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4-9:向こう側へ

「よし、定刻だな。明るいうちに終わればいいが。全軍行動開始!開戦魔法撃てっ!」


 アルヴィンスの号令で、後方に位置する王宮魔術師の一人が上空に向け、一際明るく激しく明滅する魔法を放つ。


 その魔法はある程度まで上昇すると、水平に弾けて広がり、それを見た、かなりの距離が離れた位置にいる王宮魔術師の別のものが、同様の魔法を撃ちあげ。


 国土の北面全域と西面全域に広く展開された王国騎士団と王国軍全体に、開戦の合図を伝える。


 もともと人との闘いを想定せず、魔獣から国土を護る為に作られたフィルメリアの軍は、今まさにその宿敵ともいえる魔獣が群を為して待機している場所、昨日中に減らされているとはいえ約900ある小隊に向けて、全軍が個別に戦闘を開始する。



 軍は敵となる魔獣の視認範囲外で展開し、王宮魔術師を全員動員して個々に隠蔽魔法を施してから、開戦位置まで移動して。開戦の魔法と共に隠蔽したまま、敵魔獣軍へと突入して攻撃を仕掛け。



 隠蔽魔法、フィルメリア軍の部隊と魔獣軍の部隊それぞれの魔法が触れあった瞬間、双方が干渉して解除される。


「敵襲。対応開始。」


 魔獣軍の部隊を率いるそれぞれの隊長格、魔核で作られた魔法兵器の男は即時実体を取り、戦闘指示をして。

 だが最初から隠蔽を看破していたフィルメリア軍は、初撃で前衛に配置されている狼魔獣を、隊毎に差はあるものの最低一体は打ち取って。


 本来であれば一人では絶対対応不可能、三人がかりでやっと何とかなった魔獣を、三人がかりなら対等に戦えるようになっていた一般兵は、出陣前にその加護の魔法を自分達に施した、会ってもいない存在に感謝する。


 同時に、広く展開を始めていた全軍この加護を。騎士団の者に聞いた限り、アセリア姫の加護をも上回るという魔法を一万以上の兵に同時に施したというその人物に、よく分からないまま崇拝の念を抱き。

 世の中には、神様みたいなことができる存在が実在しているのだと、皆一様に実感して。


 個々の兵が皆大幅に強化されている状態での激突はフィルメリア軍優勢で始まり、その後は各部隊ごとが個別に混戦へと発展し、個別の戦闘が約900か所で同時に発生するという、少し変な形の全面交戦が開始された。


 戦いは膠着し、狼は何とかなるが、虎や熊には大苦戦する部隊も多く、加護のお陰で死者はまだ出ていないという戦いが各地で続く中。


「伝令来ました!カーランド北西部に、他とは違う強力な魔獣が存在するとのこと!予備戦力をそちらに回して交戦中です!」


 その報告を聞き、一人の男が立ち上がる。


「やはりセティスの想定通りか。第一大隊をラムザスに任せたのは正解だな。俺が行く。」


 この戦いで総司令を務めているアルヴィンス。


 フィルメリア軍後方。ちょうど発見された敵の強力な軍と部隊を挟んで対になる位置に設営された司令本部。

 アルヴィンスはそこに待機し、全体の情報を各伝令に随時運ばせて戦況を確認していたが、その報告に義妹が昨日自分に強く待機を推した会議を思い出す。



 昨日、メルヘン城から王宮へ戻り、騎士団として、国軍としての動きを検討、決定する会議にて。


 今回の戦いではかなり特殊な敵の部隊が、非常に広い範囲に展開していることから、セティスは魔獣軍にも現地司令部があるのではないかと想定した。


 いくら魔獣を率いる魔法兵器が優秀な指揮官として動作したとしても、全体を統括するものが現地にいるはず、と。

 フィルメリア軍も当然その形を取っている。


 セラフィーナが監視魔法と同時に敵の遠隔術式のようなものを遮断しているお陰で各個分断は出来ている。

 だが元々は大規模作戦を行うためにフィルメリアに配置されたこの魔獣部隊。現地に旗振り役となる存在が無いというのは軍としては考えにくい。


「正直に言って確証はない。だがセラフィーナ様の加護で強化されたわが軍ならば、兄上一人が大奮闘せずともあの魔獣部隊は抑え込めるだろう。

 ならば兄上は中央に構え、統括するものがあろうとなかろうと、想定より強い個体が確認できた場合に最速で対応できるようにした方が安全だろう。」


 久しぶりにその全力を、さらに強化された状態で振えると考えていたアルヴィンスだが、義妹の言葉に本来の騎士団長も務めた事のある冷静さを取り戻し、待機を選んだ。


 そもそもセティスが総司令をやっていれば自分は最前線で戦えたので、そこだけちょっと残念だったが。

 だが元々孤児から拾われ、剣で出世した男である。

 実力で出世はしたが、本来は人任せではなく、自分が人々を護りたいという気持ちは今もなお健在だ。



「ここは任せる!三人ついてこい!」



 早馬に乗り、部下を三人引き連れて。元王国騎士団筆頭団長が、この戦いにおける敵最大戦力に突撃する。





―― カーランド領、領都。


 いつものお姫様スタイルで、いつも通りに。

 上空にたなびく風に今日もピンクシルバーの髪とドレスを靡かせて。セラフィーナはふよふよと浮かび、監視網と眼下に見えるフィルメリアの北部、西部それぞれを注視する。


 いつもは一人で浮いているお姫様だが、今日はその傍に行動を共にする三人を引き連れて。


 瑠璃色のローブを纏い、白銀の髪をセラフィーナ同様風にまかせて。修復された漆黒の長杖を携えて隣に並ぶ、姉妹にも見えるもう一人のお姫様。


 こちらも修復された白銀の鎧に身を固め、長い騎士剣をその背中に差して。白銀のポニーテールを風に靡かせ、腕を組んで戦端が開かれた各地を厳しい表情で見つめる騎士団長。

 黒いゴシック調のメイド服にヘッドドレス。いつも通りの侍女服を身に纏い、腕を組んで・・・いると一人だけ丈が短いフレアスカートが広がっちゃって恥ずかしいことになるので、上空待機では結構困っているメイド少女。


 なんか紹介が被る雰囲気の、いつもの四人である。

 ついでに戦端が開かれたと言っても、殆ど全域で開かれているので端っこではない感じもある。


 そんな四人がなぜ上空で待機しているのか。




―― 全軍移動開始後。メルヘン城。


「いえ、ここからでも監視網は見えていますわ。でもわたくし達だけココでのんびり待っていたら、なんだかサボっているようで皆様に悪い気がしますわ。」


 と、その動機はなんか微妙なものであるが。

 今日昼頃に合流して軍の皆に魔法で加護を与えたセラフィーナは、上空からの監視を申し出たのである。

 

 ココとは合流後、一度戻ったメルヘン城である。


 会食をした翌日、軍事行動開始前に合流し、軍の皆に加護の魔法を付与したセラフィーナは。


「この魔法、丸一日持続しますから再付与は必要ないと思いますわ。」


 なんて、そんなバフずるいだろ!っと誰かに言われそうな発言をした後で。


「お二人にはわたくしとご一緒頂きますが、その前に一度見て頂きたいものがございますの。」


 と、アセリア姫、セティスをメルヘン城にお誘いし。



「まさか捕獲されているとは。これもあの魔獣部隊にいた者なのですか?」


「いえ、昨日の夕刻、わたくしの監視網に外から入ってきたものでして。先日戦ったものと同様解析してみたのですが、どうもこの個体は少し違うようでして。」


 昨日、至福の時間を迎える前に捕まえた魔法兵器を二人に見せて、その時に行った処置を二人に説明して。


「そうでしたのね。ではセラフィーナ様。こちらの方、というのが正しいのかは分からないのですが。

 この方は今後、攻撃はしてこないという事なのですね。それにそんな記録があったなんて。

 今回の件が終わったら、セラフィーナ様はそちらに向かわれますの?」


「そうですわね。今回のような事が起こらないようにするためにも、そこを訪れる必要はありますわね。これはわたくしの、クリスティアラの責務ですわ。」


 男を。コマンダー二号の初号機を解析した結果を、姫と騎士団長に説明して。フィルメリアの問題全てが片付いた後の自分の予定をやんわり告げて。



「ではそろそろ、皆様が戦端を開かれるお時間ですわね。アセリア様、セティス様、参りましょう。

 シェルン、あなたも行きますよ。」



―― カーランド領、領都上空に戻り。


 開戦からある程度時は経ち。やはり狼はともかく、他の魔獣や魔人、いや魔法兵器は一般兵には厳しいようで。


「今のところ、戦いはそれほど逼迫ひっぱくした状況ではなさそうですわ。姉様はどう見られます?」


「まだどちらも総戦力ではないからな。兵は常時回復されているとはいえ交代しながら戦っている。

 しかし歯がゆいな。私がそこにいけばすぐ終わらせられると思うと、兵には申し訳ない。」


 フィルメリアの軍が戦っているのだから、その国の二人にとってはやはり自分が動きたいところであるが。



「そうですわね。状況が動けばお二人も参戦頂いてよいかと思いますわ。まずは。あら?」


 今までずっと監視網をチェックし続けているセラフィーナが、気付き。


「これは。この術式があのプログラム、というモノの命令ですわね。間違いありませんわね。捉えましたわ!」


 その言葉に、今まで戦いを眺めながらの待機で歯がゆい思いをしていた二人と、ひたすら風に困っていたメイドがセラフィーナに近づき。


「皆様、参りますわ。ご準備を。」


 戦闘態勢を整え、その場に転移する。




―― 西の森を望む平原。最北端


「やっとフィルメリアの国境かな。やっぱりちょっとこの体だと動きにくいや。早く量産型の部隊見つけないと。」


 周りを確認して、隠蔽魔法の術式を起動して姿を隠し。

 子供のような男が少しぎこちない感じで歩きながら、魔獣部隊のひとつを探すように周囲を見回す。


 子供の足とはいえ、年齢は12、3歳位に見え、それほど遅い歩みではない。いや、肉体年齢を考えれば下手な大人よりは十分素早く動ける年齢だろう。


 だが今この男は、走るような事はせず、確かめるようにゆっくり歩を進めており、その結果昨日からあまり距離は稼げていないようで。

 普段は彼が一つ目とか初号機と呼ぶコマンダー二号。魔核をコアとする人型魔法兵器のオリジナルにくっついて移動しているため、ここまでの不便は感じたことが無い。


 少しずつ歩を進めていくうち、彼の耳に何か、大勢のものが戦っているような音と声が聞こえてくる。


(え?まだ攻撃指定時間にはなってないよね。なんで戦闘が始まってるの?)


 視認できる距離まで近づき、量産型コマンダー二号が率いる魔獣部隊の一群が、フィルメリア軍と思われる兵士たちと戦闘をしている様子に驚いて。


(まさか見つかって軍が派遣された?でもでもちゃんと隠蔽しておくように設定したし!やっぱりコマンドが通らないとどうなってるのか全然分からないよ!)


 少し混乱しつつ戦闘を見る限り、コマンダー二号。赤い髪の男を模った魔法兵器はまだ様子見をしているようで、今ならコマンドを発信しても戦闘には影響無さそうだ。


(ボクがいることがバレるとまずいし、あいつも戦闘するコマンドにすればいいかな。組み込んであるプログラムはアレだから・・・)


 そしてその子供のような男は、コマンダー二号にハリネズミ型魔獣への変更コマンド、あの廃墟で手に入れた術式のひとつを起動して、送信する。




(あれ?)




 何も起きない。戦闘はそのまま継続され、赤い髪の男も形が変わることなくそのままで。

 こんなに近くに来ているのに。目に見える距離まで近づいているのに。起動した魔法、コマンドの術式がコマンダー二号に到達しない。




(うそ?配置前はちゃんと変形したのを確認したのに!

 コピーだからみんな一緒のはずでしょ?なんで?)



 部隊を発見した時以上に混乱して。彼は天才だから、自分がやったことはカンペキのはず。そうじゃないと気が済まないし、自分が今まで調べ上げてしっかり解析して、そして今回の運用を実現したのだから。


 間違いが無いこともなんども確認したのは、自分のやっていることが失敗して、あの人たちにバカにされることを防ぐため。恐れた為。


 それなのに今、間違いないはずの術式が。コマンドが。通じない。動かないわけがないのに!


 彼は知らない。今まさにそのコマンドの術式を、自らの監視網で捉え、解析して、阻害した存在がいることなど。




(だったら、違うコマンドで。鳥型にするやつなら。)


 人のさがなのか、隠蔽してはいるが低い姿勢を維持して身を隠すようにしつつ、別のコマンド術式を起動しようと、魔力を籠めようとしたとき。




「子供。ですわね。」

「こんな。こんな子供があの事件の、張本人なのか?」




「魔法を使おうとしてましたねー。そうかどうかは分かりませんが、関係者であることは間違いないのです。」



 突然うしろから。先ほどまで誰もいなかったはずの場所から三人の声が聞こえて。


 ビクリ!と震える。見つかった。なんでかは分からないけど見つかった。


 なんで?隠蔽してるのに!コワイ。怖い!いや。でも。


(見つかったけど。大丈夫。このボクなら。)



 低くした体勢をを起こし、立ち上がり振り向いて。


「よくボクに気付き・・・え?」



 視界に入れて、その顔を見て、固まる。


(すごく綺麗なお姫様が、二人?)



―― 上空からセラワープして。


 その場に降り立ち、事の首謀者と思われる人物の、その後姿を確認する。


 背格好はまだ10を2、3歳超えた程度の子供で。煌びやかな青いタキシードに同色のジャケットを身に纏った、まだ幼いどこかの王子様のような姿で。


 想定外の姿に、アセリア姫と騎士団長は顔を見合わせ、同時に首を傾げ。


「子供。ですわね。」

「こんな。こんな子供があの事件の、張本人なのか?」


 二人で感想と疑問を呈する。これだけの部隊を運用するような人物。あのクリスティアラを滅亡させたという魔獣や魔法兵器を使役し、人々を襲おうとしたもの。


 そのはずの人物が、こんな子供?

 確かにどこかの国の王族であれば、この子供がこの件に関わっていること自体はおかしくはないかもしれないが。



「魔法を使おうとしてましたねー。そうかどうかは分かりませんが、関係者であることは間違いないのです。」


 子供を観察していたシェルンが、二人に遅れてそんな事を言って。ただ、その視線がおかしい。

 最初は観察していたが、今は子供を見ずに、全く関係のない所を目で追うように。



 三人の声を聴いて、後ろ姿でビクリ!と反応した子供が最初は恐る恐る、といった雰囲気で。

 途中から何かに気が付いたように、堂々とした感じになって立ち上がり、振り向いて。



「よくボクに気付き・・・え?」


 こちらを見て何かを言おうとして、固まった。

 その瞳はアセリア姫と、一言も発していないセラフィーナの二人を交互に眺め。

 なぜか少し、頬を赤らめていて。


 しばしの沈黙。しかしそのままでは何も進まない。

 セティスが尋問しようとして、だが相手の容姿から。


「あー、君。今ここで何をしていた。名は?」


 状況から間違いなく、あの魔獣部隊の関係者なのだが、その言葉遣いも声色も、子供に対するものになっていて。


 その言葉にセティスを見て。今度はすぐに違う感じで目が泳いでいて。まさかこの子供が「カッコイイお姉さん」なんて、二人の姫を見た時同様に照れているなど気付かず。


「どうした。こたえられないのか?」


 言葉を出せない子供に、少しだけ強めに聞く。


「あ。いや、えっと。ボクに何か御用ですか。」


 質問に答えず、何かシドロモドロとした感じで。

 そんなやり取りを気にもせず、今まで黙っていたセラフィーナが、唐突にアセリア姫に質問する。


「アセリア様は、視てませんか?」


「え。何かみえるのですか。あ、視てみます!」


 気付いたように。そしてその瞳には今まで使っていなかった魔力視の魔法陣が薄く浮かび。


 その目が徐々に見開かれ、信じられないものを見てしまったかのように。



「うそ・・・ですよね。そんな、この子は。」



 セラフィーナとシェルンは、最初から視えていた。最初から視るようにしていた。


 アセリア姫は上空での待機中から、肉眼での戦況確認のみを行っており、子供の場所に空間転移した時もセラフィーナが隠蔽魔法を無効化していたため。



 言われるまで気付かなかった。


 そんなアセリア姫への配慮もあったが。


 セラフィーナが今まで言葉を発せなかった、その理由。



 そっと、気遣うように。




「シェルン。」




「いえ、大丈夫です。もう気にしておりません。」




 セラフィーナに声を掛けられ、その意図をすぐに察して答えるシェルン。その目はまだ、何かを探しているようで。



 その姿を見て、少しだけ驚いたような顔になり。そしてすぐに、ものすごく嬉しそうな笑顔になって。


 形式上は仕える者として、自分の侍女として扱っている、セラフィーナにとってはもう半身ともいえるべき存在。


 長きに渡り自分の至らない所を支え、尽くしてくれた唯一無二の存在が。1800年以上かけて。




 やっと、分かってくれた。気付いてくれた。




「あ、あの。ボクがどうかしましたか?」


 セティスの質問よりも、自分を見て、何かおかしなものを見てしまったかのようなアセリア姫が気になり、声をかける少年に、視えてしまったアセリア姫は。


「あ、あなたは大丈夫なのですか?そのような術式が、あなたの中で動いているのですよ?」



 見たままを、伝える。



「術式がボクの中で動いてる?どういうことですか?」



 その少年は、何のことだか全く分かっていないように、気付いていないように答えるが。

 それまでずっと、少年の事をその目で視ていたセラフィーナは、気付いたように言う。


「シェルンと同じかと思いましたが、違いますわね。」


 この件にはもう気を使わなくてよいと判断し。



 シェルンが持つ知識を確認する。



 大切な侍女に。


 貴女の事を信じています。

 頼りにしていますよ。



 と、気持ちを、想いを込めて。




「はい。私とは違うタイプです。これはおそらくですが。

 試作型投影人形。型式SE-COND。


 私と同じく人を元に作られてますが、わたしと違い人の部分は自我の無い人形。投影人格の複製で、遠隔からの投影人格が術式内で制御するタイプかと思われます。」



 その想いを受け止め、持っている知識から合致するものを探して、その答を示す。


 自分が今までずっと持っていた、赦されている責任への自責の念。過去に縛られ続けていた自分。




 セラ様のお言葉。本当に気付くのが遅くなりました。




 ずっとずっと、ありがとうございます。




 この少年と。シェルン曰く「試作型投影人形」と出会ったことで。


 主従もまた、改めてお互いの気持ちが通じ合い。




 だが二人の会話に、少年だけでなくアセリア姫もセティスも驚愕の表情でシェルンを見て。



「シェルンさん。貴女は。」


 言葉を発したアセリア姫に、割り込むように。


「そのお話は落ち着いてからといたしましょう。まずはこの件の本当の首謀者。それを探せる場に参りますわ。」


 セラフィーナの言葉に、アセリア姫とセティスは理解が追い付かず。当然少年も追いつかず。




「セラ様。私では届かないみたいです。如何ですか?」




「大丈夫ですわ。今度こそ本当に捉えましたわ。」



 そんな会話をして。




「あなたも戻りなさい。」



 セラフィーナは少年に向け。




―― その場所へ



「まだ帰って来てないか。もう一日以上経っているぞ!」


 少しいらだったように。

 豪華な衣装を身に纏い、ひげを蓄えた初老の男が言う。


 青いタキシードを着た少年が、眠ったままとなっているソファーを見て、その姿をひとしきり確認して。

 いらだったまま、席に着く。



 フィルメリア王国から、東の海を挟んで対岸。船という文明の利器が海上の魔獣により使えないこの時代、フィルメリアと国交がないその国の名は、シュタイムブルグ皇国。


 皇帝ブルクト・シュタイン21世が治める、長い歴史のある国である。


 国そのものは大きくないが、フィルメリア同様海に面しており気候にも恵まれているため特に食資源には事欠かず、また国の東に横たわる大山脈からは豊富な金属資源を入手する事が出来る豊かな国だが、フィルメリアのように他国との友好関係を結ばない、完全独立国家である。


 なぜならその豊かさを巡り、何度も隣国からの侵略を受けかけたためである。


 豊富な金属資源も相まって、侵略を受けるこの国は軍事国家へと傾き、魔獣の森のようなものも近くに無いことから、その軍事力は主に人に向けて使われてきた。


 もっとも豊かであるが故、今までは侵略の為の軍事行動は起こさず、その軍は国を護るためのものであった。



「あまり無下に扱わない方がいいわ。その子のおもちゃがあればわが軍、我が国は無敵ですから。」


 初老の男、皇帝ブルクトに対して柔らかな物腰で意見をするのは、スタイルの良い優しい雰囲気の、赤い髪の女。


 名はユリアーネ。6年前、面白い力を持っていると言ってこの国に取り入り、瞬く間にその軍部を掌握したやり手の人物である。


 彼女は皇帝に自身が作り上げた隠密組織と、それとは別に魔獣を使役する不思議な力を持った少年を紹介して皇帝に気に入られ、この国へと入る。


 その後は妹だと言って皇帝に紹介した女を使い、この国を徐々に、裏から支配していった。


 それから世界で噂になっているアセリア姫の力を皇帝に吹き込み、皇帝がその力を欲するように仕向けて。

 時間を掛けて対岸にある国を侵略する準備をさせた。



「分かっておるわ!だがお前の部下が仕出かした失敗もあるだろう。国軍を投入する前に、何としてもフィルメリアを弱体化させてくれんと困るぞ!」


 座ってからも苛立ちを隠さない皇帝の所作は、どことなくミリエラの父、グライス・アル・シェフィールドが操られていた時の雰囲気に通じるものがある。


「そうは言われましても、あの兵器は私も扱えませんから。無下に扱っておもちゃの持ち主が壊れても、私は責任を取れませんよ。」


 穏やかに、皇帝を諫めるように。




「それにしても、状況が見えないというのは確かに困りますね。私の部下たちが帰ってこないのも・・・」


 ユリアーネの言葉途中に。




「うわっ!あ、戻った!死ぬかと思った!」


 眠っていたままの少年がとび起きる。その姿を怪訝にみつめながら、ひとまず、


「おかえりなさいファウスト。いかがでした?」


 あくまで優しく、少年。ファウストに首尾を聞き。


「ユリアーネ!ダメだった。コマンド」

「こちらがあなた方の本拠地、ですわね。」


 ファウストの説明に割り込んだ、涼やかな優しい声。




 シュタイムブルグ皇国の中心、皇帝の住まう城に。





 フィルメリアからはるばる転移してきた四人が。





 本当の首謀者と、対峙する。


アセ「姉様。上空で待機しているとき、騎士鎧だと寒くありません?」

セテ「大丈夫だ。アセリアのローブと違って確かに鎧は冷えるが。」

シェ「なんか中に入ってますね。あ、暖かい。なんですかこれ?」

セテ「ああ、シェルン殿。これはみなみはる、おんp」

セラ「セティス様。イメージが崩れるからおやめになった方がよろしいですわ。」

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