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3-5:優しい激戦

とうとう姫様も参戦しました。

王国の至宝たるアセリア姫様の実力やいかに?


というか、焼き豚にそれをちゃんと書けるのか…(´・oo・`;)

「参りますっ!」


 アセリア姫まで参戦した、シェルンとの闘い。


 セティスに、そして自分自身にも強化魔法をかけ全てを加速させると、姫の持つ長杖の魔石が輝き、その周囲に複数の、18個もの小さな魔法陣が出現する。


 魔法陣は周囲の魔力を吸収し、色とりどりの光の帯となってシェルンへと殺到する。


(これはっ?)


 見た目だけを言えば、通常のホーリーレイの色違い。だがその色は純白でも、先ほどまでの暖かい白でもない。


 炎を纏った紅。

 氷を纏った蒼。

 風を纏った碧。

 土を纏った橙。


 そしてそれらの色を混ぜたような中間色のものもあり。


 並べられればまるで虹のグラデーションのように、複数の属性を同時操作し、合成分離し創られた光。

 神聖魔法のはずのホーリーレイが、帯ごとに異なる単属性あるいは複合属性の魔法となって織り成される。


 だが魔法を発動したアセリア姫は、何故か参戦した場から撃つのではなく、魔法使いのはずなのにシェルンに向い突撃してきて。


「撃ちます!お覚悟っ!!」


 至近距離に肉薄して、光の乱舞を放ってゆく。


 確かに魔法は発射地点からターゲットへの距離が短ければ短いほど、当然だが回避も難しくなる。


 そういう意味では突撃も有効だが。



「複数属性を微調整して織り交ぜる、見事です。

 相手を探る為、何が通じるかを調べる為の手段としては面白い方法です。ですがこれほど至近距離、でっ!」


 色とりどりの光をけ続け、時々ニアミスもするが、自らを攻撃する魔法を分析し、その情報から相手の意図を察して、シェルンは正確に狙いを付けて放たれる光の帯を、高速移動して躱し続ける。



けられるかっ!?」



 当然もう一人、王国筆頭騎士も遊んではいない。


 至近からの複合魔法を躱し続けるシェルンに、姫の攻撃同様に肉薄したセティスが斬りかかる!


 開放状態のシェルンに及ばないまでも、アセリア姫の魔法で強化されたその動きは先ほどまでとは別人のように速く、剣戟も重くなっている。


 対するシェルンは一度虚空に戻していたダガーを再度両手に握り、セティスの斬撃を跳ね返していく。


 解放前と異なりセティスの剣が前より速くとも、アセリア姫の魔法が同時に届こうとも。


「いい連携です。素晴らしいっ!」


 それぞれに余裕を持って対応し、セティスの剣に対応しながらも、至近距離からのホーリーレイを避け続ける。



 二人の連携は、見事…この一言に尽きた。



 人知を超えるスピードで移動し、瞬時に数十合と打ち合う剣戟の只中にありながら、セティスには一切当てず魔法を放ち続けるアセリア姫。


 セティスも姫の攻撃をあてやすいよう、打ち込みの角度や自身の位置を巧みにずらし、全ての攻撃は姫の攻撃と対になるように繰り出される。


 かと思えば姫の攻撃が間を開けることを予め分かっているかのように、その一瞬で強力な斬撃を叩き込んでくる。



 なにより高速移動しながら剣戟を繰り返す二人と同じ速さで、魔法使いのはずのアセリア姫も共に走り、跳び、至近距離で魔法を繰り出し続ける。




 通常の魔法使いは前衛となる騎士や兵士の護り、その後ろから強力な魔法を放つ役割である。



 騎士団の中にいる魔法も使える騎士は、自分の攻撃に魔法を織り交ぜ、剣戟でも戦うスタイルもある。


 だがその場合も、あくまでも近接攻撃は剣である。


 それ以外の普通の魔法使いは、後方から前衛の向こうにいる敵陣へ魔法攻撃を放つこと。


 そして前衛を護り、癒す役目のはずだが。



 だが、アセリア姫は。



 自分は打撃武器を持たず、その攻撃はすべて魔法。


 だというのにセティス同様、シェルンとまるで打ち合うように、近接攻撃として数多の光を放ち続ける。


 これはもはやホーリーレイではなく、ダガー等の物理的な武器では弾けない、光の帯という形の魔法の剣戟。


 魔法使いとは思えないその移動速度。攻撃速度。そして共に戦うセティスを一切邪魔しない正確無比な狙い。


 シェルンにとっては一方は物理の剣、もう一方は魔法の剣で斬り続ける二人と、真向から相対している形となる。


 二人の息の合ったコンビネーションは、単純に攻撃が二倍になるのではなく、緩急、フェイク、死角を使った不意打ちや同時攻撃に時間差攻撃と、さまざまなバリエーションで相手を翻弄する。



 王国の至宝と呼ばれる姫君の戦闘スタイルは、シェルンにも想定外の、極近距離の格闘。



 武器が魔法というだけの、近接戦闘スタイルだった。



 しかしシェルンが聞き込みした際、市井の声でもそのような話は一切聞いたことが無い。


 聞いた話と言えば魔獣討伐で放たれた、シェルンが無効化したホーリーレイや、魔獣を一切寄せ付けない強力な防御結界。そしてあらゆる傷を瞬時に回復する、桁違いのハイ・ヒーリング。


 そういったいかにも魔法使い、という話だけだった。


 実際アセリア姫はセティスと二人きりで戦うときしか、このスタイルを取らない。

 普段は超高火力ではあるものの普通の魔法使いとして、騎士団の遠征に参加している。


 なぜならこの二人の超高速な機動戦闘、既に人以外の何かであるシェルンの速度に匹敵する速さについてこれる。


 そんな人間がフィルメリア王国にはいない。


 つまり皆が知る王国の至宝は、皆の前では圧倒的な力を持つ魔法の能力しか見せていない。見せれないのである。



 三人の剣戟、魔法も含めた格闘は続き、開けた土地を縦横無尽に移動しながら、三者ともに休む間もなく、攻撃を、防御を続ける。


 もちろんシェルンの攻撃がアセリア姫を狙う事もあるが、この高速な戦いの最中において、姫は自らに向いた攻撃を全て見切り、避け、あるいは瞬間的にシェルンの攻撃を弾くほどの防御結界を展開して、全てガードしている。


 その動きは騎士であるセティスに勝るとも劣らず、線の細い深窓の姫君といった容姿からは想像もつかないもの。

 それだけ魔法による身体の制御と、その魔力の高さ、精密さが常人の域を外れている事を物語っている。


 三人の攻防をはたから見れば、それは激しくも美しい



 剣と光の輪舞ロンド



 月明かりに煌めく白銀のつるぎと、透き通った中にも月光を反射する二振りの短剣ダガー、そしてそのものが色鮮やかに輝く光の剣、ホーリーレイ。



 戦いというにはあまりにも美しく、姫の清楚な、騎士の高潔な雰囲気に、透き通った金色こんじきを纏う少女の高貴な光が優しく舞い散り、深夜人もいない郊外で、鮮やかないろどりの世界を創り出す。



 もしもそこに居れば、必ず見る者を魅了する。


 そんな輪舞は数分間続き。


 その間二人を相手に防戦中心に戦っていたシェルンが、場を動かそうとその動きを変える。


「まさかアセリア様がこのような戦い方をされるとは。


 これは想定外でした。ですがっ。」


 今までは防戦を中心に、二人の攻撃を片方は受け止め、片方は避け続けていた動きが、その速さをさらに増し、あえてアセリア姫を狙う攻撃的なものに切り替わる。



「させんっ!」



 姫を狙い斬り込むシェルンのダガーに対して、長剣を振るい姫君を護るセティス。

 二人の間に割り込んで、小回りが利くダガーの高速な連続攻撃を、速度で劣るはずの長剣を巧みに操り防いでいく。


 その対応、近衛は必ず姫を護る行動を取ると読んでいたシェルンは、その瞬間を待っていたかのように。


「想定通りです。」


 小さく呟き、くるくると回転しながらダガーでの連続攻撃を繰り出す。

 ダガーの攻撃を防ぐことで手一杯のセティスに、その回転のひとつで同時に蹴りを繰り出し。


「ぐっ・・・!」「姉様っ!」


 ダガーと同時に振るわれた一撃を防ぐこともできず、アセリア姫が瞬時に張った結界の上から、蹴りに同調した非常に重い魔力爆発を食らい、凄まじい勢いで吹き飛ばされる!


 セティスが蹴り飛ばされた瞬間には、シェルンはアセリア姫に向き攻撃を繰り出していく。


 本来後衛の魔法使いが至近距離の近接戦闘で、護りの騎士を失い単騎となるという、絶体絶命に見える状況。


 ここでセラフィーナであれば、当然のようにクリスタルの如き剣を生み出し攻防を行う。

 彼女は絶大な魔力を持ち、信じてもらえるかはさておき、世間からも魔女として恐れられている。

 だが基本的な戦闘は剣を使った近接戦闘であり、その戦う姿はさながら姫騎士である。まんまだが。



 だが今戦っている魔法使いのお姫様は、セラフィーナのように剣を創る力はない。

 シェルンがアセリア姫に向けて放った攻撃、今までのガードや回避を考慮したその一撃は、魔法使いであり近接武器を持たないアセリア姫には致命的なはずで。



白糸草畑チノグラフィスガーデン!」



 だがアセリア姫は怯むことなく力ある言葉を放ち、同時にシェルンのダガーが何もない虚空で急に停止する!


(重い!?違う、これは!?)


 武器が重くなったわけでも止まったわけでもなく、その動きが極端に遅く、まるでスローモーションのように。


(どういうことです?わたしもセラ様も知らない魔法?)


「今ならっ!秋桜剣コスモスエッジッ!」


 ダガーの動きが止まり、自身の動きも止められたシェルンに、アセリア姫が今までとは違う魔法で攻撃を仕掛ける!


 色とりどりの光の帯を放ち続けるのではなく、姫の外周、自分を護る遅延領域の外側に、魔力を編み込んで形成した花弁を模した剣が並べ。


 可愛らしいコスモスの花を模した姿とは裏腹に、剣は高速に回転して複数の刃でシェルンに斬りかかる!


 もちろんシェルンは姫に攻撃を当てるつもりは無く寸止めするつもりだったため、落ち着いてダガーを虚空に戻し。


 軽く距離を取って、剣の射程から逃れる。


 近づくだけで相手を切り刻む、高速回転の剣を纏って、シェルンを追い全力で突っ込んでくるアセリア姫。


 流石にそのまま切られるわけにはいかず、シェルンは複雑に方向を変え距離をとり、姫の接近を許さない。


 回避行動をとりながらもシェルンの瞳には薄く魔法陣が浮かび上がり、周囲の魔力の流れ、編まれた魔法の術式。本来目に見えないはずのそれらを、瞬時に読み取っていく。


 シェリーヌとの闘いでアジトを割り出した時同様、魔力の位置や強弱ではなく、魔力の流れや組成、術式そのものを読み解く、シェルンだけの魔力視。


 普通の魔力視であればサーモグラフィーのように魔力分布がみえるだけだが、シェルンの目には魔力や術式、魔力の流れや動きが、全て文字や記号、発生源から目的地への流れといった、論理的な情報として読み取れる。


 その魔力視で魔力の源、シェルンはアセリア姫の持つ長杖の先端にあしらわれた、巨大な魔石ルーンを。


 そこで起動している、見た事のない術式を眺める。


 読み解く間もアセリア姫の光の剣の帯は巧みに避け続けるが、気が付けばその剣は円周状の配置をはずれ、姫の意図通りに斬りつける、文字通りの剣となっていた。


 さすがにセティスのような、無駄のない流麗な剣閃ではなく、速度も及ばない素人の域を出ない剣閃ではある。


 だが花弁の数、物量で補い攻め続ける。


 魔法の剣戟を避けつつシェルンが読み取ったその術式、ダガーを止めたアセリア姫の魔法は、瞬時に発動するには非常に濃密かつ複雑なものだった。


 こんな密度の魔法を一瞬で編み込めるのは、シェルンの知る限りセラフィーナ以外いないはず。


 シェルンですら開放状態でセラフィーナの力を借りてなお、とてもこのような高密度の魔法を、タイムラグ無しには編み込めない。


(あの魔石、とんでもない量の魔力蓄積と複数の術式を内包してますね。アセリア様はいったいどれだけの力を、あの魔石に籠めているのですっ!?)


 その巨大と言ってもいい魔石は、サイズもさることながらそれに籠められた魔力量と術式もまた、異常だった。


 それもそのはず、アセリア姫はこの魔石を創生した五年ほど前から、ほぼ毎日魔石へ魔力を注ぎ続けている。


 行動の支障にならない程度に、自然回復する程度の魔力を一日中休むことなく、寝ているときでさえ。


 その量、一日の魔力の3割ほどを。


 遠征で戦闘や魔法を行使しているとき以外、自分の近くにあれば常時魔力を籠め続けた結果、この魔石には本来アセリア姫が一日に行使できる魔力、その量の実に600倍程が籠められている。


 あの極太ホーリーレイは、アセリア姫にとってもそれなりに魔力消費は大きく、魔力の自然回復量込みでも、現状では一日3回が限界。


 だが魔石が空になるまで姫がホーリーレイを行使すれば、蓄えた魔力だけで1800発撃てるという計算になる。


 そんなことをすれば、見渡す限り焦土と化す。


 そして同時に、この巨大な魔石にはいくつかの術式が事前に埋め込まれており、現在発動しているそれは。


 指定した空間、今はアセリア姫の周囲に対し、侵入したモノの動きを極端に遅くする、行動遅延魔法の術式だった。


(凄いですね!これほどのものをこの若さで編み込める。セラ様がお心を知りたいと願う気持ちも分かります。)


 シェルンが見た限り先ほど解析したホーリーレイ、あの消費が重そうな魔法と比べても、この術式の方が更に重い。


 当たり前である。開放状態のシェルンにすら効果をもたらす、金色こんじきの魔力のみが持つ力。


 対象の時間への干渉を利用している。


 極太ホーリーレイのようにまだよくわかってない魔力を、破壊力と範囲を増幅する為だけに使っているのとは、使い方が全く違う。


 セラフィーナやシェルンであれば、この魔力の本質を理解している。だがアセリア姫はまだそれを使えるようになったばかり。試行錯誤の段階である。


 術式はまだまだ改善の余地が多々あり、結果魔力消費量も尋常ではないことになっている。魔石の魔力貯蔵が無ければおいそれと行使できない程に。


 ただこれであれば、結界のように力量差で突破されてしまうこともなく、確実に防ぐ事が出来る。

 実に性能がよく、理解できない相手であれば動きを止めることにもなり、反撃にもつながる優れた術式だ。


 複雑すぎて今のアセリア姫の技量では、自分自身を覆うようにしか展開は出来なさそうではあるが。

 近接戦闘をする魔法使いという少し不思議な姫の戦闘スタイルにおいて、これほど有用な防御魔法もなかなかない。


「これはよく考えられたな魔法ですね。

 ご自身の戦い方をよく理解されている。」


 魔法とその運用を称賛するシェルンだが、セティスを弾き飛ばした今アセリア姫は単騎の状態。


 そんな不利な状況であっても。


「あ、ありがとうございます。ですがっ!」


 素直なアセリア姫は、戦いの場にあっても礼を言う。


 もっともその間も魔法の光を刃として攻撃を続けるが、単独の攻撃であればシェルンが避けるのは造作もない。



「それではこうしてみたら、どうされますか?」



 一対一の状況において、シェルンはまるで生徒を試験する先生のように、アセリア姫に新たな一手を繰り出す。


 それは攻撃ではなく、姫の魔法への干渉。


 編みこまれ完成している魔法に手を入れるという、アセリア姫から見れば想定外の一手。

 本来術式は編みこんだ術者本人しか、手を加えることはできないはず、というのが姫の認識。


 シェルンはそんな常識など知らぬというように、術者の周囲にのみ働きかけるように編まれた遅延の術式に干渉し、術者自身もそのエリアに含まれてしまうように改変する。


 アセリア姫が長い時間を掛けて計算し、編み込んだ術式が瞬時に書き換えられ、同じ効果をもたらすはずなのにその組成は高度に洗練されていく。


 まるで数学の問題で、大回りをした計算で解いた回答用紙に、「こうすればもっと簡単ですよ」とよりよい回答例を丁寧に教え諭す、生徒思いの先生のように。


 その様を、術式が綺麗に洗練されていく様を、姫は攻撃をする手を休めてまでしっかりと見つめ、学んで。



 その中で、新たな式は自分をも縛り付ける術式に!?


「ま、待ってっ!!」


 気付いたときにはアセリア姫自身の挙動が一気に遅くなり、ただここでもシェルン先生は配慮していた。


「姫様の思考速度と魔術構築は加速したままですので、頑張って解いてください。」


 そう言って問題だけ出し、後ろを向く。


 その問題は魔法の展開領域を、再び元の自分は縛らない形へと、シェルンに洗練された状態で修正する事。


 姫はその意図に即気づき、身体が遅延する状態でも懸命に魔導方程式をほどき、効果範囲を修正する。




 一方のシェルンは蹴り飛ばされたセティスが立て直し、戻ってきたところを迎撃する。


「アセリアどうした!?貴様、姫様に何をした!?」


 動きが緩慢になっているアセリア姫を見て、焦りが隠せないセティス。


 守護すべき姫君を危険に晒したことに加え、あろうことか何かを施された。


 姫を妹のように大切にしているセティス個人としても、近衛騎士のお役目としても、これは死活問題である。


「別に何も。少し難しい問題を出しただけです。」


 対するシェルンは、それまでと変わらず落ち着いて。


「セティス様にも、少しセラ様から教わった技術をお伝えしましょう。」


 それどころかなんだか先生役?が楽しくなってきたシェルンは、お役目そっちのけでセティスにも技を教え始める。


 いいのか?


「どういうこと、くぅ!?」


 疑問を呈すセティスに対し、シェルンは上段から叩きつけるような一撃を入れ、防いだ長剣と鍔迫り合いとなる。


 出会った最初の時とはまるで逆の形で、右手のダガーだけでぐいぐいとセティスを押し込んでいく。


「武器上に術式を構築しますが武器は関係ないので。術式をしっかりと見て覚えてください。」


 言葉と同時にシェルンのダガーに魔術式が展開され、魔法陣となり、セティスは言われるとおりにその術式を目に焼き付ける。


 彼女は騎士だが、当然魔法の才能も高い。


 そもそも女性である以上、筆頭騎士と言えども筋力で男性の騎士に勝る動きはできない。


 よってセラフィーナ達が推測した通り、セティスは非常に優れた魔法騎士である。


 セティスに限らず女性で高い身体能力を持つものは皆、体を筋肉で動かすように、魔力も使って動かしている。

 セティスはそのうえで魔力推進という独自技術を編み出して、他の者とは比較できない高加速を得ているのだが。


 シェルンのダガーに展開された魔法陣が輝き、魔法が発動した瞬間。


「!!」


 ダガーは一切微動だにせず、だがセティスが突如吹き飛ばされたように、不自然な形で後方へと離脱する。


 その勢いはあまり強くは無く、意図的に抑えられたもの。


「今の術式が使えますと。」


 後退したセティスを追うように、今度は一切の動きを見せず、シェルンも弾かれたように移動する。


「こうして自分も武器も急激に加速できます。通常の動きと合わせれば、かなりの速度を出せるかと。」


 セティスの爆発的加速、魔力を指向性を持たせて噴出するものと似たような効果だが。


「なんだ、この術式は。どうなっている?いや、この型だと消費した魔力が循環して・・・ばかなっ?」


 今目に焼き付けた術式を自身で構築しようとし、その組成に驚く。この形では、まるで加速に使った魔力が。


「はい、その通りです。流した魔力量が多いほど高速に移動できますが、その上で消費した魔力を循環して取り込む、無限移動の術式になります。」


 この術式。


 魔法の術式として見せてはいるが、実際にはセラフィーナもシェルンも無意識で自由に使いまくっている。


 世界との一体化、空間移動術式である。


 その術式の構成を読み取り、だがこれが飛行にも使えるトンデモ術式とは気づくことなく、その本質も理解できず。


 ただただ、循環する魔力という一点に驚愕する。



(こんな・・・いや、ありえないが。だがこれはっ!)



 セティスには信じられなかった。


 自分の超高速機動を支える魔力噴射と同等。


 いやそれ以上の移動速度を、魔力を実質消費無しでできる術式が存在する?


 そんなバカなことがっ!と思うが、自分の目で見て解析して、その魔力の流れを見極めれば納得せざるを得ない。


 なによりこの術式はアセリア姫同様、いやそれ以上にまだ入り口に入ったばかりのセティスには難しい、シェルンが纏っている金色の魔力を使っている。


「私もずっと使っていますが、開放していない状態ですと一度に流せる魔力が少なくて。ですが今はこの通りです。」


 そう言った瞬間、セティスの視界からシェルンが消える。


 ホーリーレイの直後、シェルンがセティスに一撃入れたあの時の速度。気が付いたときには自分のすぐ横にいたアレが、今はそれ以上の速さで見せつけられる。


「少し難しいですが、セティス様であれば多少練習するだけで、使いこなせると思います。」


 真うしろから声がして、完全に後ろを取られていたことにも、声を掛けられるまで気付けず。


(次元が・・・違い過ぎるっ!)


 見せられた高みに、筆頭騎士の脳裏に一瞬あきらめにも似た気持ちが浮かび上がるが。



「解けましたっ!これは凄い、なんて綺麗で芸術的な術式!」


 その耳にアセリア姫の、ものすごく嬉しそうな声が届く。


 魔法マニアの姫にとってこの問題は、この術式はそれを解析し、どうすれば自身を縛る部分を除外できるか考える。


 その過程はとても楽しくて、嬉しくて。


 またひとつ、新しい術が使える!


 それもこんなにも綺麗な形で。


 こうしてどんどん、新しい術を知り、織り成し、創っていけば。



 今まで救えなかったものも、助けられなかったものも。



 諦めていたことも、少しずつでも。




 できるようになるかもしれないっ!




 アセリア姫が魔法に魅入られた理由。


 王国の至宝とまで言われるになった、その理由。





(そうだ、アセリアは。私の大切な妹はっ。)





 二人で失意の底にあっても。


 どんなにつらい思いをしても。


 それでも彼女は前を向いて、立ち止まらないで決してあきらめないで。出来なかったことを糧にして、それ以上の悲しみを増やさないように進み続けた。




 あの時この姫君を、妹を一生護り続けると誓った、そんな自分をセティスも思い出して。



 それに目の前の少女は、先ほど確かにこう言った。



『セティス様にも、少しセラ様から教わった技術をお伝えしましょう。』



 つまりこの少女はこの戦闘の只中で、二人に対して魔法をや技術を指南しているという事。


 そして自分ならそれを受け取ると。



 そう、信じられているっ!




(私もこの高みにたどり着ける?いや、アセリアと共に、私も必ずこの世界にっ!!)



 一瞬諦めかけた心は、さらに強く前を、上を見つめて進む気持ちへと切り替わり。



「姉様!次はわたくし達の番ですっ!」


 戦いの最中さなかにあって。圧倒的に不利なはずの状況にあって。


 それでもなお努力し、高みを目指し登り続け。



 成長できることを喜び、心からの嬉しそうな雰囲気を纏うアセリア姫を見て。




「ああ!参る!」



 一瞬でも後ろ向きになりかけた己を恥じ、セティスもまたシェルンに相対し、教わったばかりの術式を必死に起動して。



 キィィィィン!



 また澄んだ美しい音が響き、高速度の打ち合いが始まる!


「さらに・・・速くなりましたねっ!」


 セティスの連撃、その速度は無限移動の術式を。


 まだまだ使いこなせないが、わからない事だらけだが。


 それでも覚えたばかりの術式を使い、実戦のなかで身につけて、それをさらに磨き続け。


 徐々に更に速度を増し、シェルンのダガーを掻い潜るように軌道を変て、長剣で打ち合う。向き合う。



 そのさなか、長剣にあしらわれた魔石がまた輝く。


 アセリア姫の創生した魔石。


 剣にあしらわれた、戦いに使っていない最後のひとつ。


 シェルンが一次開放した直後に軽く魔力を籠めた、姫君と騎士との繋がりをより強固に繋ぐ魔石。



剣の舞(ソードダンス)接続リンク!」



 姫の発した力ある言葉で、剣の魔石に籠められたセティスの魔力と、魔石を創生したアセリア姫の魔力がリンクする。


 そのリンク、繋がりはセティスが持つ剣に更なる力を。アセリア姫の持つ長杖の魔石ともリンクし、蓄積された膨大な魔力を、セティスの魔力としても扱うことができるという力を与えて。



遅延投影ディレイシャドウ!」


 この戦闘で、初めてセティスが技の名を口にする。


 それは剣技ではなく、力ある言葉で発動する魔法。


 リンクされた魔石の魔力で、セティスの斬撃ひとつひとつに対し、斬撃ごとに遅延した影が発生し。


(斬撃の複製!?違いますね、これは全く別の!)


 それまで1本の剣の、一筋の斬撃と打ち合っていたシェルンに、セティスの影の斬撃が重なり。


 複製ではなくひとつ前の剣閃が次の剣閃に重なり、さらに次の攻撃では二つ前の剣閃も重なって、一閃三斬となる。


 剣の舞、その斬撃を遅延させた影の自分で重ねて。


 その段数は6段。発動してから6撃目以降の斬撃は、全て直前の5本の斬撃と同時に繰り出される。


 そんな、魔法の剣舞。


 ただでさえ超高速のセティスの斬撃が、同時に6閃。


 もはやそれは線ではなく面の攻撃。その軌跡上にいて、躱すことは不可能な密度で。


 魔法の斬撃もセティス自身の剣も、シェルンは全て両手のダガーで切り払っていく。

 だがそのひとつひとつが、超重武器であるセティスの長剣そのままの威力。


 さすがにシェルンはその全てを切り払う事を諦める。


 斬撃が増えてもセティスの剣の舞は全く変わらず、いやむしろ無限移動の術式でさらに高速化されて、今までと比べても相当の速さになっており。


「これは、そのまま打ち合うのは無理ですね。」


 シェルンは冷静に離脱して攻撃を躱すが、当然それをセティスは追いかけ。


「逃がさんっ!アセリア!」

「はい!姫百合槍リリウムランス!」


 アセリア姫が新たな魔法を発動し、先ほどの位置関係のままシェルンの背後を取っていた姫が、魔法使いなのに真っすぐ突っ込んでくる。


 その姫の周りには、魔力で作られた白く輝く槍が花弁のように並び。


「撃ちます!」


 掛け声と同時にシェルンの周囲に向けて放たれ、セティスの剣閃から逃れる道を塞いでいく。


 その槍撃そうげきはすべてセティスの剣閃に連動するように、シェルンの行動を阻害するように綺麗に連携する。


(素晴らしいっ!見事な連携です!)


 息の合った二人に感嘆し、完全に逃げ道を塞がれ。


 教えるため、諭すため以外にこれまでの戦いで一切技を、魔法を繰り出してなかったシェルンが。


 自分で編んだ魔法を、この戦いで初めて繰り出す。


 逆手に持つダガーを角度を付け構え、魔力を籠めて。



「ミストラルダンス」



 アセリア姫のように強く力ある言葉を放つのではなく。


 あくまで静かに、穏やかに。


 言葉と共にクリスタルのダガーは、透き通ったその刀身に金色こんじきの光を宿す。


 セラフィーナに借り受けた魔力をもとに、自らが試行錯誤し、編み込み、創り出した魔法。


 自身の戦闘スタイル、武器に合わせて構築した術式。


 セラ様謹製じゃないので、それっぽい名前もついている。


 大きい声で発動するのはちょっと恥ずかしいので、あくまで静かに。だがその魔法は、効果は絶大で。



 魔力を籠めた両のダガーを握り、その場で回転して自身の周囲を切りつける。動いたのはたったそれだけ。



 そこにキラキラと舞う、金色こんじきの透き通った粒子が溢れ、優しい風のように渦を巻き。

 迫る光の槍も影の斬撃も全て優しく溶かして、光の粒子になって消えていく。


「えっ?」「これもかっ!」


 魔法が溶け消えるという現象をはじめて見たアセリア姫は驚き、ホーリーレイに続き二度目のセティスは気づき。


 回転する刃にセティスの実体の剣もはじき返され。



「きゃあ!?」「くあぁぁ!」



 突撃の勢いのままその渦に触れたアセリア姫と、セティスは巻き上げられ、一瞬ではるか上空まで飛ばされるっ!



 シェルンは手加減しているので今回は上空で済んでいるが、本気で放ったそれに巻き込まれたものは、二度とその地には戻ってこれない、これはそういう技で。


 ダンスの名がつく通り本来は縦横無尽に舞い踊り、全ての攻撃を無効化しつつ、全ての敵を巻き込み放逐する。



 攻防一体の、広域即死攻撃である。



 高い位置からキラキラと渦を巻いて舞い踊る、金色の粒子。


 その光景を見て、姫は場違いにも綺麗!なんて思ってしまうが、上昇が止まってかなり高い位置まで飛ばされた二人はそこから自由落下して。



「きゃあああああ!」



 いくら地上で高速機動戦闘ができても、アセリア姫は飛べない。スラスター加速、魔力の噴射による疑似飛行は、セティスだけのオリジナル魔法である。


「アセリア、こっちへ!」

「ね、姉様!」


 教わった無限移動術式が空中すら移動できる、そんな事実をセティスはまだ知らない。

 術式のポテンシャルも理解しきれていない為、無意識で制御できる魔力噴射で自由落下を始めた姫の元まで移動し、その手を引き寄せ抱き締める。


「姉様っ」「任せろっ」


 姫を保護できれば次は何とか墜落を免れようと、重力に逆らって全力で下方へ魔力噴射する!



「はあああああああっ!」



 気力を振り絞り、自由落下でかなりの速度まで加速していた姫、そしてそれに加速して追いついた自分自身。


 二人分の落下エネルギーを、相殺するために全力で魔力を放ち続ける。


 その腕の中で、アセリア姫は急速な落下に震え・・・ることは無く、その視線は地上に居るシェルンを捉え。



 セティスが必ず護ってくれると信じているアセリア姫は、今までの魔法が全て避けられ、弾かれたことを考慮して。


(あの方の防御、通常の魔法の攻撃だけでは金色の光で中和されてしまう。

 物理攻撃を織り交ぜても、ホーリーレイもランスも。


 直線的な動きは全て避けられる。でしたらっ!)



 今までのシェルンとの攻防、そして教え諭されることで分かった、その真意。


 彼女の動きは、教えは全て自分の魔法を、姉様の剣舞を、二人の考えを一段階、押し上げるためのもの!



 そうと悟り、考え、織り成し、紡いで。




 たった今創り出した、新たな魔法を解き放つ!




姫と騎士、二人がどうしてここまでの高みにたどり着いているか…


分かりやすい理由なので皆様お気づきかと思いますが、本章後半で語る予定です。

それにしてもチートシェルンさんが強すぎます…。


たかだか人生20年前後の姫と騎士が、1800年以上の時を過ごしている戦闘メイドに、ここまで善戦できていること自体が異常、ではありますが^^;


ちなみに知識がないので色々間違ってるかもですが、お姫様の使う彼女だけのオリジナル魔法は、お花の名前や花言葉とか。

あっちのお姫様と違って、お花が好きな純真清楚なお姫様です。

あっちのお姫様…好きなもの…たべもの?(´・oo・`;)


ストックが残り2話ですので、毎日更新はたぶん明日、明後日が限界の予定です。

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よろしくお願いします。

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