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4-13:戦いが終わり(シュタイムブルグ)

間が開いてしまいました。すみません。


 舞い散る光の粒子が消え、部屋を覆いつくしていた圧倒的な重圧もふっとなくなり。


 セラフィーナに時を止められ、今は眠ったように横たわっているユリアーネと、その後ろで重圧が消え、恐る恐る顔を上げて周りを見回すファウスト。


 そして舞い散る金色を見て、それを行使した人物の姿、あの瞬間はまるで女神のようにも見えた高貴な姫君を、信じられないような、それでいて感動したような顔で見ている、この国の国家元首、皇帝ブルクト。



 セラフィーナは前にいる三人を見て、少なくとも今回の件における、首謀者の一人は無力化して。

 自身を見つめる皇帝に、いつもの微笑で返し。


「失礼。少し、お騒がせいたしましたわ。」


 いつもの優雅な挙措で、皇帝に一言告げて。

 だがそれを聞いた皇帝ブルクトはセラフィーナに向き直りそのまま平伏す。


 その皇帝を見て、今まで自分の後ろ盾と思っていた高貴な身分の、この国のトップが平伏すという姿を見て。


 ファウストは、精神は実年齢より幼いながらも、今目の前にいる人物がブルクト陛下ですら頭が上がらない人物なのだと理解する。


「あ、あの。僕は・・・」


 それ以上、何を言えばいいか分からない少年を見て。セラフィーナは一瞬そちらに目を移し、改めて皇帝をみる。


 その姿は、平伏したまま。



「陛下、頭をお上げください。そのようにされていては満足にお話も出来ませんわ。」


 優しく、いつもの感じで。

 内心は、なんでこの方はわたくしに平伏すのでしょう?という疑問を持って。何しろ800年以上前の事を、この皇帝陛下がしっかりと覚えているわけがない。


 というかそもそもセラフィーナが忘れている。


 彼女の中では、そういえばなんか昔に来たことがあるかもしれませんわ。程度の感覚で。


 そんな状態ではあったが、ブルクトは恐る恐る頭をあげ、セラフィーナを見て。


「貴方様は、わが国の伝説にあるあのお方の。国の危機を救い、お力をお貸しくださった。民に安寧を与えて下さったあの方の、末裔でございましょうか?」


 なんか、知ってる風な感じで聞かれた。


「えっと、ブルクト陛下。でしたわね。それはいつ頃の、どの様な伝説でしょうか?」



 とりあえず、聞いてみる。忘れてるけど。

 そして皇帝ブルクトから一通りの伝説話と、それがだいたい800年くらい前だったという事を聞いて。


 暫くの間「んー」という感じで考えたセラフィーナが、突然ピコーンというような感じで思い出して。


「ああ、あの時の!確かとても豊かな国で、そのおかげで多くの侵略を受け困っていたあの国ですわね。

 ええ、思い出しましたわ。侵略してきた者たちを少し威圧して追い返して。魔法の織り成し方を簡単にお伝えして、それを護る為にお使いなさいと。たしかにわたくしがお教えしましたわ。」



 そんなことを言う。それを聞いたブルクトはまた混乱してセラフィーナを見て。


「あ、あの。貴女様ご自身が、でございましょうか?」


「ええ。先ほども<災厄の魔女>と申しましたとおり、わたくしこう見えて、1800年以上生きておりますのよ。」


 しれっと、何事もないかのように告げて。


 いや、本来ならばそれを伝える相手は選ぶのだが、どうもこの方はこの国の皇帝陛下みたいだし、昔の偉業、というかセラフィーナが伝えたことを代々ちゃんと伝えてきた、義に厚い一族のようだし。


 その言葉にただただ口をあけて、呆然と見ていた陛下だったが、やはり国のトップ。何とか再起動して。

 支配の呪法マインドドミネーションに操られていた人物は、グライスもそうだったがその時にやっていたことはちゃんと記憶として残っている。


 つまり皇帝ブルクトも今まで自分がやらかしてきたことをしっかりと認識していて。

 それゆえフィルメリアのアセリア王女と共にこの方が来たという事がどういう事態かもはっきりと認識して。


「も、申し訳ございません!此度の件、全て我が不徳と為すところ!この身を以て償いを!」


 なんて言い出してしまい。セラフィーナはブルクト自身は操られていて何も悪くないと思っているので、慌ててそのことを説明して。


 ひとまず事なきを得て、一通り落ち着いてから、今度はアセリア姫とセティスも交えてお話しましょう、という事になって。ブルクトには納得してもらい。



 セラフィーナにとってもっと大切な。というと皇帝陛下が大切じゃないことになるので語弊があるが。


 それでもセラフィーナの認識では、フィルメリアに「試作型投影人形」を使ってやってきていた少年、ファウストの方がよほど問題である。



 まだ怯えている様子の少年へと近づき、しゃがんで目線を合わせて。いつもの優しい微笑で。


「あなたには色々とお聞きしないといけませんわね。ええとお名前は何でしたかしら。」


 とりあえず、ちゃんと名前を聞いた気がしないので聞いてみる。聞いたかもしれないが流していて。


「ふぁ、ファウスト。」


 怯えながらも、何とか答えが返ってきて。


「あなたは魔獣を。いいえ、古代のあの兵器が使えるのですね。あの力、どちらで見つけたか。どうしてこのような事をされたのか。わたくしに教えてくださいますか?」


 あくまで優しく。セラフィーナから見てこの少年は、確かに禁忌の技術を操る危険人物かもしれないが。

 その魂はまだあまり濁ったモノではなく、子供らしい輝きをちゃんと持っていて。


 ただその中に、言いようのない悲しみのようなものが見え隠れしていて。セラフィーナは知らないが、彼は自分の家族を。知っているものを皆含む村を、自身のミスで、組み込んだ魔法を解除し忘れて、壊滅させてしまった。



 そんな悲しみを、取り戻せない罪を抱えていて。



 少年は、先ほどの圧倒的な力に、重圧に。セラフィーナに逆らってはいけないと、そう思ったのかもしれない。

 あるいはずっと抱えていた自分の罪を、誰かに知ってもらいたかっただけなのか。


 優しい雰囲気で近づき、言葉巧みに少年を、ファウストを操って自分の武力として扱ったユリアーネ。

 同じように優しい雰囲気だが、出会ったときは恐怖の体現だった、目の前の美しい姫君。


 幼さを残したままの少年は、自身の罪を。廃墟から古代の技術を発掘してしまった過去を。

 その廃墟が廃墟となる前の時代に、その者たちに国を滅ぼされた姫君に、そうとは知らず語り始め。



 全てを聞いたセラフィーナは、その少年を責めることは一切せず、一度フィルメリア預かりとすることを皇帝ブルクトに約束して。



 彼は一度、フィルメリアへと連れていくこととなる。

 彼にとっては全く身に覚えがない、さりとてフィルメリアにとってはいちばん大きな問題。


 アセリア姫の兄であり、セティスが将来伴侶となるはずだった人物、フィルメリアの第一王子。


 その男を間接的に死に追いやったという、その罪の行方を残したままで。その罪と向き合うために。


 すべてを当事者に明かしても、その上でこの少年の処遇はけっして悪いことにはならないと。

 フィルメリアの優しい姫君と騎士を信じて。




―― 中央庭園。空中。



 巨大な鳥となった魔法兵器と相対するセティスは、その鳥の機動力を遥かに上回る速度で空中を翔け、先ほどから何度も斬撃を繰り出し、その弱点を探る。


(どれだけ斬っても変わらずか。やはりおかしい。少なくとも今までのものとは全く種類が違う。)


 どれだけダメージを与えても魔核は見つからず、本来魔核を見つけられるはずの魔力視を以てしても確認できず。

 地上で巨大キノコだった時も、どれだけ切っても、自身の剣にある魔石から、アセリア姫の籠めた巨大ホーリーレイを解き放ってさえ、それは見つけられなかった。


 ならばやみくもに攻撃しても意味は無いと考え、相手の特性を考える。見極める。

 見る限りはサイズを大きくしただけの、フィルメリアで戦ったあの魔法兵器と変わり映えは無い。


 使う攻撃もあの男が使った見えない斬撃と同じ。キノコ状態の時は触手や小型キノコの攻撃といった、違った攻撃を揮ってはいたが、鳥型となってからはワンパターンとなり。


 ただそのサイズ故、あるいは保持する魔力量ゆえか。

 その斬撃は同時に多数降り注ぎ、これが大量破壊兵器であることの一端をうかがわせる。


 鳥から放射される斬撃は風系統の魔法で、それを剣で切り払って相殺し、自身への攻撃は完全に無力化して。


 巨鳥はセティスへの攻撃を続けつつ、その巨体を生かして地上にも空爆のように数多の風魔法を降らせる。

 放たれる魔法の斬撃はすべて地に伏せ、救護を待つ兵たちに向けられて。この兵器が殺人兵器であると物語って。



 本来であれば、空中で戦うセティスが地上に倒れる兵たちへの攻撃を防ぐ術はない。防ぐのであれば鳥の下に自ら回り込み、その斬撃を全て切り払うか結界で止めるか。


 だが今のセティスはそれをしない。しなくても問題がないというか、空中で攻撃しつつも地上を護ってもいる。


 地上に向けられる魔法の斬撃。それを全て地上に残した影の分身で切り払い、分身からも結界を展開して。


 今のセティスは、空中での戦闘と、地上での防衛をたった一人で行っている。影のセティスも練度上がったからか、あるいは籠める魔力が高まったからか。

 うっすらと自身の姿を宿しており、まるで少し明度が落ちただけのセティスがもう一人いるようで。


 そのありえない光景に、動けるシュタイムブルグの兵士たちは驚愕のまま救護活動を続け、なんとか動けない兵たちを救おうと懸命に移動させて。



 そこへ、もう一人の人物が空を飛んで到着する。



「セティス様、遅くなりましたっ!」


 言葉と共に、その長杖に籠めた魔力が輝き、巨大な鳥へ向けて光の乱舞を打ち込み。

 12本同時に起動した、ホーリーレイ。その一撃一撃は姫が放つ巨大なものとは比べられないが、セティスの斬撃と連携したソレは形成された魔法の体を再生する暇を与えず削り取り、鳥の魔獣、魔法兵器はその形をどんどん無くして消えていく。


 だがそれだけしても魔核は見つからず、その兵器の特異性を浮き彫りにして。


「アセリア様!こいつはおかしい。どこを見ても、どれだけ攻撃しても魔核が見つからない!」


 言葉にしてみて理解する。この鳥はどれだけ攻撃を当てても魔核がない。巨大キノコだった時も同様に。


 その言葉を聞き、アセリア姫はその目で。セティスの魔力視よりもはるかに強力な、あらゆる魔法を可視化する目で鳥の全容を確認して。


「確かにおかしいです。これは、この魔法兵器は中に魔核がありませんっ!この鳥をどれだけ攻撃しても無意味です。」


 姫の言葉に、その特異性を明確に理解して。ならばこれを動かしている、核となるものはどこにある?

 セティスは攻撃を防ぎながら、今までの攻防を考え、この鳥がとっていた行動を考えて。


「姫様っ!先に兵たちを。これの特性が分かりましたっ!魔核を持った本体が別にいますっ!」


 この鳥がキノコだった時、小さなミニチュアキノコを複数飛ばしていた。あの時点でその特異性に気付けば。

 この兵器は、自身から分離した形でも兵器として機能している。それはつまり、この巨大な鳥そのものが本体ではなく分離された側として考えれば。


 セティスがキノコ状態のコレと相対していた時、自身に向けてだけでなく、他の兵たちにもミニチュアキノコを飛ばして攻撃していた。

 ならばその中に本体がある。分離された側の、この巨大な鳥をいくら攻撃しても意味がない。


「分かりましたっ!先に兵の皆様を癒して、避難を優先しますっ!」


 まだ地上でセティスの影が護っているモノたち。そちらの救出を優先し、一度姫は地上に舞い戻り。


彼岸花の護りリコリス・プロテクション!」


 言葉と共に自身への攻撃を三体まで無効化できる自律防衛魔法を設置して。セラフィーナとのあの一戦に、短期間で新たな力を授けてくれたあの方に感謝して。


 倒れている兵に、集まっているものは纏めて、離れているものは個別に。自身のハイ・ヒーリングでどんどん癒していき、動けるようになったものから離脱させて戦場の危険を減らしていく。


 鳥が空中から放つ魔法は、兵や姫自身に当たるものを察知した、アセリア姫の周りをくるくると漂う彼岸花が自律的に移動して結界を張り防御する。


 そんな、アセリア姫自身がヒーリングをかけているのに勝手に防御してくれる便利な魔法を見て。


「あ、あの。この花はいったい?」


「このお花はわたくしの魔法ですわ。護るべきものに向けられた攻撃を魔法自身が判断して防いでくれますの。」


 兵の質問に簡単に応えて。その答がどれだけどんでもない魔法を行使しているかという事を意識せずに。


 魔法が勝手に動いて防御してくれる。しかも一度ではなく何度でも。それはつまり、この魔法は魔力の供給、魔法の検知、高速移動、結界展開を全て自分でやっている。


 シュタイムブルグの兵にとって、この魔法はありえないほど高度なもので。編み込めるとかそういう次元でなくて。

 しかもそれを発動したうえで、目の前のお姫様はあっという間に傷を全快させるとんでもない回復魔法を使う。


 色々と信じられない現実が目の前にあって。


 その結果、先に助けられた兵たち同様、今戦場で癒された兵たちもアセリア姫を崇めるような仕草をして、一礼した後で退避していく。


 この時点でシュタイムブルグの兵たちの中では、一種のアセリア教みたいなものの根幹がすでに出来てしまって。


 この戦いが。シュタイムブルグが誤った戦争を仕掛ける事を防いだ、そして兵たちを救った戦いが後に、フィルメリアとの海を挟んだ二国間で、永世友好関係を結ぶ話に。

 他国への侵略を一切しない二国が、海を挟んで長きに渡る友誼を結ぶ切っ掛けとなることに。


 それを成した姫君自身は、まだ気付いていない。



 地上の兵たちをアセリア姫に任せたセティスは、影も飛び立たせ、自身本体は引き続き巨大な鳥を攻撃する中であらゆる場所を魔力視で監視して。


 影は空中から確認できた、未だ残る、セティス以外に向けられ放たれたミニチュアキノコに向かって突撃し、見つけ次第破壊を繰り返し。


「アレかっ!」


 数が減れば、魔力の動きが減って来れば。その存在は浮き彫りになっていく。

 ようやく見つけた、他とは違う組成を巧みに隠している本体。形は他のミニチュアキノコと同じ。


 見つけたセティスは影の自分でそちらに向かって。発見されたことに気付いたキノコは退避を試みるが、彼我の速度差は話にならないもので。


 瞬時に追いついたセティスはその影で、逃げようとするミニチュアキノコの、その中にある魔核を横薙ぎに、真っ二つに切り払い。


「ギュ・・・」


 ミニチュアキノコが塵となって消えて。


「ヴァアアアア!」


 耳障りな断末魔をあげて、空中で相対していた巨大な鳥も徐々に塵となり、虚空へと消え去って。



 魔法兵器の厄介さをまた一つ理解して、セティスは地上に舞い降りる。

 アセリア姫同様、兵たちに崇拝の念を向けられて。



―― シュタイムブルグ市街地、のはずれ



 すべての魔獣を浄化したことを確認し、いまさらという感じでその姿を現した男を確認して。

 シェルンは魔力消費を抑えるために、一度開放した魔力を解除する。もう一度に広域を浄化する必要はない。


 その男はやはり赤い髪で、筋肉質ではあるがあまりごつごつとした感じはない、細身の男で。

 なんとなく、先日相対したレイサードに似た雰囲気を持っている。そんな感想を持ち、男の正面に立つ。


 その男の名は不明。コードネームではセカンドと部下に呼ばせている。

 シェフィールドにいなかった、副長レイサードに現場を任せた隊長。ユリアーネが組織した部隊の、戦闘班トップであり、組織内では最高の戦力。シェリーヌがあのバケモノと呼んでいた二人のうちの一人でもある。


 ユリアーネは魔法による裏工作も行うが、基本的に組織を束ね、行動を決めるブレインであり、自身が危急の状況に陥らない限りは戦闘を行わない。



「お前は何だ。先ほどの力はなんなのだ。」



 シェルンが魔獣を浄化する一部始終をその目で視て、その驚愕の力を確認する。

 何があったかは分からないが、王城でトラブルが発生したことは認識している。ユリアーネと情報を共有している男にとって、その場で起きたことはある程度伝わっており。


 問題なのは、途中からそれが出来なくなったこと。本来は誰にも感知されないはずの、情報並列化の魔法。

 それがなぜか、途中から情報を流さなくなった。王城でのユリアーネの状況が見えなくなった。


 今まで決して起きえなかった状況において、セカンドはひとまず目の前の少女に確認する。


「あなたに答えられることはありません。即時の投降をお勧めしますが。」


 にべもなく。

 シェルンにとってはただの確保対象。ただ自分と同じような術式が。先ほど見たユリアーネと同じ術式が内部で動いていることを考えると、あまり油断はできない。


 セラフィーナの解析結果を知らない状況では、その術式が何と同繋がっているかが分からない。

 いくらシェルンとはいえ、世界の裏側と繋がっている術式は流石に解析できず。



「そうか。ならば実力で抑える。」



 あまり感情的にはならないようで、だが魔法兵器と違いどこか自分を抑えているような風情があって。

 そのこともまた、あの贖罪をしようとしていた男と似たような雰囲気を持つ。



 その男が武器を手にするのを見て、シェルンも戦闘モードに思考が切り替わり。


 その武器、見た目はトンファーのようで。使用者にもよるが打撃による破壊力はかなり高い武器となる。


 それを両手に持ち、構えて。


「ゆくぞ。」


 その言葉と共に走り出し、一瞬で間合いを詰めて。


(はやいですね。)


 その攻撃を見て、その練度を確認して。

 高速回転させたトンファーは男の振う右腕から正確にシェルンの頭部を狙い、下から救い上げるように打ち込まれ。


 その攻撃を躱す。自身に張り巡らされた結界で受け止めることはせず、少し下がり、体を反らし。

 それに追従する男は振り切った右腕を引き戻しながら体勢を低くして、左手で持つトンファーで打ち上げるように顎を狙って振り上げて。


 その一撃も再度躱す。体の真下からくる一撃を、サイドステップで素早く避けて。

 そして本来自身の顎があった場所に来たトンファーそのものに、右掌底で一撃を。掌から発した魔力爆発をあてて。


「ぐおっ!?」


 小柄な少女の素手の一撃。そこから繰り出されるありえない程の破壊力に、左手に握ったトンファーを離さず、その体を腕に引きずられる形で吹き飛ばされる男は。


 吹き飛ばされつつもその脚で蹴りを放ち。それにも反応したシェルンは、同じく右手を素早く下げ、吹き飛ばされる反動をも加味した右足の回し蹴りを、魔力爆発で弾き返す。



「がっ!!」



 その一撃で、既に上半身が後方に飛ばされかけていた男は脚の制御も失い、吹き飛びながら地に背中を付け転がり。



 開放を解いたシェルンでも対応できる程度の練度。むしろ開放はせず、そのまま押し込むつもりで追撃する。

 これは今までのシェルンとは違う戦い方。シェリーヌの時もレイサードの時も、シェルンは結界で攻撃を防ぎ、一撃を加えて終わらせていた。


 だがこの男にはそれを見せない。

 男の中の術式。それが何とどう繋がっているのか分からない以上、あまり手の内を見せることはしない。


 打撃をあてる以上は魔力爆発を使う。それをそうと見抜けるかどうかは不明だが、使わずには倒せない。

 ならばセラフィーナのアクティブシールドは見せず。開放している時の力を見られたことは仕方ないし、アレは見て分かるようなものでもない。


 そのまま追撃を鳩尾にいれ、落とそうとしたとき。男から何らかの魔法を起動しようとする動きを検知する。

 その魔法を視て、何の魔法に魔力を通そうとしているのかを確認して。その術式を理解して。


(マズい!)


二次解放セカンドブリーズ!」


 即時二次解放する。これは悠長に構えていられない。


 開放した魔力を使い、セラフィーナの力を借りてその男を密封するように強力な結界を展開して。


 男がニヤリと嗤い。


「消え去れ。」


 その一言と共に、男自身が閃光となって。




 大爆発を起こす。




 自爆魔法。ユリアーネが起動しようとした瞬間、セラフィーナに破壊されて不発に終わった魔法。


 その効果範囲は半径100メートルほどで、その中にあるものには等しく破壊をもたらす広域破壊魔法。

 爆発が発生した瞬間、結界の展開を何とか間に合わせたシェルンは結界に必要な魔力を一気に供給して。


 その大規模破壊のエネルギーを抑え込む。決壊で封鎖してもなお、ビリビリと大気を震わせるその火力は非常に危険なもので。


 市街地のはずれとは言え、そのまま使われていればかなりの犠牲者が出る魔法である。

 人の命そのものを魔力に変換して大規模破壊を引き起こす邪法中の邪法。

 改めて、セラフィーナがここにシェルンを向かわせたことに納得する。


 この男、シェルンは名も知らないが、セカンドというコードネームで呼ばれている男は確かに戦闘職として優秀な男である。火力はレイサード以上。身のこなしは同等で、それなりに魔法も使える。


 そして何より問題なのが、並列存在を利用した自爆攻撃。同じ組成のユリアーネも利用する、非道の一撃。

 そこには発動する者自体の命をも何とも思わない、ただの道具として考えているものの意図が透け見えて。



 その爆発を、爆風の威力を全て押し留めたシェルンは、ようやく金色の姿を元に戻し。

 街を高速移動して浄化していた時は分からなかったが、今は市井の者たちにも分かる、静止した姿で。


 自分達を襲う、突如現れた魔獣という恐怖から救ってくれた金色の光。それを発するメイド服姿の少女。



 その姿はその場にいたシュタイムブルグの市民たちに多く認識され、これもまたひとつ、過去の出来事と同じようにこれから伝説として語り継がれることとなる。




(セラ様、すみません。やらかしました。)


(あら、どうしましたの?)


(あー、えっと。対象が自爆しちゃいました。)


(そちらの方も自爆持ちでしたか。困りましたわね。)


(なんか、腰痛持ちみたいな言い方ですね・・・)


(そういうつもりでは。それで被害の方は?)


(あ、それは大丈夫です。二次解放で抑え込みました。)


(わかりましたわ。被害が無ければ十分です。)


(はい。他に問題がないか確認次第私も城に戻ります。)


(ご苦労様ですシェルン。ではこちらで。)


 先程起きえた大惨事と比べ、意外と軽いやり取りをして。シェルンも状況確認後にセラフィーナの元に戻り。


 その後城内で戦っていたアセリア姫とセティスもセラフィーナの元に戻って。




 こうしてシュタイムブルグの三か所で発生していた戦いは一部想定外の出来事もあったが無事終わり、合流後に皇帝に挨拶して一度引き上げる事となる。



 その際、リードリヒ大佐がアセリア姫の偉業を、中央庭園で兵の避難を支持されていた兵士長がセティスの偉業を皇帝に伝えることで、フィルメリアの二人は神格化されて。




 シュタイムブルグ皇帝がフィルメリアに直々赴き、謝罪と情報共有を行い、そこから両国の親交が始まるのは、ここから約半年後の話である。


これでシュタイムブルグでの出来事は一通り終了です。

セラ様とシェルンは強すぎるので戦いが戦いにならない。


修行中の二人に頑張ってもらって・・・


次回はフィルメリアでの戦いが終わる予定。クラリスさん無双なるか?

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