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3-20:亡国の王女の侍女

今回も重い話です。こんなのばかりで苦手な方にはごめんなさいです。





 セラフィーナの発言を聞いて。


 二人とも、信じられないという顔で。

 だってあれには、兵器として使えるような理性もなく。


 そもそも、生き物が兵器だなどと。




「セラフィーナ様。


 それはどういう意味、でしょうか?」


 どう聞けばいいか分からない。

 ただ、兵器という事が信じられず。



 セティスが言葉を選び、選べず。

 聞き返した言葉には、信じたくないという気持ちが籠められているようにも感じられるが。



「そのままの意味ですわ。

 アレは昔、人の手によってつくられた兵器。


 人が動物を元に、魔法を使えるように。そしてその本能を書き換え、殺人本能を最優先として植え付けられた。


 魔法で改変した、人を殺す生き物。生物兵器です。


 今の時代に大量に発生しているアレは。

 野生化した兵器が繁殖しているだけにすぎません。



 そしてその兵器は、人を殺すための魔法。


 疫病のように蔓延し、大量の人々を殺す魔法を。



 ごく一部ですが、行使可能なものも存在します。」



 否定したくても、できない。


 アセリア姫の知っている何かによれば、この方は本当に遥か昔から今まで生き続けていると。

 理解できる範疇を超えてはいるが、そのことは事実として受け入れている。


 そのセラフィーナが、魔獣を兵器と呼ぶ。

 疫病を魔法として行使する、などという。


 つまりこの方は、その生い立ちを知っている。


「魔獣が、兵器。にわかには信じられませんが。

 貴女が仰るという事はそれが事実、という事ですね。


 セラフィーナ様は魔獣がいつ産まれ。

 いえ、作られたというべきかもしれませんが。


 いつ作られ、どの様にして使われたか。

 そのことを、ご存知ということですね。」


 セティスは魔獣を、生き物だと認識している。

 それを作り、使うという言葉。自分の口から出してなお、ものすごい違和感や嫌悪感を感じる。




「ええ。存じておりますわ。


 魔獣が。いいえ、魔獣を作り出し人を襲わせた。



 その者たちこそが、わたくし達の国を。



 クリスティアラを滅亡させた。




 その張本人なのですから。」




―― ティールームを離れて


 席を外したはいいがこの広い城の中、どこへ行けばいいか悩みつつ、ひとまず一階まで降りてきたミリエラは。


 すでにレストランとしての内装を整えたフロアを所在なしに眺め、その凝った内装に感嘆して。

 あまり深く考えず、客が使うであろうテーブルのひとつについて、先ほどの事を考える。



(レナード様が崩御された時のお話、ですよね。

 確かにあの頃から、アセリア様の魔法に対する姿勢が急激に変わって。それまで以上に癒しの魔法が進歩されて。)


 幼いころからアセリア姫と親しいミリエラにとって、あの時のアセリア姫はまるで何かに憑かれたように、魔法に没頭していたように見えた。


 それから徐々にアセリア姫とセティスの二人が、王国の中でも並ぶものが無い、次元が違うとしか言いようのないレベルまで達してしまったが。



「ミリエラ様。こちらにいらしたのですね。

 今は少し寂しい感じですが、もしここにたくさんの人が来れるようになったら、賑やかになりそうです。」


 シェルンがいつもの人懐こい笑顔で歩いてきて。

 その手にはなぜか、カップを持っていて。


「どうぞ。セラ様も好きなハーブティです。

 今朝はアップルミントを淹れました。

 甘くてすっきりした香りはおすすめですよ。」


 言って、ミリエラの席にそっと置いてくれる。


 カップからは既に、爽やかな甘い香りが漂って。


「ほんと、いい香りです。

 この数日、シェルンさんのお気遣いにも。

 たくさん助けて頂きました。

 レアニールの命も救っていただき。

 改めて、本当にありがとうございます。」


 セラフィーナへの感謝もたくさんだが、ミリエラにとってこの侍女の気遣いや行動にも、感謝ばかりである。


 セラフィーナの優しさとは違う形で、場を和ませ、柔らかく楽しい空気にしてくれる。

 それにお料理がものすごく美味しくて、さらに強い。


 あの、すごいけどどこかポンコツな主人には、本当によくできた素敵な侍女だな、とすごく尊敬していて。



「あ、飲みやすい。少し甘さを加えてて、香りと味が合っていると、とても飲みやすいですね。」


「んふふー。お褒めに与り光栄です。

 レアニールさんにも色々ハーブをお分けしたので、今度おうちに帰ったら淹れてもらってくださいね。」


 なんかお世話になってばかりなのに、お土産ももらってしまったようで。知らないうちに侍女同士がとても仲良くなっているのは、ミリエラも嬉しくて。



「なんか申し訳ないような。私は何もしてないのに、色々と頂いてばかりですね。」


「大丈夫ですよー。もともと私たちの目的は、ここで燻ぶっていた戦争の火種を消すことですから。

 ミリエラ様と会えて信頼頂けたからこそ、一気に解決する事が出来たんです。

 こちらこそ、ありがとうございます。」


 逆に感謝されてしまう。


 燻ぶっていた、戦争の火種を消すこと。

 あの時、セラフィーナに聞いたこと。


 人助けをする理由。


 この方も、シェルンさんもセラフィーナ様と一緒にずっとずっと、こうして世界を渡り歩いて。

 気の遠くなるような長きに渡って、ずっと一緒に、人助けをして、戦争を起きないように動いているのかな。


「そういえば。」


 あの時、初めて聞いたときは、1800歳以上のお婆ちゃんとか、おかしなお話になってしまったけれど。


「シェルンさんは、セラフィーナ様とずっと一緒にいらっしゃるんですよね。」


「はい。そうですよー。いつも振り回されてます。」


 冗談めかした笑顔で。

 それでもシェルンがセラフィーナの事を、いやお互いが心から大切にして、支え合っていることも。

 ミリエラにはしっかりと伝わっていて。


「セラフィーナ様が<災厄の魔女>って聞いたときはとても驚きましたけど、そういえばシェルンさんは最初から。

 あの、クリスティアラでしたか。

 その国の王女様だった頃からセラフィーナ様の侍女を、ずっとなさっているのですか?」



 支え合っている二人の事を素敵だなと思い。

 何気なく聞いた。それだけだった。



 それだけだった。はずなのに。



「シェルンさん?」



 今の今まで人懐こい笑顔を浮かべていた侍女が、とても申し訳なさそうな、つらそうな顔をしていて。



(あっ!)



 そういえば、あの時。セラフィーナ様がアセリア様と出会って、クリスティアラの話をして。

 その時自分はもらい泣きしていたけれど。


 何かセラフィーナ様がシェルンさんに、気遣うような言葉をかけていたような。そんな記憶が思い出されて。



「あ、あの。ごめんなさい。

 聞いてはいけない事だったかもしれません。」


 謝る。きっと何か言えないことが、事情があるんだ。



「いえ。そういう訳ではないのです。

 セラ様からミリエラ様に、<災厄の魔女>の話をされた時に、私の事は伝えられていないですよね。


 セラ様からは、私の事は私から伝えるようにと。


 決して私の事を、セラ様はご自分からは言いません。



 私をとても、大切に想って下さいます。それに。」



「それに?」



「今からお話することは。


 セラ様にはとっくに、最初からゆるされていて。


 私だけが勝手に申し訳ないと。



 そう思っているだけの事。それだけなんです。」




 そう言って、ミリエラに語り始める。





――




「私は、元々捨てられた孤児、という形で、セラ様に見つけて頂いて、その家族に救って頂いたのです。」


 いきなり衝撃的な話だった。

 この、いつも元気な少女が、捨てられた孤児。


「セラ様、セラフィーナ様は、当時まだ存在していたクリスティアラという国の王女様で。


 アルティーナ様と、エルフィリア様という、二人の妹がいました。お二人とも、セラ様によく似ていました。」



 一人は、あの時聞いた名前。

 エルフィリア・クリスティアラ。

 もう一人、妹さんがいたんだと、今知って。



「私が拾われた時、セラ様はまだ8歳で、とても小さくて可愛らしいお子さんだったんですよ。」


 ちょっと嬉しそうに言う。

 確かにあのセラフィーナ様が小さいころは、とても可愛かったんだろうなぁ。と想像して。

 幼いころのアセリア姫を思い出して。



「クリスティアラは女王様が治める国で、人口もあの時たぶん、2000人くらいかな。とても小さな国で。


 何か女王様は大切なお役目があって、代々そのお役目を果たし続けている、というお話でした。」



 話をしているシェルンの顔は、先ほどのようなつらそうな顔ではなく。楽しい思い出を思い出しているような。


 女王様のお役目は、やはりセラフィーナに聞いた話。

 いにしえの何かの封印に関することだろうか?



「女王様、セラ様のお母様はエリス様。

 エリスティア・プリム・クリスティアラ様。女王と、それを継ぐ者にだけプリムってつくらしかったです。


 そしてお父様はレオン様。レオンハルト様といって。

 セラ様のお父様らしく、ちょっと天然な面白い方で。」


 セラフィーナのポンコツはお父様譲りらしい。


「セラ様のお姿はお母様譲りですね。

 アセリア様もたぶん、エル様に似てると思います。

 女系血族で、何か血統的に女性の率が高いとか。」


 この家系の女子は皆似ているのだろうか?

 それにしてもここまでの話、シェルンが孤児という事には驚いたが、なぜあんなに申し訳ない顔をしていたのか。


「シェルンさんは、セラフィーナ様のご家族がお好きだったのですね。」


「え?な、なんでそう思われるのです?」


 それはだって。


「ご家族のお話をされているときのシェルンさん、とても嬉しそうなお顔ですもの。」


 その言葉に。


「はい。ミリエラ様の仰る通り、私は皆様の事が大好きでした。セラ様も、アル様、エル様も、皆一切分け隔てせず、私を姉妹として接してくれました。


 エリス様とレオン様も、三人の娘と同じように扱って、私を娘の一人として、家族として扱って下さって。

 レオン様にはいつも笑わせてもらいましたし。」


 とても嬉しそうに語っているのに。

 なんだかその顔は、あの時の、過去を語ってくれた時のセラフィーナと同じように。


 泣いているように見えて。



「私、そんな皆様のおかげで、孤児として捨てられた形だったのも忘れて、とても幸せな生活をさせて頂きました。


 一応私が年長だったから、セラ様の姉妹みんなの面倒も見てたりしたんですよ。


 それにセラ様の姉妹は、今のセラ様を知っているミリエラ様ならお分かりかと思いますが。

 皆様とても優しくて、子供のころから慈悲深いといいいますか、私の事を本当の姉妹のように大切にしてくれて。」



 誇らしげに。胸を張って。



 でもその仕草も表情も、何か、無理しているようで。



「それで、皆様成長して、セラ様が17歳の誕生日を迎えた時に。クリスティアラは、侵略を受けました。」



 侵略。


 あの時セラフィーナに聞いた。


 悲しい、亡国の王女に聞いた話に繋がって。



「侵略をした国は、今はもう無いと言いますか、クリスティアラと共に滅亡したのですが。その国は。」



 無理に笑顔を張り付け、語っているように見えて。



 これ以上、聞かない方がいいのかもしれない。

 私はシェルンさんの、心の傷を抉るような、そんな申し訳ないことを、しているような気がする。



「あ、あの。シェルンさん。その。」


 その言葉に、張り付けていたような笑顔が。

 いつもの、本当に可愛らしい、人懐こい笑顔になり。


「ミリエラ様はやっぱりお優しいですね。

 はい。お気持ちありがとうございます。


 でももう、ここまで語ってしまいましたし。

 きっと最後まで聞いても、ミリエラ様は私の事を責めないでいてくださる。そう信じてますから。」



 つまり。普通であれば責められるような。

 そんな何かがあるということで。


 それでも、私を信じてると言ってくれた。


 そうだ。ここまで語ってくれたのに今更。

 今更辞退する方が、ずっとシェルンさんの心を。

 その想いを蔑ろにするような行為だ。


 ならば私は心を決めて。

 いつも場を和ませ、楽しくしてくれたこの。

 悲しそうな表情の、優しい侍女を信じて。




 ミリエラが頷いたのを見て、シェルンは続ける。



「えっと、そう。その侵略国は、少しおかしな国でして。

 人も、動物も。生き物を皆、道具と見ているような。


 そんな者が治めているような国でして。」



 おかしな国。

 あの時は、利権と王女と身を狙ったと聞いた、侵略国。



「そのおかしな国は。

 女王様がお役目で護っているモノの力を欲して。


 そしてそれを護る力を継いでいる。

 セラ様の身柄を欲して。


 魔獣という生物兵器を作り上げて、クリスティアラに侵攻を始めました。」



「え?魔獣が、生物兵器!?」



「そうなんです。魔獣はその国が作った兵器で。

 動物を作り変えて、魔法を使う能力と、人を殺す本能を植え付けられた、クリスティアラを滅ぼすための。


 殺人兵器として生まれたのです。」



 ちょうどこのころ、アセリア姫とセティスも、セラフィーナから同じことを聞いているが。

 ミリエラも、そんな現実味がない言葉にただ驚き。


「それで、魔獣で攻撃を始めたのですが。

 クリスティアラは女王様のお役目のお陰で、とても強力な結界が張られていて、魔獣は進入できません。」


 あれ?封印ではなく?


「そこで、そのおかしな国は。


 結界を破るために用意した兵器を使う事にしました。」


 魔獣が侵入できないほどの、結界を破る兵器?



「その、兵器は。



 兵器の中に埋め込まれていた術式が起動され。

 兵器として起動して。




 その兵器。私は、無意識のまま、女王様の胸に。

 ナイフを突き立てていました。」



(そんなっ!?)




 信じられない。今、シェルンが言ったこと。


 シェルンが、用意された、兵器。



 ミリエラの驚愕するその顔を見て。

 それでもシェルンは、話を続ける。



「その兵器が女王様を刺したことで、結界は緩み。


 国に魔獣が侵入して。


 結界が破られた時に備えて戦闘準備していた。

 レオン様も。数少ない兵士の皆様も。


 大量の魔獣に物量で押しつぶされて。



 もともと少ない国民は、皆、殺されました。」



 淡々と、ただ事実を語る。

 ミリエラはもう、そのシェルンの顔を。


 今まで無理に張り付けていた笑顔が崩れ。

 悲痛な、無理に語っているその顔を。


 直視する事が出来ず。


 ただそれでも、



「魔獣は小さな王宮にも侵入して。

 そのように作られていたのか、セラ様だけは狙わずに、他の方だけを狙って、暴れて。


 セラ様はもとより魔法の天才でしたので、必死に魔法で戦って、魔獣から皆を護ろうとしていて。


 アル様は剣技を身につけていて、エル様は癒しの力が秀でていて。

 お二人とも、その力で、必死に戦っていて。


 そんな中、私の中の術式が、次の指示を出して。


 私は、私の身体は、お二人の妹を狙って。


 エル様を狙った私に気付いた、アル様が割って入り。


 私は兵器として、アル様を刺して。


 アル様は、泣きながら私を斬って。



 私はアル様と相打ちになって、倒れました。」




 こんな話なんて、無い。



 大切な、姉妹のようにしていたものたちを、そしてその母を、操られて、手にかけてしまう。



「エル様は必死に、アル様を助けようと癒しの魔法をかけてましたが、私という兵器は、一撃で命を奪っていて。


 アル様は私を斬りましたが、少し手加減していて。


 私という兵器は、動けなくなりはしましたが。

 即死というわけではなく。


 魔獣に狙われることがないセラ様は、エル様と二人きりになり、エル様を抱きしめて魔獣から守っていて。



 私はたぶん死にかけて、意識は朦朧としていましたが、その時何か、とんでもないことが起きて。」



 とんでもないこと。たぶん、邪神の復活。



「私の意識が呼び戻された時は、周囲の魔獣はみんな消えていて。生き残っていたのはセラ様とエル様だけで。


 セラ様が、私を抱きしめて。


 金色こんじきの光で、包んでくれていました。



 たぶんその時、兵器だった私はほぼ死んでいて。


 セラ様は、ご自分の命を、とんでもないことの中で無限になってしまった命を私にも繋いで。



 私を、死ぬはずだった私を、救って下さった。


 だから私も、セラ様の一部になって。

 今に至っていると。


 そう、思っています。」


 語り続けるシェルンの声は。

 嗚咽を含んでいるようにも聞こえて。



「あとでセラ様から聞いたのですが。



 兵器として動いている私はずっと、

 血の涙を流していて。



 『私を止めてください。殺してください。』と、



 言い続けていたそうです。」



 だから。本当のシェルンさんは、決して兵器として動きたかったわけじゃなく、無理やり動かされていたから。


 だからセラフィーナ様は、母を、妹を。

 肉親を手に掛けた者でさえ、お救いになった。



 それは、今まで操られていた。


 私の、お父様と同じで。



 だからシェルンさんは、私に話してくれた?




「私の中の、兵器としての部分は。


 セラ様が手に入れてしまった力を以て。



 全て消し去られて。



 私は。



 魔獣と同様に、人間を改造されて作られた。



 そんな生物兵器は。



 シェルンという名の、セラ様の侍女として。




 生き続けることを、許されました。」








ずっと引っ張っていた、シェルンさんの過去がやっとかけました。

こういうネタも、もう使い尽くされている感がありますが・・・。


彼女の二面性の本当の原因は、たぶんこれです。たぶん。

書いてる本人がわからないというか、勝手にこうなってしまったというか。なんでだろう?


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