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1-4:失意

今回はミリエラさん視点でお送りします。

稚拙ではありますが、ちょっと暗いお話です。

 私、ミリエラ・エル・シェフィールドは。

 ここフィルメリア王国のシェフィールド領を治める、伯爵位を持つ貴族の娘です。



 シェフィールド領は国の北端に位置する海沿いの領土であり、海の幸を中心に、国の食を支える重要な土地。

 私の家は、代々に渡りこの地を善政で納め、領民からの信頼も厚い、由緒ある伯爵家。


 少し前までの私にとっては、とても誇らしい、自慢できる話だと思っていました。

 お父様も当然のようにその方針を継ぎ、領民の生活を第一に考える、尊敬できる人物です。



 ですが三年程前に私のお母様が亡くなり、それから少し経つと、徐々に、ゆっくりと父の性格が変わり始めます。

 民想いだったはずの父が、少しずつ、領民を苦しめるような政策をし始めたのです。


 最初はごくごくわずかな増税。

 今までよくしてくれていた領主の運営を信頼し、領の為の増税と、皆納得していたのですが。



 その後、なぜか今まで街の保全に使われていたはずのお金が今までの様には使われなくなり。

 街の人々の足であった、領が運営する乗合馬車が、これまで通りには運航しなくなり。

 無償で提供されていた商店街の店舗は、突然領営となって利用料を課し。


 増税した結果よくなるはずだったのに、街の機能がどんどん悪化していきました。


 その結果、領から支払われていた運営費が得られなくなった業者は廃業となります。

 清掃や水道の整備も行き届かなくなり、衛生面が悪化することで当然病人も増え。


 そのような状況にあって、父は今年に入り、税を私兵団の設立、運用へと使い始めました。

 それはいったい、何と戦うための兵なのでしょう。


 お母様が亡くなってから三年。

 今年に入るまでは、妻を失ったその悲しみから、変わってしまったのかと思いました。


 私も同じ気持ちだったのです。

 父の悲しみが一番わかるのは私だという気持ちは間違っていないはずです。


 ですが、ここ最近、まるで領民に恨みでもあるかのような振舞いが目立ち。

 そして今年に入り、まさかの暴挙に出ました。

 去年までは徐々に上げていた税を、突如今までの三倍としたのです。


 去年までの問題で街が疲弊しているところで、急に重い税を課して、これでは民の生活が破綻してしまう。

 お父様、一体どうされてしまったの?



―― お昼過ぎ。


 ここ最近、父と、この街の変化に悩み、常に難しい顔をしている私は。


「お嬢様。すこし、その、お話がございます。」


 廊下を歩いているとレアニールに呼び止められました。

 小さな頃から身の回りの世話をしてくれている、私付きの侍女です。


 彼女は平民出身で、もうすぐ結婚予定のお相手と街に住んでいる、通いの使用人になります。


 そのことから、街に住む人々の事にも詳しく。


「市井の声も受け止められる、身分で人を差別しない人物になりなさい。」

 

 という理由で両親が私に付けました。



 その想い通り、街の事や人々がその時々で感じていることを私に教えてくれる毎日。

 両親がレアニールを私に付けたその意味が、今はとてもよくわかります。



 そんな、多忙な両親に代わり、常日頃から私を助け育て導いてくれたレアニール。

 今では私にとって大切な、姉のような存在です。



 レアニールも、おそらく私のことを妹のように感じ、接してくれていた、と思います。

 そんなレアニールが、今日は追い詰められたような、つらそうな表情で私を呼び止めたのです。

 私はすぐに、父についての話だと分かりました。



「ええ。いいわ。でもできれば、二人きりの場所でお話ししましょう。」


 小さな、周りには聞こえない程の声でレアニールに答えると、次に普段の声で。


「お話は後で聞くわ。それよりちょうどよかった。

 私のお部屋、少し模様替えしたいの。ちょっと一緒に来てくれない?」


 表面的には平静を保ち、とりあえず侍女を使うお嬢様の体で対応して。


 邸内は父の意向で、要所要所に私兵団の衛兵が配置されています。

 そんな方々に、以前ならいざ知らず、今の父に対する平民の意見を聞かれるわけにはいきません。


 私は即座にそう判断し、ちゃんとごまかせたかは分からないけれど、二人きりで自室に籠れる状況を作りました。




 部屋に戻ると早速、部屋の外で聞き耳を立てられても大丈夫なように。宣言通り家具の位置や取り替えるカーテンの色柄について等、模様替えっぽい会話をしつつ。



 筆談で本題、レアニールが私にしたかった話を、文面にして聞きました。

 その結果は、私が思った以上にひどいものでした。


 民は重税と弾圧に皆苦しんでおり、逃げることもできずにその日の食事すら困難なものも多く出始めている。


 生活が破綻した者の中で、特に男性がどんどんスラムに落ち、治安も悪化している。


 なんとかして上奏しようとしても、父の耳まで届く前に握りつぶされる。


 少しでも公然と異を唱えれば、即重罪とされて投獄されてしまい、最悪処刑されるらしい。


 領都から出ようとすれば、良くて投獄、ほとんどの場合はその場で見せしめに処刑される、らしい。


 人望のある人物を中心に、秘密裏にレジスタンスが結成されている。


 限界を感じている多くの者たちは、皆レジスタンスを支持しており、このままでは近く決起予定。




 私も今年に入ってからは、民の生活が本当に苦しいとは思っていましたが、まさかこれほどとは!

 領主の娘だからこそ、民の苦境にはもっと早くに気付くべきだったのに!



 特に弾圧や処刑なんて、ありえません。今まで民を大事にしていた父の、その所業とはとても思えない内容です。



 そしてレジスタンス。このままでは本当にシェフィールドは終わってしまう。



「それでその、民の代表として立ち上がり、レジスタンスを起こしたのは、マーセルなのです。」


「マーセルが?彼が反乱を起こそうとしているの?」


 マーセル。私が子供の頃、よく街で一緒に遊んでいた男の子です。


 面倒見もよく、父にも息子のように可愛がられてた、私にとっては年の離れた兄のような人でした。



「はい。彼は昔の旦那様をご存知だからこそ、今のこの状況が余計に許せないと言っていました。」



 それはそうだ、と思います。父はよくマーセルに、

「領主たるもの、民の為にあるものだ、領土の平和のために尽くすものだ。」


 というような事と言っていました。


 彼も父を慕い、一緒に遊んでいた私にもよく、父を褒める言葉をかけてくれたものです。



 そんな彼にとって今の状況は、まさに慕っていた父に、領主に、裏切られた状況。



 慕っていたからこそ、より許せない気持ちになる。

 マーセルが、レジスタンスを結成して反乱を起こす。


 今の状況を考えればそれも当たり前に思えますが、そんな現状、私は望んでいません!


「ありがとう、レアニール。


 私も今まで、父に苦言を伝えはしましたが、あまり強くは意見しませんでした。」


「いえ。お嬢様が旦那様を尊敬されていたこと。

 私も存じております。


 旦那様は変わってしまわれた。

 奥様さえご存命なら、こんなことには…」



 そう、お母様が傍に居れば、絶対にこんな間違いは起こさなかったはず。

 娘として、父の苦悩に気付けなかった私は、自責の念に駆られます。でも。


「このシェフィールドの地は、放っておけば戦地になってしまう。しかも圧政に苦しむ民衆の反乱という形で。」



 シェフィールドは海沿いの、この国中では数少ない、他国と一切接していない領。

 友好的な国交を続けているとはいえ、国内でも王都の次に安全な街だったはず。



 それが自国民の、領民の反乱で、平和に過ごせていた町が戦場になるかもしれない。

 そこまで考え、うっすらと違和感を感じました。



 海沿いで他国と面していないからこそ、平和な街。


 戦争になったとき、もっとも前線から遠い街。


 国王に親しく、その思想に賛同して、民を第一とする政策を進めていた父の変化。




 長きに渡り戦争がなかった、平和なフィルメリアだからこそ感覚が麻痺していた?


 そうです。もし父の変化に、今のこの状況に。

 何者かの意図が働いていたら?


 頭の中で最悪のシナリオが浮かびかけて。ついその考えに没頭していると。



「お嬢様?どうされました?」



 レアニールに呼びかけられ、ハッと気付きます。



「ごめんなさい。少し考え事を。

 ねえレアニール。おかしいと思いませんか?」


「はい。私も旦那様がこんな政策をされるなんて。

 たとえ奥様が亡くなられても...」



「いえ、そうではないの。そうでもあるけれど。


 シェフィールドは、この国の中でも、他国に面していない場所で、王都に次いで安全な街です。」


「そうですね。今の状況を見ていると、とても安全とは思えませんが。」



「そこです。なぜ民想いだった父が代わってしまったか。

 安全な、他国に面していないこの地の領主の父が。」


「それは、奥様が亡くなられて...」


「そうなんです。私も先ほどまでは母の死で、父が変わったと思っていました。


 ですが、それだとおかしいのです。」


「おかしい、ですか。」



「もし、父の変化に。この街の状況に。

 何者かの、この国をよく思っていないものの意思が関わっていたとしたら、どうなります?」


「何者か。まさか?」



 私の言葉にハッとした表情となるレアニール。

 彼女も私の教育係。頭の回転は速いです。



「しーっ!大きな声は。

 でも、そう考えると納得がいくことが多いと感じます。


 もちろん、詳細は分かりませんが。」


「お嬢様。もしかしてこれは、国際的な問題。

 いえ、策謀の可能性があるのですね!?」



 コク、と頷く。確証も何もないですが。


 正直、私達は平和な国に長く暮らすことで、ボケてしまっていたのかもしれません。


 でも私の中の、優しく誠実なお父様の記憶が、そうだと言っている気もして。

 今まで私の中でずっともやもやしていた、父に対する違和感が解けた気がします。


 同時に私は何としても父を諫め、気付いてもらい、民に謝罪してやり直してもらおう!と決意を固めました。



 今の私にできるかは分からないけど、本来の優しいお父様なら、きっと分かってくれる。

 そう思い、心を決めたわたしは、そのまま父の居る執務室へと向かいました。



―― コンコン。


「だれだ?」


「お父様、私です。」

「ミリエラか。どうした?入れ。」



 久しぶりに執務室に入り、デスクに向かい仕事をしている父の前に立つと、私は単刀直入に言いました。


「お父様。領の運営。

 いえ、今の街の事について、お話があります。」


「その話か。」



 書類に目を向けていた父が、私の方に視線を向け。

 以前の優しかったお父様とは違う、にらみつけるような厳しい眼。どうして?



「前に来た時も言っただろう。領土運営は難しいものだ。

 今年は必要だから税を増やしているに過ぎん。」


「で、ですが。街の皆様はあまりの重税に。

 日々の生活すらおぼつかない状況なのですよ?」



「今が苦しいのは仕方ない。

 未来のための重税なのだからな。」


「未来の為って。その結果、まさに今、皆様が苦しんでいるのです。それでは意味がありません。」



「苦しんでると言っても、別にまだ問題はないだろう。」



 え?問題無い?

 生活が苦しくて。


 スラムもできてしまって。



 処刑までされているって。




 あまりの認識の違い。変わりすぎた父が悲しくて、泣きそうになってしまう私。



「も、問題無いわけないじゃないですか!

 お父様?街の状況を理解されているのですかっ!?」



「いきなり大きな声を出すな!

 お前はシェフィールド家の娘だろう!」



 思わず涙声で怒鳴ってしまった私に、お父様はそれ以上の声で怒鳴り返してきました。


 私の父とは思えない、鬼のような形相。

 そんな顔で、私を睨みつけて。


 その視線に私は一瞬竦んでしまいます。



 昔の優しかったころの面影はなく、何かに憑かれたかのような恐ろしい顔。


 本当に父と思えない程に!

 何かに操られているかのように...操られてる?




 ですが今は、ここで止まるわけにはいきません。

 何としても父と対話して、聞き入れてもらわないと。



「大きな声を出してしまいごめんなさい。

 ですが、本当に街の方々の事を」

「領の運営については、お前の意見は要らんっ!」



 被せるように、私の言葉をさえぎってくる。


 ちがう。こんなの、私のお父様じゃない。



「どうせ平民の為とか、綺麗ごとばかり並べるのだろう!

 何もわからん小娘の出る幕ではないっ!」



 昔のお父様なら、絶対にこんなことは言わない。



 私の言葉もとても大切に聞いてくださったのに。



 最近は領土運営の話になると、なるべく私を遠ざける感じはありましたが、ここまで酷くはありませんでした。



 母を失ったことから変わったのだとしても、それならその悲しみは、私も同じはず。

 昔の優しかったお父様は、どこへ行ってしまったの?


 大粒の涙がポロポロと零れてきて、嗚咽を抑えながらなんとか言葉を紡ぎます。



「小娘でも、ここまでひどければ分かります。」



 泣きだした私を見て。

 先ほどまでの父の表情に少し変化が。


 驚いたような、困ったような、悲しいような。



 もしかして、分かってくれた?



 なら、もう少しお話すれば。涙は止まらないまま、



「お父様、今の重税は国王様も存じていないのでしょう。そんなことを続ければ、あっ!?」


 嗚咽混じりになんとか言葉を絞り出していた私は。

 いつの間にか後ろから近付いていた、この部屋を警護する衛兵の方に、左右から腕を掴まれました。



「い、いたいっ!放しなさい!!

 今私はお父様と大事な話をっ!」


「領主様のお仕事の邪魔になります。

 お嬢様はお引き取りを。」



 抑揚のない声で私を捕まえ、強くつかんだ腕を決して離さずに、私を扉へ連れていく衛兵の方。



「ぐっ!あなたたち、何をするのです!やめなさいっ!」


 泣きながら抗議するも、非力な私が二人がかりの衛兵にかなうはずもなく。



「お嬢様は、お部屋に入らないでください。」


 ずるずると引きずられ、平坦な声でそう言って。


 部屋の外に出されると、乱暴に突き飛ばされます。



 領主の娘に対する扱いとは思えないその対応。もしかしてこの人たちがお父様を?



「あぁ!くっ。うぅ、お父様、お願い。

 話を、聞いてください。」


 掴まれた腕と、突き飛ばされて打ち付けた背中の痛み。


 今までにこのような仕打ちを受けた事もない私は、もう涙が止まりません。




「民の幸せが一番と。民あっての領だと。


 あれほど仰っていたではありませんか。」



 扉越しに力なくに訴えかける私。



 そのまま声をかけ続けますが、やがて悲しさが限界に達してしまい。



「お父様。優しかったお父様に...戻ってください。


 ぐすっ...」



 部屋を追い出され、衛兵に入室を禁じられた私は。


 止めどなく零れる涙を止めることもできず、しばらく部屋の前で泣き続けて。



 痛む体を抱きしめ。



 衛兵により決して開けられない扉を、あとにしました。

急転直下。

撮影風景や朝のやり取りで元気だったミリエラさんはどこにいった?


ようやく本編に入ってきたような雰囲気を醸し出してるような出してないような感じです。


ちなみにマーセル君はミリエラよりだいぶ年上で、既婚です。

幼馴染ポジションですがミリエラの想い人ではありません。

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