3-14:翌朝はささやかな幸せを
夜中のバトルが大変だったし、お昼からも大変なので、朝はのんびり過ごしましょう。
シェ「さて、ミリエラ様に昨夜のことを...」
セラ「おやめなさいシェルン。若いお二人のことを聞くなんて、野暮というものですわ。」
「ん、まぶしいですわね。」
色々ありすぎた日の翌日。いや、色々あったのは今日の未明なので、夜が明けてからしばらくして。
本当に色々あって、明け方に近くなるまで起きていたために、セラフィーナはすこしだけ遅めに起きて。
彼女は人をやめて、謎の存在になってしまったが。
お風呂とか、睡眠とか、美味しい食事とか。普通に人が楽しい、嬉しい、休まると思う事は普通に好きであり。
存在としての人をやめてからも、人としての心を保ち続けているという証左でもある。と思う。
でも体は人ではないので、睡眠時間が極端に短くても大丈夫なようで、昨日の疲れも全く感じさせない。
そんなお姫様は寝起き姿もそのままに、のんびりティールームに向かうと。
夜が明けてからそこそこの時間、まだまだ昼というには早いというタイミングで。
その部屋から見えるシェフィールドの海岸線は、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていて。
昨夜、城を建てたときは見れなかった美しい景色を見て、改めてこの部屋を創った事に満足する。
「セラ様、おはようございます。
ずいぶんと素敵なティールームですねー。」
いつも自分よりはるかに朝が早い有能な侍女は、今日もカッチリとメイド服を着こなし、その髪もいつも通りのツインテールに綺麗に纏まっていて。
その手には、主人が毎朝楽しみにしているハーブティーをしっかりと用意して。
「おはよう、シェルン。今朝もはやいですわね。
いつもありがとう。」
寝るときはいつも使っている、魔力物質化で作った薄手のネグリジェ姿なセラフィーナは、ひとまず侍女に作ってもらったハーブティーを受け取り、テーブルに着き。
「ん。今日はローズマリーですわね。」
目を閉じて、その香りを楽しみ。
寝起き候の姿なのに、こういう仕草が様になるのは、ちょっとずるいのかもしれない。
「今朝もお目覚めによいものを、と思いまして。
はちみつも入ってて、甘くて飲みやすいですよ。」
シェルンの言葉に、一口頂いて。
「本当。目が覚めるのに、ゆったりした気分にもなれますわね。今日も素敵な朝をいただけましたわ。」
そう言って、残りも香りを楽しみつつ、ゆっくりと味わって。朝のハーブティーも寝る前のお風呂と同じように、セラフィーナにとってはささやかな幸せである。
「ここからの海岸線、思っていた以上ですわね。
これでしたら、もう少しちゃんと作って、ここを別荘にするのも良いのでは、なんて思えてきましたわ。」
昨日、離島から見ていた時とは違う、エメラルドグリーンに見える海に、白い砂浜。
城を建てた場所は元々草原だったが、その周り、岬の外周沿いは少し木々があり、花々があり。
「私もここ、気に入りました。景色すごいですよね。
もうフィルメリアのおうちとして、アセリア様にこの地の利用を許可してもらいましょう。」
人外二人が、勝手にホルン岬先端の使用許可か何かを求める話を進めているが。
「ところでシェルン。皆様方はまだ?」
「そうですねー。セラ様以外はまだ見てませんよ?」
色々な事がありすぎて、皆様お寝坊のようである。
シェルンも何となく椅子に座り、セラフィーナがゆっくりお茶を楽しむ姿を眺めて。
「セラ様。その、エル様の。
エリス様とアル様の事。」
少し言いにくそうに、それでもセラフィーナの顔をしっかりと見つめて、切り出したシェルンに。
「昨日も言いましたわ。貴女は何も悪くない。
今は、いいえ、あの時からずっと。常にわたくしの傍にいて、支えてくれる。とても大切な存在ですわ。」
昨日の事が無ければ、二人とも忘れていたと思う。
心の奥底にそっとしまって。つらくて、それでも大切な記憶として。今の自分たちを支えるもののひとつとして。
「はい。」
まだ、なにかつらそうな顔で。
人は過ちを犯した時、どれだけの事をすればそれを償えるのか。永久に償うことなどできないのか。
「気持ちの持ちよう。ですわね。
シェルン、すこしこちらにいらして。」
カップを置き、椅子から立ち、侍女を傍に呼び。
昨日のように、優しく抱きしめて。
透き通った金色のキラキラで包み込んで。
「昨日はずいぶんと魔力を消費しましたね。
何があったか、わたくしにも聞かせてくださいね。」
「あ、えっと。はい。」
なぜか逡巡してから返事する。
先ほどまでのつらそうな表情とは違う、なんかバツが悪そうな、あーどうしよう、みたいな。
少しだけ、気持ちが軽くなった雰囲気を見て。
「今こうして、一緒に居られること。
あの時からずっと、私と共にいてくれたこと。
何物にも代えがたい、わたくしの大切なパートナー。
唯一貴女を責めてもいい立場にある、このわたくしがあなたを赦して、共にあることを望んでいるのです。
だからもう、あなたの罪など無いのですよ。」
改めて、大切な侍女に自分の想いを告げる。
こんなことも、この1800年以上の長い日々で、一度でもあっただろうか。
最初は二人とも、その時を過ごすのに精いっぱいで。
たくさんの過ちを犯して。間違いを悔やんで。
歴史に名を残してしまうほどの過ちのあとは、二人でどうやって生きていくべきかを考えて。
人をやめてしまったことを悔やむのは簡単で。
でもその責任を取って何をすればいいのか、それを見つけて成していくのは、ものすごく難しくて。
「はい。魔力はたっぷり補充しましたわ。
まさかこの夜に、二次解放を本当に使うなんて思いませんでしたから。念のためですが、あなたの限界まで。」
魔女の眷属。でもなく。
永遠に使える家臣。でもなく。
共にある者。すでに自分の一部として。
大切な侍女に、自分が持ってしまった永遠の力を、これからも共に過ごすために、分け与えて。
「おはようございます。あ...」
少しお寝坊な少女が一人起きてきて。
透き通った金色のキラキラが舞い散る中、優しくギュっとしている二人を目撃して。
なんかあわてて、はわはわしているが。
そっと侍女を離すと、いつもの微笑で。
「おはようございます。ミリエラさん。
よく眠れましたか?」
慌てている少女の様子なんてまるでお構いなく。
「は、はい。よよよく眠れた、とおもいます!」
その姿を見て。
慌ててる姿も可愛らしいですわね。なんて、いつも通り呑気に考えているところで、ようやく皆が動き出し。
「おはようございますっ!
すみません。寝過ごしました!急いで朝食を!」
昨夜は結局、みんなが来るまで一睡もできずに悶々としていて、今朝早くに起きることができなかったレアニール。
よく考えたら、平民はレアニールひとりだけ。
あとは姫君二人に侯爵本人、自身が仕える伯爵家令嬢。
その許嫁の子爵家ご令息。
シェルンはよくわからないが、あの災厄の魔女という、高貴な姫君の侍女。自分とは比べられない。恩人だし。
シェリーヌは計算外というか忘れ去ってるというか。
つまりこの状況は、ごく一般的な平民であるレアニールにとって、とてつもない大失態。
自分が任されていた朝食担当という役目を全力ですっぽかしたので、その心の内はもう断頭台の前にいるようで。
この場に居る高貴な方々は、みな身分などまるで気にしない、優しい方々だということも考慮できず。
顔面を蒼白にしてキッチンに向かおうとしている。
「レアニールさん。おはようございます!
朝食は大丈夫ですよ。私が作りましたから。」
焦りまくるミリエラ付きの侍女に対し。
セラ様付きの侍女、というかなんかもうスーパーメイドな少女にとって睡眠時間など関係なく、レアニールの心配をよそに、既に7人分の朝食を作り終えていた。
たぶん、7人分である。28人分は食材が無いはず。もし食材があったら作ってしまいそうだが。
最後にアセリア姫とセティス、そして騎士団長になにやらいじられながらレイノルドが入ってきて。
「おはようございます。
まあ!素敵な景色!セティス様、あちらを。」
「おはようございます。少し遅くなりました。
ん、素敵ですね。こちらに住みたいくらいですね。」
「お、おはようございます。
その、お世話になります。」
素敵な景色に感動している姫と、いじるのをやめてそちらに付き従う近衛騎士と。
やはり一人だけ男性ということもあり、非常に肩身が狭い思いをしているようなレイノルドだが。
先に起きてきていたミリエラを見つけて。
「お、おはよう。」
「おはようございます。」
二人の目が合い、少しだけ、頬を赤らめ微笑んで。
「皆様起きられましたね。
それでは、朝食といたしましょう。」
空気を読んでか読まずか、家主の一言でみな、テーブルに向かって、ひとつの大きなテーブルを囲んで。
「では、お料理運びますね。」
シェルンが言って、キッチンから。
どっさり。
「こ、このお料理、どこから調達されたのですか?」
アセリア姫が皆を代表するかのように口を開き。
山のように用意された、豪華なシーフードフルコースが運ばれてくると、一人を除き、皆目が点になるのだった。
「いやー、ここの海岸線、すっごくお魚の種類が豊富で。
岩場にはロブスターもウニもいっぱいで。
もう、天国のような漁場でした!」
どうやら戦闘メイドは明け方に、水中でもその性能を遺憾なく発揮してきたようである。ずるい!漁師に謝れ!
とりあえず、寝起きだけど皆様昨夜はものすごく動いてたり夜更かししたりしてたので、すごく空腹で。
朝食としては重めだが、美味しそうなその見た目と食欲をそそる匂い、そして一口食べれば分かるその鮮度。
どうやってか、謎に美味しい調味料を使って作られたフルコースは、この国の王族の舌をもうならせ。
気が付けば皆、少なくとも二人前は食べてしまって。
「幸せですわ~。このまま一日、のんびり過ごすというのも悪くない気がしてきましたわ。」
朝からなんか出来上がってるような永遠の姫君に。
「た、食べ過ぎたかも。おなかが...」
ちょっと苦しそうな、線の細い姫君。
「セラフィーナ様。きょ、今日はその。」
のんびりしてるセラフィーナの姿に、心配になったミリエラは、流石に今日の予定について話しかけ。
「もちろん冗談ですわ。今日は貴女のお父様と、そしてこのシェフィールドにとって大切な日。
今はこんな感じですし、皆様が落ち着いたら、ミリエラさんのおうちに伺いましょう。」
食べ過ぎたり食後でちょっと動きにくそうな面々を見回して、優しい笑顔で返答する。
セラフィーナとシェルンだけは、いっぱい食べても全然平気なのでいつも通り平静で。
実はミリエラもちょっと食べ過ぎなので苦しくて、セラフィーナの配慮は素直に受け取って。
すこし、外の景色を堪能する為にバルコニーへ。
「レイノルド様。ほら。ここからだとカーランドも少し見えますね。緑がいっぱいで、とても綺麗です。」
「ああ。高い所から見るなんて、まず無いからな。
こうしてみると、意外と近く見えるものだな。」
傍に来たレイノルドと一緒に。
仲睦まじい二人は、とりあえず放っておいても大丈夫な雰囲気で。
「その、シェルンさん。お時間があれば少し。
私にもお料理を教えてもらえないでしょうか?」
「はい、いいですよ~。あ、でもちょっと味付けとか、私が作ってる調味料は特殊なんで。あとでお分けしますね。」
驚愕のおいしさに、これは使用人として、そしてもうすぐ結婚予定の彼の為にも。
何としても覚えたいと思ったレアニールは、シェルンにお料理の指南をお願いし。
なんか昨日強引にレアニールと一緒の部屋で寝たシェルンは、気が付けば侍女同士、とても仲良くなっていて。
いや、シェルンはレアニールが寝た後こっそり脱出して漁に出てるから、一緒に寝てはいないのかもしれない。
セラフィーナは。
大テーブルを離れ、ミリエラとレイノルドとは違う、別のバルコニーへ出て、外の景色を眺める。
「セラフィーナ様。このお城、とても素敵ですね。」
そこへ後ろからアセリア姫に声を掛けられて。
「ええ。わたくしの好みがいっぱい詰まってますの。
気に入って頂けたなら、嬉しいですわ。」
メルヘンな外観や、一階の残念な構造はさておき。
ここから見える景色は、本当に美しくて。この国に住む者でも、そう簡単には見られないような景色で。
「わたくしの一存では決められないのですが。
もしお父様と領主様。領民の許可が得られましたら、ここを残しておきたい。今はそう考えています。
セラフィーナ様のお力で創られた。そう聞き及んでおりますが、このお城を残すことは、できるのしょうか?」
今ここに居る中で、この城がトンデモ魔法で創られた、という事は分かっていても。
魔力物質化のことまで理解しているのは、セラフィーナとシェルンを除けば、アセリア姫だけである。
物質化された魔力は、尽きれば虚空に消える。
あの時見たシェルンの武器は、どういう原理で出し入れできているのか、アセリア姫にはわからない。
ただ、今こうして城から見える景色を眺めていると、コレが魔力の物質化で創られた、魔力が尽きれば消えてしまう儚いお城だというのが、少し寂しくて。
それ以上に、会えると思っていなかったセラフィーナに出会えたという感動もあり、アセリア姫にとってこの城は、とても大切なものになっていて。
バルコニーに出て、セラフィーナに並んで海岸線を。
時間によって色が変わってみえる海と、砂浜を挟んで木々や花々が織りなす彩が調和した、その美しく鮮やかな世界を眺めて。
「ありがとうございます。そうですわね。
わたくしも少し、そうしたいと思っておりましたの。
今後また、このフィルメリアに訪れた時、わたくしのおうちがある、というのも素敵ですわね。」
大切なものになってしまったのは、アセリア姫だけでなくセラフィーナにとっても同じで。
妹の子孫に初めて出会え、自分たちの血が絶えてなかったということを知ることができた。
別荘として残そうなんて、シェルンとは半分冗談のように言っていたけれど、残したい気持ちは同じで。
「わぁすごい!パパー!お城かわいい~!」
少し遠くから聞こえてきた声に。
海岸線から、岬が内陸へ続く方へ視線を移す。
そこには。
本当に、休暇をもらった兵か騎士か。そう思われる誰かがやってきて、娘を肩車して、城を見せてあげていた。
「あのお城、いいだろ?最初は魔女のお城とか聞いてたんだけど、ほんとは女神さまのお城かもしれないって。
騎士団の者はみんなそういってるんだぞ。」
なんか、微妙に謎の誇らしげな雰囲気で、たぶん今日の未明まで待機させられていた兵士っぽい男が言う。
現実と理想は違えども。
このお城は、真夜中に突如現れ。
自国の姫君と騎士団長を引き連れた、金色をまとう少女が入城したあとで。
詳細はわからなかったが、部下と救出目標を殺そうとしたという大隊長を捕縛し、その後任務完了となった。
彼らにとって、あの時起きた金色の世界と、それを纏って空を飛ぶ少女。
何かのおとぎ話か伝説のような光景を目の当たりにし、王国の至宝と最強騎士を引き連れるという存在は彼らの理想の中で大げさに神格化され。
「あれ?お前も来たのか。
うちも今朝話したらこいつが見たいみたいって。」
また一人、小さな娘と、おそらく妻を引き連れて、城の観客が増えてしまって。
「セラフィーナ様。わたくしの一存ではなく。
もしかしたら、多くの方がこのお城を残してほしいと、そう思われているかもしれませんわ。」
小さな子供を連れた家族が。また増えて。
また、子供がはしゃいで。父親がちょこっとだけ自慢げに説明していて。
その光景は、ささやかだけれども。
とても、とても幸せで。
「ええ。わたくしもそう思いますわ。
このお城が、わたくしがいなくとも消えてしまわないように、今夜、少しだけ小細工しましょう。」
その幸せを見ることが、見せてもらえることが。
とてもとても嬉しくて。
「一階には牢屋もありますし、中もちゃんと、作らないといけませんわね。今夜のお仕事は、改築工事ですわ。」
もう、存続させることを決めてしまった。
そんな感じのセラフィーナに。
「わたくしも微力ながら、お手伝いいたします。」
自分も存続する気まんまんのアセリア姫は、誰に相談することもなく、今夜の予定を決めてしまった。
周囲の者に止められそうになったお姫様が、飛び立って皆を驚愕させてしまうのは。
今日一日の大仕事が終わり、シェフィールドが元に戻ってからのことである。
平和な国ではごくごく当たり前に感じてしまう、ささやかな幸せ。
戦時中の国や貧困国では、決して当たり前でも何でもない、とても貴重なものですよね。
そしてシェルンの過去とか、アセリア姫がなぜ知ってるのとか、姫様と騎士団長がなぜあんな高みに至っているのとか、魔獣に変形した男は何だったのとか。
そもそもシェリーヌさん、ずっと寝たまんまやん。
シェリーヌからみたバケモノの戦闘班No.1はあの男なの?とか?
一緒にいたガキっぽい奴は結局何なの?とか。
フィルメリア編が全然おわりません。どうしてこうなった。




