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1-6:演出された最高の出会い

ようやく出会います。

(街全体が、魔法で工作がされてますわね。

 さて、どこから手を付けましょうか。)



 飛行魔法。少なくともこの時代には存在しないはずの、文字通り空を飛ぶ魔法で。



 セラフィーナは上空から、シェフィールドの街を見下ろしていた。


 空に人がいるなどと想像することができない者たちは、当然セラフィーナには気付かない。


 なぜか正装兼普段着としている、パールホワイトのドレスを身に纏い、プラチナのティアラを頭上に頂いている、お姫様スタイルで浮いていて。



 その結果、狙っているのかいないのか、

 上空の風にたなびく長い髪とドレスは、無駄に神々しい姿を演出していた。



 セラフィーナはここ数百年、見つけた悪夢。戦争の火種を潰す活動を続けている。

 それが今の自分の責務であり、何よりも優先すべき事のひとつだと考えて。



 残念ながらすべての火種を潰すことはできていない。


 所詮個人ができる範囲には限界がある。


 せめて目に映る範囲だけでも。彼女の行動理念は、基本的にはそれだけだ。



 今は半年にわたる調査の結果、この街が悪夢の導火線と突き止め、それを止める方法を探っている。


 フィルメリアに来た理由は、彼女が求める素質がある、そう思われるアセリア姫に会うためだったが。


 それ以前に、優先してやらなければならないことが、この国で見つかってしまった。




 なぜ<災厄の魔女>と呼ばれていた彼女が、そんなことをしているのか。



(あら?

 領主邸から泣いている女の子が出てきましたわね。


 アレは。)


 昼と夕刻の中ほどの時間。


 魔力の揺らぎに悲しみを感じ、上空から領主邸を中心に見ていると、傷心のミリエラが飛び出してきて。



(おそらく領主様の御息女、ミリエラさんですね。

 お近づきになれると嬉しいのですが…)



 導火線、近く反乱に至る原因を、侍女のシェルンに調査させたが、それはそれは酷いものだった。



 領主夫人の死から領主の変貌、レジスタンスの結成、そして反乱。全てが用意されたシナリオ通りだった。



 その導火線を、自分が表向き目立たずに潰えさせる要はミリエラだと考えている。

 おそらく領主を元に戻し、民衆との間を取り持ち、街を元に戻す為に絶対に必要な存在だ。


 今から目の前に降り立っても怪しまれる、いや恐れられるだけ。かといって、視えない場所に降りたってから偶然を装い出会っても、そもそも話すキッカケがない。



(さて、どうしたものでしょうか。

 わたくし、こういうのは不得手ですわ。)



 存在自体が不自然なセラフィーナにとって、自然な出会いはとてもとても難しいのである。

 もっともお姫様スタイルで、空にふよふよと浮いている時点で、最初からあきらめているフシもある。


 ちなみに彼女の侍女は、人懐っこい性格と可愛らしい笑みを武器に、誰にでも簡単に話しかけられる。


 お姫様スタイルなんて、普通に見て恐れ多い、高貴な姿もしてないので、周りの者も普通に接してくれる。


 そんな感じで、しばらくふよふよしていると。

 事態はミリエラにとっては可愛そうだが、セラフィーナにとってありがたい状況となる。



「ん?お前、もしかして、あのクソ領主の娘か?」



(あら?ミリエラさん、なんか絡まれてますわね。

 これはチャンスですわ。)


 荒事となれば自分の独壇場である。


 色々とズレた、脳筋なところもあるお姫様は、偶然を装うために、音もなく路地裏に降り立った。




―― 角を曲がり、偶然を装い。


「こんなところでか弱い女性を囲んで。


 あなた方は何をなさっているのですか?」



 貴族と思われる少女を囲んでニヤニヤとしている男達。中心でへたり込んでいる少女。


 今まさに襲われんとする状況で、まるで救世主のようなタイミングで現れた、もう一人の少女。



(これは最高のタイミングですわ。

 これならきっと、ミリエラさんにも疑われません!)



 セラフィーナはとてつもなくハイスペックであり、部分的にかなりぽんこつである。



 パールホワイトのドレスを身に纏い、絹糸の如く輝くピンクシルバーのロングヘアに、プラチナのティアラ。


 どんな出会いであれ、普通スラムにそんなのが一人で居たら絶対に怪しい。気付け。



 それはさておき、声を掛けられた男たちは。

 それより以前、その少女が角を曲がって、視界に入った瞬間から固まっていた。



 夕日の中、まるで自ら光を放つかのように輝く、美しい純白の姫君。


 スラムと化した路地裏にあって、絶対に遭遇できないような高貴で清楚な存在。



 皆声もなく、ただただ目を奪われていた。



「そちらのお嬢さん、もう大丈夫ですよ。」



 セラフィーナが声をかけると。

 震えていた少女が目を開き、涙でぬれた瞳をむける。


「あ、あなたは?」



 少女が問いかけると同時に、まるでスイッチでも入ったかのように、周囲の男達が再起動した。



「な、なんだおまえ?そんな、どこぞのお姫様みたいな」


「マジモンのお姫様か?

 いや、なんでこんなところにいるんだ?」


「おい!こいつ、めちゃくちゃ綺麗だぞ!?

 こっちの貴族の娘も可愛いが。」


「あぁ、こいつは信じらんねぇ。

 まるでアセリア姫みたいじゃないか」



 アセリア姫。

 フィルメリア王国の姫君であり、周辺国も含め当代随一の美しさといわれる、絶世の美少女。


(それほどわたくしと似ているのでしょうか?

 そしてつまり、それはわたくしも当代随一の美しさ、と思って頂けるのですね。)



 状況にそぐわない、のんきな感想を思い浮かべつつ、セラフィーナは男達など眼中が無いように近づいていく。



「お、お逃げください!あなたのような方が私のために、こんな所で慰み者になってはいけませんっ!」



 こんな状況で近づいてくる、お姫様にしか見えない少女にミリエラは慌てる。

 周りには本来あるべきの護衛。その姿もなく、このままでは二人とも捕まってしまう。



「ご安心なさって。わたくしは大丈夫ですから。」


 危機感などまるで無いかのように、優しい微笑を浮かべて歩みを止めない、純白のお姫様。

 その柔らかな物腰は荒事、修羅場など知らない、深窓のお嬢様のそれである。



「で、ですが!」



 突如現れた美しい少女を止めようと、慌てて立ち上がりかけるミリエラ。



「ちっ!お前は少しおとなしくしてろ!あとで相手し」


ドサッ。


 そのミリエラを後ろから捕まえようとした男が、何の前兆もないまま、突如その場に崩れ落ちた。



「あ?おい!どうした?」


 隣にいた男が倒れた男に慌てて近づき、肩をもて揺さぶるが、全く反応がない。


「おい!おい!?まさか、死んで」


「人聞きの悪いことは仰らないでくださいね。

 ちょっとお眠り頂いただけですわ。」



 被せられた言葉に、ぎょっとして振り向く男達。



「な?ま、魔法使い?お前今」


ドサリ。ドサッ、ドスン。



 そう言いかけた男と、それに続き周りの男達が、何もできないまま次々と倒れていく。



 それは不思議で異常な光景だった。


 目の前の少女がただ微笑みながら近づくだけで、男達が倒れていくのだから。




 ミリエラも貴族の子女として、多少なりとも魔法の勉強はしているし身につけている。


 その中にあって、魔力感知は必須の能力だ。


 魔法を使うための魔力の流れ、分布。それを感知できずに魔法は行使できない。




 だが、今目の前で起きている光景は、その魔力感知という第六感にはなんの反応もなく、詠唱もなく。


 しかし男達は次々に眠らされている。



「ななななんだこれは?

 お、おま。お前!いったい何者だっ!?」



 一人だけ残された男がパニックになりかけつつ、懐からナイフを取り出した。



 何の変哲もない、手軽に木や紙、ロープなどを切断するための、ごく一般的なナイフだ。


 戦闘用のものではないが、ナイフなので当然人を傷つけることも可能である。



「何者だ、と言われましても、今のあなた方に名乗るような名は持ち合わせておりませんわね。」



 次に周りを見回し、



「多くの方にお話するのは面倒なので、他の方には眠っていただきましたが」



 男の持つナイフに一切構うことなく。


 セラフィーナは優しく微笑み、



「あなたにはすこし。

 わたくしのお願いを聞いて頂きたいのです。」



 そう言うと男に向かい、微笑のまま。

 ゆっくりと歩み寄るセラフィーナ。



「て、てめぇ!!」




 男はこの状況でさえ優しい微笑みを浮かべる少女に、得体のしれない恐怖を感じ、耐え切れず衝動的な暴挙に出た。



 手加減もなにもなく、ナイフを振りかざし襲い掛かる。

 下卑た考えから傷つけるのは勿体ないと思っていたが、恐怖でそれも吹き飛んで、考えなしの行動である。



 ミリエラはその間何も言えず、ただ眺めていて。



 人が切りつけられる!



 突如起こった、普段目にしない暴力の恐怖に、思わず視界を閉ざして。なにも見えない暗闇の中、その耳にガキィン!と鈍い音が届く。



 その後は悲鳴も何も聞こえず、ただただ静かに時が過ぎるばかり。

 恐る恐る目を開くと、そこには信じられない光景がひろがっていた。



 最初に視界に映ったのは、美しく輝く、クリスタルの如き透き通った刃の長剣。


 夕日の紅を反射して煌めく、細身の美しい刀身は、精緻な装飾を施された鍔元へと繋がり。

 その先にある剣の柄は、艶やかな白いロンググローブに包まれた、たおやかな繊手に握られている。




 剣の切っ先はナイフを振りかざした男。その首元に向けてピタリと静止しており。


 その男に握られたナイフは、握られた柄だけを残して切断され、地面に突き刺さっていた。




 ミリエラは数瞬、目の前の光景が理解できずに目を瞬き、状況を確認する。



 自分に大丈夫と言って近づいてきた、美しい少女。



 その手には、いつのまにか透き通った長剣が握られ、切っ先を男に向けていて。


 このような状況でも、先ほどまでと変わらぬ柔らかい微笑を浮かべていて。




 夕日に照らされ紅く染まり、長い髪とドレスを風になびかせて佇むその姿は。



 ミリエラにとり、まさに女神のような神々しさだった。



(すごい。綺麗で、素敵。)


 ミリエラはその姿に魅入られたように、セラフィーナから視線を外せなくなる。




 そんな傍観者の心情を知ってか知らずか。止まった時を動かすかのように、少女が穏やかに語り始めた。



「わたくしのお願い、お聞きいただけませんの?」


 慈愛の微笑みともとれる、優しい表情を浮かべ…



「でしたらあなたには退場頂いて。

 他の方にお願いしますわ。」



 聞くものにとってはとても物騒な言葉を紡ぐ。



「ヒッ…たたた助けてくれ!聞く!何でも聞くから!!」



 剣を突き付けられて微動だにできず、退場という不穏な言葉に怯えながら答える男。

 その姿に頷き、セラフィーナは言葉を続ける。



「ではあなたに。

 お願いといっても、とても簡単な事ですわ。」



 剣の切っ先は男ののど元に突き付けたまま。



「これからわたくしが言う事を、皆様にお伝えください。」


「わ、わかった。伝える!伝えるから!た、たのむ。こ、この剣を下げてくれ!」



 震える男を一瞥すると、セラフィーナの持つ美しい剣が一瞬で虚空に消え。

 剣を手放した腕をそっと下ろし、両手を前に揃えて優雅に佇む。



 動けなかった男は剣が消えるとようやく脱力し、その場にへたり込んだ。



「では、よろしいですか。

 あなたのお友達や、そうですね。


 この街で底辺に堕ちてしまったけど、元は普通に暮らしていた方々にお伝えください。」



「あ、あぁ。で、何を伝えればいいんだ?」



 元は普通に暮らしていた方々。

 男自身も含め、領主が善政を敷いていたころは、このような落ちぶれたものなどいなかった。


 つまり、スラムにいる者たちすべてが対象になるが。



「この街は元に戻ります。その前に壊されたくなければ、今後はこんなことはしないように、と。」


「な、なんだって!?また昔みたいに平和で暮らしやすい場所に戻るのか?」



街が元に戻る。それは男にとって、それ以上にミリエラとって、願ってやまない話だ。



「そ、それに、壊されたくなければって、どういう」



 男にみなまで言わせず、その右手をスッと上げるセラフィーナ。

その手を近くにある街灯にむけ、今は壊れて役目を果たせないソレを人差し指でさし。


つられて視線を街灯に移したミリエラと男の前で。


ズドドドドッ!!キンガンギキン!!!


 先ほど見た剣の刀身を小さくしたような、無数のクリスタルの刃が、街灯の全周囲から突如降り注ぐ。


 その刃は金属でできた街灯の支柱を一瞬で粉々にし、跡形もなく消し去って。


「ひっ…」「な…!?」


 男の悲鳴とミリエラの驚愕の声が重なる。


 今のは魔法?あれほどの魔法を、無詠唱で一瞬で?



 金属を粉々にする威力である。たとえ鎧を身に着けていても、人間など容易く貫通するだろう。



 それを無数に。少なく見積もっても100以上の刃が同時に作られ、そして降り注いだのだ。


 あんなもの、騎士団の一個大隊であっても、相当強力な魔法障壁を張らねば、一瞬で壊滅する。



 ミリエラが知る限り、あの攻撃を防げるものが、アセリア姫以外に思い浮かばない。

 騎士団長であれば、全て切り払う事もできるだろうか。



「あなたには今見た光景と私の言葉を、できる限り多くのお友達にお伝え頂ければと思いますわ。」



コクコク!コクコク!



 セラフィーナが優しく語るその言葉に、無言で必死に頷く男。その姿を見て、うんうん、と頷き。

 へたり込んだままの男の傍にくるとしゃがみ込んで、



「もちろん、あなたも。

 今後こんなことはしてはいけませんよ。」



 正面から、視線をしっかり合わせてたしなめる。



「もしもわたくしの言葉を無視して、また女性を襲おうなんてされましたら。」



 そう言うと今度は人差し指を男に向け。


「ししししない!しません!!二度とこんなことは!」



「では、お願いはこれだけですわ。そうそう。」



 眠らせた男達を一瞥し、軽く指を振るうと、眠っていた男達が一瞬、柔らかな光に包まれる。



「う、うぅ。あれ?俺はいったい」

「ふぅ。なんか寝ちまったか。

 あれ?えーと今まで何をして。あ!?」



 次々と目を覚まし、状況を確認すると慌てたように周囲を見回す男達。



「おはようございます。

 皆様、今の状況はおわかりになりまして?」


 セラフィーナの問いに、自分たちが襲い掛かろうとした後で意識が途切れたことを思い出す。



「お前!くそっ!さっきはなにしやがぎっ!?がはっ!」



 悪態を突いて凄んだ男が急に苦しみだす。

 それを見て、周りの男達も何事かと動きを止める。



「あなた方には、先ほど魔法を掛けました。

 わたくしの意にそわない、悪意を向けるような行動をされましたら、激痛に襲われる魔法です。」


「がぁぁ!はぁ、はぁ」



「そのように急激に痛みますが、悪意ある行動をされない限りは、全く無害の魔法です。」


「なんだそりゃっ!?ふざけぐあぁ!?」


「ね。悪意を向けるから痛むのです。おとなしくなさってくださいね。」



 こんな状況でも絶えず微笑を浮かべる美しい少女。


 一人残され、圧倒的な実力差を味わった男同様、状況を理解した男達はガクガクと恐怖に震えだす。


 セラフィーナはその様子を見ると、最初にお願いした男に向き直り、



「あなたはちゃんと先ほどの言葉を、目を覚ました皆様に伝えてくださいね。」



 言いながら立ち上がり、再度街灯を指さし、


「あちらの街灯のことも、これから街がどうなるかも。」


「わ、わかった!ちゃんと伝える!お前ら、あとで説明するから、絶対に変な気は起こすなよ!」


 周りの者に強く言いながら、滑稽な程におびえる男。



(これは、ごまかせるかもしれませんわ。)


 怯える男を見て安直に考えるセラフィーナは。



「それから、わたくしの事は、できれば濁していただけると助かります。なるべく目立ちたくありませんので。」



「・・・・」




 ものすごく目立つ出で立ちのお姫様が、どストレートに目立ちたくないという。

 いや、どう考えても無理だろう、と思ったが、男は怖くて怖くてとても言えない。



「あ、ああ。あんたのことは言わない。言わないが、どう説明すればいいんだ。」


「そうですわね。それでは、女神様にあって、街は元に戻ると言われた。というのは如何でしょう?」


「そ、それは。」



 確かに見た目はそんな感じかもしれないが、自分で女神様とか言うのはどうよ。



 それにそんな理由だと、先ほど男が体験した、あの恐怖を上手く伝えられない。


 どうすればいいんだ?と、顔を顰め思い悩む男に対し、セラフィーナは慈愛の微笑を浮かべ。



「では、よしなにお願いいたしますわ。」



 丸投げした。



 懸念を片付けると、セラフィーナは男達を順に見やる。


 その瞳には、薄く小さな魔法陣が浮かんでいて。



(やはり、堕ちてしまっても根本は善良な方々ですわね。

 今まであまり悪事を働いていなければよいのですが。)



 セラフィーナの瞳は、男たちの本質、魂を見ていた。



 長い。本当に長い間人々を見続け、そのものの本質を知りたいと願い続け。


 いつしか魔力視で、視えるようになっていた。




 男たちの魂は皆それほど強い輝きは持たないが、いたって普通に、懸命に生きてきた色をしていて、それほどひどく濁ってはいない。


 彼等なら、今回の出来事を戒めに、決して悪いことなどしないだろう。


 セラフィーナにとって、今は暴漢であっても根本はそうではない事は、とても大切な事である。


 人も、地域も、そして国という大きな意思も。



 一部の者の思惑だけで、大きく、おおきく変わってしまうものなのだから。



「よしなに、か。な、何とか考えてみる。」



 怯えた雰囲気はまだ拭えないが、困り顔で真剣に考えている男。やはり根っからの悪人ではなさそうである。



「ふふ。ありがとうございます。それでは皆様。もうお帰り頂いて構いませんわ。ごきげんよう。」



 男達に対し、言外にこの場から立ち去れと促す。


 セラフィーナに直接「お願い」された男が周りの男達に声をかけ。

 数分ののち、その場に残されたのはセラフィーナとミリエラだけとなった。




「怖い思いをしましたね。もう大丈夫ですわ。」



 そう言ってミリエラの前に来ると、そっと手を差し伸べるセラフィーナ。



「あ、ありがとうございます。」



 セラフィーナの絶えず穏やかで優しい振舞いに、恐怖で竦んだ心が解きほぐされて。


 ミリエラは差し出された、窮地を救ってくれた、美しい救世主の手をしっかりと取り。


 涙に濡れた顔で、悲しみを隠した微笑みを返す。



 そんな少女をそのままそっと引き上げ、優しく立ち上がらせて。


 ミリエラは目の前にいる謎の人物に、親友でもあり、敬愛する王女でもあるアセリア姫の姿を重ねていた。



「お怪我はありませんか?どちらかで少し暖かいものでも頂いて、落ち着きましょうか。」


 本当に、アセリア様みたい。


 雰囲気も、美しさも、優しさも。



 でもあの時の姿は、セティス様みたいだったかな?



 その目に焼き付けた忘れられない光景、剣を手に、髪とドレスを風に靡かせていたあの姿。

 ミリエラは我知らず頬を火照らせながら、この優しい少女の誘いに頷いた。



―― でもなんでそんな姿で、スラムにいらしたのですか?



 ミリエラの声なき声、当然の疑問に。ポンコツなお姫様はついぞ気付かなかった。

セラフィーナ様、満を持して登場!

の割には、ポンコツっぷりが最初からしっかり出ているはず?

そう読み取ってもらえると嬉しいですが。


それにしてもミリエラさんのヒロイン感が強いというか。アセリアは完全に食われてる気がします。

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