1-2:考察と撮影風景
前回完全に悪役だった主人公ですが…
今回も主人公の紹介がまだちゃんとできてません。
普段は冷静で、常に穏やかなアセリア姫が声を荒げる。
その姿に危機感を覚えたセティスは、姫から映像を隠すように抱き、優しくポンポン、と背中をたたいた。
このような姿のミリエラを、慈悲深く誰の命も大切にする姫には、これ以上見せたくない。
しかし、この場に居合わせたものの気持ちなどまるで考えていないように、魔女の話は続く。
『大切な親友が魔女の手にかかり、二度と会えなくなる。
そのような事が無きよう、アセリア姫様には、賢明なる判断を願っております。』
『もちろん見て頂いた通り、わたくしはミリエラ様には、傷ひとつ付けておりません。
約束の日までは大切に預からせていただきますので、その点はご安心ください。』
(なにが大切に、だ。姫様の心をこれほどに乱して傷つけておいて。貴様が魔女であれ何であれ、私が必ず斬る!)
冷静に、強く強く怒りの炎を心に宿し、セティスは球体をにらみつける。その中にこの魔女の手がかりがないか、見定めるように。
『今日より三日後、アセリア姫様にお会いできることを、 心より楽しみにお待ち申し上げております。
それでは、ごきげんよう。』
一方的に見た者の心をかき乱した、魔女からの魔法のメッセージは、これで終わっていた。
「・・・・・」
誰も何も言えぬまま、しばし沈黙の時が流れる。
皆今目の前で起きた事が信じられないとばかりに、姿を映す球体の形をした書簡を見つめていたが。
その球体は魔力が切れたのか、唐突に光の粒子となり消えて、映し出されたミリエラの姿も見えなくなる。
それを契機に、重苦しい空気の中、ふぅ、と息を吐くと国王が口を開いた。
「これはどういうことだ。ミリエラ嬢は攫われたのか?
その、いにしえの魔女を語るなにものかに。」
語られた内容も、映し出されたミリエラの姿も。
この場に居合わせたものは、誰一人として信じられないという表情である。
だがこの場には既に、信じたくなくとも確たる事実として横たわるものがある。
まずはその書簡。
過去から現在に至るまで、魔力で作り出した球体に人が動く姿を映し出し、声を伝える魔法など存在しない。
そんなことができるとすれば、それこそ伝説の魔女であっても不思議ではないと思わされる。
次にその内容。
落ち着いた、丁寧な物腰で語られたその内容は、語り手の美しく優しい声音とは真逆であり、決して受け入れられるものではない。
なによりミリエラは、アセリアにとって幼いころからの親友であると同時に、一地方を治める領主の娘である。
攫われ、囚われているとなれば国も領主も黙っているわけにはいかない。
最後に、その名。
高度な魔法の書簡をしたためた者が名乗った二つ名。
この世界において、既に歴史、伝説の登場人物なっているその名前。
「かの魔女の伝説は1500年以上も前の話です。
仮に歴史が真実だったとしても、その魔女が現代によみがえり、なぜアセリア様を狙うのでしょうか?」
秘書官が率直な疑問を口にする。それに対し国王は
「理由は分からん。だが仮に伝説の魔女であれば、なぜこんな、回りくどいことをする?」
不確実な相手の存在よりも、まずは現実的な観点で話を切り返す。
「伝説通りであれば、魔女がこの城に乗り込んできても誰も抗えまい。ミリエラ嬢を攫う必要がどこにある。」
王族でありながら騎士団長を務めた過去を持つ美丈夫、現国王クラード・アル・フィルメリアは、そこに不自然さを感じていた。
自身もかつては魔獣討伐に何度も出向き、戦いというものを身に染みて理解している。
魔法は得意ではないが、最前線で戦い続け、自軍の放つ魔法も、魔獣が行使する魔法も数多く体験している。
だが伝説、歴史に残る魔女の所業は。
自分が戦いで経験してきた魔法とは全く異なるものとして記されている。
曰く。
降り注ぐ鋼の雨に、一万以上の兵が一瞬で壊滅した。
曰く。
街を飲み込み、城すら破壊するほどの猛烈な風が吹き荒れる、巨大で竜巻を引き越した。
曰く。
魔術師が百人がかりで発動させた大魔法を、片手の一振りで消滅させた。
日々研究、進化している魔法技術であってさえ、そのような規模の殲滅、破壊は不可能である。
魔法をかき消す魔法など見たこともない。
対となる属性、例えば炎の魔法に氷の魔法をあてて、威力を削ぐか、対消滅させるのが限界だ。
伝説通りの力があったとすれば、人質などという回りくどいことなどせず、単騎で城に乗り込めば全て終わる。
抗うことなど決してできない以上、相手は伏して魔女の要求をのむか、玉砕するしかない。
「たしかに伝説にある魔女であれば、お父様の仰る通り、わたくし達が抗う術などないのかもしれません。」
父王の疑問に、アセリア姫は自分の考えを率直に返す。
「そして直接わたくしが襲われてない以上、語っているだけかもしれません。ですが…」
セティスから身を離すと、瞳に隠せない不安と、それでもその中に強い意志を湛え、父王に向き直る。
「お父様。この書簡に施された封印、そして言葉と姿を伝えるあの球体の魔術も。」
書簡、そして自分の掌を一度見つめ、父王に向き直り、言葉を繋げるアセリア姫。
「それを成した者が、かの魔女であれ違うのであれ。
少なくとも神聖魔法、いえ、魔法に関する全ての技量は、わたくしを遥かに凌駕しております。」
その言葉を聞き、セティスを除く皆の表情が強張る。
アセリア姫の技量については、皆よくわかっている。
王女という身分でありながら、どれほどの努力をしてきたか、どれほどの苦難を乗り越えてきたか。
そして今まで、皆が、王国が誇る王宮魔術師すらたどり着けない、高みに至ったその力を、どれだけ民のために使い、人々を助けてきたか。
彼女が訪れた地で、病に伏したものが笑顔を取り戻さなかったことは無い。
彼女が参加した討伐で、重傷を負わされた者も、命を落としたものも一人もいない。
一般的な回復魔法よりも遥かに速く、そして広範囲にわたって効果を発揮する、姫だけが使えるハイ・ヒーリング。
あらゆる魔獣の攻撃や魔法をはじき返し、兵たちに一切傷を付けさせない強力な防御結界。
病気の種類、症状によって綿密に術式を組み替え、国に蔓延った疫病でさえ撲滅させたキュアフォース。
そして、魔力の光を収束して解き放つ、耐えられた魔獣がいないという攻撃魔法、ホーリーレイ。
あらゆる面で神聖魔法を極め、状況により組み換えて対応する柔軟さも持ち合わせた、王国の至宝。
そんなアセリア姫が、王国でも類を見ない程の神聖魔法のエキスパートが、自分を遥かに凌駕すると言ったのだ。
この瞬間、魔法戦となれば抗う術はないことを、一同は理解した。
「あれほどの魔術を扱えるものが、ミリエラさんを攫ってまでわたくしを呼びつける。
そこに何か、糸口があるかもしれません。」
不安を抱きつつ、恐ろしい力を持ちうる者から、必ず友を助けると、決意に満ちた、しかし悲痛な面持ちで、周囲を見回すアセリア姫。
「なによりもミリエラさんの安全が第一です。
あぁ、無事でしょうか?見る限り、あまりよい扱いは受けてないようでしたが。」
親友の身が心配で居ても立っても居られない。そんな様子のアセリアに、落ち着いた声がかけられた。
「アセリア様。お気持ちは分かりますが、まずは冷静に。
魔女の狙いはアセリア様と明言されてます。そこにあなた自身が赴く愚は避けねばなりません。」
「それは、分かっておりますわ。ですがわたくしが行かなければ、ミリエラさんはどんな仕打ちに遭うか。
セティス様。何か良い案はございませんの?」
アセリア姫にとってセティスは近衛である以上に、絶対の信頼、そして親愛の情を寄せる、最高の理解者でもある。
今この場において、アセリア姫が最も頼りになるのは間違いなくセティスだ。
その想いを乗せ、この状況の打開策を訪ねるが。
「今はまだ。何にしても情報が足りません。
3日後までにできる限りの情報を集め、そのうえでの最善を探すしかないかと思います。」
セティスは姫の期待を一身に背負い、しかしその言葉は冷静で落ち着いた、消極的とも思える方針を導き出す。
セティスの言葉は国の軍事を預かる者として、当然のことである。
猶予が少ないとはいえ、相手の事が何もわからぬままに行動は起こせない。
なにより相手の目的がアセリア姫である以上、姫を危険にさらさないことが何よりも重要だ。
「陛下。まずはシェフィールド卿へ事の伝達と、シェフィールド領の状況確認を進めます。」
状況確認。この場に居るものは皆その言葉の意味を正しく捉えた。
昨今、特に今年に入ってからは、シェフィールド領については不穏な噂が絶えない。
誠実を絵にかいたような領民想いだった現領主、
グライス・アル・シェフィールドが、近年様子がおかしいという。
三年前に奥方を亡くし、その後しばらくは何事もなかったが、詳しく調べると領都だけは税率が少しずつ上げられ、徐々に領民に負担がかかるようになり。
今年に入ってからは重税を課し圧政を行うようになったと言われている。
国王にとってグライスは騎士団時代からの旧友でもあり信頼できる男だ。ゆえにその噂は信じがたい内容だった。
何度か真相を確かめるべく、王はグライスの元に自ら直接赴き、直接会って話した。
また、間者を派遣して街の様子を調査させた。
しかしその結果は白。噂は噂だけという結果だった。
明らかにおかしい。それならなぜそんな噂が立つ?
セティスの言葉は、言外に脅迫状と領内の噂、問題は関連があるのでは、と語っていた。
「併せて指定されたホルン岬に斥候をだし、魔女の居城を探させます。」
場所が明確に指定されているのだから、当然その場の調査も行う。
魔女の指定した日程にならずとも、居城を突き止め、ミリエラを見つければ救出するのが最善である。
「わかった。セティス、此度の対応について指揮は任せる。騎士団長としての行動をお願いする。」
「承知しました。その間アセリア様の護衛には、私に代わり3名付けます。
姫様、私が離れても勝手な行動は慎んでくださいね。」
「大丈夫ですわセティス様。もし仮にわたくしが動くとなっても、その時は必ず貴女と共に参ります。」
絶対の信頼をその目に宿し、頼れる騎士団長、セティスを見つめるアセリア姫。
セティスは頷くと、一言挨拶をかわし部屋を退出した。
「それにしても、災厄の魔女だなんて。
ミリエラさん、どうか無事でいてください。」
沈んだ表情で親友を案じるアセリア。
球体に映し出された、ミリエラの首を撫でていた繊手が、今は何よりも恐ろしい。
純真に育った姫だからこそ、もし言い伝えが真実であればと考えて、あの手がミリエラの細い首を。
想像するだけで、震えが止まらない。
―― その、フィルメリア上層部を震撼させた脅迫状の製作工程はこんなのだった。
「じゃ、ミリエラ様、手枷で鎖につないじゃいますね。」
ゴシック調の黒いメイド服を着た少女が、どこからか取り出した手枷をミリエラの両腕にはめて。
ガシャン!え?手枷?
ジャララララ!「わ、わわわ!?」
「ではシェルン、お手紙の魔法、発動しますわよ。」
なぜかパールホワイトの美しいドレスを纏った、高貴なお姫様?が言うと、ほわぁぁん、と水晶のような球体がその場に浮かび上がり。
「おー、この角度いいですね!
囚われのお嬢様感がすごいです!」
「ちょ、ちょっとお二人とも?
コレどういう事なんです?お手紙の魔法って?」
「あ、ごめんなさいね。
ミリエラさんは少し静かになさってください。
目を閉じて少し下向き加減で。」
「はい?えっとなんででしょう?それとなんで手枷を?」
「ミリエラさん、実は脅迫状なんですが。
文字じゃなくて姿と声で送れるんです。」
メイド少女。名をシェルンという、が答える。
「へ?」
「そういう魔法なんです。
だから、囚われのミリエラ様を演出するんですよ~。」
「そ、そうなのですか?よくわかりませんが。では。」
目を閉じて下を向くミリエラ。とても素直である。
「それではセラ様、それっぽい脅迫のメッセージ。
お願いしますね。」
「はい。わたくしがメッセージをお話する間、お二人ともお静かにお願いしますわ。」
お姫様のような出で立ちのセラフィーナがそう言い、二人の様子を確認する。そして。
「フィルメリア王国王女、アセリア・エル・フィルメリア様。はじめまして。」
脅迫状のメッセージを音声でしたため。
「...それでは、ごきげんよう。」
一通り語り終える。
「はい。オッケーですよー。
ミリエラさん、手枷取りますね。」
「もう。いきなりでビックリしましたよ。
それで手紙って出来たのですか?」
「ふふ。ご覧になります?はい、どうぞ。」
「うわー、これ見たらアセリア様だけじゃなく、セティス様も絶対キレますよ。」
「あらあら、それは楽しみですわ。セティス様にもお会いできますわね。」
「いえ、セラフィーナ様?セティス様は全力で貴女を斬るつもりで来られますよ。」
「ええ。高潔な騎士団長様の全力のお力。
今からとても楽しみですわ。」
「ミリエラ様。セラ様は強くて高潔な方と戦うのがとても好きなんです。変な趣味ですよね。」
「そうなのですか?それは、セラフィーナ様が負ける姿は想像できませんけど。」
でも、セティス様も、本当にものすごくお強いんですよ、と思うミリエラの横では。
「ねえシェルン。今わたくしの数少ない楽しみを、変な趣味と仰いまして?」
「変ですよ。ミリエラ様もそう思いますよね?」
「はい。その、戦いが楽しみというのは。
私も変だと思います。」
「そんな!?ミリエラさんまで!?どうしてですの?」
災厄の魔女を名乗るセラフィーナ。
その侍女のシェルン。
そして攫われたはずのミリエラ。
三人はとてもとても仲よさそうに、和気藹々と談笑しており、アセリアの元に届いた脅迫状は、悲劇のミリエラを演出した、偽装誘拐だった。
次回はようやく、主人公と侍女のちゃんとした紹介がある予定です。たぶん…




