5-4:世界につながる力。の、発端
「今からお話することは、今までどなたにもお伝えしておりませんの。エルにも、そしてここにいるシェルンにも。」
セラフィーナが語りだす話は、本当に誰も知らない話。セラフィーナ以外知りえない話。
その言葉に、隣で聞いていたシェルンが驚きを隠せない。
「え?クリスティアラの事で、私が知らない話ですか?」
「ええ、貴女と一緒に過ごしていた時のお話ももちろんございますわ。でもまずは、クリスティアラがどんな国で何のために存在したか、そこからお話したいと思いますの。」
セラフィーナが語る、聖王国クリスティアラ。それは今からおよそ千八百と数十年前まで存在した、いにしえの国家。
「シェルンはわたくし達と共に過ごした期間はご存知ですわね。ただわたくしの記憶には、そうではないものがございまして。」
不思議そうに主を見つめるシェルンに微笑みかけながら。
「わたくし、クリスティアラの最後の王女であることはお伝えしておりますが、実は初代女王の記憶も持っておりますの。」
途中からは、皆に視線を向けて語る。
「セラフィーナ様、それってもしかして建国の巫女のお話でしょうか?」
「あら?・・・ああ、そうでしたわ。ミリエラさんには御伽噺という事で、少しお伝えしておりましたわね。」
そういえば先日、ミリエラには伝えていた。ただその時の伝え方が伝説や御伽噺という体で、語る内容は災厄の魔女がなぜ生まれたかという話をぼかしたものだったためすっかり忘れていた。
こんな所でもポンコツさんが出ちゃうんですね、などと思いつつも、そこは口に出さずに続きの話を聞くミリエラ。
セラフィーナもそれには気付かず?そのまま話を進める。
「それで初代女王の記憶からのお話なのですが、クリスティアラは創立からおよそ500年と持たずに滅びた、それほど歴史が長いわけではない国になりますわ。」
国自体がそれほど大きいわけでもなく、戦争があれば簡単に滅ぼされてしまうような、そんな程度の国。
「元々クリスティアラという国は、わたくしの祖先にあたる初代女王が、その夫となる人物と二人で築いた、とても小さな国になります。細かな経緯は省きますが。」
国自体の成り立ちは、二人の天才と呼ばれた魔法使い。
初代女王であるセレナーデ・プリム・クリスティアラと、その夫となる者、王配アレグレット・クリスティアラ。二人は元々王族でも何でもない、ただの魔法使いだった。
まだその時代、人々の魔法はあまり発展しておらず、医療も発達していない中、病気や怪我となると例えそれが大病でなくとも、大怪我でなくとも命に係わることが多かった。
セレナーデはその現状を何とかしたいと考え、自身の持つ魔法の才に気付いてからはずっと、癒しの魔法を探求しつづける。
「そこでセレナーデはとある人物に出会いますの。その方は元々この世界の住人ではなかったようで、異世界から迷い込んだ異邦人という話でしたわ。」
なんだか急に話が変わる。
異世界人。この世界の住人ではなかったもの。そんなものの存在は皆理解できず、今の感覚では魔獣のような人とは思えないものが想像されるが。
「セラフィーナ様。その、異世界人というのは一体どのようなものだ?俺も全く聞いた事が無いが。」
王族としても聞いた事がない者に、国王クラードが疑問を唱え。
「わたくしも記憶にしかない存在ですので、明確には分からないのです。本当に他の世界からみえた方、のようですわ。」
セラフィーナ自身も実体験したわけでもない為、そこは説明が難しいが、ただその人物の記憶も、自分の中に一部ある。
「なんでもわたくし達の世界を外側から見てきたらしく、普通とは違う魔法を使える方でしたの。」
普通とは違う魔法。世界を外から見たことで理解できる、そんな魔法。それは。
「その普通とは違う魔法は、世界そのものが持つ力を理解して、世界にお願いして使うもの。つまり。」
「私達が使えるようになった、あの金色の魔法がそれ、という事ですか。」
そこまでの話でようやく自分達に繋がる点が出てきた。そう理解して、セティスは自分の手のひらを見つめながら呟く。
確かにあの魔法は、既存のどの魔法体系にも属していないし、そもそも使おうとすることすらできない。
セティスはアセリア姫に教えられてなお、やんわりと理解できるようになるだけでも相当な時間を掛けた。
「ええ、そうですわ。あの金色の魔法。世界の力の一端。その魔法をこの世界に齎したのが、その人物になりますわ。」
つまり、セラフィーナの力はそもそも、この世界に元々いる人たちでは気付けない魔法体系となる。
「その方の名はアレグレット。後にセレナーデの夫となる方。つまりわたくし達は異世界の方の血を引く者になりますわ。」
「なるほど。わたくし達は、その方の血を引いているからこそ、あの魔法を使う事が出来るのですね。」
アセリア姫が納得したように言って、セラフィーナもそれに、そうですわね、と頷く。
そしてセティスも、連綿と続く時代の中でエルフィリアの血を受け継いでいる、という事になる。
そのことにはなんとなく感付いてはいた。そもそもフィルメリアは王族がエルの血を濃く受け継いでいる。
ならばその国の貴族も分家筋として継いでいておかしくない。
「それでセラフィーナ様。そのお二人がクリスティアラを建国したというお話ですが、私が以前お聞きしたあの御伽噺とは、まだちょっと結びつかないのですが。」
ミリエラにとってはあの時聞いた話が全て。ここまで聞いても、いにしえの邪神のような存在は出てくる要素がない。
「そうですわね。ミリエラさんにお話しした内容は、そこからもう少し後の話になりますの。まずはわたくしとアレグレットが出会う事。そこから話が始まるのですが。」
そこからまた、話を続ける。
セレナーデが癒しの魔法を求めて探求を続ける中、アレグレットに出会い、この世界で普通に普及している魔法を教え。
アレグレットも優しい性格で、そういった人々のためになる魔法の探求を一緒になってしてくれた。
その結果、彼が持っている知識。この世界そのものが持つ力を癒しに使えないかと考え、二人で思考錯誤した結果。
「こうして二人はそれまでの魔法とは次元の違う魔法を織りなし、その時代において奇跡の存在。そう言われるようになりまして。」
不治と言われた病も、けっして救えないと考えられる大怪我も治療してしまう、そんな二人は、徐々に噂となり、それが広がり。
「わたくしと夫、といいますか、セレナーデとアレグレットは頼ってきた者たちを招き入れ、それは徐々に集落となり、町となり、気が付けばとても小さな国のようになっていましたの。」
これがクリスティアラの始まり。特に国を興そうとしたわけでもなく、独立戦争のような争いがあったわけでもなく。
二人が住む地は魔法の探求の為、殆ど人がいない、僻地のような場所を選んでいた。
そのため癒しを求める者たちがそこへ集い、徐々にその地に住み着く者が増えていき、国となっただけ。
「そして夫婦となった二人の間には当然子供が出来まして。わたくしの血族は女系と申しますか、女子が産まれる率が高いようで。
もしかすると異世界の方との子は、そういう傾向があるのかもしれませんわね。」
そればかりはよく分からないが、ともかくクリスティアラはほぼ女系血族として続いている。
「それでそのアレグレットなのですが、異世界から来た彼は元々の世界には存在しなかった魔法の可能性に気付き、その探求に更にのめり込みまして。」
それは分かりやすい心境。自分が調べれば、多くの人が救えると分かった。ならばより優れた技術を、優れた魔法をと探求を進めるのは、人として当然の性である。
「それで今度は世界にお願いする力を、癒し護るためだけに願うのではなく、他の事にも使えないかも、探求しはじめましたの。」
その言葉を放った時のセラフィーナは、それまで語っていたときの、いつもの慈愛の微笑がなりを潜め。
どこか寂しそうな、悲しそうな表情になる。
「セラ様、それって。」
隣からシェルンが、なんとなく気が付いたように声をかけ。
「いえ、まだその時は、彼は人々を救うため、よりよい未来を考えて、魔法の探求をしていました。そして。」
セラフィーナが、今度はその手に白銀の粒子を纏わせ。
「彼はこれを。その時はまだ理解できていませんでしたが。この力に触れることができるように、なってしまいましたの。」
アセリア姫とセティスには説明した、その力。
存在するものを全てを貫き、壊し、滅ぼす力。
だがそれも、その力を具体的に使った場合の話で。
「アセリア様とセティス様には、この力を破壊の、破滅の力としてお話しましたわね。ですがこの力の本質はそこではなく。」
今度はその白銀を待ったその手を、軽く振う。
その一瞬で、皆の居る状況が、一変する。
「えっ!?これ・・・ここは?」
「なんだっ!?何が起きた?」
「セラフィーナ様!?」
口々に驚愕と、混乱の言葉が放たれる。
それは当然で、今まで皆が話をしていたのはメルヘン城のティールームだったはずなのに。
今はその周りには何もなく、ただただ白銀の平地が見渡す限り広がっている、そんな世界になっていた。
そこがどこかも分からない。自分がどこに居るかも分からないような、そんな状況。
その瞬間は、ホントに数秒程度で、セラフィーナがまた手を軽く振るだけで、世界は元に戻る。
だがそれだけで、その力がどれだけ理解不能なものなのかは皆に伝わる。それは永遠の時を共にするシェルンすら同じで。
「セラ様、今のは?」
シェルンですら見た事のない光景。状況。今までのセラフィーナがこの1800年以上という時を経て、一度も見せていない。
そんな力。そんな魔法。
「今一瞬だけですが、わたくしは皆様を世界の内側へ。わたくしの中へとお招きしましたの。」
聞いている皆が、意味が分からない説明をする。
「これが彼が探求の果てに得てしまった力。わたくしがその身に宿してしまった力。アセリア様とセティス様にはこのお話も簡単にはお伝えしましたが。」
少し、申し訳なさそうな表情で。
「彼は、アレグレットは、探求の末に世界そのものと繋がってしまいましたの。ですので彼は、わたくしは。この世界が終わらない限り終わらない、そんな存在に変わってしまいました。」
『そしてわたくしは。世界の力、そのものです。』
あの時、白銀の力が何かを教えてもらうためにセラフィーナと相対した時に、最後に聞いた言葉が。その意味が。
ようやく二人にも、おぼろげに分かったような気がした。
そして御伽噺を聞いていたミリエラだけは、他の者とは違う、ひとつの答に気が付く。
「あ、あの。セラフィーナ様。もしかして、いにしえの邪神と仰られていたのは。封印されていた者は。」
「ええ、わたくしの。セレナーデの夫。アレグレットこそが、クリスティアラがその国を以て封じた存在になりますわ。」
その言葉で、ミリエラの中でさらに答が繋がる。
あの時聞いた、セラフィーナの言葉。亡国の王女の話。さすがに一字一句は覚えていないが。
ミリエラの覚えている限り、封印されていた邪神が憑代となるもの、セラフィーナに入り込み、それを封印した建国の巫女が、自分の意思をぶつけて邪神の意思を消滅させ、セラフィーナの心を救ったという話だった。
それはつまり。
世界と繋がり、なぜか妻であるセレナーデに封印されたアレグレットが、封印が解かれセラフィーナに入り込み。
セラフィーナの心を救うためにアレグレットの意思に。
セレナーデが自分の意思をぶつけて対消滅させた。
そういう話になる。
だがその答には、まるで救いがない。
なぜセレナーデが夫を封印しなければいけなかったのか。
どうしてセラフィーナに入り込まなければいけなかったのか。
何も分からない。
分かることはただひとつ。
セラフィーナがいま語っている話は、あの時に聞いた御伽噺よりも更に悲しい、救いのない。そんな話に。
ミリエラには聞こえていて。
「あ、あの。セラフィーナ様。このお話は。その・・・。」
どうしてこの方は。シェルンさんも。
こんなにも悲しい想いばかりしているの?
なんでこんなにも、酷いことばかり。
「ふふ。大丈夫ですわ。」
また、その想いが溢れかけた所に、優しい声がかかり。
そしてまた、あの言葉をかけられる。
「やっぱり貴女は優しくて、とてもいい子ですわ。」




