!それはナイショでお願いしますっ!」
セラフィーナはちょっとだけ気になったので聞いてみたが、そこは教えてくれないらしい。
ただなんとなく、この二人はとても仲がよさそうである。
とりあえず無理に聞くつもりもないので、姫君に連れてきてもらったクラリスには個別の事情を説明する。
「お久しぶりですクラリスさん。今日も突然で申し訳ございませんわね。今日お誘いした理由なのですが。」
「ラムザスが、シェルンの料理をどうやったら貴女にご馳走できるかって、あの防衛線の後言っていたからな。」
「ほんとですかっ!?あ、いえ。ありがとうございます。」
旦那の願いでまたシェルンのコースが食べれると知った時のクラリスは、生真面目な雰囲気が完全に消し飛んで、とても可愛らしい女の子のような雰囲気になったり。
「あなたもやるときはやるじゃない。ありがとねっ。」
その女の子の雰囲気で旦那に感謝していたり。この夫婦、パワーバランスは分からないがとりあえず円満のようである。
一通り騎士団でお呼びしたい人員も皆集まったので、ここからはまたセラフィーナが瞬間移動で皆をメルヘン城に連れて行く。
「またここに来ることになるとはな。まあ今回は、ずいぶんと間は空いたがあの時の祝勝会みたいなものだな。」
セティスのお義兄様、アルヴィンスが久しぶりに訪れたメルヘン城に、あの時のドラゴン型魔法兵器との闘いを思い出し、少し感慨深げに言葉にする。
確かにあの後祝勝会みたいなことはやってないので、今夜のお食事会はそんな感じでもいいかもしれない。
ちなみにシェフィールド邸から連れて行った3人は先にメルヘン城に置いてきているので、ティールームでは国王クラードとグライス卿がいい感じで近況報告をしていたり。
「マリアリスまで来たのですか?」
「ちょっとレアニール、貴女だけズルいわよ。私だってシェルン様のお料理には興味あるんだから。」
買い出しから帰ってきたレアニールが、シェフィールド邸料理長のマリアリスがいる事に驚いていたり。
「まぁまぁレアニール、落ち着いて。それでシェルンさんは?」
「今は漁に行って。あ、帰ってきましたね。」
なんだか大量の魚介類やらウニやらを巨大なケースに入れてベランダから飛んで入ってきたシェルン。
レアニールは慣れたもので驚きもしないが、リッチェルとマリアリスにとっては驚愕の瞬間である。
そしてすぐキッチンに向かったシェルンは。
「レアニールさん、すみませんがこんかいも全力でお手伝いお願いします。ってあれ?さらに人が増えてる?」
「あ、こちら先日シェフィールド邸にみえた時にお料理を作ってくれていた、料理長のマリアリスです。」
「こ、こんばんはシェルン様。あの時はお粗末な料理で」
「あー、美味しかったですよっ!ありがとうございます。それで料理長という事はお料理行けますね。手伝ってくださいっ!」
レアニール以外にお料理ができる人物が来た。さらにシェフィールド邸の料理長。今夜は人数が人数だけに、シェルンも全力給仕モードだが、レアニールだけでは人手不足は否めない。
そこに現れたおあつらえ向けな人物。当然シェルンは有無を言わさず給仕側に引き込んで、そこからは怒涛のクッキングタイムへと突入する。
「なあ、この流れって。」
「当然俺たちもだな。ミリエラ、俺たちは何をすればいい?」
前回給仕に駆り出されたレイノルドとグラツィオは、もう最初からあきらめた感じで自ら手伝いを名乗り出る。
「あ、お前らがやるなら俺も手伝うわ。」
そこにラムザスも名乗りを上げて、夫が動き出したのを見たクラリスも当然何もしないわけにはいかないと考え。
「わ、私も何か、お手伝いできることありますか?」
こちらはキッチンの中にいる女性陣の方に向かう。奥様なので休日はちゃんとダンナに手料理も作っており、こちらも即戦力。
こうしてキッチンは意味不明な速度でコース料理を作り続けるシェルン指示の元、3人の女性がお料理に勤しむ。
その間、気付けばホール担当みたいな感じになっているレイノルド、グラツィオ、ラムザスの3人はとりあえずテーブルを片付けてたり、食器を洗ったりとこちらも忙しくなる。
「お前ら、前にもこんなことしてたのか。」
「ここの城、人手不足だからな。普段はセラ様とシェルンちゃんしかいないだろ。」
「ホント気安いよなお前。まあいいけどさ。」
騎士団の大隊長一人と副隊長二人。本来こんなことをするような人物ではないはずだが、なぜか楽しそうに働いている。
どうでもいことだがその姿、黙々と作業する夫をキッチンから見たクラリスは、心の内で旦那に惚れ直したりしていた。
「皆様、ご自分から動かれる素敵な方たちですわね。」
ポンコツ姫が何となく感想を漏らすと。
「ああ、なんというか私が動かないのは悪い気がするが、その。私もあまり料理はできなくてな。」
騎士団長が申し訳なさそうに呟き。
「わたくしもです。お母様はお料理できますよね。」
この国のお姫様もちょっとお料理は得意ではないが、母ができる事を言及して。
「姫様も無茶を言いなさる。いくら何でも王妃様が給仕役というのは無いだろう。ですよねシルヴィア様。」
それには第一大隊長で騎士団長の義兄が一言意見し。
「いえ、私も少し、お手伝いしたい気分になってきましたわ。アセリア、貴女も少しは覚えなさい。シェルンさん、わたくし達も。」
王妃様が謎のやる気を出してしまって。
「あー、さすがに王族の方にお料理をお願いするのは気が引けますので、お待ちいただいてだいじょ・・・はい。お願いします。」
最初は断ろうとしたポンコツ姫の侍女は、娘にお料理のひとつも覚えさせたい母の圧を受け、王家の母娘も給仕に加える。
こんな感じで何だかもう、めちゃくちゃで。
メルヘン城始まって以来の、謎の状況。高貴な方々を巻き添えにしたお料理と、騎士団の隊長、副隊長がホール係をするという謎状況に、仕方ない感じで。
「俺も、手伝うか。」
アルヴィンスも言葉少なに、レイノルドたちの手伝いを始め。
こうして明るい話題になってからは気が付けばお祝いのディナー開催となって、国の中でも地位の高い者たちが和気藹々と準備を進めていく様に。
「ふふ、ミリエラさん。貴女の国は本当に素敵な国ですわね。」
セラフィーナは少し、この国のお国柄に感動する。
「そうですね。私もみんなとてもいい方ばかりだと思います。」
相槌を打つシェフィールドのお嬢様に。
「お嬢様!姫様もお手伝いされるのです!貴女も少しは手伝ってください!」
キッチンからロックオンの言葉が飛んできました。
そしてメルヘン城は今夜、前代未聞の王国上位陣が手伝いとして駆り出されたる、謎に美味しいディナーが始まるのである。
「わたくし、何か忘れている気がしますわ。何でしたかしら。」
その成り行きには、一抹の不安を混ぜて。
話が色々ごちゃごちゃになって、繋がりがおかしいですが。
とりあえずフィルメリア王国の地位がそこそこある方は皆優しい感じのようです。




