3-16:逆鱗?
今回は微妙なお話なのかもしれません。
最初は、ぎこちなく。
少しずつ、お話をして。
だんだん、本来の関係を取り戻して、話の中身も、どんどん変わっていって。
気が付けば、これからどうすればよいか、何をすればよくなるのかを真剣に、時には強く意見をぶつけて議論する、民想いの親子の姿がそこにはあって。
これならもう、この領の指導者は大丈夫。
あとは領民が抱いている誤解を解けば。
煽動された偽物の正義が、他国の思考誘導による、他国からの侵略行為を正当化するための攻撃だという事を分かってもらえれば、この問題はおおむね解決する。
元に戻ったグライスは、即自分の、操られていた自分がやってしまった問題行動を洗い出す。
悔いている暇などない。
操られたことを悔いるくらいなら、本来の自分がやるべきことをして、一刻も早く領を元に戻すべきだ。
娘に赦され、自国の姫君と悪夢から救ってくれた姫君、二人にも強く諭されて。
強靭な魂を持った男は、本来の自分を取り戻してからは本当にすごかった。
領政に携わっている者たちもすぐに集め、それぞれと対話して、私利私欲で職を得たものは諫め、説得して。
こっそりお姫様の魂鑑定サービスも利用して、どうしようにもない者はもう一人のお姫様経由で、国になんとかしてもらうように計らって。
そのお姫様は、国が気づけなかった責任として、その場で領主に謝罪し、国からも領政の援助と人員の派遣、回復するまでの運営費など、財政面の協力もしっかりと約束した。
表向きの問題は操られていたグライスの悪政だが、その状況をつくり出してしまったのは、フィルメリアという平和な国の、危機管理能力欠如が原因なのだから。
領を立て直す為の臨時会議となった午後は、あっという間に過ぎ去って、途中からは王都から高速馬車で派遣された臨時の応援要員も到着し。
歴代最悪の状況となっていたシェフィールド行政は、たった一日で立て直し、ここからは怒涛の勢いで街そのものを変革していくこととなる。
かつての、領民が住みやすく、善政が支持される領に戻るだけでなく、より多くの者が身分に関係なく、自分の力を発揮できるように、より自由に。
シェフィールド行政が元の輝きを取り戻す前に。
お昼前に呪法の解除をお勧めしたセラフィーナは、領主親子が落ち着き次第、昼食を取るべきと強く主張して、もちろん自分もご相伴に預かっている。
いや、今回の問題を解決した第一人者は間違いなくセラフィーナなので、領主家はもとより、その場の全員から是非にと請われての昼食だったのだが。
正直、相手が悪かった。しかも二人も。
見る限りは、線が細いと言ってもいいお姫様と、小柄なメイド少女。
シェフィールド領主邸の料理長および料理人たちは、自分達の領主、いやこの領そのものの恩人と従者と言っても過言ではない、姫君と侍女が嬉しそうに、美味しそうにお食事を進める姿を見て、調子に乗ってどんどん作ってしまい。
食欲魔人とその侍女を敵?に回した結果。
領主邸半月分の食糧を備蓄していた、それなりに大きな食糧庫は、明日の食事どころか、今晩のお食事も作れない程の有様となっていた。
青い顔をした領主が、自国の姫君に臨時予算を請願していたことは、あっちの姫君は見なかったことにした。
この二人が食べたものは、一体どこへ行くのだろう?
そんなこんなで、アレな感じのお昼もあったが。
行政機能が復活し、午後の増援も来た後は、部外者であるセラフィーナとシェルンは領主邸から引き揚げて、自らのお城に帰っていた。
本来は領民への説明も行いたかったが、行政機能が回り出した今、領主親子は怒涛の忙しさに追われており。
それならば説明は翌日にして、まずは足元。領政そのものをしっかりと固めて。という話になって。
口出しできないことはないが、この国、この領の事は出来る限り当事者がすべき。
というのがセラフィーナの考えである。
そもそも自分は既に人ではなく、人々を導くのもまた同じ人であるのが正しい。自分は悪夢を潰すだけ。
ここ五百年以上、彼女はそう考え、責務を全うするためにも、一つ所に長く留まらないよう、できる限り悪夢の芽を探して潰せるように、各国を転々としてきた。
今はようやくひとつの芽が潰せそうで。
もちろん油断はできないが、魔法陣を潰した今、思考誘導そのものは消え失せている。
ホルン岬に居れば、セラフィーナとシェルンの機動力であれば、何かあってもすぐ対応もできる。
なのでセラフィーナは、久々にシェルンと二人、お城でのんびりするはずだったのだが。
「たった二日で、本当に色々な事がありましたわ。
疲れたというわけではないですが、午後はのんびり、昨日の事でもお話しましょう。」
お気に入りのティールームで。
シェルンに淹れてもらった、今は紅茶を頂きながら。
シェフィールドの海岸を眺めつつ、シェルンに微笑みかけて。シェルンもお役目が完了して、ほっと一息で。
二人でゆっくり、濃密だった昨日の事をお話する。
昨日の事。シェルンが領主邸でシェリーヌに遭遇し、戦闘になった事。
セラフィーナがミリエラと、無人島でお話したこと。
「まさかミリエラさんに想い人のお話をした夜に、その方がお迎えに来るなんて思いませんでしたわ。」
すごく嬉しそうなセラ様を見て。幸せそうだな~って思いながらも同じように感じていたり。
「魔女の所業は、こんな感じで、おとぎ話のようにしてみましたの。」
なぜか自慢げなセラ様を見て。でも過去のお話、災厄の魔女の所業については、シェルンは少し神妙な顔で。
「貴女が居たから、あの過ちは止められたんですよ。」
過去の話になると、必ずセラ様は、私の事を気遣ってくれる。いつも、いつでも、救われてる。
そして決して、私の事を独断で伝えることはない。私の事を信じて、私が信じた相手にだけ話せばいいと。
「そういえば、あの方。シェリーヌさんはまだ引き取りに来られてませんね。お部屋に忘れたままで改築したら大変なことになりますわね。」
シェルンが帰ってきた時の事を話していると、シェリーヌがまた放置プレイなのを思い出して。
「貴女が夜のお仕事に出かけた後、ある程度待ってからお城を建てたのですが。ミリエラさんもレアニールさんも、なぜかとても微妙なお顔をされましたの。」
それはそうだ、と思う。
セラ様の趣味は長年の付き合いでしっかりと理解しているが、やっぱりちょっと、私から見てもずれてるんじゃないかなー?と思う事が多い。
お姫様だから、これが普通なのかな?
「あの男、レイノルド様を後ろから斬らせるなんて。
今考えてもあの失態だけは申し訳なかったですわ。」
ウィンストの所業に、ものすごく嫌そうな、そして申し訳なさそうな顔で語る。
それはとても分かる。
私ならその場で斬ってしまいそうで。
セラフィーナが語り、シェルンは頷いたり、考えたり、少し相槌を打ったりして。
二人で、昨日の事を思い出して。
「そこであなたがお帰りになったわけですが。
さて、ここで問題ですわ。
ねえシェルン。どうしてアセリア様とセティス様が、貴女とご一緒だったのでしょう?」
「あ。」
しまった!これはマズいですー!
もしかして私とゆっくりお話してたのは、このお話に導くための導線!?セラ様トラップ!?
「ねえ、シェルン。昨日聞いたときも何か、とってもあやしい雰囲気でしたわよ。
貴女にしてはとても歯切れが悪いかったですし。」
「え、えっと、それはですね。」
昨日はバッタリ会ったなんて言っちゃったけど!
「深夜、あなたの任務中にバッタリ出会う。
そう仰られましたわね。それはいったい、
どんな状況だったのでしょう?」
ジト目でじっと睨まれてる。これは無理ですー!
「そ、その。例の、アジトを潰した時にですね。
その、外に見張りが居まして。
それをお眠りさせてアジトに運び込もうとしていたところを、セティス様に見つけられまして。」
あ、やばい。セラ様、目がすわってます!
「見つけられまして?」
「えっとその、離脱しようとしたのですが。」
「ですが?」
だだだめです!今のセラ様には隠し事はできません!
<注>
元々隠し事など苦手な主従である上、二人の魂は繋がっているので、喜怒哀楽や動揺など、お互い感情が大きく揺れた場合は筒抜けである。
「り、離脱できずに、不審者として見られてしまい。
せ、戦闘に、なりました。」
自白せざるを得なかった。
もう、これ以上の追求は逃れられなくて。
そんなことをすれば、あとでどんな目に遭うか。
なんて、それっぽく言ってる場合じゃないですー!
「戦闘。ふーん。」
あわわわ。
「それで?セティス様との闘いは?どうなんです?」
もう、脅迫されてるような心境です。
「は、はい。無開放では全く歯が立たず。
やむを得ず一時開放を。」
「あらあら。シェルンが開放しないと歯が立たない、そんなにお強いのですね!」
うわー嬉しそうー。
「それでそれで?一時開放した後は?」
なんか、少し話しやすくなったような?
「その、圧倒的に優位にはなりましたが。
セティス様は引いて下さらず。」
もし引いていただけていれば、どうなったんだろう?
「ええ、ええ。セティス様はなにか必殺技?それとも隠していた実力があったのですか?」
洗いざらいはけ!と言われてる気がします!
「は、はい。その、セティス様の剣に、どうも創者と連携できるような魔石があしらわれてまして。」
「あら。そんな魔石を創れる方がいらっしゃ...る。」
ですよねー気付かれますよねー。
「ねえ、シェルン。まさかとは思いますが。」
こわいですセラ様怖いですっ!
「アセリア様とも、戦ったのですか?」
ひーーー!
「は、はい。」
「そう、ですか。」
セラ様?
「そうなんですか。アセリア様とも。」
なんか、あの男ではないですが。
逆鱗に触れた気分ですっ!
「はぁ。楽しみにしてましたのに。
わたくしが、戦いたかったですわ。」
想定通り!ってそんな事考えてる場合じゃなく!
「ふーんだ。もういいですわ。
わたくしはもう要らない子なんですわ。」
ほらー拗ねたー。
―― こうしてシェルンが絶体絶命の時。
バルコニーから直接、騎士団長が入ってきた。
「セラフィーナ様。こちらにおみえでしたか。
レイノルドに聞いたので、この城に捕らえているというものを引き取りに来ました。」
まさかの使いっぱしり状態?
というか、なぜか騎士団長が直々に、シェリーヌを引き取りにやってきた。
「あらあら。セティス様が直々にですの?
連行というだけですのに。
シェルン、なんども申し訳ないですが、あの方をこちらにお連れしてください。」
「はいー。いってきます。」
なんか、ほっとしたような顔をして席を外すシェルン。
その間、セラフィーナとセティス二人きりで。
「私が行くのが一番速いですから。
まさかアセリア姫様にこんな役はお任せできませんし、他にここに直接来れるものもいませんし。」
確かに、まだ改築前なので、この城の上階にあるティールームは飛べる人限定のスペシャルルーム状態である。
「ところでセティス様。シェルンに聞いたのですが。
昨日、貴女とアセリア様がシェルンと交戦されたと。」
シェルンがいないのをいいことに?
直接聞いてしまうセラフィーナ。
「あ、はい。申し訳ありません。
シェルン殿を見かけたときは、まだあの魔法陣が敷設されていた状況でして。
不審に見えてしまう行動だったもので、つい私から仕掛けてしまいまして。」
状況をありのままに伝える。
セティスにとっても既にセラフィーナは、アセリア姫の大切な方というポジションになっていて。
「いえ、それはお気になさらず。
むしろアセリア様と貴女に、シェルンが剣を向けた形になってしまいますわね。申し訳ないですわ。」
一応、その点については気にしておくが。
もともと戦いたかったのだから、どちらにしても剣を向ける予定ではあった。
「いえ、そんなことは。
むしろ私が仕掛けたにもかかわらず、結果的には私もアセリア様も、シェルン殿にご指南頂いた形で。」
「え?指南、ですか?」
(どういうことですの?ってそういえば。
セティス様、普通に飛んでらっしゃいますわね。)
セラフィーナにとっては当たり前のことだから、きっかけが無ければ気付かなかったかもしれない。だが。
「はい。シェルン殿は戦闘中にあって、アセリア様には高度な行動阻害魔法の術式を、洗練し拡張するという形でご指導いただきまして。
私には、無限移動の術式、というのですか?
あの、魔力消費無しで高速移動どころか、飛行もできてしまう素晴らしい術式をその場でご教示頂き。」
ぴくり。
セラフィーナが少し眉を上げるが、セティスはそんな事には一切気付かず。
「さらに、二次解放、というのですか?
私たちに、信じられない高みを見せて頂き。
昨夜だけで、アセリア様も私も、数段鍛えて頂けたと思います。本当に、感謝しかありません。」
改めて、セラフィーナに頭を下げる。
セティスにとっては、あの場はセラフィーナに試されている場であり、シェルンに導いてもらった場だ。
そしてその想いの行き違いは。
「そ、そうなのですね。
シェルンがお二人のお役に立てましたこと。
わ、わたくしも嬉しいですわ。」
ものすごく頑張って取り繕う!
いや、取り繕おうとしているが。
「な、何か悪いことを言いましたでしょうか?
その、セラフィーナ様がお怒りになられるような。」
表情は、温和なまま。微笑を浮かべているが。
なんかちょっと、ひきつった感じで。
本気で怒ってるわけではなさそうだが、なぜかものすごく怒られてる気分になってしまい。
「そ、その、申し訳ありません!」
なぜかセティスが謝る。
そこに不幸な少女が、最悪のタイミングで帰還し。
「セラ様、シェリーヌさん連れてきました。
セティス様、こちらが例の術者になります。」
セティスにシェリーヌを引き渡して。
「ありがとうございます。ではこの者も、昨日アジトで捉えた者たちと同じ牢に連行しますので。
私はこれで失礼します。」
そう言って、ちょっと重そうにシェリーヌを抱え。
「セティス様。その方にもその、無限移動の術式を一緒に施せば、重さは無しで移動できますわ。」
ひとまずアドバイスをしておき。
「なるほど!これは凄い。とても軽くなりました!
さすがはセラフィーナ様です。ありがとうございます!
では、また後程!」
そんなことを言って、さっそうと飛び去って。
「セティス様、お忙しそうですねー。ってセラ様?」
ギギギギギギッ
と、きしんだ音がするような感じで、シェルンに首だけで向き直るセラフィーナ。
ものすごい危険信号を感じ。
「セ、セラ様。い、如何なさいましたか...」
その目の奥に潜む、何か恐ろしいモノものを見て。
「シェルン。少しゆっくり、お話しましょう。」
あーーーーー!
こうして逆鱗?に触れた少女は、仕える主からのそれはそれは重い懲罰を受けるのであった。
懲罰?違いますわ!
これはわたくしの、シェルンへの愛ですわっ!
さてはて、とても大切に想われているシェルンさんへの懲罰。
一体どんなものなのか。
懲罰の内容は、皆様のご想像にお任せします。はい。
セラ「だから、懲罰ではありませんわ!」




