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3-9:破滅の力

急ぎすぎてかなり小さくなっていたので、少々加筆修正いたしました。


言葉の違いや若干の矛盾もあったので、そこも修正。


とはいえ、内容は変わりません。初版と比べて、冗長になっただけかも?

 ビリビリと、まるで天が落ちてきたような重圧に、その場にいたものはただただ平伏し、這いつくばり。


 体を潰されてしまいそうな圧力に、必死で耐え続ける。



 体勢を保てているのは、そのものの後ろにいる、レイノルドとミリエラ、そして二人の騎士の四人だけ。


 その四人のうち、後ろから切られた、レイノルドとその部下二人の傷は既に癒え。


「おまえたち、すまない。

 俺についてきたばかりに、貧乏くじを引かせた。」


 自分と共に後ろから切られるという、最悪の仕打ちを受けた二人に、責任を感じて、まずは謝る。


「いえ、我々こそ。いざというときにレイノルド様の背中を護ることもできず、申し訳ありません。

 ですが皆無事で、そしてミリエラ様も救出できて。

 本当によかったです。」


 部下の一人が、無念さを隠せない表情でそう返す。


 もともと開錠、救出の作業にあたるレイノルドの背後を護るのは当然だが。

 その後の、大切な人と再会の場で、自分たちの頼れる上官を護れなかったことは、彼にとっても役目を果たせなかったという結果となり、そこに責任を感じていた。


「それにレイノルド様。斬られたのは悔しいですが。

 ようやく大隊長、いえ、ウィンストの本性を暴けた。

 我々が今まであれだけ調査しても何も出なかった、その理由もやっと分かりました。」


 もう一人の部下が、助かった事に加え、今回の事でようやく密命を果たせることに言及する。


 あの男は、決して今まで証拠を残さなかった。

 共犯者の子飼い以外、事実を知るものは全て、今回のミリエラに対する扱いのように、全て消してきたから。


 現場を押さえる以外に証拠を残さない狡猾な男は、その現場の犯行を、人知を超える力で暴かれたのである。


「そうだな。しかしそうなると、我々を助けてくれた、癒してくれたあの光は何だったんだ。それと彼女は。」


 自分達を助けてくれた、暖かく優しい、金色こんじきの光。


 あれが無ければ、今こうして話すこともできず、ウィンストの悪事を突き止めることも出来なかった。

 いや、それどころか、自分達が始末されていた。


 おそらくそれを成したであろう、目の前にいる、まるでどこかの国の姫君のような人物。

 その後姿を、皆で見つめる。



 部下たちと話しつつ、レイノルドは体を起こし、その腕の中に泣き続けるミリエラを抱いて、優しく背中を撫でて。


「レイノルドさま。よかった。

 ご無事で。ごぶじ...で。」


 嗚咽を漏らして、自身の無事を喜んでくれる、そんなミリエラをより愛おしく思い。


 そして自分の命を救い、腕の中にいる大切な許嫁の心をも救ってくれた、その人物に感謝と疑念を抱き。




「ミリエラ。あの方は。あの方が?」


「セラフィーナ様、です。


 私を、何度も、なんども助けて下さった。

 そして今も、あなたと皆様を助けて下さった。


 私の大切な、恩人です。」



 何度も、なんども、助けて下さった。


 ここ最近、ミリエラに会う事が出来てなかったレイノルドにとって、激しく心に刺さる言葉。



 自分が離れている間に、ミリエラに、一体何があった。



 そしてこの方が、あのセラフィーナ。



 団長のセティスより密命を受けたときに聞いた、魔法の書簡を送ってきた、あの<災厄の魔女>。



 だが歴史上でも伝説でも、恐怖の象徴として語られているような、その恐ろしい魔女かもしれない、そんな方が。


 なぜ今、事実として。自分と部下たちを、その力で救って下さったのか?


 そもそもミリエラは、この魔女に攫われた、誘拐されたというのが事の発端だったはずだが。



「わたしはもう、大丈夫です。

 レイノルド様、ありがとうございます。

 私の事、セラフィーナ様の事、気になるのですね。」



 先ほどまでより少ししっかりした声で、腕の中から問いかけてくるミリエラに、若干違和感を感じる。


 確かに、今は自分の事を想い、泣いてくれていたが。


 ミリエラはこんなにも、強い子だっただろうか。


 もとより聡明な少女ではあったが、もう少し年相応の。弱い部分もある、そんな印象だったはずなのに。


 今のミリエラは芯になにか、もしかすると自分より強いものを持っているような。



「ああ、あの方が、セラフィーナ...様が。」


「はい。セラフィーナ様が、あの<災厄の魔女>です。

 そしてそれは真実と、私はそう信じています。


 ですがセラフィーナ様は、決して歴史にあるような、恐怖の存在ではない事も、私は分かっている、つもりです。」



 しっかりとした口調で、そう告げる姿は。

 誘拐された貴族令嬢というものではなく、誘拐した犯人であったはずのその人物を、心から信頼しているようで。



 レイノルドも、ミリエラの事は信じている。



 そしてたった今、奇跡のような力で自分を。自分と共に任務にあたっている、大切な部下を、この方が救ってくれたという事実もある。であれば。



「わかった。いや、たぶん俺は何もわかっていないが。

 状況も分かっていないが。

 ミリエラが信じる方なら、俺にとっても信頼に値する。


 何より俺たちを、今この場で助けてくれた恩人だ。


 むしろ今は、この状況をどうやって団長に伝えるか。」



 考えても分からないことは、ひとまず置いておき。


 セティスより密命を受けているレイノルドにとっては、ミリエラを取り戻した今、最も重要な事を考える。



 自分と部下が斬られるという最悪の事態にはなったが、結果としてウィンストの犯行現場を目撃、体験できた。


 救出目標すら犠牲にしての、騎士殺し、仲間殺しの指示という、騎士団大隊長としても人としても、許されざる、卑劣で非人道的な行い。


 その、この場での一部始終を、どうやっておおやけの場に証明するかを、書簡に施されていた、あの魔法の事も頭に入れつつ、考える。






―― その一方。


 そのものの前に居るものは、皆言葉もなく、わが身を襲う圧倒的な重圧に、恐怖に、心身を蹂躙されて。



 世界には決して逆らってはいけない、神や悪魔の如き空想の産物に匹敵する、そんな何かが本当に存在している、ということを思い知る。



 ふっ、とその重圧が止み。悲鳴を上げていた体が、限界すれすれで解放されて。


 だがそれを成した、目の前にいる美しい、恐怖を具現化した存在を、平伏している者たちは、文字通り恐れ多くて見ることすらできない。



 そのまま、数分にも感じられる時が流れ。

 未だ全身をがたがたと震わせ、冷や汗が止まらない中で、男は何とか口を開く。



「あ、貴女様は。いったい...」



 何者か、と問いたいが、その答が恐ろしい。


 何が目的か、と問いたいが、その目的も恐ろしい。


 いや、実際には既に分かっている。わかってはいるが、そのことを確認するなど、恐ろしすぎて決してできない。


 あなたが、かつて数多の国を滅ぼした魔女ですか?

 などと、完全に敵認定されている状況で、そんな恐ろしいことを聞けるはずがない。


 結局、それ以上を口に出来ず。

 恐怖に支配された男はまた、口を閉ざす。



 その姿をみて。感情の籠らない声で。




「わたくしがいったい、何でしょうか。」




 落ち着いた、涼やかな声で。たった一言かけられただけなのに、心臓を握りつぶされそうに感じ。


 男はまた、黙して平伏す。




 その声は、今まで一緒にいたミリエラからは信じられない程に、優しさ、暖かさを感じられない声で。



 それでもミリエラは、この悲しいお姫様の傍に一日いるだけで、色々とわかっていた。


 常に優しい、慈愛の微笑を浮かべていることが多く感じるが、実はこのお姫様は、とても感情豊かで。



 今、この方はわたしとレイノルド様の為に。

 セラフィーナ様が語ってくれた「何よりも喜べること」


 そのひとつ、私がレイノルド様と幸せなることを、壊そうとしたものに対して、その怒りを露わにしている。


 そう、わかっている。



 でも。



「あなた方は、お分かりなのでしょう。


 ここは<災厄の魔女>の居城ですわよ。」



 でも、その名は。




 あの、圧倒的な力を見た後で。

 聞いてしまえば、さらに恐怖に囚われる。


 かつて数多の国を単騎で滅ぼしたという、その名。




 ミリエラにとっては、とても悲しく、決してそう呼ばれるべきではないと考えている、その名。




 ウィンストも、その子飼いも、目の前にいる少女こそが、この城を瞬時に創りたもうた存在だと。

 あの<災厄の魔女>そのものなのだと。

 圧倒的な恐怖により、無理やり理解させられる。



 それでも、救いようのない男は。



 どこで間違えた?

 何がいけなかった?

 ミリエラを攫ったのは魔女ではないか。

 それを助けようとする男を始末して、なぜこうなる?

 魔女の獲物にも、手を出そうとしたからか?



 このような状況にあってまだ、恐怖に駆られたままで、震えながらも自らの保身だけを考えており。


 そのことが、後にさらに魔女の不興を買うとも知らず。



「そ、その。我々は決して、貴女様に。

 き、危害を加えるために来たわけでは。」



 震えながら、何とかこの魔女の機嫌を取ろうとするウィンスト。想定外の状況に置いて、その計算は大きく狂い。



 既に逆鱗に触れたというのに、悪あがきを続けようと、心にもない弁明を続けている。



「それが、何か?

 危害を加える。そのような出来もしないことを、なぜわたくしが案ずる必要がありますか。」



 また、少し強く圧をかける。



「ち、ちちちがうんですっ!わ、我々は。


 そ、そう!勝手な行動をしてあなたの元から人質を取り戻そうとした男を、諫めただけなんですっ!」



 諫めた?


 大切な人との再会を、心から喜んでいる男を。


 後ろから、自分の手を汚さずに部下に斬らせて?


 あれほど暖かい、幸せな時間を壊しておいて?


 再会を喜ぶ少女の心を傷つけ。

 さらに彼女の命も奪うと宣言して。



 それのどこをどう解釈すれば、諫めたことになる?



 この男は。



 ダメだ。



 言葉を並べれば並べるほど。




 わたくしの想いを。大切なものを。




 全て踏みにじる。




 もういい。



 裁くつもりはないが。



 この男に、これ以上の言葉を紡がせるのは。




 もう、許されない。



 セラフィーナは目を閉じ、世界に、命じる。




「わたくしの世界よ。




 ...示しなさい。」





 その言葉に従い、世界がまた、変わる。



 常にある、金色の暖かい光ではなく。




 鮮烈な、透き通った白銀の輝き。




 その色は、セラフィーナの剣の色であり。

 シェルンのダガーの色であり。


 この魔力を物質化すれば、それは透き通ったクリスタルの刃となる、そんな色で。




 セラフィーナの持つ、二つの力。


 護り、癒し、救う力の対になる、

 貫き、壊し、滅ぼす力。



 自らが血を引く、いにしえの何かを封印した者の。

 暖かく、優しい、透き通った金色こんじきの力と。


 封印を解かれ、セラフィーナを憑代よりしろにせんとした者の。

 冷たく、冷厳な、透き通った白銀プラチナの力。




 <災厄の魔女>が、数多の人々の命を奪い、多くの国々を滅ぼした時に使った、破滅の力。




 それが今、救われざるものに天罰を与える力として。

 静かに、解き放たれる。




 「!!!!」



 音は、殆どしなかった。



 だが、セラフィーナが解き放った力は、罪深き男を貫くかの如く、その周囲に。


 子飼いの者たちも巻き込み。



 セラフィーナの剣を少しだけ細くしたような、人の身長よりも長いクリスタルの刃が、幾百と降り注ぎ。




 彼等に、一歩たりとも動ける地を与えぬよう、一切の動きを許さぬよう、その刃を向けて、取り囲み。



 更にその周囲を埋め尽くして。

 クリスタルの剣林を創り出して、愚かな男と、その子飼い達から、全ての自由を奪った。




「あなた方の裁きは、この国に、任せましょう。

 事の一部始終も、全て記録しました。


 国王陛下。そして騎士団の長、セティス様に。


 全てを見て頂きます。




 あなた方はこの国の者として、この国に。




 裁かれなさい。」


癒し、護る力だけで、世界は滅ぼせないという事で、セラ様が実はふたつの力を受け継いでいるということがようやく出せました。


クリスタルの武器は、こちらの魔力を使って作られています。

透き通った黄金と、透き通った白銀。

読みはプラチナではなくしろがねのがいいのかな?

プラチナなら、白金にした方がよかったのかなと思ったり思わなかったり。

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