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4-7:あの者の過去と想定外の苦戦

間に合わなかったので誤字脱字チェックできてないですごめんなさい。

「おっかしいなあ。一段階目起動のコマンド出したのに、全然応答が帰ってこないや。」


 少年のような男が、自身の行った事にたいする結果を訝しむ。今まで色々試してみたが、どのコマンドもちゃんと応答が返ってきた。

 こんなことは初めてだ。何かプログラムを間違えた?

 いや、ちゃんとデバッグしたし、近くで動かしてみた。


 分からない。なんで動かなくなってるんだ?


「おい。お前のおもちゃは何をしている。少し遊んでやるんじゃなかったのか?」


 少年のような男に、他の者が声をかける。その声は今までは一緒にいた赤い髪の男とは違い、口調からも少年より上位にいるように想わせるが。



「うるさいなぁ。今調べてるって。こっからじゃ無理みたいだから、あっちの僕で調べに行くよ。」



―― 8年ほど前


 その少年は、本質的には天才だった。人と違ったことが好きで、一人で遊ぶことが多く、だから友達もできず。

 誰とも一緒に動かないから、一人で自由に動き回って。勝手にいろんな所へ行って。危ない場所にもよく足を運んだから、親はよく心配していたが気にしなかった。


 そんな少年は、ある日住んでいる村から近い、旧時代の廃墟に遊びに行った。

 今は瓦礫と自然に覆われた、人の手を入れるのは大変そうな荒れ果てた遺跡。

 何が起きたかは分からないが、様々な建物がばらばらに壊されたようで、非常に大きな建物の跡もあった。


 その廃墟は人も魔獣もあまり近づくことはない禁忌の場所とされていたが、少年にとっては宝の山だった。

 誰も目を向けない、旧時代の文字が書かれた一部欠けている石碑や、今では分からない謎の素材でできた箱。


 どれもこれも、何が何だか分からない。ただ今の時代の人々にはガラクタだが、きっとこれは旧時代には意味のあったモノで、役に立っていたモノ。


 そう考えた少年は、その日以降何度も何度も廃墟に通って文字や遺品を調査して。

 なぜ人が近寄らないかなんて、楽しいものを前にした子供には関係ない。大人が勝手に決めた大人のルール。



 そこに通い始めて一年弱。その少年は、ある程度そこにある文字の意味が分かるようになっていた。その時まだ、少年は6歳。その年で古代文字を独学で解析してしまうのは、信じられない程の天才だが。

 逆に子供だからこそできたのかもしれない。固定観念にとらわれず、好きなことにひたすら没頭する。


 こうしていろいろと分かってきた少年は、大人がソコに近づいてはいけないと言っていた理由に、手を伸ばす。


 そこには魔獣がいた。みた瞬間、恐怖に竦み動けなくなるほど恐ろしい魔獣。形はどんな獣にも似ておらず、けっしてこの世にいてはならないタイプの禍々しいモノ。


 少年も当たり前のように竦み上がり、やっと大人たちが言っていた事を理解する。

 そうなんだ。みんな怖いから近づくなって言ってたけど、本当に怖いものが居たんだ。



 恐怖に竦んだ少年は全く動く事が出来ず、魔獣に襲われて死ぬとばかり思っていたが、その魔獣はいつまでたっても襲い掛かることはなく。


 しばらく動けず、ひたすら怯えていた少年は、自分がいつまでも無事とようやく気付くと、その理由を探り出す。

 魔獣はいるが、動かない。ゆっくり動いても、その視線に捕らえてるようには見えず。


 試しに少し近づいても、やっぱり無反応。これは一体どういうことなんだろう?少年は好奇心が湧き始め。

 そこで考える。自分が今まで解析してきた文字。アレには魔獣という言葉は無かったが、その魔獣がいる場所の近くにあった廃墟で、いくつかの石碑にあった記載は。


 自律*攻性兵*:ATK***

 自律*指揮*置:CMDー2ND

 生物兵*一型:W*LF

 生物兵*二型:B***

 ******:**G*R

 ******:P**HON

 試作型防**置:TE-CT**

 試作型遠*制御*形:CH*-RUN

 ********:B***T

 ******形:SE-C**D


 大部分が風化して読めなかったが、それでも何か、ここは兵器工場みたいなものだったのだと、その天才の少年は気づいてしまい。

 兵器工場に得体のしれない魔獣のようなものが居ると分かれば、それは兵器なのではないかと推測して。


 面白かった。今までのどんな遊びよりも面白くて刺激的だった。だってこれを理解して使えるようになれば、自分は大人たちよりもずっと強くなれる。

 今までエラそうにしていたオトナを見返せる。

 自分を心配してくれていた両親はなんというかな。凄いって褒めてくれるといいんだけど。


 それからはまた、その場所をひたすら調査して、瓦礫に埋もれていた階段を見つけて。見つけてしまった。

 好奇心と功名心の赴くままに、少年はその中に入り、ついにそれらが何かわかってしまう決定的なモノを見つけ。


 こうして少年は、現代は魔獣と呼ばれているモノたちを造り、制御していた技術を手に入れてしまう。

 それはとてもとても楽しくて。だって自分が組んだ術式を埋め込めば、その通りに動いてくれて。


 最初は簡単な、ただ歩いて戻ってくる術式を作って。


 次はその先にある木を試しに攻撃させて。


 だんだんわかってくると、術式。地下室にあった資料ではプログラムって書いてあったそれを、自分なりにアレンジして、気が付いたら空を飛べるものも出来上がって。


 試しに森にいる魔獣が制御できないか試そうと、自律型指揮装置:コマンダー2号に、生物兵器一型:狼の制御プログラムを組み込んで、森に向かわせて。

 帰ってきたコマンダー2号は、ちゃんと狼の魔獣を連れて帰ってきた。しかも魔獣なのに僕を襲わない!


 すごい!すごい凄いスゴイ!!


 とうとう人類の敵って言われてる魔獣を、僕は制御する事が出来たんだ!


 そうやって使い方を覚えてからは、いろんな形で指令を出してみて。最初は一体だけで。慣れてきたらそれに従う部下をたくさんつけてみて。


 もともと自分達を襲ってくるだけだった魔獣が、言うことを聞いて自分の意のままになる。それがすごく楽しくて。

 どんどん調べたら、なんか魔獣の使う魔法も少しずつ分かってきて、これも面白い!


 今度はいろんな魔獣の魔法を確認して、調べて使わせてみて、ある日狼の魔獣に偽装型広域殲滅魔法っていうのを組み込んでみた。名前もあったけど気にしてない。


 でもそれは、使わせてみても特に炎の槍が出たり、氷の塊が飛んで行ったりせずに。なんかつまらない。


 この少年は、自分の致命的なミスに気付かず、その狼型魔獣は今魔法が使えない状態と思って、そのまま放置して。

 そのまま日が経って、コマンダー2号の術式をいじっているときに、その狼型魔獣が指揮下から外れた。


 ただその時、魔獣は見つかると騒ぎになるから、使わない時は森に返していて、だから指揮下から外れたことにも気付かなくて。


 そんな放置して指揮下から外れた狼が、ある日村人を一人襲った。ただ、なぜか軽傷ですんで。狼は森に逃げて。

 もちろんそれが魔法を組み込まれた個体だなんて見ても分からないから、村人は軽傷で済んでよかったと笑い。



 翌日、村は疫病に見舞われた。



 気が付いたら自分の両親も感染していて、少年はやっとその特徴に気付く。これはあれだ!あの狼の魔法!

 急いで解除方法を探しに廃墟に行って、ひたすら探し続けるけど見つからない。

 なんで自分が感染しないか分からなかったし、子供だった彼はそんなことは考えずにひたすら探し続け。



 間に合わなかった。突き止められなかった。



 その日少年を残し、救助を求めに行ける者も、たまたま村の様子を見に来てくれた者もいないまま、彼の両親を含んだひとつの村が壊滅し、その国の地図から消えた。




(ボクが、みんなを殺したんだ。)




 その天才の中で大切な何かがプツン、と音を立てて切れてしまった。そんな音が、聞こえたような気がした。




 村が壊滅してから半年、少年は9歳になり。

 あの時から彼は魔獣が、旧時代の兵器が使えることををひた隠し、住んでいた村の隣にある、このあたりでは珍しい赤い髪の者たちが少しいる、そんな村に保護されていた。


 伝達する手段に乏しい世界。村では色々な情報も遅く、その頃になってようやくある一つの奇跡が村に報じられる。



『フィルメリアの至宝、アセリア第一王女が、かつて誰も癒せなかった疫病をその魔法で撲滅。』


『国難となりかけたフィルメリアを救った、現代の聖女』


 そんな感じの奇跡が、全てを失った少年にも届く。


 意味が分からなかった。彼の常識では、疫病は魔法なんかで治すものじゃない。魔法で癒せるならそれはアレだ。


 偽装型広域殲滅魔法の、カウンターマジックだ。


 天才は気づく。そんなものを作れるような人間、この世界にはいないはずだと。なぜならあの後、彼はその魔法を解除できる方法を見つけたから。


 かつて存在し、戦争を起こして滅んだ国家。彼が遊びで解析し続けた廃墟となっていた、その国。

 その疫病を偽装した広域殲滅魔法は、その国が欲していた力を使わなければ解除魔法が作れないものだった。

 その国が欲していた力。今はもう亡んで、存在しない国の王家だけが持つというそんな力でなければ。



 ならばそれをやってしまった、カウンターマジックを作ったアセリア姫は一体何者なのか?

 全てを失った少年に、好奇心の火がまた灯る。だがそれは歪んだ形で突き進むこととなる。



 彼が保護された村は貧しかった。その中で一人、変わった人がいた。その人は時々村にいるけど、普段はいない。

 赤い髪の人たちの中で、みんなに人気のお姉さん。


 普段いないその人に、いつもどこに行っているのか聞いてみた。もしフィルメリアに行っていたら、アセリア姫の事が分かるかもしれない。


 そうやって、その人に話をしてしまったのが、全ての始まりだった。


 その人は、とても優しくその天才に接してくれて。

 気が付いたら、なんかよく分からない後ろ盾を得る事が出来て。

 そのお姉さんと話をしているうちに、彼は後ろ盾を得たと思った、自分の力で何でもできると思いこまされた。



 まだ幼い、10歳を超えたばかりの少年は。その日フィルメリアを転覆する計画の、歯車として動き始めた。




―― メルヘン城周辺。



「あのあたりですね。では使ってみます。」


 会議を終え、国王と王妃だけ先に王宮へ返して。

 ホルン岬の周辺に見えた魔人の反応を頼りに移動し、そこをクラリスが魔法の可視化術式で確認する。


 クラリスの瞳にうっすらと魔法陣が浮かび上がり、


「なっ!?こんな形で見えるのですね。これは凄い。」


 ひとしきり驚く。既にセラフィーナとシェルン、そして元々そんな能力を持ち合わせているアセリア姫には視えている世界。魔法を、術式を論理的に見る世界。


 城を見た時は、とにかく高密度だが特に機密性は無い物質化の魔法だったため、その構成と循環に驚いたが。


 今見た隠蔽魔法は、そもそも見えないものがみえるという不思議な状況であり。

 クラリスが魔法を使った瞬間、その目にはドーム状に、幾何学的な配置をされた文字のような形状が半透明で確認できて、その半透明の向こうで、こちらの事を伺うように見つめている魔獣が6体。


 その奥には、なんだかよく分からない、薄いもやもやのようなものに包まれた、漆黒の大きな宝石みたいな塊がひとつが浮いていて。


「魔人の形状を取るあの魔法兵器は、待機中はあのように魔力消費を抑えておりますわね。

 まだ隠蔽魔法が破壊されていない為、見られていても見つかっているとまでは判定していないのでしょう。」


 セラフィーナがそう言って、この場では魔力が最も弱く、剣技を中心に戦ってきたグラツィオに向けて。


「グラツィオ様は如何ですか?視えますか?」


 念のため確認しておく。彼も騎士団の中では上位なのでそれなりに魔法の素養は持っているが、この場に集った者たちは突出しているものが多いため、魔力だけを見るとどうしても霞んでしまうのだが。


「ああ、はい。視えます。しっかしこれ重いな。こんだけ魔力消費すると、俺結構すぐに魔力切れるぞ。」


 セラフィーナの魔法なので、それなりに洗練されたものなのだが、やはりセティスですら感知できない位に隠蔽する魔法を看破するものである。

 魔力消費は極端に軽い物でもなく、グラツィオがそう感じるという事は、騎士団員の小隊長クラスだと結構重めな感じになりそうである。


 一方クラリスは元王宮魔術師という肩書の通り、


「私ならこれは一日中でも問題無いですね。おそらくですが自然回復分を充てるだけで使い続けられそうです。」


 その魔力量も自然回復量も、グラツィオとは比べ物にならないようである。


「俺も平気だが、流石に一日中は無理だな。アルヴィンス様はどうです?」


 レイノルドは魔法の素養についてはかなり高い。彼もセティス同様、魔力で身体機能を上昇させるタイプである。


「ああ、この位なら問題ない。俺も一日中いけそうだ。レイノルドももう少し鍛えればいけるだろ。」


 さすが元騎士団長。魔力も相当高そうだ。そして鍛錬すればレイノルドもその域に行けそうな雰囲気である。


「はー、やっぱ魔法の素養が高い方々は違うねー!」


 ちょっと皮肉っぽく言うグラツィオ。彼は魔法でのサポートは最小限で、本当に剣技だけで登り詰めているため、こういう場面ではちょっと差が出てしまうっぽく。


「気にするな。お前はアレがあるから魔法が無くても戦闘は引けを取らんだろ。」


 なんかそんな話がされてて。グラツィオにもなんか戦闘ではアドバンテージになることがあるようだ。


「では皆様、少しアレと戦ってみましょうか。

 わたくしが分断してますので魔力による指示はできないようになってますし、となりに展開している者からも察知はできないはずですわ。」


 なんかわからないが、とりあえず一部隊だけと戦う事が出来るらしい。


「それと、アセリア様とセティス様は手を出されませんように。お二人は恐らく余裕でしょうから。」


 そんなことを言って、他のメンバーだけで戦わせることとなって。



「では俺から行こう。あの熊は流石にでかいが、まあ何とかなるだろ!」


 意外と余裕をもって、アルヴィンスが一人で突っ込み。

 さすがに攻撃を感知し、隠蔽が看破されていることを認識したのか、浮いていた宝石。魔核が待機状態から起動して人型の。あの赤い髪の男になる。



「こちらを見ていたようだが、気付いていたのか。」


 平坦な声でそう言って、魔獣に指示を出すかのように動き出し。


「遅い!遅いわっ!」


 単独で突っ込んだアルヴィンスが、裂帛の気合と共に斬り込んで。戦闘準備を整え体勢を沈めた狼をまず一匹。


「ギガギャァァア!」


 グラツィオを襲った部隊同様、狼は切り伏せても消えることはなく、通常の魔獣が指揮下にあるようだ。


「む。はやい。」


 男、魔法兵器がそう言って、同時に他の魔獣たちも動き出して単独のアルヴィンスを波状攻撃する。


「ほう。ケモノの分際でなかなか考えるっ!だが!」


 前後から攻撃するように、一匹が回り込んだ狼をほとんど同時に切り伏せて。そこに熊が放つ炎の矢が飛び込み。

 さらにその矢を切り払ったところへ虎が左右から突っ込んできて、


「むっ!」


 虎も斬ろうとした動きを止めて、バックステップで飛び下がる。その元居た場所に。


 ズンッ!と熊が。人の4倍はあろうかという熊が跳びあがり、上から強烈な一撃を叩き込んで。


「ほう。アレを無傷で避けるか。なかなか。」


 また見ているだけの男が、観察しているかのようにアルヴィンスの動きを評価する。


「こいつはなかなか。グラツィオ!よく生き残った!」


 若い騎士が生還したことを褒め、相手の魔獣の評価を数段アップして。


「アルヴィンス様。私も。」

「いい、クラリス。お前は見ておけ。」


 この状況で、まだ単独で戦うつもりまんまんである。


「兄上!これはあくまで確認です。楽しまれるなど。」


 セティスがそんなことを言うが。


「いや、遊んではおらん。こいつらの動き、能力。出来るだけ引き出してやる。同じものが相手なら手の内はできるだけ晒しておくさ。」


 今見ている者は、目にしただけで対策を練れる。そう認識している元騎士団長は、相手の力量を仲間に探らせるためにあえて全力を出さず。


 そうして数分虎、熊の魔獣と打ち合い、その手の内を晒させようと戦うが。


「ふむ。埒が明かん。俺が動くか。」


 今まで傍観を決め込んでいた赤い髪の男が一言。

 熊の魔法を躱し、虎の爪をはじき返したタイミングで。


「兄上!下がれ!」


 セティスの声にただならぬものを感じて、即アルヴィンスがその場から身を引いて。


 そこにはいつかセティスが見た、どす黒く細い爪が地面から三本伸びていた。


「ほう。これを避けるか。お前は知っていたのか。」


 また平坦な声で。セティスが爪の攻撃を看破したことに、驚いたような言葉を出すが、そこに感情は篭らず。


「おいおいなんだよアレ!俺が一人だった時にアレやられてたら死んでたぞっ!」


 グラツィオがちょっと焦ったような表情で。運がよかったのか、それともあの時、グラツィオが最終的に海に突き落とされた時は、戦力的に男が動くまでも無かったのか。


 それは人の姿のままで、魔獣になったときに使っていた攻撃を繰り出していて。見た目は男の腕が伸びて地を這うというよくわからない形になっているが。


 そこから腕が更にグネグネと伸びて、アルヴィンスを追い始めるとともに、もう片手も伸ばしてそれはクラリスへ。


「くっ!こいつ。はやい!」


 その爪を避け、手にした騎士剣で弾き、


「アルヴィンス様。こうなれば私も動きます!」


 アルヴィンスの指示で観察にまわっていたクラリスが戦いに参加する。


 アルヴィンスは男の右腕と熊の攻撃に対応中で、クラリスへは左腕と虎二匹が襲い掛かり。


 クラリスの剣捌きはコンパクトで無駄が無く、火力はあまり高くないがその速度はなかなかのもので。位置を変え地面から突き出される三本の爪をいなし、弾いて。


「フレアサークル改!」


 剣戟を続けながら裏で詠唱していた魔法を同時に放つ!

 フレアサークル。円形の薄い炎の刃を創り出し、それで相手を焼き切る魔法。

 制御は難しいが非常に薄く形成する為、魔力消費が非常に少なく、連射も可能な優れた攻撃魔法である。


 通常それは自身の周囲に展開した魔法陣から打ち出されて敵を攻撃するが、クラリスは改造版を作っていて。

 発射する魔法陣は敵の体内、必中の場所に展開するというトンデモ魔法に昇華されていた。


「ギ!」「ギギャ!」


 爪に合わせてとびかかろうとしていた虎の中に生成された魔法陣から、炎の刃が飛び出して。

 ただし虎も高速で動いているため、狙った場所とはずれて致命傷は奪えない。


 傷を負い、一度仕切り直そうとした虎だがその動きは先ほどよりも鈍っており、その体内でさらに生成された炎の刃が、今度は致命傷を与えられるタイミングで。


「ふむ。危ないな。」


 いつの間にか虎の傍に来ていた男が、二匹の虎を蹴り飛ばして魔法を避けさせた。


 その動きを見て、アルヴィンスは判断する。

 この魔獣混成軍、個々の魔獣はそれなりに強いし連携もするが、それ以上に厄介なのはこの男だと。


 そもそも量産されている魔法の魔人とはいえ、セティスが斬ったあの男と同型である。

 中身も同一かは不明だが、セティスの通常機動、それの6割くらいの速度は持っている。


「クラリス!熊をやれ!レイノルドとグラツィオは先に虎をやれ!」


 その男の危険性を直感し、様子見をやめる。アセリア姫、セティスを除いたこの場の騎士団員。上位の者たち全員を参加させて。


 レイノルドは魔法ではクラリスに劣るが、身体補正の制御と元々の膂力は勝っており、近接戦闘であればクラリスの上をいく。


 グラツィオと共に参戦してすぐ、二人はそれぞれ一体ずつ虎を難なく押し込んでいき、


「あっぶねえ!」


 虎を斬れるかという直前、グラツィオが飛びのく。

 そこにはクラリスとの交戦を外し、狙いをグラツィオに替えた爪が地面から生えたように突き出して。


 飛びのいた直後、何かグラツィオが足を蹴り上げるように動き、その足先から小さな何かが飛んでいき、それは先ほど斬ろうとしていた虎の一体にぶつかって。


 ドゴォン!!と大きな音を立て爆発した。


「なんだ。いまのは。」


 また男が平坦に、驚きの声?を上げる。その視線の先は、爆発の直撃で半身が吹き飛んだ虎が頽れて。


 一方のレイノルドはグラツィオより先に邪魔されることもなく、難なく虎を斬り伏せていて。


「グラツィオはクラリスの援護!レイノルド!こっちを手伝え!」


 虎を始末したことを確認し、アルヴィンスは即次の指示を出す。切り結んでいても他の者に攻撃を加えるこの男。間合いというものが一切通じない。


 ここまでの攻防だけでもアセリア姫とセティス、この二人はフィルメリアにおいて次元が違う事が見て取れる。


 だが上位の者たちはやはり違う。


 グラツィオが参戦することで近接戦闘を任せられるようになったクラリスは、一気に決めにかかる。


 少しだけ前衛を任せ、グラツィオと自分に向けられる炎の矢、熊が使う最大7本の魔法を対処しながら、強力な魔法の術式機動を完了させ。


「グラツィオ避けろ。」


 静かに一言告げて、それを放つ。


「アイシクル・ボルト」


 そっと告げるように。だがその言葉を聞いたグラツィオは大慌てでその場から離脱し。


 熊の周囲を取り囲む魔法陣。その数18。

 王宮魔術師から騎士団に移籍したクラリスの真骨頂は、やはりその攻撃魔法で。


 それぞれの魔法陣から、鋭利な氷の槍が創り出され。それは巨大な。一本が4メートルはあろうかというサイズで。

 それが18本、熊の四方八方から打ち出され。


 その速度は矢の如く。巨大な槍とは思えない速度で熊に到達し、避けられることなくすべてが突き刺さって串刺しにして。断末魔すら上げられず、熊魔獣は地に伏せる。


「あぶねーですクラリス様!俺避けれなかったら死にますって絶対!」


 終わった後だから叩ける軽口。加勢が来てからは速攻で熊魔獣を対処して、残りは魔法兵器の男一人。


「ふう。なかなかのものが多い。離脱する。」


 平坦な口調のまま。男が跳躍して離脱を図るが。


「させん!」


 追いついたアルヴィンスが一閃。男を腰から上下真っ二つにして。その下半身は虚空に融け消え。


「ビキギギ!」


 上半身は崩れ、また鳥型に変わりかける。


「斬!」


 レイノルドが魔力を乗せた飛ぶ斬撃を地上から放って。鳥になりかけた頭が切り落とされる。


「よし!」「やったか」


 頭を失った鳥型魔獣は。そのまま飛行をはじめ上空へと舞い上がり始め。


「なんだそりゃ!あんなのアリか!?」


 グラツィオが悪態をつくが。


「ラピッドフレア!」


 熊を倒した後も油断せず状況を見極め、魔法を準備していたクラリスが高速な魔法の炎を掃射して。

 数発鳥にあたるが、その羽を貫いてもすぐに復元して、さらには頭部も復元されていく。


「オマエタチはキけんだ。すぐにホウコクする。」


 そんなことを歪んだ声で言いながら離脱していき。



「あれが魔核の力か。厄介な!」


 さらに上空へ上がり、流石に逃げられると判断したアセリア姫が動く。


春紫苑の輪舞(アスター・ロンド)一輪(シングル)


 姫の言葉と共に、ひとつだけ魔法陣が展開され。本来ならば48個という膨大な数の魔法陣を形成するが、相手に合わせ魔力消費を抑えた形に切り替えて。


 それでも魔法陣からは8発の星花が跳び、鳥魔獣を高速追尾してその魔核を打ち抜く。


「ギ!ガ!?」


 なぜその弱点を打ち抜かれたのかわからぬまま、この一団を纏めていた男。魔核で作られた疑似生体兵器は、虚空に消えてようやく戦いが終わって。





「少し舐めていたな。アレは様子見など出来ん。」




 アルヴィンスの言葉に、神妙に頷く者たち。


「しかし我々でこの体たらくでは。他の騎士、兵士たちで抑えるのは難しいのでは。」


 少し焦りを見せるクラリスの言葉に。




「そこはわたくしがサポートしますわ。おまかせを。」



 涼やかな声で。セラフィーナはそのサポートを語りだす。

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