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1-5:策謀と絶望と希望

今回も後半はミリエラさん視点です。

実験的な感じなので、読みにくかったらごめんなさい。

 ミリエラが執務室に向かった直後。

 レアニールは模様替えの偽装のため、二人で動かして乱れていた家具をもとに戻していた。


 一通り綺麗にすると、部屋を出て自分も執務室を目指そうと歩き出す。


 ミリエラにお願いしたが、今の領主様がどこまで話を聞いてくれるか。

 場合によっては一緒にお願いすべきだと、使用人の分を超え、自身も矢面に立つことを決める。



(お嬢様、私もすぐに参ります。)



心にの中で告げながら、部屋を出た直後、


「レアニールさん、少しよろしいですか?」


 後ろから呼び止められた。



「はい。あ、シェリーヌさん、お疲れ様です。」


 声をかけてきたのは、レアニールと同じ、この屋敷の使用人であるシェリーヌ。

 使用人用の地味なメイド服を纏い、どちらかというと野暮ったい雰囲気の眼鏡をかけている。


 身長も体型も平均的で、目立つのはフィルメリアには珍しい赤い髪くらい。

 その髪をサイドテールに纏めて、顔には愛想のよい笑みを浮かべている。



 三年半くらい前に使用人として雇われ、屋敷で働くようになった彼女は、最初は給仕見習いとして。

 領主の妻ナタリエが亡くなってからは、ナタリエの役目だった市井の声を集める役目も担当していた。



 仕事ぶりは必要十分といった感じで、でも痒い所に手が届く感じで動いてくれる為、皆に重宝されている。

 レアニール同様、住み込みではなく通いの使用人の為、時々一緒に屋敷に出勤することもあった。



「お疲れ様です。すみません、お嬢様はどちらですか?」



 そういいながらレアニールに近づくシェリーヌ。

 同僚として先輩として、よく談笑する間柄だが。




 そういえば、この人が奥様の仕事を継いで少ししてから、旦那様がおかしくなり始めた気がする。


 ふと心の片隅に浮かんだ疑念に、警戒しながらもできるだけ平静を装い答える。


「お嬢様の所在ですか?でしたら先ほど私に、お部屋の模様替えを申しつけられて。」


「模様替えですか?

 お嬢様のお部屋は広いから大変ですね。」



「そうですね。それで、ご要望を一通り伺った後は、先にお部屋を出られました。」



 先に部屋を出たのは事実なので、噓は言っていない。




「あら、それでは行き先はご存知ないでしょうか?」



 レアニールの警戒を知ってか知らずか、同僚は笑顔のままで歩みを止めず。



「いえ、特にご予定は聞かず。

 お嬢様に何か御用でしたら、お伝えしますよ。」


「助かります。ありがとうございます。」


 言いながら、なおも近づいてくる後輩の使用人。

 気づけばレアニールの目の前まで迫ってきて。



 驚く間もなく。



 ギンッ!!



 至近距離で正面から瞳を見つめられ、その目から強い魔力が叩き込まれる。



「あ...」



 その瞬間、レアニールは意識が混濁し、ぼんやりとした顔でその場に棒立ちとなり。


 シェリーヌはレアニールの変化を確認すると、周囲をすばやく確認して、誰もいないことを確認すると、小声で、強い口調で命令する。



「正直に答えなさい。

 ミリエラと部屋で何を話していたの?」


「領主様に民の声と。

 領内の状況をお伝えして。


 お諫め頂けないかと、お願いしました。」



「民の声を伝えるのは私の役目でしょう。余計なことはしないでほしいわ。」


「・・・・」


「まあいいわ。それだけ?ほかに伝えたことは無い?」


「レジスタンスの事や、反乱が起きそうな事も。

 お教えしました。」


「ちっ、あの小娘にそれが知れたら厄介ね。ほかには?」


「弾圧されていることと、処刑があったことも。

 お伝えしました。」


「それもか。まったく。

 ほんとに要らないことを吹き込んでくれる。」



 イライラとレアニールをねめつけるシェリーヌ。その表情には先ほどまでの目立たない侍女の面影はない。



「で、それから?

 ほかには変な事吹き込んでないでしょうね?」


「変な事とは、なんでしょうか?」


「メンドクサ!

 ミリエラに民や領土の事、他には教えてない?」


「いえ、他はないです。」


「そう。十分厄介だわ。

 それで、ミリエラはどこへ行ったの?」


「旦那様の、執務室に」


「すぐに直談判か。考えなしね。

 念のため様子を見ておくか」


「・・・・」


「レアニール。あなたはさっき、ミリエラに部屋の模様替えを命じられたのでしょう?」


「はい。」


「今すぐ部屋に戻って、ちゃんと言われたとおりに、模様替えしてあげなさい。時間を掛けてしっかりとね。」


「はい。」


「それと、模様替えが終わったら今日はもういいから。ミリエラへの挨拶も要らないから、そのまま帰りなさい。」


「はい。」


「ふぅ。こんなところね。もういいわ。いきなさい。」

「はい。」


 うつろな瞳のまま、ふらふらとミリエラの部屋に戻るレアニールを見送る。


(さて、ミリエラはグライスに何を言うのかしら。)


 今までやってきた苦労を考えると、ミリエラの。


 肉親の言葉は、このタイミングではできるだけ聞かせたくなかった。



 もうすぐ計画も大詰め。下手をすると台無しにされかねない為、できるだけ遠ざけてはいたが。


(あれだけ苦労して刷り込んだんだから、大丈夫と思いたいけど、様子は見ておかないとね。)



 そう思いつつ邸内に潜伏した工作員、シェリーヌは執務室へと向かう。そこで。




『も、問題無いわけないじゃないですか!お父様?街の状況を理解されているのですかっ!?』


 扉越しに聞こえるミリエラの、嗚咽を含んだ嘆願。


「くそ!あの小娘、泣いてやがる!」


 これはまずい!

 大切な人物が感情に訴えかけるのは一番まずい!



「すみません。少しよろしいでしょうか?」


 素早く表情をつくり。

 用事がある使用人を装い、衛兵に近づく。



「これはシェリーヌさん。旦那様に御用ですか?

 今ちょうどお嬢様が...」


 ギキィン!


 すぐに執務室の警備をする衛兵二人に、同時に強力な催眠をかけて操り人形にして。


「あなたたち、今すぐミリエラを執務室からつまみ出しなさい。早くっ!」


「「はい...」」


 指示を出すとすぐに給湯室へ向かい、今度はなぜかお茶の準備を始める。



(あれだけ感情をあてられたらまずい。すぐにケアしないと危険なことになるわね。)



 使用人として紛れ込んだ工作員は、今はまだ、誰にも気づかれることなく暗躍する。



 だが、明日は。





―― 執務室を追い出されてから数刻。


 そのあとのことはあまり覚えていません。

 かなり長い間泣いていたと思います。


 レアニールに伝えなきゃ、という気持ちもありましたが、あんな結果、どう伝えれば。

 合わせる顔もない。気持ちが後ろ向きになった私は、結局レアニールを探さずに。



 あまりの父の変貌が信じられず、呆然自失となっていた私は、気が付けば屋敷を飛び出していました。


 昔の賑やかさがまるでなく、行きかう人々も暗い顔をして下を向いたまま。

 きっと今の私も同じような。いえ、もっと酷い表情なのでしょう。



 考えもまとまらず、衛兵に掴まれた痕がまだ痛む腕をさすりながら、とぼとぼと街を歩き続けます。


 どうしてこうなったの?お父様、どうして?


 この街は、私が大好きだったシェフィールドは、どうなってしまうの?




 暫くの間、人もまばらな街の大通りを歩き、以前はよく母と二人で行ったカフェを眺め。


 どれくらい歩いていたのでしょう。歩き慣れていない足に疲労を感じ、ペースも落ちてきて。

 自然と足は子供の頃に遊んでいたルートをたどり。



 夕刻前、気が付けば街の端、子供の頃にマーセルたちと遊んでいた、古い建物の並ぶ地域に来ていました。

 昔の遊び場、そして今はスラムと化したその場所に。



 錆びた街灯は割れて、今は機能を果たしておらず。


 整備されていた石畳も至る所が欠けて。



 ゴミも散乱し、綺麗だったころの面影が無い通りを、下を向いて歩きます。

 涙の跡も消えぬまま、子供の頃と違い。



 危険になった通りを。




「おい待ちな!お前貴族か?」


 呼び止められて。

 やっと自分の無防備さに気付きました。


 そう、昔の遊び場は、今は貴族の娘なんて来るべきではない場所だったのです。



「いい服着て、綺麗なかっこして。

 いい御身分じゃねえか!ん?」


「こんなところに何しに来た?

 嬢ちゃんもこのスラムに仲間入りでもしてぇのか?」


「あっはは!そりゃいい!お上品な貴族のお嬢様が、こんな薄汚い場所で、俺たちと楽しい底辺生活かっ」



 顔を上げると、見るからにガラの悪そうな、スラムに住人であろう男性数名に囲まれて。


 私を品定めするかのようにジロジロと眺めるその顔は、皆ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべていて。



「え?わ、わたしは。」



 震える声で。

 自分の身を護るように抱きしめ、立ち竦む私。


 単身屋敷から出てきたのだから、レアニールも、ましてや外出の時に私に付いてくれた護衛の方もいません。

 身の危険に気付いた時には、既に手遅れだったのです。



「おいおい。こいつは上玉だぜっ!

 それにこんな身綺麗な女、なかなかいねーぞ!」


「ホントだ!かわいい顔してるじゃねぇか。これはぜひとも仲良しになって、たっぷり遊んでもらわないとな!」


「ああ!俺たちは時間だけはたっぷりあるしな!」



 勝手なことを言いながら、周りの男たちはゆっくりと近づいてきます。



「あ。いや、こ、こないでくださいっ」



 領主の娘として、危険な状況など一度も経験したことが無い私に。いえ、以前一度だけ、本当に命の危険に瀕したことはありましたが。


 今は命ではなく、女性としての尊厳を奪われるかもしれないという恐怖。


 昔のシェフィールドであれば、この街で、こんなことは絶対になかったのに。

 今や私の好きだった街は、こんなにもひどく荒れて。



「ん?お前、もしかして、あのクソ領主の娘か?」


「おいマジか?それなら楽しんだ上に、巧くやれば金も手に入るか!?」



 私の顔を知っていたらしい一人が言うと、周りの雰囲気が更に険悪になります。



 クソ領主。


 私の父が今、街の方々にどう思われているかを、あらためて思い知らされる言葉。


 領民を大切にしていたはずのお父様に向けられた、侮蔑に塗り固められた、その言葉。



「こいつは最高だ!たっぷり遊んでもらった上に、金も巻き上げれるってか!?」


「どうせ俺たちから搾り取った金だ!返してもらったってバチは当たらねぇな?」


 口々に思ったことを言う男達。

 そんな男たちに囲まれ、恐怖、悲しみ、後悔。


 様々な思いがないまぜになった私は。



 また涙を流しながら、その場に崩れ落ちました。


「あ、あぁぁ。」



 私の様子を見て、甚振いたぶるかのようにゆっくりと近づいてくる男達。


 もう、自分がどうなるのかもわからない。どうしてこうなったの?何が悪かったの?


 あまりの状況に全てを諦め、ただただ身を護るように自身を抱きしめ震えるしか。




 目を閉じ、襲われることの恐怖から視界を閉ざしたままで時が過ぎるのを待ち。


 そんなことをしても何の解決にもならない。

 私はきっとこの時、全てを諦め、絶望していたのだと思います。



 そして、おそらくは数秒、私にとってはとても長く感じられる時が過ぎて。


 何故すぐに襲われないのだろう?


 そんな疑問がぼんやり浮かんできた私の耳に、涼やかな美しい声が届きました。




「こんなところでか弱い女性を囲んで。


 あなた方は何をなさっているのですか?」

真の悪役登場!

シェリーヌさんのご活躍はもうしばらくお待ちください。

ちなみに相手が悪いので大活躍はできないかもしれません。

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