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5-3:ここに来た目的

時間がとれず、少し短めです。

「私はこうしてこの子、アセリアと対話することも出来るようになったのです。お身体を借りたのは初めてですが。」


 ちょっと恥ずかしそうに、アセリア姫の姿ではにかむ妹。


 確かにその姿は自分自身ではないのだから、不思議な感じなのかもしれない。それでもその振舞い、話し方、仕草。

 どれもこれもがとても懐かしい、大切な妹の挙措と一致して、今話している少女がエルフィリアなのは疑いようもない。


「ふふ、お身体を借りるなんてわたくしも驚きましたわ。これはアセリア様に、あとでお礼を言わなければいけませんわね。」


 久しぶりの再会と経緯を聞いて、幸せな時を経て。


「では姉様、わたしはそろそろアセリアに身体を返しますね。ずっとお借りしているわけにも参りませんし。」


 少し寂しそうに。それでも本当に久しぶりの再会を喜んで。


「そうですわね。エル、ありがとう。またいつか、会えるといいですわね。」


 こちらも寂しそうに。大切な妹と1500年以上の時を隔てて会話ができた事を幸せに思い。


 アセリア姫の姿でエルがそっと目を閉じて。


 次に目を開いたときは、もうエルは帰っているようで。


 また少し、寂しい雰囲気がして。それでももう、前を向いて。



「アセリア様、ありがとう。とても素敵な時間を頂きましたわ。」


 深く頭を下げて、感謝を述べる。そして。


「ぷふっ・・・もう姉様、2000年近くも経っていると言いますのに、未だにそのふわふわは変わりませんね。」


「え・・・?」


 すっかり妹が帰ってしまったと思ったセラフィーナは、キョトンとした顔になる。


 え?今目を閉じたのは、アセリア様に身体を返したからじゃ?


 姉の混乱をよそに、エルフィリアはもう一人に。あの時からずっと知っている、セラフィーナよりも頼りになるお姉ちゃんのような、そんな存在の少女に歩み寄って。


「これでは皆様も、何よりシェルンもずっと苦労をしてそうです。シェルン、いつも姉様をありがとう。」


 優しい微笑みで、悠久の時を仕える侍女をいたわる。クリスティアラではずっと一緒に過ごしていた姉妹の一人。

 シェルンもあの頃を懐かしんで、いつもの人懐こい笑顔で。


「いえ。エル様、セラ様はいつもこうですからもう慣れました。だからもう・・・だい・・・じょ・・・うわぁぁぁ・・・」


 限界だった。


 シェルンもまたアセリア姫に。エルフィリアにその身を預け、想いが溢れて泣き始める。

 従者という立場を超えて仲良く過ごしてきた姉妹の再会を見て、とても幸せな気持ちになって。先ほども一緒に涙を流したけれど。


 エルフィリアに言葉をかけられて、あの時、あの瞬間までと同じように接しようと、そう思ったのに。


 できなかった。無理だった。


 自分のせいで、自分が大切な姉妹を引き裂いてしまって。何より今目の前にいるエルフィリアに、自分は刃を向けた。


 三人の姉妹をみんな大好きだったのに。エルフィリアに向けた刃でアルティーナを刺して、命を奪ったあの感触だけは。


 決して忘れられない、罪の意識。


 それでもミリエラに諭されて、囚われ続けた自分からやっと抜け出す事ができた。そして思い出して。


 あの後、クリスティアラが滅亡した後に一緒に生き残った二人。セラフィーナもエルフィリアも、あれからずっと何一つシェルンを責めるような事を言わなかった。

 それどころか大切な姉妹を殺めた自分の事を気遣って、それまで通りずっと優しく接してくれていた。


 いまシェルンがエルフィリアに向ける気持ちは、大切な姉を殺めた罪の意識ではなく、あの時の事を謝りたいわけでもなく。

 そもそもあれから、セラフィーナと共に侵略戦争を止めると決めてエルフィリアと別れるまでの間ずっと、謝っていた。


 最初からエルフィリアにも、赦されていたのに。


 だから、今奇跡の再会をできて、シェルンが本当に伝えるべき言葉はひとつ。暫く泣いて、それで気持ちを落ち着かせて。


 ひとしきり泣いた後は、アセリア姫の。エルフィリアの目をしっかりと見て、想いを告げる。


「エル様、あの時のこと・・・」


「もう、シェルン、私はずっと言ってますよ。悪いのは貴女ではなく貴女を使ってあんなことをした方たちだと。だからそろそろ」


「いえ。それはもう大丈夫なのです。今は謝りたいのではなく、一言お礼を言いたくて。エル様にも、セラ様にもずっと気遣って頂いて。本当に、ほんとうにありがとうございます。」


 赦してくれて、気遣い続けてくれたもう一人に、やっと心からの礼を述べる事が出来た。そんな機会は、もう逸していたのに。


「よかった。わかってくれてたんですねシェルン。私が心配していたことのひとつ、やっと解決しました。」


 その姿に、とても嬉しそうに。


 エルフィリアはとても優しい子だから、ずっとシェルンが罪の意識に囚われていたことを、分かれてからも気にしていた。


 だから今のシェルンを見て、やっと気にしていたことが、ずっと心配していたことがひとつ、解決していて。


「それでは姉様、皆様。今度こそ失礼しますね。姉様はもう少し、そのふわふわを直す努力をしてくださいね。」


 最後まで笑顔で。


 そして今度こそ意識をアセリア姫に返して、エルフィリアの意識はそこで消えて。


「も、もう。エル、わたくしだって少しは成長してますわ。そんなに心配せずとも大丈夫ですわ。」


 アセリア姫に向かって、少し困ったような表情で訴える。が。


「あ、あの、セラフィーナ様?エルフィリア様はもう、お休みになられたのですが。」


「あ・・・」


 すこし、ばつの悪そうな顔で目を逸らして。



 お姉様は、やっぱり最後までふわふわです。



 そんな、エルフィリアの声が聞こえた気がした。



 こうして、なぜアセリア姫がエルフィリアの事を知っているのか、という謎は、それ以上の驚きをもって皆に知らされて。

 そんな魔法を。クリスタルの内に自身の意識そのものを移すなどという魔法を紡いだエルフィリアにも感嘆する。


 セラフィーナとエルフィリアの最後のやり取りには、皆もなんだか微笑ましい気分になって場も和み。


「ミリエラ様、本当にありがとうございます。貴女のお陰でエル様にも、やっとお礼を言う事が出来たのです。」


 シェルンは過去に囚われていた自分を解放してくれた、優しい少女に感謝を伝える。


「いえ。そんな。私はただ、セラフィーナ様とシェルンさんがこれからもずっと、幸せに過ごしてほしいと思っただけですから。」


 次女の感謝に、ミリエラは少し謙遜して。それでもあれだけ泣いてお礼を言っていたシェルンの姿は、とても嬉しそうだった。


 その手助けをできたとするなら、とても嬉しいことで。


「それでは次は、わたくしがお話する番ですわね。」


 皆席に戻り、元々昼食を食べながら、という事でコースを少し頂く時間を設けてから、区切りがいいところで切り出す。


 セラフィーナの番。クリスティアラの事についてのお話。


 そしてセラフィーナのことについて。


「まずは、そうですわね。わたくしがここに来た理由からお話いたしますわ。アセリア様とセティス様には既に少し伺いましたが。」


 一度二人を見て。頷いて。


「わたくしはもともと、魔法の素質がとても高い方とお聞きして、アセリア様にお会いするためにフィルメリアを訪れましたの。」


 これが最初の目的。戦争の火種を消したのはあくまでも副産物のようなもので、たまたまここで見つけて優先順位が変わっただけ。


「この力、クリスティアラの金色こんじきの力を使えるかもしれない、そんな方とお話をしてみたいと思いまして。」


 そう言って、右手に金色の力を纏わせて。


「そもそもこれが使えるということは、エルの血を引いている。つまりわたくしとは血縁関係となりますから。」


 先ほどエルフィリアの意識を宿していたアセリア姫に微笑みながらそれを話して。


「つまりセラフィーナ様は、責務の他に血縁のある方を探して旅をされていたのですか?」


 ミリエラが質問する。フィルメリアの者では唯一、セラフィーナが何故永遠の存在となっているか、その一部を聞いているし、その責務についても聞いているための疑問である。


「いえ、血縁を持つ方を探すというのは少し違いますわね。高い魔法の素質を持たれている方と一度手合わせをしまして。」


 そういえば、セラフィーナはアセリア姫ともセティスとも戦いたいと言っていたなぁ、なんて思い出し。


「それでは手合わせをするため、でしょうか?」


 なんでそんなことをするのかは未だに分からないが。


「それはあくまでも、その方の実力を知る為。ですわね。お会いして実力を測って。もしわたくしの想像以上でしたら。」


 そこで一度言葉を切り。立ってアセリア姫の傍に歩み寄り。


「想定以上でしたら、旅の供にお誘いできないかと。わたくし達と共に歩んでみないかと、お誘いしようと思いまして。」


「え?」


 その言葉に、全員驚く。もちろん今までそんな話は一度も聞いていないし、誰にも語っていない。


 セラフィーナがミリエラに目的を話した時、言えなかったこと。少なくともこの国の姫君を連れて旅をしたいというのだから、出会ったあの時に伝えていれば非常に怪しまれる話で。


「セラフィーナ様。それはわたくしとセティス様、姉様を旅のお供にという事なのですか?」


「ええ。ですが王族の方も国家騎士団の団長様も、お誘いするには少し身分があり過ぎると申しますか、お誘いはできませんわね。」


 少し困ったように微笑みながら、ですからそれは諦めますわ、と話して。その言葉に安堵するような、それと逆にどこか残念に感じる気持ちも湧いてくる。


 セラフィーナがまた旅に出てしまえば、二度と会うことはできないかもしれない。

 この高貴で清楚な、そして祖先の姉という存在は、アセリア姫にとってはとても特別なものとなっており、そう考えると寂しさというか喪失感を覚えそうで。


「それは、そうかもしれませんが。セラフィーナ様はまたすぐに、旅に出られるのですか?」


 少し、寂しさが表情に出てしまったかもしれない。これから聞く話もだが、セラフィーナにはもっといろいろ聞きたいと思うし。

 もっと近づきたいと。親密になりたいとも思っていて。


「その、セラフィーナ様は、フィルメリアに留まる、という事は、難しいのでしょうか?もう少しわたくし達と、ここにいる事は。」


 思わず聞いてしまう。魔法の事もいっぱい聞きたいし、それ以外でももっとお話をしてみたい。

 あまりにも超常的で雲の上のような存在にも見えるけど、このポンコツで高貴なお姫様は、お話するととても話しやすくて。


 側にいて欲しいなと、つい思ってしまう。


「ふふ。お気持ちはとても嬉しいですわ。でもわたくしには責務がございますから、あまり長く留まることはできませんわね。」


 こればかりは譲れない。セラフィーナにとって責務は唯一の罪滅ぼしであり、災厄の魔女として語られる自分が、すこしでも罪なき人々を護ることが出来れば、という想いでもある。


「そう、ですか。セラフィーナ様にはもっといろいろ、学ばせていただきたいと。お話させていただきたいと思っておりましたが。」


 本心を告げて。それでもきっと、これはどうしようもないと心の中では気付いていて。


 隣で父王と母が、何やら難しい顔をしながら聞いている事には気付かずに、少ししょんぼりとするアセリア姫。


「アセリア様、わたくしは皆様との対話が終われば、またしばらくしたら旅に出るつもりですわ。それでももう、この国はわたくしにとって特別な国となりましたから。時々は足を運びますわ。」


 優しく、姫の想いに出来る範囲で応えるように。


「まず、わたくしがここに来た理由はおおむねこんな所ですわね。そして次の話題は、そうですわね。」


 周りを見回し、アセリア姫とセティスを見て。


 ミリエラを見て。


「次は、わたくしがどんな存在なのか。クリスティアラがどうなったのかという事について、お話しますわ。」


 これからセラフィーナ自身が体験した、あの時を。


 ミリエラの為に一部は語らず、雰囲気だけ語ったあの状況を、それまでの経緯を。


 セラフィーナの意思で、これから皆に伝える。


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