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5-6:悪夢

3-20と被るお話ですが、セラ様視点です。


少しこの場を借りて。かなりゆっくりになってしまっておりますが、本作をお読みいただきありがとうございます。

そしていつもイイネ、をくださる方。ブクマ、評価をして下さった方、本当にありがとうございます。


物書きではない為色々至らない作ですが、皆様のおかげで続けていけるモチベーションが保てます。

誤字脱字等も気付けば直してまいりますので、これからもよろしくお願いいたします。

 セラフィーナから聞いた、クリスティアラという国が興された理由、封印を護る国であった理由。

 その一部始終を聞かされて、しばらくの間皆押し黙ったまま。


 聞いた内容があまりにも悲惨過ぎて。


 どこにも、救いが無くて。


 特に悲痛な思いをしているのは、アセリア姫の両親、フィルメリアの国王クラードと、その妻シルヴィア。

 二人も大切な子を、長男を失う経験をして、それを乗り越えて今まで生きてきた。

 妻の肩を抱き、優しくポンポンと叩く夫に、もたれるようにして下を向き、体を震わせる妻。

 やはり同じような境遇を味わったものとして、この話はその時のつらい記憶を呼び覚ます。

 それはセラフィーナの中に在る、セレナーデの心と同じ。自分の初めての子を喪うという、最悪の経験。


 今は給仕も落ち着いて、ミリエラの隣に座るレアニールは耐えられず、うつむいたままで体を震わせる。

 もちろんミリエラも同じ気持ちで、ただそれでも強くなった少女は、目をぎゅっと閉じ、涙は溢さず。


 語っていたセラフィーナの横では、シェルンが信じられないというように目を見開き、その瞳は潤み。

 まさかセラフィーナが、自分と同じあの苦しみ、悲しみ以外にも背負っていたなんて、一度も聞いた事が無くて。


 ずっと気遣ってくれていたんだと、また気付いて。


「姉様、大丈夫ですか。」


「・・・ああ、大丈夫だ。」


 うつむきじっとしている義姉に向けて声をかけるアセリア姫に、しっかりとした声で義妹に答えるセティス。

 国王夫妻と同じような感覚を二人も感じているが、心はしっかりと強く持ち。


「セラフィーナ様、少しだけ、時間を置きましょう。」


「ええ、そうですわね。アセリア様、ありがとう。」


 皆に気を遣う今の姫君に、微笑み応える過去の姫君。そしてセラフィーナはアセリア姫の心、その強さに、今もその瞳に宿す、常に前を向き進もうとする強い意志に、状況にはそぐわないが少し幸せな気持ちになる。


(エル、貴女の娘は、遠い時代の娘は。わたくし達よりもずっと強くて優しいお心をお持ちの、素敵な方ですわ。)


 心の中で、久しぶりに会った妹へと想いを伝える。



 少し時間を取り、皆思い思いの場所へ行き、少し気持ちを落ち着けて。やはり多くの者はベランダから、美しい海を見て。


 その中でベランダの一角、遠くを見つめているセラフィーナに寄り添うように立つシェルンが問う。


「セラ様、あの時に受け継がれたのは、本当にお力だけではなかったのですね。」


 今まで一度も主人から聞かなかった、初代女王の記憶。ふんわりとそれっぽい話は聞いていたが、あれほど凄惨で救いのない話だとは全く知らなかった。


「そうですわね。記憶がある、とは言いましたが、貴女にお伝えしたのは役に立つ物ばかりでしたわね。」


 そんな風に答えるセラフィーナ。


「え、そうなんですか?役立つ記憶。ええと、どういったものでしょうか?あ!お眠りの魔法とかですね。」


「いえ、確かに役立つ魔法もお伝えしてますわね。ですがそれではなくて、一番大切なのは、お料理のお話ですわ。」


「へ?おりょうり??」


「ほら、わたくし料理なんてまるでできませんけれど、貴女にこんなものと作ってほしい、食べてみたいとお願いしたことが何度もあるじゃないですか。」


 今日のフルコースにも出ている海鮮料理。新鮮なお魚やエビカニなど、高級食材をシェルンが密漁・・・漁師がとれるような場所ではない所から調達してきて、色々な形に調理して。


「お刺身なんて、この世界にはもともと無いものですわ。それにお醤油や昆布だし、鰹節なんて、誰も考えてないでしょう。」


「あ、はい。たしかに。そういえばセラ様が思いついたお料理って、全然知らないものばかりですよね。でもやってみたら全部美味しくて。あれって引き継いだ記憶なんですか?」


 じつは・・・


 セラフィーナが大絶賛するシェルンの料理やお菓子作り、あれらは全て異世界から来たという、アレグレットの記憶にあるものを曖昧な記憶から引っ張り出して、シェルンに頑張って再現してもらっているのである。


「それでは、セラ様にお願いされたお料理って。」


「ええ、アレグレットが持っている記憶から、食べてみたいものをピックアップしてお願いしているモノですわ。」


 記憶の中にあるお料理はどれもクリスティアラの姫君ですら頂いたことが無いような美味しそうなものが多く、永遠の時を手に入れてしまってからは、有能な侍女にお願いして少しずつ実現してもらっていた。

 それがシェルンの、この世界基準では圧倒的な料理スキルへと繋がっているのである。が。


「あー、以前お願いされて最悪だったあのおさかなパイも、なんでそんなもの思いつくんだろうと思ってましたが。」


「あ、あれはわたくしも失敗しましたわ。まさか見た目通りにあんなお味のパイだったなんて。」


 引っ張り出した記憶の中には、失敗例もあるようだ。



 語りてであるセラフィーナ自身も、こうして有能な侍女と少し脱力感溢れるお話をして、気持ちを落ち着かせ。



「シェルン、ここからのお話は、貴女のことも・・・」


「大丈夫です。それよりもですね、実は私も昔の記憶を冷静に思い出してみました。それでもしかしたら、なんですけれど。」


 ここで少し、シェルンが今まで思い出す事すら避けていた、兵器としての自分が持っていた記憶について語りだす。

 その話を最初は少し気遣うような視線で聞いていたセラフィーナだったが、徐々にその表情は驚きとなり。


「ほ、本当にそんなことができるのですか?いえ、貴女の記憶を疑うというのではなく、少し信じられないような話で。」


 それはセラフィーナを以てしても、驚愕のお話だったらしい。


「はい。彼の、えーっと、ファウスト君でしたか。彼の協力も必要ですし、何よりその地へ一度足を運ぶ必要がありますが。」


 あの魔獣たちや魔法兵器を従える力を持ってしまった少年、彼の助力が必要という話だが、ここでひとつまた、セラフィーナにとっては奇跡が起きるかもしれない話を聞いて。


「それは是非落ち着いてから、アセリア様にも相談してみますわ。それが実現出来たらきっとあの子も喜びますわ。」


 とても嬉しそうな、幸せそうな表情で。シェルンの頭を撫でながら「ありがとう、よく思い出してくれました。」と、大切な侍女を褒めたたえて感謝する。


 そんな感じで、この二人からはもう、これから語る凄惨な話すらも希望につなげ、ティールームへと戻り。

 他の者たちも徐々に部屋に戻ったり、最初から部屋に、席に着いたままで今は紅茶を嗜んでいる少女がいたり。


「お嬢様、如何ですか?」


「うん、美味しい。さすがレアニール。シェルンさんに頂いた茶葉も、これなら本来の味で楽しめるわ。」


 気持ちを切り替えるために、こちらも明るい、楽しい話題で過ごしていたようである。


 こうして、皆がそろうのを待って、再びセラフィーナの。自分自身がどんな存在なのかを皆に伝える、そのお話を再開する。



「封印を護る国としてのクリスティアラは、しばらくの間は強力な結界もあり、またかつての悪夢を繰り返さないために、外の者たちを招き入れるような事もせずに安寧を保ちました。」


 元々癒しを求めて集まった人々の国、外のものにそれを壊されてしまったという気持ちは大きく、クリスティアラはしばらくの間、他国との繋がりを一切絶った、鎖国状態で時を重ねた。


「ですがそれが数百年続くと、当然人々も代替わりし、悪夢の記憶も実体験から口伝へと変わって恐怖心や警戒心も薄れます。それと同時に、その期間で発展した新たな国々の中は、クリスティアラの強力な結界に目を付ける者も出てきました。」


 強力な結界。外敵から人々を護る為、悪意を寄せ付けず、様々な攻撃すら弾き返す、その時代の人々にも未知の力。

 初代女王セレナーデが紡いだ、護る為の金色に願った、世界に人々を護ってもらうような、そんな結界。


「当然その技術を、魔法を我が物にせんと考える者たちは後を絶ちません。ですがその結界はそういった悪意を悉く跳ね除ける、まさに人々を護る為の結界でした。」


 こうして、外ではそれを欲する権力者が増え、内では恐怖心や警戒心を忘れ、護られている事が当たり前となった人々となり。


 そこからまた時が経ち、とある時代に。


 危機感を持たない国民が他国へ訪れた時。


 クリスティアラの結界がどのように保たれているか。誰がそれを為しているかという事を、口外する者が出てしまった。

 更に悪いことに、結界が何のためにあるのか、クリスティアラが何を封じているのかという話も、本質を知らず、なんとなくすごいものが封じられているらしいという形で漏洩してしまう。


 当然時の権力者は、その力を欲する。


 どれほどの力を以てしても突破できないような結界。それを為す事が出来る、そんな力を持つクリスティアラ女王の血筋。


 そしてその結界を緩めるための、方法。


「それらの、本来であれば門外不出の情報が、その時代、おそらくもっとも非人道的である国家へも伝わってしまいました。そしてここからのお話が、わたくし達のお話になるのですが。」


 ここまで説明をして、一度セラフィーナが言葉を切り。


 一度侍女を見つめ、シェルンが強い意志を以て頷くのをしっかりと確認して、そして皆に向き直る。


 そこには両手を胸の前で組み、祈る様な姿勢で話を聞くミリエラもいて、皆一様に、身構えた雰囲気で。


「ここからは一部、アセリア様やセティス様、ミリエラ様が既にご存知のお話も含まれますが。その情報が当時有数の、非人道的な軍事国家に伝わったことで、また世界が動きます。」


 その時代に興された、魔導科学と生体実験を中心とする、非人道的行為を中心に突き進む国家。

 その国は人を、動物を兵器として扱うことに主眼を置き、国民は全て国の為に命を懸ける事を厭わないような傀儡ばかりの国。


 動物を兵器とするために実験を繰り返し、魔獣を創り出し。


 人を兵器とするために実験を繰り返し。


 他者を乗っ取り遠隔操作できるような魔法を。



 作って。



 ここまでの話になると、もうミリエラはセラフィーナを直視する事が出来ず、ずっと下を向いたままになり。

 アセリア姫とセティスも、今まで以上にその表情は悔しそうな、つらそうなものとなる。



 ただ、それでもまだ、ミリエラしか知らなかったことが、語られ始める。



「世界にそんな国が出来て猛威を揮っていたころに、まだクリスティアラ国内は結界のお陰で平和な日々が続いておりました。

 そんな時代にわたくしと、二人の妹は産まれまして。わたくしが8歳くらいでしたか、その頃にとある女の子と出会いましたの。」


 父が娘たちを自然の中で自由に遊ばせるために、国の外縁にある美しい湖へと連れて行ったその日。

 セラフィーナが偶然見つけたという形で、一人の行き倒れている少女を見つけて介抱し。

 その子は身寄りのない孤児であったことから、見つけたセラフィーナの家族、つまりクリスティアラ王家で引き取った。


「それがこちらのシェルンになりますの。わたくしよりひとつ年上で、最初は拾われたからと、とても丁寧にわたくし達に接してくれていたのですが、徐々に何と言いますか、その。」


「いえ、慣れてからも私、ちゃんと丁寧に接していましたよ?何しろ平民が王族に拾われたんですよ。いくら何でも無礼を働いてはいけないと、子供ながらに分かっていましたよ。」


 セラフィーナの言い方にシェルンがツッコミを入れつつ。


「と、とにかく、わたくし達を見守ってくれる長女のような感じになりましてね、それからはシェルンも含め四姉妹のように、わたくし達は日々を過ごしました。」


 シェルンが姉妹として加わってからは、それは楽しい日々で。事あるごとに何かをやらかすセラフィーナをフォローしたり。


「わたくしは母の後を継いでクリスティアラを護ることが決まっておりましたので、時々そのための修練がありまして、その間は二人の妹をシェルンが見てくださいましてね。」


「セラ様が修行中に、私はアル様とエル様を連れて、レオン様のところに遊びに行ったりもしていたんですよ。そこではだいたいアル様が剣の修行になって、エル様は数少ない兵士さん達の疲れを癒したりしてましてね。」


 そうそう、そんなこともありましたわね、なんて、このあたりは二人で説明する形となる。

 話の流れの中、セラフィーナの両親、エリスティアとレオンハルトの事もしっかりと伝えて。


 セラフィーナの説明に、「セラ様のポンコツはお父様の、レオン様譲りなんですよ。レオン様も凄くポンコツでしてね。」などとシェルンが楽しそうに説明し。

 それを聞いたセラフィーナが大慌てで、「だ、誰がポンコツですかっ?それにお父様のアレは。」なんて言い返して。


 互いに笑顔でその時代を語る二人に、場は和んだ空気となり、ただミリエラだけが最初は心配をしていたが。


 シェルンがミリエラに語った時とは違う、つらさを無理に隠した表情ではなく、本当に笑顔で語ってくれていることに、少しだけ気持ちも楽になり。


 そこからは少し、シェルンが姉妹となってとても幸せだった日々が、セラフィーナの嬉しそうな、シェルンの楽しそうな声音で伝える。それはいかにその日々が大切だったかを思い出すように。



 ただそれでも、ここからの話は、アレであって。



「それで、わたくしが母のお役目を全て習得し、いつでも継承できるようになってからおよそ一年後、わたくしが17歳の時に、それは起きました。」


 先ほどの話にあった、非人道的な研究ばかりを繰り返している国家からの、侵略。


 そこでセラフィーナは、一度確認する。


「ここからのお話は、皆様が気にされている、わたくしが災厄の魔女と呼ばれるに至った原因にもなりますが。」


 皆の目を見て。


「その原因は、とても人として許容できないような所業、と考えておりますの。ですがその結果、わたくしもまた人として決して許されざる行いをしてしまった。

 わたくしは今までそれを誰に話すことも無く、この時まで自分の内にしまっておきましたが。


 改めて伺いますわ。皆様にはわたくしの、災厄の魔女の所業とその発端となったクリスティアラの最後。何一つ包み隠さずお話してもよいと、そう考えてもよろしいでしょうか?」


 ここまでの話を伝えたうえで、再度問う。


 それは自身の所業を伝えるのが怖いわけでも、過去の忌まわしい記憶を思い出すのが怖いわけでもなく。


 ただずっと一人で抱え続けた悲しい過去を、誰かに聞いてほしかった、一緒に想いを共有してほしかったという願いを。

 これほどの時が経った今、その時代に生きる人々に果たして既に終わった、人の業に満ちた所業を話しても良いのかという、迷い。


 どれだけ超然としていても、人としてありえない程の経験をしてきたとしても。人として外れてしまっていても。


 セラフィーナが人として生きているからこその、迷い。


 その迷いに、問いに。場に集った皆の答は。


「セラフィーナ様は少し、勘違いをしてらっしゃるようだ。」


 最初に口を開いたのは、クラード。


「俺はまだまだ経験は貴女と比べるべくも無いが、これでも一国を背負い、騎士団を束ねてきた身。貴女の今の気持ちぐらい分かるつもりだ。他者に背負わせたくないのであろう。人の業を。」


 隣でシルヴィア王妃もうんうん、という感じで。


「私も改めて、あの時セラ様から見た自分がどんな風だったのかを知りたいです。聞いても私の言葉しか教えてくれませんし。」


 シェルンもその時のことをしっかり聞きたいと言い。


「私はもう知ってますから。怖いけど、大丈夫です。」


 ミリエラも気負いはない感じで。ただその横で、今までの話でもつらかったレアニールだけはそうではなさそうだが。


「レアニールも、できれば最後まで聞いてあげて。私がシェフィールドを継ぐことになっても、私は最後まで貴女に頼りたいから。」


 お嬢様に言われ、その意味をしっかり受け止めて。父グライスが操られて最悪の状況だった時も、ずっとミリエラを傍で支え続けた侍女も心を決める。

 自身の大切な主人が、想いを共有したいと望むなら、従者としては共に歩むのみと。


 そしてアセリア姫は、常に変わらない、前を向き続けると強い意志が籠った瞳で見つめ返し、ただ頷き。

 姫と共にあるセティスも、同じように言葉にせず。


 結局セラフィーナの気持ちはクラードが言った通りで、この場に居るものに、話すことで同じものを背負わせる事になる。それを恐れていただけと、あらためて気づかされ。


 一度深く頭を下げ、「皆様、ありがとう」と告げて。


 セラフィーナにとっては最悪の出来事を、その続きを語る。


「その国が狙っていたものは、クリスティアラの封印しているモノが持つ力。つまりアレグレットが繋がった世界の力と、母からわたくしが引き継ぐ、結界を維持し、封印を護る力でした。


 ただその時までは、その国は兵器をつくり数を増やし、侵略するタイミングをずっと窺っていただけでして、全てが整ったその時に、魔獣の大群で一気にクリスティアラへと進行を始めました。


 ですがわたくしの、セレナーデの作った結界、世界に願い護る力はとても強力でして、どれだけの数を魔獣が攻撃しても、その国の兵士がどれだけの魔法を撃ちこんでも、壊すことはできない、それほどの結界でした。」


 これまでの微笑を決して崩すことなく続けるセラフィーナだが、やはりその表情はミリエラに話した時と同じ。


 微笑のままで、泣いているように見える。


 だが国というものを護る立場であるフィルメリアの王家、騎士団長にとっても、侵略されるという話は他人事ではなく、セラフィーナの変化に気付いても、皆真剣な面持ちで話を聞き続ける。


「その時万が一に備え、父レオンハルトは国の兵士、あの時もおそらく100人にも満たない、とても少ない兵士さんを連れて、国の外縁部にて陣を敷き、警戒を続け。


 母エリスティアは結界が破られることの無きよう、自身の魔力を全力で使って結界を維持し続けました。


 わたくしもアル、エルも母を助けるため、母の傍でわたくしとエルは魔力のサポートを、剣術に長けたアルは部屋の入り口を固め、シェルンはわたくしの傍で警戒して。


 その状態で母の結界は魔獣の侵攻を、数時間にわたり押し留めていました。ですが彼の国はその状況に業を煮やし、非人道的な技術の粋を凝らした、最悪の魔法を使ったのです。


 結果としてそれが、自分たちを破滅に導く事すら気付かずに。」



 一度言葉を切り、もう一度シェルンを見て、二人頷く。



 そのやり取りに場に居る皆は、二人のやり取りと、先ほどからずっと祈り続けるようなミリエラの姿に。



 不安を覚えながら、その話を。



「その魔法は、事前にそれを受け取る魔法を埋め込まれた兵器を、意のままに操るような、そんな魔法でしたの。

 そしてその魔法を埋め込まれ、兵器として操られたもの。それがその時からおよそ9年前にわたくしが保護した少女。


 シェルンになりますわ。」



 再び起こる最悪の話、その始まりを聞いて。



 分かっているミリエラはそのまま変わらず、レアニールと、王妃シルヴィアは目を見開きシェルンを見て、国王クラードは俯いて目を閉じ、首をゆっくりと左右に振る。


 聞いていないものは皆、信じられないというリアクションの中、アセリア姫とセティスは、なんとなく感付いてはいて。

 四人でシュタイムブルグに乗り込むことになった時、今はファウストと名も分かっている少年の事を、シェルンが説明した時。



『はい。私とは違うタイプです。これはおそらくですが。

 試作型投影人形。型式SE-COND。・・・』



 あの言葉と、その後割り込んだセラフィーナ。そこからシェルンが特殊な生い立ちであることは、なんとなくは分かっていた。



 ただ、分かってはいたが。



「彼女は元々普通の人であり、ほんとうに孤児でしたの。ですが彼の国で実験体として扱われ、他者から遠隔操作・・・。」


 言葉を切ったセラフィーナは目を閉じ、その表情からは常にある微笑も消え。

 その時、アセリア姫とセティス、そして引退したとはいえクラードとシルヴィア、元騎士団長と騎士団員だった二人も。


 一瞬、全身に鳥肌が立つほどの、それほどの恐怖に包まれる。


 その感覚に、既に遥か昔の出来事であったにも関わらず、未だにセラフィーナがその所業を。


「体を無理やり乗っ取り、本人の意図にないことを無理やり実行させるような、そんな悪夢をこの子に見せて。」


 人としてその所業を、決して許していないという事を、感じ取った者たちは即理解する。

 感じた悪寒は、恐怖は本当に一瞬であったが、その感覚は非常に強く深く。常には慈愛の微笑を浮かべ、何事にも優しく接する姫君が、そこまで怒りを露わにする所業なのだと分かって。


「最初はシェルンも分からないうちに、わたくしの母をその手にかけました。その時のこの子の表情は、今も忘れられません。」


 自分の体が勝手に動いて、大好きだったエリスティアの胸にナイフを突き立てたあの瞬間。


 傍で驚くセラフィーナと、刺されたことが分かっても、けっしてシェルンに怒りの感情を向けなかったエリスティア。


 その瞬間の自分が分からず、呆然としていたシェルン。


 そして、自分の所業に訳が分からないまま、すぐにその瞳からは涙が零れ、泣きながら謝って、勝手に動くからだに混乱して。


『やだ・・・うそ、うそです。そんな、体が勝手に動いて。お願いです。誰か、私を止めて!

 止めてくださいっ!殺してくださいっ!!』


 もう号泣しながら、自分を止めて欲しいと叫ぶように訴えていたシェルンの声も、表情も、決して忘れられない。


「母が倒れた為に国を護る結界は綻び、封印の維持も綻んで。それからすぐに魔獣は国を蹂躙し、城も魔獣で溢れました。


 そこからはわたくし達姉妹も魔獣から皆を護る事に必死で、シェルンは母を刺してからは体を操られていることに気付き、それに逆らおうとしていましたが、術はこの子を無理やり動かして。」


 シェルンも初めて詳しく聞く、あの時のセラフィーナから見た自分。止めて欲しいという言葉以外の、あの時のシェルン。


「無理やり動かされているこの子はそれに抵抗しようとして、体のあちこちが破綻して、そこかしこから血を流していて。


 あの時のシェルンは、人としての動きではありませんでしたわ。どれだけ本人が抵抗しても、手足を魔法で動かされて。」


 聞いている者はもう、誰もそれを、冷静に受け止めることなど出来ず。シェルンから聞いていたミリエラですら、その強引で、人を人と思わない所業に、目を閉じ、耳を塞ぎたい気持ちで。


「筋力で抵抗している体を、魔法で無理やり引きちぎるように動かされて、ボロボロになりながら。

 それでも動きを止められないこの子は、母を手にかけた時から血の涙を流し、ずっと。


 『私を止めてください。殺してください。』


 と、わたくし達に訴え続けて。それでも体を操られて。


 そのままこの子を操っていたものは、次はわたくしの妹を、エルフィリアを狙ってシェルンを動かして。」


 その時の話を、正しく詳細に伝えるのはセラフィーナも当然初めてで、たとえそれを乗り越えてきた身であっても。



 あふれる涙は、止められず。



「シェルンを操るものがエルに刃を突き出した時に、アルが、アルティーナが割って入って。自分の犠牲にエルを護って、アルは泣きながら、この子を斬りました。」


 あの時のアルティーナの言葉も、決して忘れられない。


『姉様っ!エルをお願いっ!シェルン、ごめんねっ!』


 セラフィーナに妹を、全てを託して、捨て身でエルを護りながらも、アルはシェルンの希望も叶えた。

 本当は長女である自分が護らなければいけないのに、その時のセラフィーナはまだ、アルティーナほどの速さでは動けずに。

 大切な妹に、今まで共に過ごして、ほんとうに姉妹と思っていた大切な人を、自分の意思で斬るという悪夢を見させて。



 自分ではなにも、できなかった。



「アルティーナの剣がシェルンの内にあった魔法を斬った為か、この子を操る動きはそれで止まりました。その引き換えに、アルは心臓を突かれて、癒す間もなく、即死でした。」



 残された者たちはみな呆然として、それでも魔獣で溢れた王宮内で、身を護る為に応戦し続け。


「わたくしの身を狙っていたその国は、魔獣に何らかの制御を施して、わたくし以外だけを殺すように作られていました。ですからわたくしはエルを抱きしめて、護り続け。」



 どれだけ魔法に長けていても、あの時のセラフィーナでは到底全てを護り切ることなど出来ず、震える妹を抱きしめるしかできず。



「その時わたくしに、おそらくわたくしの中に直接、声が響きました。『悔しいか?憎いか?』と・・・。」


 ここからは本当に、シェルンも、エルフィリアも知らない話。



 セラフィーナに語り掛けてきた、アレグレットと。



 セレナーデの、お話。

とてもひどいお話ですが、セラ様が今に至る中核をなすお話です。

上手く纏められず、ちょっと文章の繋がりがおかしいかもしれないので、余裕が出来た時に修正するかもしれません(他のお話も同様ですが・・・)


次回はセラ様がああなってしまった時のお話です。

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