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5-5:封印

今回から少し鬱展開です。

つらいお話がいくつか続きます。

 ここまでの話だけで、皆一様にその表情は明るさを失い、少し下を向くような感じになっていた。

 一緒になって多くの奇跡を齎した、優しい夫を封印しなければならなくなった妻。


 ミリエラ以外には今の認識はそこまでで、その先、クリスティアラが滅亡するときの話は、まだ知らないし聞いていない。


「話を続けますわね。アレグレットがクリスティアラに封じられていた存在という話なのですが、セレナーデと彼の間には、二人の娘がおりましたの。」


 メルシーナ、ティアルーナという名の二人の娘。母セレナーデによく似た容姿のかわいらしい娘。


 異世界から飛ばされてきた、何も分からないアレグレットに優しく接して、共に魔法が好きで意気投合したセレナーデ。

 その面影を持つ娘が産まれたのだから、優しい性格のアレグレットは二人の娘を溺愛し、とても大切に育てた。


 彼らを慕って集まった者たちも自分達を癒し護ってくれる、既に君主と見ている二人の娘を、世継ぎが産まれたと祝福され平穏な日々を過ごしていく。


「二人の間に生まれた娘ですから、魔法については当たり前のように使えまして。ただそれでも彼が探求の末に手に入れてしまった力、世界とつながる力は持ちえませんでした。」


 アレグレットが探求の末に世界そのものと繋がる方法を見つけてしまったの、は二人の娘が産まれてから。

 もちろん魔法は血を引いていれば使えるというわけでもないが、彼の持つ世界とつながる力だけは、セレナーデを含めて誰も使えるようにはならなかった。


「ですが彼は本来、皆を救うために力の探求を続けただけ。その力を使ってできる事もありますが、どちらかと言えばこちらの方が癒し、救うには適していましたから。」


 また右手に金色を纏い、その透き通ったキラキラをミリエラのところまでふわりと飛ばす。


 それに包み込まれたミリエラは。


「あ・・・」

(暖かい。凄く心地よくて、陽だまりの中にいるような。)


 先ほどからずっと心配しているような、どこかつらそうな表情をしていたミリエラ。

 セラフィーナはそんな優しい少女を気遣って、魔法で優しく癒してあげる。

 セティスがシェルンと相対した時にも感じた感覚。この魔法の癒しは、とても暖かく幸せな気持ちになれるから。


「ふふっ、ありがとうミリエラさん。それで二人の娘が出来てからはしばらく、セレナーデはとても暖かな、幸せな日々を過ごしておりましたわ。」


 二人の娘は幼い頃はもちろんとても手がかかり、夫婦は二人で四苦八苦しながらも日々成長していく子供たちの姿に喜びを感じていた。


 子供たちは7、8歳くらいとなると、両親に似て魔法が好きになった二人の小さなお姫様は、見よう見まねで癒しを身につけ、できるようになると既に国となっていたクリスティアラの国民に、自分達も癒し手として接するようになる。


 可愛らしい女の子が二人、子供ながらに人々を癒す姿はその国に住むもの、元々アレグレットとセレナーデを頼って集まってきた民にはとても神聖なものと映り、大切にされて。


 国自体が善意で出来ているようなもののため、国家を運営するような仕組みもほとんどなく、魔法が使える者は魔法で、使えないものは知識や労働力を以て自分から国を支える者ばかり。


 おかげでとても平和なこの国は、地形的にもそれほど価値がない僻地でこじんまりと始まったこともあり、他の国々からほとんど気付かれることも無く、支え合っている国民も時の権力者に目を付けられることを嫌い、外へと伝える事もなく。



「ですが平和の中に在って異世界から来たという彼は、一抹の不安というか危機感を持っていまして。子供たちに手がかからなくなってきますと、また自分だけが触れられる力。白銀の魔法が何なのか、その探求を再開してしまいましたの。」


 それは彼なりに、国を護ろうと考えたその方法。


 あの力はまだよくわかっていないことが多すぎるが、少なくとも金色の力と違い、癒し、護り、そこにあるものを強めるような力ではなく、敵を打ち倒すための力に感じられた。


 その力を正しく、上手く扱う事が出来るようになれば、異世界に飛ばされた自分に優しく接してくれた妻も、二人の間に生まれた大切な子供も護る力として使える。

 大きな力になれば、家族だけでなく自分を慕って集ってくれた民たちも護る事が出来る。


 その想いから研究にいそしみ、もちろん家族の時間も、人々との交流も大切にしながら日々を過ごしていくうち。


「彼はいくつか、この力を用いて敵となるものを撃ち滅ぼす、攻撃のための魔法を織りなしました。それらは今、わたくしが使う力となって受け継がれておりますわ。」


 そう言って、少しだけ悲しそうな顔をする。この力と繋がってしまったからこそ、彼は、自分は、災いとなってしまうのだから。


「それからも彼、アレグレットとセレナーデは魔法の研究は続け、今わたくしが使っている金色の魔法もいくつかはその時代に完成させておりますの。」


 そのひとつが先ほど使った「慈しみの魔法」ですわね。と軽く説明をする。人の中でおこる時間経過を完全に止める「お眠りの魔法」もこの時に既に作られている。


 ただ時間には干渉できても、空間に干渉する能力としてはまだまだ理解が進んでおらず、空間移動術式と呼んでいる、魔力消費無しで高速に移動できるあれはセラフィーナが織り成している。


「またその頃から少しだけ外部の、クリスティアラに属さない者が時々訪れるようになりましたわ。もちろんクリスティアラに集った者たちと同じように、癒しを求めて、ですわね。」


 だがこの頃に訪れた者たちの一部は元からいる国、自分たちが生まれ育った地から離れて生きることは選ばす、ほんとうに必要な時だけクリスティアラに訪れる形をとっていたという。


 もちろんそういった人々にもアレグレットとセレナーデ、二人の魔法による癒し、病気や怪我の治療などは行っていたが、そういった者たちには必ず、自分達の事を喧伝しないように伝えていた。


 癒しの力とは言え、大きな力は権力が絡むと碌なことがおきないと、転生してこの世界に来たというアレグレットには強い危機感があったという。


 そして結果として、この危機感は正しかった。


「こうして魔法の探求しつつ、子供の成長を見守りながら、わたくし達夫婦、いえ、セレナーデとアレグレットはゆっくりとしたクリスティアラの日々を過ごしておりましたわ。」


 人々が集って、一応国という体となってからは20年ほど、とてものどかな日々が続いたという。


「それで、二人の娘はごく平穏に成長をしまして、今のわたくしくらいになりましたの。」


 胸に手を当ててそんな風に言うセラフィーナに、かつてシェルンにも過剰に反応されたアレがちょっとおもしろかったな、なんて思ってしまい、ついポロっと。


「そ、それってつまり、1800歳くらいですか?」


 言ってしまった。


 その一言で、セラフィーナの表情が笑顔のまま凍り付く。そのままギギギッっと首を動かし、ミリエラに微笑んで。


「ミリエラさん、こうみえてわたくし、あれ以来ずっと歳を取っておりませんの。ミリエラさんには何歳にみえるのかしら?」


 慈愛の微笑のはずなのに、その表情にはなんだかよく分からない恐ろしいものが含まれている。ような気がして。


「あああ、ごめんなさいっ。冗談ですっ!えっと、確かセラフィーナ様は17歳で、シェルンさんが18歳でしたか?」」


 なんとなく過ごした年月を年齢で言うのは、シェルンだけでなくセラフィーナにもダメっぽかった。

 ただセラフィーナの反応とミリエラの狼狽えっぷりは場に居たものには微笑ましく映ったようで、もとよりセラフィーナのポンコツっぷりも相まって、ティールーム内は和やかな雰囲気に。


 ただ、まだここまででも封印につながるようなお話はなく、とても幸せな家庭、暖かな国家という印象しかない。



 幸せな家庭。



 シェルンに聞いた、とても幸せだった三姉妹のお話。



 ミリエラは新たに心に過る不安を押し留め、話の続きを聞く。



「それで、娘を溺愛したアレグレットは、妻と共に娘のためにひとつ、誕生日にあるマジックアイテムを贈りました。」


 慌てたミリエラに「はい、そうですわ。」と、自身の歳をしっかり訂正させてから、話を続ける。

 

「それは自分達がいずれこの世から去る時が来ても、娘達を護ってくれるように。娘の次の世代も護ってくれるようにと、願いを籠めて創りまして。」


 そう言って、視線をアセリア姫に。今は姫が身につけている、クリスタルのティアラを見つめ。


「そのマジックアイテム、長女のメルシーナに贈ったものが、今はアセリア様まで引き継がれた、そのティアラになります。」


 その言葉に、アセリア姫はまた驚きと喜びを感じる。


 自分たちの国で受け継いできたものが、そんな想いを籠められたものだと分かり、それはとても幸せな話で。


「わたくしがエルフィリア様と出会えるきっかけとなったのは、お二人が子を想う気持ち、なのですね。」


 ミリエラの不安と対照的に、アセリア姫はとても穏やかな、優しい気持ちで話を聞き続ける。

 ただそれは、幸せなお話は、そこまでで。


「ですがその想いの籠ったティアラは、その存在を知った時の権力者から見れば、我が物にしたい、貴重なものと映りまして。」



 そこからの話は、今までの幸せが嘘のような悲惨なもので。それを狙った、その時代に大きな権力を持っていた国家が、国家としての体を殆ど成さないクリスティアラに侵攻し。


 その者たちはただ、そのティアラを、マジックアイテムを欲するだけで、何の敵意もない者たちを蹂躙して。



 本来の持ち主たるメルシーナが、その命を奪われ。



「彼は、アレグレットはその瞬間を目撃して。



 世界と繋がってしまったままで、その心は壊れ。



 怒りの感情に身を任せたまま。



 世界の力に、取り込まれてしまいました。」



 それはセラフィーナにとっては、自分の中に残ったセレナーデの記憶。大切な娘を目の前で喪って、夫が壊れてしまった瞬間に立ち会ってしまった、悪夢のような記憶。



「同じ、なんですね。セラフィーナ様の時と。」



 それだけでまた、ミリエラは悲しくなる。クリスティアラという国が興った時も、滅んだ時も。


 その原因は、根本は全く同じ。



「そうですわね。悲劇を齎すのはいつも。」



 それを肯定する、悠久の時を生きるセラフィーナの言葉は。



「人の・・・欲望ですわね。」



 とても、重く。



「そして壊れてしまったアレグレットは侵攻した国を滅ぼし、自分たちの国すら巻き添えになりかけまして。

 それを止めるために妻であるセレナーデは、金色の力に願い、彼の時へと干渉し、力を留める封印を構築しました。」



 自分の事ではなくとも、その記憶は、自分の事のようで。



「ですが時への干渉も、世界と繋がってしまった彼にはそのままでは効果を為せず、セレナーデは封印の方法を変えて。


 まずは強力なマジックアイテムである、二人で創りだしたティアラ。それにひとつの術式、封印を維持するために、クリスティアラの国そのものを強く護る結界の術式を施しました。


 そして封印を護る理由をそのティアラの持ち主に、今後連綿と受け継ぐであろう継承者が、封印の理由を忘れないようにするための記憶を一部埋め込んで。



 それを唯一扱える、ティアルーナに託しました。」



 それを娘に託して。



 そこまで聞いたアセリア姫は、自身が身につけていたそのティアラを、まさに封印の術式が施されていたそれを手に取り。



「セラフィーナ様。これをセレナーデ様が娘に託したということは、その、セレナーデ様ご自身は・・・」



 託さざるを得ないのだから、当然それは。



「はい。魔法だけではとても抑えられないアレグレットの力。


 世界に繋がり、それを破壊の、破滅の力として怒りのままに揮っている夫を止めるために。



 自分自身は彼とその身を共にして。



 大切な人の側にいてあげることで心を繋ぎ。



 構築した、時の封印は、自分自身を封ずることで。



 心を繋げた彼を、ともに封じました。」



 これが、それ以降クリスティアラが封印を護る国として成り立っていたはじまり。



 セラフィーナ自身が、そしてシェルンが経験する悪夢。




 その発端となる、もうひとつの悪夢。


セラ様はセレナーデとアレグレットの記憶、その一部を持ってしまっているので色々大変な目にばかり遭ってます・・・

だからこそ、フィルメリアで出会った人々との交流はとても幸せに感じられると。


次回は以前シェルンがミリエラに語ったお話、セラフィーナ視点です。

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