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5-2:エルフィリアの記憶。の正体

少し遅れました。昔話が始まります。

 今日も朝からたっぷり食べて、そのスレンダーな体のどこにそれだけ入るのかと謎は深まるばかり。


 そんな二人の朝ごはんも終わり。


「セラ様、そろそろ着替えてくださいね。まさかお泊りされてるわけでもないのに、その姿で迎えないでくださいね。」


 しっかり侍女にダメ出しされて、自分の服を見て。いつものネグリジェ姿もその少女の美しさを彩るだけではあるが、やはりそれははしたない。というか恥ずかしい。


 本人はともかく、仕える侍女の方が。


「ご、ごめんなさいねシェルン。こうして。」


「あ、私しかいないから視覚効果は気にしなくて大丈夫ですよ。ちゃちゃっと着替えちゃってください。」


 お姫様の神秘的なお着替えは却下され、なんとなくしょんぼりとした風情でスパッといつものドレスに替えて。


「なんだかミリエラさんと二人の時の方が、気が楽だったような気がしますわ。」


「それは緩み過ぎですよー。一応今の立場は一国の王女なんだから、もう少しちゃんとしてくださいね。」


 そう言われてはぐうの音も出ない。確かにこれからお迎えする方々には身の上をしっかりと伝えているし。

 何よりも大切な妹、エルの血を引いている、どころかその記憶まで一部持っているような感じの、この国のお姫様がくるのである。あまりだらけた姿は見せられない。


「どうせならこちらのお城ではなく、フィルメリアのお城でお話した方が気楽だったかもしれませんわね。」


「セラ様のお食事を用意するのはちょっと敷居が高いと言われちゃいましたからねー。仕方ないのです。」


「それは貴女のお料理が美味しすぎるからですわ。たしかにわたくしもシェルンのお料理が一番ですし。」


「お褒めに預かり光栄です。という事で、私はいまからお昼のコースを準備しますので、セラ様は適当に時間を潰しててください。」


「分かりましたわ。ああ、食材の調達は?」


「あ、でしたら美味しそうな。あーやっぱりいいです自分で仕留めてきます。」


 美しいパールホワイトのドレスを纏ったお姫様が、森で獣を仕留めて持って帰る様を少し想像する。

 それは何というか、絵的によろしくない。セラフィーナの事だから何も気にせずやってしまいそうではあるが。


 殺生は好まないお姫様も、事食に関してはそういった話は一切挟まない。この世界は人を含むあらゆる生態系が当然の如く弱肉強食で、その摂理は当たり前と受け止めている。


 どころか自分がその自然を代表する権化のような存在なので、そういった面で感情論を挟むことは無い。

 こんなに天然ポンコツで、ぽやぽやした人物がそのような位置づけでいいのかどうかは不明だが。


 結局お仕事は侍女に任せて、セラフィーナは少しの間暇になり、仕方ないので美しい景色でも臨んでのんびりしようかと、なんだか馴染みになった離島へと飛び立って。


(お城を建ててしまったせいで、ミリエラさんと眺めた景色が変わってしまいましたわね。)


 そこから眺める景色は、あの時とは違うものになっていたが、優しい潮風を浴びて、海鳥の鳴き声を聞き、城など関係なく美しい海岸線を眺める。


 それはとても幸せなひと時。揺れる水面に、たくさんの花々が彩を添えて。


 その景色はまた、今朝方見た夢を思い出させる。とても幸せで懐かしく、そして悲しい記憶。




『もう貴女の事も、わたくしからお伝えしてもよろしいかしら。それともやっぱり、ご自分で?』


『大丈夫です。セラ様の視点で語って頂いて構いませんし、その方が皆様も納得すると思います。』


 昨夜シェルンに確認して、二人の事はセラフィーナが全て伝える事とした。シェルン自身が既にミリエラに伝えているとも聞いているし、その結果過去に囚われ続けていた自分から前に進めたとも聞いた。


 初めて出会った時は失意の底にいたあの少女。元々はアセリア姫とセティス、二人に会いに来たはずなのに。

 結果だけを見れば全てミリエラのお陰で上手くいったような、そんな気もする。


 フィルメリアに来てからの事を少し考えて、優しい少女の事も考えて。そういえばレイノルドも呼べばよかったかななんて思ったが、彼は急遽第二大隊長になった為、色々と忙しい。もちろんセティスも騎士団長として忙しいが、当事者であるレイノルド程ではないため時間を捻出できた。



(さて、そろそろですわね。シェルン、準備の方は如何ですか?わたくしに何かお手伝い)


(セラ様のお手伝いはいいです。お手伝いしてくれるならレアニールさんがいいです。なのでそろそろミリエラ様のお迎えにでも行ってきてください。ついでにレアニールさんが暇ならお手伝いをお願いしてきてください。)


 念話でシェルンに状況を聞くと、お姫様の善意はにべもなく断られる。もちろんコース料理の準備でポンコツを発揮されると困るのでそれは致し方ない。

 ついでにいい感じでお遣いを頼まれたので、すぐセラワープでシェフィールド邸に飛び。

 いきなり中にワープするのも色々よくないので、とりあえず近くの空中に転移してから地上へ舞い降りる。

 もちろん人目は気にするけれど、そもそも空からお姫様が降ってくる時点でアウトなのであまり意味はない。


 そして入口に近づき、守衛の元へ。


「こんにちは。取次ぎをお願いしますわ。」


 涼しい顔でお願いすると、守衛詰所から出てきた警備員が固まる。それも当たり前。迎えに行くなんて一言も伝えてないし、そもそも領主邸にノンアポでどこかのお姫様が単身ご訪問なんてことは常識的にありえない。


 セラフィーナが単独行動でどこかに訪れるときはだいたいこんな感じで、お買い物に行っても、色々情報収集していた時も、だいたい相手がフリーズして先に進まない。


 だからシェルンはお姫様スタイルはやめろとよく言っているのだが、なぜか絶対にやめない。


 だが幸運なことに、その警備員は知識があった。なぜなら彼はもうすぐ結婚する予定で、その相手は適齢期スレスレではあるが、心遣いのできるお嬢様付きの侍女で。


 ようするにレアニールのパートナーである。名はリッチェル。長年シェフィールド邸の守衛を務める、ごく普通の警備員である。警備員なのでそこそこ強くもある。


「セ、セラフィーナ様、ですね?少々お待ちを!」


 警備員、リッチェルはその姿を認め、慌てて詰所にいるもう一人にその場を任せて邸内にかけていき。

 本当に急いだようで、すぐにシェフィールド卿、グライスとミリエラが出迎えに出てきた。


「これはセラフィーナ様、わざわざご足労頂くとは聞いておらず失礼しました。」


 何も悪くないのに謝るシェフィールド卿と。


「こんにちはセラフィーナ様。お久しぶりです。」


 今やすっかり落ち着いて、お嬢様然としたミリエラ。あれ以来親子は平和に暮らせているようで何よりである。


「こんにちは、グライス様。ミリエラさんをお迎えに参りましたわ。それとよろしければレアニールさんも。」


「レアニールも、ですか?お父様、レアニールは今日私のこと以外に予定って。」


「いや、特にないな。セラフィーナ様、レアニールにはどういったご用件で。」


 隣で聞いているリッチェルもいるので、とりあえず何故侍女も必要なのか聞いてみる。


「えっとですね、シェルンがレアニールさんのお力をお借りしたいと申しまして。もしお暇でしたらお力添えを頂きたいと、お願いしに来ましたの。」


「ああ、なるほど。という事は、今日もシェルンさんのコースなんですね。やった!」


 すごく楽しみな感じで嬉しそうなミリエラと、ちょこっと羨ましそうなグライスと。

 シェルンのお料理が絶品という事をフィルメリア防衛作戦の時に知ってしまった男は、出来れば自分も行きたいな、と割と本気で思って。でも仕事があるからいけない。


 結局グライスはミリエラにレアニールもつけるようリッチェルに指示して、二人を連れていくことになり。


「グライス様も相談がありますので、また今度ご招待いたしますわ。」


 と、父に嬉しい一言を残して、そこから三人消える。


「え?レアニール?みんな、きえた?」


 当然それを見て困惑するリッチェルに、グライスがセラフィーナの空間転移魔法を説明して、一人の警備員が人外の所業にあんぐりと口を開くという分かりやい光景を残し。


 再びメルヘン城へ。


「シェルンさん、お久しぶりです。」


「お久しぶりです。私が何かお手伝いできると」


「お二人ともお久しぶりです。レアニールさん、待ってましたっ!こっちにっ!」


 キッチンでものすごい速度で動いていたシェルンが挨拶と共に停止して、すぐに呼び寄せる。


 そこからはあれとこれをこうして、とか、はい、はい!お任せくださいっ!と言った侍女同士仲の良いやり取りが聞こえてきて、そこはすぐに戦場と化し。


「シェルンさん、相変わらずすごいですね。」


「そうですわね。わたくしにも何をしているのかさっぱりわかりませんわ。」


 速さは目で追えていても、セラフィーナにはお料理センスが基本的に無い。なので何をしてるか分からない。


「ミリエラさん、少しベランダにでも行きましょうか。」


 ミリエラにとってはほんとうに久しぶりの、セラフィーナの優し微笑を見て。

 少し心がまた温かくなるのを感じて。


「はい。」



 ふたり、ベランダから海岸線を眺める。


 このお城ができたあの時は、本当に怒涛の日々だった。本来数か月かかって体験するようなことが、結局たったの3日ほどで目まぐるしく動いて。


 色々な真実を知って。凄く悲しい現実も見て。


「ミリエラさん、お母様の事は。」


 遠くを見つめながら切り出す。未だに止めたままのユリアーネは、ミリエラにももちろん伝わっていて。


「本当に、犯人を見つけてくれるなんて驚きました。セラフィーナ様なら何でもできるとも思ってましたけど、証拠も何もない、三年も前の事を突き止められるなんて。」


 ミリエラも遠くを見ながら。その瞳に映るものにはもちろん悲しみも含まれているが。それでも。


「でももう、何をしてもお母様は戻りません。ですから私はこの国の法に則った結果になれば、それで十分です。」


 どれほど悲し事があっても、その過去に囚われないで。


 それは自分がシェルンにも願ったこと。ずっと過去に囚われていたシェルンが、仕える姫君と共に幸せになってほしいと願って、結果としてシェルンは過去から解放された。


 その想いを伝えた自分が、過去に囚われてるなんて情けない姿をさらしていいわけがない。


 ミリエラはもう、失意の底にあったあの頃には決して戻らずに、強いつよい意志を持ったこの国の姫君同様、しっかり前を見据えて、未来へ進む。


「ふふ。貴女を見ていると同じ事を何度も言ってしまいそうですわ。」


「同じこと?」


 セラフィーナに視線を向けたミリエラに、お姫様も視線を向けて、とても幸せそうな微笑みで。


「ええ。やっぱり貴女は、とてもいい子ですわ。」




―― セラフィーナがミリエラとお話している頃。


 フィルメリア城では出立の準備をしていて。


 国王と王妃が、若干顔を引きつらせて。


「アセリア、セティス。本当に大丈夫なんだろうな。」


「あらお父様、わたくしも姉様もアレから十分訓練してますわ。お二人を乗せたこれを運ぶくらい簡単ですわ。」


 これ。二人乗りのなんか、馬車の居室をちょっと小さくしたような頑丈な居室。その左右に人が手で持つような、手すりのような棒がついていて。外を見る窓もついている。


「陛下、王妃様。お任せください。お二人は普段見られない景色をしっかり楽しんでいただければよいかと。」


 いつも通りの凛とした雰囲気で。セティスも全く問題が無いという感じで声をかける。


 今からメルヘン城へと向かうわけだが、フィルメリア城からメルヘン城へはそこそこ距離もあって、馬車で向かうのであれば早朝出立するか前日泊になるなるのだが。


「わたくし達と一緒に飛んでいけば速いですわ。」


 という娘の提案に、空を飛ぶなど決して経験がない国王夫妻はその時は二つ返事でお願いしたが。

 いざ飛ぶとなると、はっきり言って怖い。


 もちろん二人を疑うわけではないが、人は空を飛ぶように出来てはいないので、地に足がついていないのはとても怖いものである。


 そんな怖がっている両親に、どうしてそんなに怖がるのかしら?なんて過去の自分を忘れた姫は。


「お母様、アレはちゃんと居室にありますね。」


「ええ、わたくしがしっかりと持っていますわ。セラフィーナ様のお城に着いたらお渡ししますわ。」


 今日のお話でとても大切になるソレを、しっかりと持っていることを最後にしっかりと確認する。


 アセリア姫が今日その場に臨むにあたって最も大切になるそれだけは、決して忘れていけない。


 準備が整っていることをしっかり確認して。


「では兄上、行ってまいります。あとはお願いします。」


「ああ、気を付けて。陛下、王妃様。良い旅を。」


 セティスがアルヴィンスに後の統制を任せて、国王夫妻を乗せた空中移動用の居室、その手すりみたいな部分を持ち、反対側はアセリア姫が持って。


「姉様、参りましょう。」


 姫の一言で、二人と居室がふわりと浮いて、空に舞い上がり、ある程度の高さまで上がると。


 グン!と加速して、まっすぐメルヘン城へと向かう。


「うわああああああ!」

「きゃああああああ!」


 もちろん空間移動、無限移動の術式は自身と居室、その中にいる二人にもかかっているので、全く問題無く重さも感じずに飛べているのだが。


 そして一緒に術式で飛んでいる国王夫妻は室内で変に吹き飛ばされるようなことも無いのだが。


 二人とも絶叫して。たしかに窓から見える景色は今まで見たことも無いような素敵なものかもしれないが、とりあえずその加速がダメだった。


 アセリア姫もセティスも、過去に自分たちたっての希望でシェルンに超高速空輸されて、それはそれは酷い目に遭っているのだから気付いてあげればいいのだが。


「姉様、二人で協力して動くとこれだけのものを持っていても全然早く飛べますわね。」


「そうだな。やはりこの術式は凄い。いざとなれば兵を抱えて離脱することもできる。これを教えていただいた事には感謝以外ないな」


 二人ともとても嬉しそうに全力で。もちろんメルヘン城に予定より早くついて余裕を持ちたい気持ちもあるが、なにより空を飛び慣れてくるととても気持ちよくて。


 自由に空を翔けまわれる、この感覚。重力の鎖から解き放たれた開放感。それは何物にもまして魅力的で。


「アセリア!セティス!も、もう少しゆっくり!」


「お二人とも、わたくし達が死んでしまいますわ。」


 両親の悲鳴に混じった懇願が聞こえて、やっと。


「「あ。」」


 気付くのである。後の祭りだが。


 そこからはとりあえず怖くない程度の巡航速度で順調に空を飛び、居室の二人もようやく落ち着き空から景色をゆっくりと眺めて。眺めて・・・


「あ、あなた。高い所って怖いですわね。」


「あ、ああ。騎士団で先頭を切っている時よりもよほど怖いぞこれは。なんであの二人は平気なんだ。」


 自力で飛ぶものとそうでないものには、圧倒的な感覚の隔たりはあるようだった。


 そして数十分。馬車とは比較にならない速度でメルヘン城に到着した四人は例によって直接バルコニーに到着して。

 ようやく全員揃い、美味しいランチのフルコースを頂きながらの話し合いの場が始まった。




―― メルヘン城、来客用ティールーム。


 というか、将来は公開用の大きなティールームで。


「今日は皆様、ご足労頂きありがとうございます。それでは早速、始めましょう。」


 セラフィーナの一言でお話合いの場が始まり。


「わたくしがお聞きしたいのは、アセリア様がなぜエルの記憶を。エルフィリアの事をご存知か。ですわね。そして皆様がわたくしに求めるのは、クリスティアラの事。そしてわたくしのことでよろしいですわね。」


「はい。それではわたくしからお話しますね。」


 アセリア姫が立ち上がり、両親に軽く頷いて。


「セラフィーナ様、こちらがエルフィリア様に託されたティアラ。それに間違いはございませんね。」


 そう言って、用意していたそれを手に取って見せる。


 それはプラチナの台座に、中央には黄金のクリスタル、そして左右に白銀のクリスタルが多数あしらわれた、美しく輝くティアラ。


 クリスティアラの正当な王位継承者に連綿と受け継がれてきたソレが、今はフィルメリアの王家に代々受け継がれていて、今の保持者はアセリア姫であるというそれを見て。




「本当にあなた方の国でしっかりと護って、受け継いでくれていたのですね。ありがとう。間違いございませんわ。」


 懐かしさと嬉しさと、少しの悲しさと。1800年以上の時を経て目にしたそれは、昔の記憶と一切変わらずに。

 何とも形容しがたい感情が沸き上がり、セラフィーナはその空色の瞳を潤ませてしっかりと見つめて。


 返事を聞いたアセリア姫も、暖かい気持ちになりながら頷いて。そして語り始める。


 それは一つの奇跡なのかもしれなくて。アセリア姫が特殊なのか。歴代フィルメリアでティアラを受け継いできたもので唯一、その力の使い方に気が付いたからなのか。


 語り始めるのは、アセリア姫ではなく。


 そのティアラをそっと持ち上げ、それを身につけて。そして祈るように金色の、クリスティアラの魔力を自身に纏い、それをティアラにあしらわれたクリスタルに同調させる。


 アセリア姫がしばらくそうして瞳を閉じて祈りを捧げ続けると、それに共鳴したかのようにティアラのクリスタルが優しく輝いて、そして姫が目を開き。


 一度瞬きした後、周りをゆっくりと見回して。その挙措はアセリア姫のものであるのに、何か先ほどまでとは動きが違うように感じられる。どことなく、ぎこちなく。



 そして見まわしていた瞳が一点に留まり、見つめて。その目からはすぐに涙が零れ、席から駆けだして。



 セラフィーナの元へ。



 その胸に飛び込んで。




「姉様っ!セラ姉様っ!!」




 もう、何も言わなくてもそれだけでわかる。妹に託したソレが。とても強力なマジックアイテムが。今は。



「エル・・・エルなのですね!」



 二人のお姫様は抱き合って、互い涙を零して。




 セラフィーナにとって、それは信じられない奇跡。たしかにそのティアラには、聖王国がずっと守り続けていた封印を維持する術式が籠められて。それを受け継ぐために、初代女王の力が、意思が籠められていたとは聞いていたが。


 まさか今はそのティアラに、それを託した妹の意識が籠められていたなんて思いもしなくて。



 暫くの間、二人は動けずに抱き合って泣き続ける。

 この場に居るものは皆、今この場で起きている奇跡が何なのか、なんとなくわかる。理解できている。

 だから皆何も言わずに、信じられない程の長い時間を経て再会した二人を、周りも優しく見守って。



 やっと落ち着いて、ふたり離れて。



「貴女がアセリア様を、フィルメリアの皆様を。ずっと支え続けてくれていたのですね。」


 まだ涙で濡れた瞳で、それでも優しい微笑みを向ける。フィルメリアという国がとても優しい国民性を持ち、王家が人々を大切にする国として続いていた事にも納得する。


「支えていたわけではないのですが。私の意識を分かってくれたのはこの子が。アセリアが初めてなんです。」


 ある意味体を乗っ取ているようなものだが、アセリア姫自身の意思で今はそうしてくれていて。

 そこからはしばらく、エルフィリアが語ってくれることにみなで耳を傾ける。


 アセリア姫がエルの記憶をティアラに宿していることに気付いたのは、6年前。兄を救うために必死に魔法を紡いで、織り成して。そうして気付いたその力。


 ほんの少しだけ世界の力に触れた少女は、その後そのティアラを身につけた時、エルの記憶が少しだけ自身の意識に流れ込む経験をした。


 それは最初は怖く感じることもあったが、エル自身のとても優しい性格はむしろ落ち着きを与えてくれて。


 それから一人でいるときは、時々そのティアラの記憶を覗くようになって、エルの記憶、その一部をまるで自身の記憶のように知る事となった。


 そしてあの日、メルヘン城で初めてセラフィーナにあったその日に、記憶の中に在るエルが見せてくれたその姿。それが目の前にあるという現実に、この方こそが自分たちの祖先であるこの記憶の持ち主、その姉上だと気付いた。


 だが実はあの時はまだこんな事が出来るわけではなく、断片的な記憶を何度もなんどもアセリア姫が見て、それを知っていくという事だけだったが。


 セラフィーナと出会い、シェルンの指南を受けたアセリア姫は、その力の本質を理解して、初めてその状態でティアラを試しに身につけて。


 そこでようやく、エルの意識そのものが籠められていることに気付いたのである。

 つまりこんな事が出来たのは、フィルメリアの動乱が終わり落ち着いた後。意外とつい最近だった。



 そんな経緯をゆっくりと語っていくエルの言葉に、セラフィーナはもちろん集まった皆もしっかりと耳を傾け。



 そんな奇跡のような、意識を籠める魔法を織りなしたエルフィリアに感嘆して。




 終始嬉しそうな顔をして話を聞くセラフィーナと。




 その横で、ずっと笑顔のまま涙を溢すシェルンと。




 アセリア姫の。エルフィリアの話は、いにしえの時代から生き続ける二人に、とても幸せなひと時を齎して。






エルの記憶どころかエル自身になってしまいました。

アセリア姫の意識はこの間どうなっているのでしょう。

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