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3-11:超高速空輸便

純真で魔法マニアの清楚なお姫様も飛びたいんです。

 コアを切り裂かれた魔獣が、断末魔の声を、奇声を上げながら崩れていく。だがその中で。



「ギギャハハ!オれがコレでシヌトおもウナ!」


 などと言ってきて。

 空中に佇むという、今までは出来もしなかった姿で、崩れ去っていく謎の魔獣に警戒を続ける。

 だがその後、魔獣が復活するという事は無く、深夜二度目となる激戦は。


 形だけで言えば、最終的にはセティスの圧勝だった。

 戦闘中も終始優勢であり、余裕を持ち、相手からの一撃を浴びることもなく。

 空を舞う鳥型の魔獣となってさえ、その魔力刃の空爆を全て切り払い、避けて。


 最後も、一太刀で。


 だがセティスにとってこれは、シェルンとの闘いよりも遥かに、苦い戦いだった。



 しばらく警戒をしていたが、何事もなく。セティスはゆっくりと、地上に舞い降りる。



「だ、団長。今、空を...」



 着地点の傍にいたひとりの騎士が、驚愕の表情で自分達の長を見つつ、思ったことをそのまま口にする。


「ああ。なんか、飛べるようになった。」


 説明が難しいので、とりあえず事実だけを伝え。

 再度、こと切れた部下の元へと歩みを進める。



 戦いの最中に溢れた金色は既に消えており、あの一瞬は何だったのかと思いながら、そこに着いて。




信じられないものを、目にする。




「団長。ご心配をおかけしました。」


 こと切れたはずの男が、そこに立っていて。

 いや、そんなはずはない!確かにあの時、自分のこの手で脈を診て、その命が尽きたと。思ったのに。


「おまえ。大丈夫なのか。」


「はい。一部記憶があいまいなのですが、その。


 首に激痛を感じて、まったく動けなくなり、徐々に何も見えず、感じなくなったと思ったその直後、何か柔らかい、優しいものに包まれたような気がしまして。


 気が付けば、傷が癒えていました。」


(あの光だ。あれが部下の命を、拾ってくれた?)



 実際には。セラフィーナと言えど、一度失われた命を取り戻すことなどできない。完全に失われた魂は、救えない。


 だがあの時、この兵士の命は、肉体としての生命活動は一瞬、終わりを迎えていたが。

 運よく、ほんとうに運がよく。生命活動を終えたその体から、意思の光が、魂が消える前に。


 セラフィーナの光に包まれて。



 救われた。生き返ったのではなく、間に合った。



 実情は知らないが。分からないが。


「そうか。


 すまない。私の不甲斐なさで。

 大切な部下を一人、失うところだった。


 生きていてくれて、ありがとう。」



 失わずに済んだことに、感謝する。

 今まで討伐任務で、なんども経験してきた苦い思い。どれだけ自分が強くなろうとも、どれだけ多くの魔獣を倒してきても、仲間は皆無事で。部下は皆生きていて。


 そんな、都合のいい事は決してなく。人を殺す気で、殺すために向かってくるような魔獣相手に、絶対の完全勝利などありえない。

 そんな事が出来たのは、たまたまアセリア姫が討伐に参加出来る時だけで、たまたま姫の力が及ぶ範囲内で、戦闘が終結した時だけで。その時だけは、運がよかった。


 失ったと思ったものが無事である。そのことに、こみ上げてくるものもあるが。

 この場の責任者として、努めて冷静に。


「ひとまず脅威は退けた。

 一度奴らのアジトに戻ろう。そこで状況を確認する。」


 近くにいる部下を引き連れ、再びアジトへ向かう。


「セティス様、お疲れ様です。ご無事で。」


 アジト前には、他の部下を癒し、集めていたのであろうアセリア姫が待っていて。

 その周囲には、この作業、アジトに居た者たちの回収と、内部調査を命じた部下が集まっている。


「姫様。申し訳ございません。あのものを確保する任。

 全うできませんでした。」


 姫君の勅命が全うできなかったことに、頭を下げる。


「いえ、セティス様。仕方ありませんわ。

 わたくしも遠くに感じましたが。


 戦闘中に、魔獣が現れたのですね。」


 姫は魔獣の妖気のような、どす黒い魔力を、遠距離からでも感知していたようで、だが少し認識が違った。


「それが、信じられないかもしれませんが。

 交戦中に、あの男自身が、魔獣に変化しまして。


 人に擬態できる魔獣など、私も初めて見たのですが。」


 今まで見たことも聞いたこともない状況。

 アセリア姫は目を細め、今聞いたことをのみ込み。


「それは。わたくしも聞いたことはございませんわ。

 確保などと安易に指示を出しましたこと、申し訳ございません。その任は、撤回いたしますわ。」


 セティスの心情を慮ってか、魔獣の確保ということ自体が無理と分かっているからか。

 姫は騎士団長には責が及ばぬよう、自身の言葉。王族からの勅命となってしまう言葉を撤回した。



「それで、わたくしの責務なのですが。

 皆様を癒す前に、急に辺りが光に包まれまして。


 そのあとは、倒れていた皆様が皆無傷で、重症に見えた方々も癒されておりました。」


 アセリア姫にとっても劇的な瞬間だった。


 あの光、シェルンに見せてもらったものと同質の優しさ、暖かさを持つ光が、あたり一面を満たし。

 金色の粒子を立ち昇らせたかと思えばすぐ消えて。


 その時には、急いで癒さねばと見ていた者たちが、皆動き出し、一様に不思議そうな顔をしていた。



 姫の誇るハイ・ヒーリングを上回る癒しが、瞬時に、あれほどの範囲に施されるという信じられない光景。



「はい、私も見ました。そして救われた。

 私は、大切な部下を一人、失いかけましたが...」


 そう言って、あの時こと切れたはずの部下に近づき、その肩をポンポンっと叩く。


「そうでしたか。セティス様、やはりあのお力は。」


「はい。姫様のご推察どおりかと。」



 部下の手前、あまり細かなところまでは言及しないが、二人ともあの力については、当然察しがついていて。



 色々と気になることはあるが、だが今は、とにかくやるべきことを進めておかねばならない。

 セティスが改めて騎士団の部隊に指示を出し、今までの状況、あの男が来るまでに移送、調査班がどこまで作業を出来ていたことを確認し。



「では、皆様。この建物の調査と、中で眠っている方々の搬送を、改めてお願いしますわ。

 くれぐれも、お気をつけください。」


 アセリア姫がそう言い、皆に祝福のように、次は大事にならないように、強化の魔法を施して。

 アジト調査、回収班は、改めてその任を開始した。



「セティス様、わたくし達は一度宿舎に戻って、明日の事について検討致しましょう。」


 アセリア姫は先ほどシェルンから聞いた、シェフィールドを元に戻すという話について考えていた。が。




「あら?あれは。」





―― その頃


(これで、ようやく魔法陣は全て解除できましたね。)


 周囲を見回し、遠くの方にも目をやり。

 本日夜の任務について一通り全うし、思えば任務とは全く関係ない、アセリア様とセティス様との攻防が、一番濃厚な時間だったなぁ。なんて軽く感傷に浸って。



(あー、セラ様になんて伝えよう。任務中にバッタリ遭遇したのは間違いなけど、戦ったなんて言ったらアレだし。)



 拗ねてうじうじしているお姫様を想像する。

 まあそれはそれで、見た目的には可愛い気がするのでアリかなぁなんて訳の分からないことを思い。



(セラ様、お城はちゃんと建てましたかねー?

 やっぱり趣味全開な、アレな感じで作ってますよね?

 とりあえず見てみたいし、戻りますか。)



 なんて気楽に考えていたが。その鋭敏な感覚に、突如よく知っている、禍々しい刺激が走る。



(これは!魔獣ですか。あの方角。アジトのあった方向!

 アセリア様とセティス様が居れば心配はないですが。)


 瞬時に思考が戦闘モードに切り替わり。

 一瞬の逡巡の後、感知した方向へと飛び立つ。



(この気配。魔獣の気配に似ていますが、違いますね。

 まさか、アレが関わってくるなんて。)


 眼下に流れるシェフィールドの街。高速飛行しながら、感知している魔獣のような気配に若干顔を顰め。


 とりあえず自分が到着するまで、市民に被害が出ない事を祈りつつ、急ぎ向かう。


 その時。




(セラ様!?)


 空中で急制動をかけ、ホルン岬の方向を見やる。

 発動した瞬間。世界が変わる前に、自身の主が変わったことを感じ取り。

 シェルンの魂はセラフィーナと繋がっていて、その繋がりが、ここ最近あまり感じた事のない感情。

 セラフィーナの激しい怒りを教えてくれていて。



 直後、世界が透き通った金色に染まる。



(セラ様がここまでお怒りになるなんて。

 あの王国の膿、よほどの事をしでかしましたね。)


 自分の主が、ここまで怒りを露わにすることなど、滅多に無い。それこそ、10年や20年といった単位でまったく怒ったりしないのだから。



(これはアセリア様とセティス様も、今夜のうちにお城にお連れするべきかもしれませんね。

 この国の膿は、この国に裁かせるのがセラ様ですし。)



 状況を考慮し、魔獣の討伐がてら二人に城へ来てもらえないか、聞いてみることにする。

 そのまま飛行し、もう少しでアジト周辺に到着する所まで来て、肉眼で空中を飛び回っている魔獣を確認し。


(鳥型ですか。これは流石にセティス様でもまだ...


 あ。飛んでる。)



 ちょうどそのタイミングでセティスが飛び、魔獣を断ち切って、直後に金色が消えて。

 思った以上に成長しているセティスにちょこっと驚くが、そのまま合流すべく自分も飛んで行く。




「あら?あれは。」




 眼下でアセリア姫の声が聞こえ、その場に降り立つと。



「わぁ!?な、なんだおまえは!

 ま、まさかさっきの魔獣の仲間かっ!?」


 なぜか兵士の一人がすごく怯えている。なんでだろう。



「シェルン殿?どうしてこちらへ?

 魔法陣の件はもう終わったのですか?」


 横からセティスが声をかけ、敵ではない、という事だけは騎士団員達に分からせて。


「いえ。魔獣のような気配がしたので、街に被害が出ないかと心配になりましたが、大丈夫だったようですね。


 それにセティス様、先ほどの飛行。見事でした。

 あの術式を理解されたのですね。」


 飛んで魔獣を斬っているところを目撃したのだから、それは間違いないはず。

 まさかこんな短時間で、そこまで使えるようになるんて思ってなかったので、シェルンは少し驚いている。


 そしてその言葉に、アセリア姫は驚いたような顔をしてセティスを見て、次にシェルンを、なんだか恨みがましそうな顔でじっと見つめて。


「ああ、先ほど一帯を覆った、あの金色の光。

 何といえばいいか分からないのだが、アレがこの術式の事を、私に教えてくれた。と思っている。」


 その言葉に、シェルンは笑顔で頷き、次にアセリア姫の方を向いて。

 その時点ですでに、アセリア姫はものすごくキラキラした顔でシェルンを眺めていて。


「ア、アセリア様にも、お伝えしますね。」


 あまりのキラキラっぷりに、なんだかセラフィーナが「戦いたいですわ!」って言ってる顔を思い出しつつ、セティスに見せたものと同じ、空間転移の術式を展開する。


 魔法マニアのお姫様が大興奮し、あーだこーだと術式を褒めたたえて感動したのは言うまでもなく。

 さらにその場でものすごく頑張って理解し、お姫様も飛び立ってしまったのにはシェルンも心底驚いて。




 飛べることを喜び、周りの兵たちが何だか魂が抜けたような顔をしているとき。



 再び、世界が変わった。



 周囲一帯、見渡す限り透き通った白銀プラチナに染まり。



 世界の温度が、ほんの少し下がったように感じられ。



 だがその世界、白銀の光はすぐに消え、また見慣れた、シェフィールドの夜に戻る。



「セラ様?まさかあの力を使うなんて!

 どれだけのことがあったというのですっ?」



 姫と騎士、二人を相手に戦った時も決して見せることは無かった、慌てたような、驚いたような様子に。


「シェルンさん。今のは、セラフィーナ様の?」


「はい。少し心配です。セラ様が、ではなく。

 おそらくセラ様の元に向かった騎士団の方が。」


「それは、どういうことだ?

 確かに今の力、今までの金色の力と違って。


 なんというか、冷たい印象だったが。」


 今までシェルンに見せられて感じていたあの暖かさ、優しさ。慈しむようなその力。

 そして先ほど、兵たちを癒し、セティスに世界の優しさを教えてくれた、あの光。


 それがセラフィーナの力だと捉えていたアセリア姫とセティスにとって、先ほど一瞬だけ感じた冷たさは想定外で。


 シェルンの様子と、先ほどの力の雰囲気に、セティスは騎士団を束ねる者として若干の不安が募る。

 自分がウィンストの動きを見るために派遣したとはいえ、第二大隊員の大半は普通の騎士、兵士だ。



「いえ。セラ様は決して、命を奪うような事はないかと。

 おそらく、この国の膿。と呼ぶのも申し訳ないですが。

 ある騎士が後ろ暗いことをしているという事を、我々は掴んでまして。

 そのものが何かしらの形で、セラ様の逆鱗に触れてしまったとしか、思えません。」


 長年連れ添ったシェルンだからこそ分かるが、今の、いやここ数百年の間、セラフィーナは人の命を奪っていない。


 人に害をなす魔獣や、自分たちにとっては因縁の相手とも言える、ある者たちにだけは容赦しないが。


 そのセラフィーナをここまで激怒させるという事は、あの染まり切った魂の者は、よほどの事をしたに違いない。


「本当は、今夜お二人をセラ様の元にお連れするのもありかと思っていたのですが、少し急ぐ必要が出来ました。

 またあらためて...」


「いえ、わたくし達も参ります。ご案内頂けますか?」


 シェルンの言葉を遮り、アセリア姫が言う。

 その瞳は力強い光を湛え、決して引かないという強い意志が伺える。


 アセリア姫はこの国の者が何をしたのか、セラフィーナがなぜ激怒したのか。

 あの力は何なのか。全てを、たとえわからなくても自分の目で見て、確かめたいと強く願い。


「シェルン殿。頼む。我々も同行させてくれ。」


 姫の確固たる意志を汲み、セティスも仕える者として深く頭を下げる。


「セティス様。頭を上げてください。

 分かりましたが、少し急ぎます。


 お二人の速さでは、まだ少しかかりますので、今回は私がお連れしますが、それでよろしいですか?」


「構わない。頼む。」「お願いします!」


 二人の気持ちを受け、全力で城に向かうため、シェルンは頷き、再び開放する。



二次解放セカンドブリーズ



 また、周辺を金色が覆い、キラキラと粒子が立ち昇り。


「それでは、失礼しますね。」


 シェルンは二人をそれぞれ両手に抱き、飛び立つ。


「えっ!?」「なっ!??」


 その速さ。戦ったときはその力、高みだけを見せてもらった、シェルンの二次開放の、その速さは。


 シェフィールドの領都。その中でも王都寄りにあるアジト周辺から、ホルン岬までの距離およそ25キロメートル。

 その距離を、ほんの30秒程で移動するという、とんでもない速さで、勢いで。


 姫も騎士も、あまりもの加速と最高速度に、一瞬意識が飛びかけるほどだった。

二次解放したのに全然活躍してなかったので、ちょこっとそのトンデモ性能を書いてみました。

30秒で25キロを走破は時速3000キロ。秒速約832メートル。マッハ2.4。

世の中には強さや速さがインフレしまくった世界がいっぱいありますが。

音速よりちょっと速いこのスピード。速いと感じるのか、遅いと感じるのか。


ただ、数字にしてしまうとやっぱりインフレ化してしまいそうなので、今後はなるべく数値化しない方向で。

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