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4-6:一番大切なモノ

いろんなものや説明を入れ込んでいたら長くなってしまいました。読みにくかったらごめんなさい。

 共有された監視魔法を解除して。


 視えてしまった、視えたからこそ国の緊急事態にどう動くかを検討している、セティスを筆頭とした騎士団員達。


 その中で、発想の違う少女が一人。


「あの、セラフィーナ様。頼ってばかりのような発言にはなるのですが。」


 軍部とは関係のないミリエラが挙手して発言する。


「セラフィーナ様のお力をお借りすれば、これらの者たちは何とかなるのではないでしょうか?」


 そう。それはセラフィーナの力をその目で直接見た者であれば当然思いつく策で。

 ただ、騎士団のものは国の護りを自分たちの仕事と考えている為、ミリエラのような発想は出ない。


「ええ。わたくしも出来るならそうしますわ。

 ですが今回は、わたくしがそちらで動いてしまうと少し問題がありますの。」


 問題。ミリエラには頼り過ぎることしか思いつかない。


「それは、セラフィーナ様のお力にこの国が縋ってしまうことはやはりよくないとか、そういったことでしょうか?」


 確かに常にはいないセラフィーナが、たまたまいたから全て任せてしまう、というのは虫がよすぎる。


「いえ。そうではございませんわ。今回の者たちはわたくしにとっても敵と言って過言ではありませんし。

 先にお話しした通り、これはクリスティアラの責務でもあります。だからこそ、こちらでは動けない。」


 ミリエラには理由が分からないが、軍部のもの。そして国王であればその理由はなんとなく察しが付く。


「セラフィーナ様は、この状況を創り出したものを。事の首謀者を討たれる。そういうことですな。」


 国王クラードが、国のトップとして考えれば当然の発言をする。たしかに国土、いや大切な民を護る為には今展開している魔獣軍を討伐することが大事だが、どれだけ末端を討ったところでこの攻撃は終わらない。


「はい。国王様の仰る通りですわ。

 仮にわたくしがこちらで動き、瞬く間に殲滅するような真似をすれば、かの者は姿をくらまし、次の機会。わたくしがいない状況を狙うことになるでしょう。」


 事の首謀者は、魔獣軍が劣勢になれば必ず動く。だがそれを瞬時殲滅してしまえば雲隠れするだけだろうし、セラフィーナが全域を相手に転移しながらゆっくり戦っていては、首謀者の動きを察知できない可能性がある。


 そのためその動きを監視し首謀者を討つために、セラフィーナは今回、その手足である魔獣軍はフィルメリアに任せるつもりでいる。


 それらの事を一通り伝え。


「今回の件で表立って動いている国はございませんわ。

 ただ、この国に潜入していたものたちと、セティス様が見た魔人。今日見た魔人。それらの特徴である赤い髪。

 そのような特色の国は。」


 フィルメリアの近くに、そのような髪色を持つものが大半を占める国はない。国王ですら、知らない特色。


 だがその国は、フィルメリアに対して侵略を企んでいる可能性があるわけで。セラフィーナの語る内容にみな心持ち前のめりで次の言葉を待つが。




「ええと。どこでしたっけ?わたくし確かにそんな国に訪れた事はあるのですが。ええと。」



 このポンコツお姫様、肝心なところを忘れてるっ!



「ちょ、ちょっとセラフィーナ様。そこが一番大事なんじゃないですか!この国を狙った国ですよね。」


 なんかだんだん遠慮が無くなっているミリエラが、全力でツッコミを入れて。


「そ、そうは言われましてもね。わたくしも数多の国を巡ってますが、それこそ百年単位で世界をまわってますと、前あった国がサクッとなくなっていたり、新しい国がポンって出来てたりしてましてね。」


「あ。それは、たしかに。」


 なんか、国の興亡をものすごく軽く語られたが。


 セラフィーナの言葉に、少し常識がズレていることを思い出して納得する。

 確かにセラフィーナの人生、長すぎる人生であれば国の興亡などいくらでも起きているのは当たり前で。


 フィルメリアの南側と隣接している二つの国、アールランド王国とイグライア帝国もそれぞれ数百年前に建国された国であり、アールランドは複数の小国家が纏まって一人の王を選出した国だし、イグライアは皇帝となった一族の国が、周辺諸国を武力で併合した国だし。

 もしその時セラフィーナが居れば、その併合も侵略として止めたのだろうか?


 そもそもフィルメリア自体、その歴史は400年にも満たない小国で、セラフィーナの長い人生から見れば、まだ四分の一未満しか存続していないのである。


 それにセラフィーナの根幹は元々人間であり、人として物事を記憶している。つまり昔の事なんて普通に忘れる。

 自分の大切な妹の事など本当に重要な物事や、衝撃的で思い出に残るようなことであればしっかりと覚えていることもあるが、出来たり無くなったりしている国々の、人々の髪の色まで全ては覚えてない。


 人生が70年程度の普通の人ですら、子供の頃どころか大人になってからの事でもいくらでも忘れる。

 それを人生1800年以上の人物に、必要なことはすべて覚えておけ、というのはあまりにも酷。なはずだが。


「セラ様。たぶんそれ、フィルメリアからは遥か南東にある工業が盛んな国、ファスター共和国じゃないでしょうか?私ものすごく嫌なことがあったので覚えてます。」


 隣から助け舟が出された。どんな嫌なことがあったのかは分からないが、シェルンはその国を覚えていたらしい。


「そ、そうでしたっけ?ファスター共和国。ええと、どんな国だったかしら。思い出せませんわ。」


 国名と特色だけでも思い出せないらしい。


「あれですよ。隣のメルシアですごく美味しいお茶があったからって、ファスターでも現地の美味しいお茶を探したら全然無くて。それどころかお薬みたいなお味のお茶で。

 私も美味しいとは思えませんでしたけど!」


 なんだかシェルンの口調が厳しい。

 そして微妙にジト目になってる。


「薬みたいなお味のお茶。ええと。

 あ、ああっ!あの時のっ!思い出しましたわっ!」


 なんか思い出したらしい。


「それで私が試しに色々配合を吟味してたらセラ様が勝手に飲んじゃって、『なんてものを飲ませるのですっ!』って私めちゃくちゃちょうばつ受けたじゃないですか!」


「あ、そ、それは。ごめんなさいね。

 あの時のとんでもなく苦くてエグみもあって、生臭い泥のような味はとても耐えられなくて。飲んだ瞬間理性が吹き飛んでしまって。わたくしが悪かったですわ。」


 いったいどんな味だったんだろう?決して飲みたいとは思えないような表現をされていたが、それだけ印象には残ったのだという事らしい。そして思い出したはいいが、ものすごい勢いで脱線してる。


 ついでにシェルンが嫌なこともみんなに知れ渡った。

 それも明らかにセラフィーナが悪い感じで。


「ところでシェルン。今わたくしの愛を、ものすごく嫌な事があった。と仰いまして?」


(あっ!これはやばいです!)


「い、いえそれは。言葉のあやと言いますか。」


 今度はシェルンがめちゃめちゃ焦った感じになって。


(はあ。今は陛下も王妃様もおみえなのに。この主従はお二人とも、ホントにズレてますよね。)


「セラフィーナ様、シェルンさん。落ち着いて下さい。今はもっと大事なお話があるはずです。」


 と、ミリエラに諫められ、二人とも正気?になって。


「み、みなさま。大変お見苦しい所をお見せしまして、本当に申し訳ございません。」


 平謝りしてようやく会食、会議は再開となった。

 ただなんとなく、全体にあった非常に切迫した雰囲気は少しだけ和らいだ気がする。

 この緊急時にそれが良いのかは分からないが。


 そしてちょっと、一部の者の目が尊敬から呆れたに変化したような気がしなくもないが、そんな空気の中。


「先ほどお話に出ましたファスター共和国ですが、おそらくこの国、フィルメリアを狙った国とは違いそうです。」


 先ほどの流れから、事の首謀者のいる国、攻撃を仕掛けていた国がそうであると皆考えていたのだが。


「いや待て。先ほどの流れからすれば、その国こそが首謀者のいる国。フィルメリアを狙って侵略を画策していると考えるのが普通だろう。

 貴女がそう判断する根拠をお聞かせ願いたい。」


 ここまでは全体的にはセティスに、魔法の事はクラリスに任せていたアルヴィンスが、話の運びに疑問を呈する。

 いや、話の流れからすれば、首謀国を割り出せるものと期待するのが当然であったが。


「ごめんなさいね。わたくしも赤い髪の色を持った方が多い国があったことは覚えていたのですが、シェルンとのお話で、その線がついえてしまいましたの。」


 シェルンと二人、顔を見合わせて。そりゃ忘れても仕方ないですよねー、みたいなやり取りをして。


「ファスター共和国に足を運んだのはもう500年くらいかしら?それ以上に前のお話なのですが。

 ちょうど一年ほど前に、その隣のメルシア国に美味しい茶葉を仕入れに行ったばかりでして。


 そのお隣、ファスター共和国だった場所は、その時にはもう国がなくなっておりまして。その地には赤い髪の方も残ってはいましたが、それはもう色々な特色を持つ方々が混ざり合った新しい国になってましたの。」


 つまり、セラフィーナが訪れてから500年の間に、その国は滅んでしまっていて。

 いまや赤い髪が主流というわけでもない多人種国家へと変わってしまっていて。


「なるほど。それは納得せざるを得んな。疑うような発言をして済まない。」


 話を聞けば、それはどうしようもない理由で。


「赤い髪の方が多いと言うだけで、国の名を出そうとしたわたくしにも落ち度がありますわ。

 それだけで特定できるわけでもありませんし、メルシアはここから馬車で半年はかかる場所です。その隣国であったファスター共和国が仮に存続していたとしても、ここまで遠い地を求めるのは、流石に無理がありそうですわ。」


 間に数か国を挟んでの地である。そんなに離れた地を狙って侵攻を画策するのは、確かに無理があるように思える。


 だがこれで、結局首謀者についての手がかりは現状捕らえたままのシェフィールド工作員のみとなった。

 シェリーヌは分からないが、仕事人間のレイサード達が自国、あるいは雇い主を裏切ることは考えにくい。


「であれば首謀者の特定については、セラフィーナ様の監視頼りですね。騎士団としては、先ほど見た赤い光点。魔人のような者たちから国を護りつつ、順次撃破が最善か。」


「ええ、そうなりますわ。今朝はわたくし以外、彼らの隠蔽に気付けなかったようですが。」


 セティスが騎士団長として、軍が行うべきことを確認し、セラフィーナが答え。


「ああ、確かに私も感知できなかった。常時魔力視を使っているわけでもないのだが、魔力視だけでも感知は難しそうだな。そこは何か対策を考えなければならん。」


「団長。先ほどセラフィーナ様から頂いた術式。アレを用いれば隠蔽魔法も看破できるのでは?」


 騎士団では最も魔法に明るいクラリスが意見し、


「その通りですわクラリスさん。今はあの魔人の配置はおおよそつかめております。近くであの術式を起動すれば、今日見た程度の隠蔽魔法であれば看破できますわ。」


 またセラフィーナが肯定する。

 一通り話が終わったら、メルヘン城に一番近い部隊のところへ行って規格外のアセリア姫、セティスを除く者だけでも討伐可能かを確認してもらうつもりである。


 こんな感じで、セラフィーナは徐々にアドバイザーとしての対応になりそうだが。


「その話、すでに多数侵入している魔人、魔獣にどう対処すべきか。もちろんその話も進めるべきですが。

 その前に、もうひとつお伝えすべきことがありますわ。本来こちらのお話を先にするつもりでしたの。」


 言葉を切り、皆の注目を待つ時間を作り。


「そう言われれば、確かセラフィーナ様が監視網を共有される前に『話す順序が逆になる』と仰られましたわ。」


 アセリア姫が先ほどの言葉を思い出し。


「ええ。本当は先に今日遭遇した魔人についての詳細を説明をしたかったのです。わたくしが直接対応せず、魔法で監視する形をとって事の首謀者を見つけられるのではと、そう思い至った一番の理由にもなりますわ。」


 一番の理由。


 たしかに監視網の話をする前は魔人の話をしていて。


 魔人は人に処置をして作られた生物兵器という話と、今回の者はそれとはまた違うという話をしていた。

 クラリスがソレと人々との見分け方を聞いたために、監視網の話が先になってしまったが、そもそもなぜ監視網を展開したか、という明確な理由はここにある。



「今日遭遇した魔獣を指揮する魔人。そしてセティス様が先日斬られた魔人。これらはどちらも人に処置をして作られたものではありませんでした。」



 人から作られたものではない。ならばどう作られた?



「それは、今や西の森に大量に住み着いている魔獣のように魔人が繁殖したモノ。という感じでしょうか?」


 魔獣がそうなのだから、考えられるパターンはふつうこれだが、現実は違っていて。もっと酷いもので。



「いいえ。魔人と言っても今回遭遇した者は、本来あるべき自然の生態系から作られたものではありませんの。

 彼らは人の言葉を扱いますが、それはあくまでも想定できる範囲内の対応だけ。彼らは人に似せて作られた生物型の兵器で、その内には魂も本物の自我もありません。」


 少しわかりにくい説明になる。魂というものはセラフィーナ以外には概念としてしか理解していないが。


「それは私が斬った魔人も同じですか?あの、人の姿が突如魔獣になり、最後は鳥の形になって空を飛んだ魔獣。確かにあれは、自然の生き物ではなかった。」


 セティスが少し嫌悪感を抱いているような表情で確認をする。アレは確かに最初は人としか見えなかったが。


「ええ。セティス様の斬られた魔人。魔獣。斬ったのは体ではなく、おそらくその内にある魔力の塊ですね。」


「その通りです。最初は見えませんでしたが、ちょうどあの時、貴女の金色こんじきの力が周囲を満たして。

 その光で、魔力の塊というか、そのものの核に見えるものが浮き彫りになりまして、それを斬りました。」


 考えてみれば、普通に人から作られたものであれば、あのような無茶苦茶な変形などできるわけがない。


「セティス様の言葉通り、そのものは人や魔獣の姿を取りますが、本体はその内にある魔力の塊。魔核です。

 魔核というのは大きな宝石のような形で、中に人や魔獣として振舞うためのプログラム。

 そのものが何で、どう動くものかを定義した術式が籠められた、少し変わった魔石のようなものになりますわ。」


 セティスも言葉だけ聞いた、プログラムというもの。

 作られた魔人や魔獣がどういう者かを定義した術式。


「すまないが私には少しわかりにくい。もう少し具体的な話をしてもらうことは可能だろうか?」


 グライスが挙手して確認する。今まで聞いてきた話の中でも、イメージが付きにくいもののようだ。


「そうですわね。わたくしが解析した魔人に埋め込まれていたプログラムは、いくつかの機能から出来ていました。」


 そう言って、解析した結果を皆に順に説明する。


 あの時の魔人がもつ魔核には、大まかに分けて4つの機能を持つプログラム、術式が施されていた。

 それはおおよそ、以下のようなものである。


 1.形状を生成、制御する機能

 2.人として、魔獣として振舞う機能

 3.魔法を使う機能

 4.兵器としての行動を決定する機能



 1の機能は、生物としての形状を生成して動かす機能。人の形を造形するよう設定されれば魔人となり、獣の形を造形するように設定すれば魔獣となって。

 その形をそれっぽく動かすためのプログラム、術式もこの中に含まれているということで。鳥型の場合はフライトプログラムも組み込まれているようである。


 生成の素は周囲の魔力と、魔核に籠められた魔力。魔力循環はできないので、実際に動く必要が無い待機中は非常に希薄な存在となっているようである。



 2の機能は、魔人であれば言葉を発する機能と、人を欺く為、人の様にある程度会話ができる知能のような機能。

 セティスと相対した魔人が平坦な対応しかしなかったのはあくまで人のように振舞っているだけで、感情が存在しないからということだった。


 ならば魔獣化した時の性格は何だったのかと聞くと、この機能は個別に複数埋め込まれ、形態ごとに切り替えて使っているということらしく、あの二面性、平坦な会話をする男から狂気の存在に変貌したこともそのためらしい。



 3の機能は魔法を使う機能。これは分かりやすい。

 魔石を創生できるアセリア姫に限らず、一般的な魔法使いであっても市販の魔石に魔法、術式を籠めることはある。

 魔法使いであればだれでも簡単に理解できるし、そうでなくとも魔石の照明や魔石コンロなど、生活必需品で広く使われている一般知識として誰でも知っている。

 ただこれには、攻撃魔法のように自身が発動するものは組み込めても、術式を設置したり、別の術式を生成するような複雑な機能は組み込めないらしい。



 4の機能。これは部隊を統率する機能と、指令を受けて行動を実行するための機能。その他、事前に指定した時間になると行動を開始する、いわゆるタイマーの機能がある。

 この機能は他の機能よりも上位機能としてそれぞれの機能を制御しており、これが兵器として作られていることを物語っている。



 つまり魔核は、これだけの仕組みをひとつの宝石のようなものに組み込まれているわけで。



 ここまでの話を聞き、皆言葉を失う。

 確かに魔法文明は発展しているが、まさかそのような、生物をかたどった存在を創り出し、軍を構成できるものを作る技術が存在しているなど、想定の範囲外すぎて。



「これがわたくし達が今日倒した魔人。いえ、魔人や魔獣のように振舞う、生体兵器のような魔法の兵器の詳細です。

 これが国内にいるという事は、間違いなくそれを造り、そして指示した人物がいるという事。

 わたくしが監視網を展開するに至った、もっとも大きな理由になりますわ。」


 信じられないといった感じで静かになっているティールームに、セラフィーナの声だけが響き渡るが。



「皆様にはわたくしが解析した結果、もうひとつわかったこともお伝えしておきますわ。緊急でお呼び立てしたうえで、こうして時間を取って説明している理由にもなりますが。


 その魔人を解析した限りは明後日の深夜。日が変わったタイミングで総攻撃を行うよう設定されています。


 つまり何らかの指示が無い限りは、明日一日を準備期間としてあてられます。」


 その言葉を聞き、この危急の事態でもまだ準備ができると分かって。一同はようやく落ち着きを取り戻す。


「ですがセラフィーナ様。その何らかの指示というのがもし出されれば、あの大量の魔人。いえ兵器が動き出す。

 その可能性はまだ残っているのですね。」


 論理的に物事を考え、問題をひとつずつ潰したい。そう考えるクラリスが、まだ残っている穴を憂うが。


「ええ。そのためにわたくしの監視網がありますの。

 監視網と言いましたが、その術式には離れた場所からの魔術を検知、阻害する効果も付与しておりますわ。」


 あの広大な範囲を監視するだけでなく、魔術の阻害効果まで付与している。この方はどれだけの事が出来るのか。


「そ、そうなのですね。では本当に、明日中に対処の準備を整えれば、貴女が直接動かずとも人々への被害は。」


「はい。皆様のお力で必ず護ってくださる。わたくしはそう信じておりますわ。」


 ならばもう、騎士団としては全力をもって防ぐのみ!


 ここからはセティスが中心となり、騎士団全体と国軍一万を動かすための綿密な打ち合わせが始まって。


「よし。この方針で行けばなんとか被害は抑えられる。

 兄上、魔獣の森にも面し、一番危険な西側は第一大隊にお願いしたい。頼めるか?」


「任せておけ。絶対に民への被害は出させん。」


 アルヴィンスが即応する。森から他の魔獣も出現する可能性が高い、西側を最強の第一大隊に任せて。


「クラリス。第一大隊が南北に伸び切ってしまうのを防ぎたい。カーランドの北と西の一部を頼む。」


「拝命しました!第三大隊はカーランド北部及び西部の魔獣討伐の任に当たります!」


 第三大隊にはカーランドを任せて。


「第二大隊は今再編成中だが。

 陛下。特殊な状況ですが、私はレイノルドに隊を任せたいと考えております。」


 ウィンストの失脚で、第二大隊はまだ大隊長がいない状況だが、先日の言葉通りレイノルドに任せる気で。


「ああ。問題無い。フィルメリア王国代表として、レイノルド・アル・カーランド。其方を本日ただ今より王国騎士団第二大隊長に任命する。

 後日正式に任命式を開催するが今は危急の事態。簡易的な任命で申し訳ないが、その手腕、存分に揮ってほしい。」


 レイノルドに国王より任命の言葉が出て。


「はっ!拝命します!フィルメリアの民。この命に代えましても」

「それはおやめなさい。」


 拝命の言葉を発したレイノルドに。


 途中でセラフィーナが割り込んだ。



(あ。セラフィーナ様は...)


 フィルメリアの者では、一人だけが気付き。



「いや、レイノルドならばその素質は十分あると私は考えている。セラフィーナ様、何故止められますか。」


 ミリエラ以外皆困惑し、大隊長に薦めたセティスはその理由を問いただす。たしかにこの状況で、第二大隊を率いるものはレイノルド以外いないはず。

 少なくとも、フィルメリア上層部の認識は一致して。


 だがセラフィーナはセティスの言葉にもある、皆が困惑しているそこに言及したわけではなく。


「いえ。レイノルド様が第二大隊長となる事。これにはわたくしも異存はございませんわ。そこではなく。」


 まずは国王に向かって話し、次にレイノルドへ。


「あなたは今民の為、命に代えてもと仰った。わたくしはそれをやめなさい、と申しました。」


 その言葉にアセリア姫も気付き、少し嬉しそうな表情で成り行きを見守る。


 だがレイノルドは少し不服そうな顔をして。

 騎士として、命を懸けて民を護る。それは騎士団に所属するものであれば共通の認識で、騎士道精神にも準じている当たり前のことなのに。


 しかしセラフィーナは、それを許さない。


「あなたの命。失われれば必ず不幸になる少女が、今この場に居ます。きっとミリエラさんはあなたが命を賭して人々を護っても、その行いを誇りに想うでしょう。」


 次にミリエラに向き、いつもの微笑を浮かべて。


「ですがわたくしは貴女を不幸にするために、騎士団に動いてもらうつもりはありませんわ。」


 その言葉に頷くミリエラ。やはりフィルメリアの中でセラフィーナの想いを、優しさを一番理解しているのはこの少女で、その想いを素直に受け取って。自分も微笑んで。


 セラフィーナはまた、レイノルドを向いて。

 その表情はまるで子を諭す母のようでもあり。


「あなたは大切なものに戦いの場で先立たれて、残されたものの気持ちは分かりますか。

 あなたの事を大切に想い、あなたと共に幸せを育むはずの少女を悲しませることは、本意ではないでしょう。」


 その言葉には、不服そうな顔をしていたレイノルドも。

 神妙な顔となり、小さく「はい」と答え。



「ですから、命を懸けるのはおやめなさい。

 今の状況は決して容易ではないですが、それでも大切なものの為に必ず生きて帰る。

 その想いで、戦いなさい。護りなさい。」



 途中からは、誰も口を挟むことなく。



 セラフィーナが言っていることは、理想論かもしれないが確かにそのとおりであり。

 誰も傷つかない、誰も死なない戦いなど、そんなものは本来ありえないはずなのに。



「わたくし自身が戦いの場に赴くことは難しいですが、皆様を加護する程度であれば可能です。

 もとよりこれはわたくしの、クリスティアラの責務。

 あなた方に犠牲を出すつもりはありませんわ。」


 その表情はまたいつもの、慈愛の微笑に戻って。


「任命の場に割って入りましたこと、謝罪いたします。

 ですがわたくしの言葉、わたくしの想いは、国王様にもレイノルド様にも、聞き届けて頂きたいですわ。」



 セラフィーナの言葉を、想いを受け止める。


 そんなことは当たり前で。今この場でセラフィーナの言葉に異を唱えるようなものは、既におらず。



「改めて拝命します。フィルメリアの民を護り、そして必ず生きて、任務を全う致します!」


 拝命の言葉も、命を大切にするものとなり。


 ミリエラの表情も、緊張した中にも嬉しそうな雰囲気が見て取れて。



「レイノルド。第二大隊はお前の指揮のもと、シェフィールド北部全域の敵を殲滅しろ!

 お前がミリエラの領を護ってやれ。」


 騎士団長が、粋な計らいにも思える采配をして。


「拝命しました!シェフィールド北部の防衛及び魔獣討伐の任。第二大隊にお任せください!」


 こちらもしっかり指示を通して。


 騎士団全体に指示が通ったところで、セラフィーナは全員に念を押すように。


「今はレイノルド様にお話ししましたが、アルヴィンス様、クラリス様。もちろんアセリア様もセティス様も、グラツィオ様もですよ。

 あなた方も、あなた方と共に戦う皆様も、けっして命を粗末にされませんよう、わたくしからはお願いしますわ。」


 たったひとつしかない命。たった一度しかない人生。


 どれだけ大切な想いがあっても。

 それが失われれば、想いは決して届かない。



 だからこそ、セラフィーナが一番大切にするもの。



 皆の無事を心から祈り。



 自らも全てを護る心積もりで。




 フィルメリアを狙う者を炙り出し、その魔手から全てを護る為の戦いが、もうすぐ始まる。



 魔核。今現在のもので言うとスマートフォン。

 ひとつの小さな入れ物の中に、さまざまなプログラムで動くアプリが入っていて、それぞれが個別に、連携して機能する現代科学の代表的な電子機器。

 AIが発展してきてるから、そのうちほんとに魔核みたいなものが産まれてくるかもしれない。

 無人ドローンの攻撃なんてまさにそのもの。怖い怖い。



―――


 それにしても、セラフィーナ様のちょうばつって実際どんなものなのかしら?あ、ちょうどシェルンさんが。


ミリ「シェルンさん、少し聞きたいことがあるのですが。」

シェ「はい、なんですかー?」

ミリ「よくシェルンさんがセラフィーナ様から受けてるちょうばつって、どんなのです?」

シェ「ミリエラ様、世の中には知らない方が幸せなこともあるのです。」

ミリ「え?えっと、その。」

セラ「あら?どうなさいましたの?」

シェ「なんでもないですよー。」

セラ「あらあら。ミリエラさん、そうなんですの?」

ミリ「は、はい。なんでも、ないです。」


 こうして地雷を踏み抜きそうだったミリエラさんは、無事最大の危機を回避しました。

 もしセラフィーナに聞いていたら何の考えもなく、どストレートにその内容を語ってくれる気がします。怖い怖い。


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