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2-9:染まり切った魂

お話が一向に進みません。困りました…

 シェルンに連れてこられたレアニールがミリエラと再会し、ひとしきり喜びの時間を共有したあと。



 落ち着きを取り戻してから、改めて紹介する。


「シェルンさん、本当にありがとう。レアニール、こちらが私を助けて下さったセラフィーナ様。」


 大切な侍女を助けてくれたシェルンにお礼を言い、ミリエラはレアニールに自身の恩人を紹介する。



「は、はじめまして!ミリエラ様付きの侍女をしております、レアニールと申します。

 この度は、ミリエラ様を、お嬢様をお救い頂いたと、シェルン様から伺いました。



 本当に、ありがとうございます。」



 聞いた侍女は深々と頭を下げる。


 ミリエラの恩人という、この。




 お姫様スタイルのセラフィーナが恐れ多すぎて!



 感謝の気持ちが溢れ出す中、レアニールはそれ以上に、生涯最高の緊張をしていた。



「ふふ。頭を上げてください。


 はじめまして。セラフィーナと申します。


 あなたがご無事で、本当によかったですわ。」


 穏やかに挨拶するセラフィーナだが。


 そう言われても平民であり、領主様ですら恐れ多い。そういったごく一般的な庶民感覚を持つレアニールにとって。



 目の前のお姫様は、高貴に過ぎた。



 まるであのアセリア姫様と直接お話しているような、雲の上の過ぎる存在と相対しているような。


 フィルメリアの一般国民としては、そんな感覚。


 なんでこんな、普通に考えれば人が入れないような離島にいるのか?とか。


 どうしてそんな恰好でいるのか?とか。


 スラムで会った時のミリエラと、同じような疑問を抱きつつ、恐れ多くて何も言えない。


「レアニール、大丈夫よ。セラフィーナ様は見ての通り、とても高貴なお方だけど。


 すごく優しくて、思いやりがあって素敵な人だけどね。


 それとね。」


(それと?)


 ミリエラの言葉に、頭の中で疑問符が浮かぶ、レアニールとセラフィーナ。


(わ、わたくしが素敵というのは嬉しいですが。)


 素直に喜びつつ、続きが気になるセラフィーナに。


「すごく天然な、ちょっと抜けたところがあって、可愛らしいポンコツさんなんですよ。」

「お嬢様!?そんな、恐れ多いことをっ。」

「ちょちょちょっとミリエラさん?それはどういうことですの?」


 恐縮してミリエラを嗜めようとするレアニールと、あたふたと大慌てで抗議するセラフィーナ。


「セラ様、ミリエラ様ってすごいですね~。一日でセラ様の事、しっかり分かってらっしゃいます。」


 シェルンはニコニコ笑顔でミリエラを支持して。


「シェルンまで!?いつもいつも!まったく、わたくしのどこがポンコツですかっ」


 お姫様はぷんすかっ!という表現が似合いそうな、まるで威厳の無い可愛らしい表情で侍女に詰め寄る。



「え、えっと、その。」


 それを見ていたレアニールは困惑するしかない。


「だってセラフィーナ様。今朝方も寝着のままでお出かけしようとされましたよね?」

「ミ、ミリエラさん。それはシェルンの前で」

「ちょっとセラ様、私がいないと早速ですか?」



「そ、それはその、えっとですね。そう、そうですわね。えっとそのぉ・・・」

「言い訳すら思いつかないのですね。ミリエラ様、ありがとうございます。」


「いえ、セラフィーナ様にはシェルンさんがいないとダメなんだなって、早速思いました。」


「あはは。ですよね~。私も大変なのです。」


「あ、あなたたちっ!?もう・・・」



 当たり前のように、笑顔で。


 本当に楽しそうな笑顔で。


 二人の少女とやり取りするミリエラを見て。


 あっけにとられていたレアニールは。



 昨日、父の部屋に向かう時のミリエラが。あれほど追い詰められた顔をしていた、お嬢様が、満面の笑みで。



 自分も嬉しくなって、妹を見守る姉のように、少女達を見つめるその瞳はまた。




 嬉しい涙で、潤んでいた。




 ―― そして。


 シェルンが到着した時にぞんざいに放り出されていた、気を失ったままのシェリーヌにミリエラが驚き。



 その所業を聞いて、それでも今のミリエラは取り乱す事も無く、冷静に受け止めた。



 彼女への聴取は、もう少し後である。




 だって、おうちに帰れないんだもん。




 ―― まだ離島の上で、そろそろ夕刻も近くなり。


「おうちの周り、まだ騎士団の方が調査してますわね。」


 シェルンに斥候となってもらい、上空からの自宅周辺確認をお願いし、今はそのシェルンを起点に自宅上空からの魔力視を共有しているセラフィーナ。


 自分の脳裏に映る情報をもとに、離島で一緒にいるミリエラとレアニールにも状況を伝えていく。


(シェルン、ありがとう。状況は分かりましたわ。戻ってきてください。)

(分かりました。すぐ戻ります。)



 ―― 上空から見られていたことなど知らず。


 調査を進める騎士団第二大隊、六班の面々は、さしたる成果もあげられず、その表情には焦りが見えていた。


「副隊長、ここまで調査しても何も見つからないとなれば、やはり、ここには何もないのでは?」


 隊員の兵士の言葉に、レイノルドはしばし思案する。



(確かに何もない。だが僅かに何か、魔力の痕跡があるように感じる)


 レイノルドは実力で、若くして副隊長の地位を拝命している。つまり他の隊員と比べれば、スペックは非常に高い。



 魔法に関する素養も騎士団員の中では上位である。


 故にこの鉱山跡に感じられる魔力の揺らぎ、セラフィーナの隠蔽魔法に気付きかけていた。


 しかし、どれだけの実力があっても。


 まさかその建物が、岩山の切り立った絶壁。


 下からはとても登れないような、そんな絶壁の上に建てられているなど、常識として思いつかない。


 お姫様も侍女も、飛んだりワープして、この建物の前や中に移動するので、鳥みたいな行動をしている人外の感覚は、一般人には理解できないのである。



 当然隠蔽魔法により視覚は一切その建物を認識できず、だが魔力の揺らぎは感知し、見当違いの位置を探し続ける。


 そんな調査がひたすら続き、レイノルドは調査を始めてからずっと、もやもやとした違和感に苛まれていた。



 ちなみにセラフィーナは隠蔽魔法をおうちに行使する際、

「こんな場所なら誰も気付きませんわ。隠蔽も最低限でよろしいですわね。」


 なんてお気軽に手抜きで隠蔽してるので、この時代において、実力が高い者であれば気づける。


 そんな程度の代物だった。


 王宮魔術師やアセリア、セティスが来てたらモロばれである。




 ―― 同時刻。


(ヤツら何も見つけられんな。ここは見当違いか?)


 六班が調査している様子を、遠くから見ている者がいた。


 もちろんセラフィーナ達ではなく、調査で派遣されている第二大隊の隊長、ウィンストである。


 若い娘、シェルンの事を調査で知った彼は、その所在地と思われる鉱山についてはとっくに把握していた。

 だが自分たちがそこを調査して、もし本当にかの魔女がいた場合、最悪こちらが返り討ちに遭う。


 それを避けるため鉱山の情報を村で入手した時、あえて調査を行わず、かといって情報のみをレイノルドに渡すと、なぜ調査してないか怪しまれる。


 ならばすぐに分かる情報となるよう、若い娘の存在は伝えて鉱山の事は伏せておけば、レイノルドであれば、いや、少しでもまともに考えるものであれば。


 鉱山が怪しいことに気付き、勝手に動く。


 そうなればレイノルドの隊に危険な可能性がある調査を任せ、自分は状況を見てから動ける。

 常識の範囲内において、自身の保身には常に気を使っている。


 ちなみに2、4、6班、つまり昨夜からの夜間行動中は待機、仮眠をしていた偶数班の内、6班だけがウィンストの思惑通りにならない。


 他の班の班長、含まれる各小隊の小隊長は、全てウィンスト子飼いである。


 ウィンストの狡賢い、表向き立派な騎士と思われている所以として、彼は子飼いを含め大隊の隊員には、非常に愛想がよく面倒見も良い。


 レイノルドが内偵していることに気付いてはいるが、彼に対しても温厚に、普通の上司として接している。


 周りにそれなりの地位の者、身分がある者が居れば、決して後ろ暗い部分は見せない。

 彼がその本性を見せるのは同じ穴の狢の前か、権力で抑え込める、平民の前。


 そして、何かをしても証拠が隠滅できる。そのような状況の時だけである。



 そんなウィンストも調査の状況が芳しくないことに加え、昨夜の調査の疲れもあり、そろそろ仮眠を取ろうと考えていたが、そこへ子飼いの中でも、重用している男が。


 要するに同じ穴の狢である、一人の兵士が近づいてきた。


 その兵士は周りの兵、ウィンストの子飼い以外を気にしつつ、隊長の傍まで行くと耳打ちする。


「隊長、彼らからの連絡です。」


「なんだ?ミリエラの事は奴らも掴んで無かったが、なにか進展でもあったか?」



「いえ、それがその。シェフィールド邸にて任務遂行中のシェリーヌ様が、戦闘行動後、消息不明になったと。」


「なんだとっ!?あの女が消息不明?」


 大きな声を出しそうになり、慌てて抑える。


 だが報告に驚愕し、一瞬で眠気が吹き飛んだ。


 シェリーヌ。


 ウィンストがある計画に加担し始めた四年前、ごく少数の者で行われた密会で出会った、怪しい雰囲気を持つ蠱惑的な美女である。


 この国は国王の善政の元、貴族も清廉潔白に、民の為に生きる事を求められる。


 そんな国にあって、貴族として、領主として、権力を傘に好き勝手出来ない状況が疎ましい。


 同じ領主として、伯爵位をもつ貴族として、崇高な理念を持ち善政を敷くグライスが疎ましい。


 そんなウィンストはシェリーヌにとって、彼女が所属する、とある組織にとってとても都合がよかった。


 ウィンストが治める地は王都の南東。王都を挟み、シェフィールドからは南側に位置するレーベルグ領である。


 酪農、牧畜を中心とする、広大な牧草地帯からなる領土であり、シェルンが太鼓判を押したバターはここの名産だし、国の大切な食肉、乳製品は、レーベルグが支えている。


 海のシェフィールド、陸のレーベルグといった感じで、フィルメリア王国にはなくてはならない領土である。


 レーベルグの南、他国との国境となるフェルムス領と比較すれば、穏やかでのんびりとした、過ごしやすい領地。


 だがその一方、他国の国境として街が発達し、経済活動も活発なフェルムスと、国内で最大の経済都市でもある、王都フィルメリアに挟まれた位置関係にある。


 活気のある地に挟まれながらも、煌びやかさも賑やかさもなく、あるのは今を懸命に生きる者達と広大な平原。


 酪農、畜産を主とする人々の領。


 要するに、ウィンストにとってはつまらない田舎である。


 そんなところで育ったウィンストは、都会の煌びやかな、華々しい生活にあこがれて、領主家の者でありながら、田舎としか感じられない地での生活を疎ましく思っていた。


 本来はとても優しく暖かい、人情に溢れた地での生活だったにもかかわらずである。


 そんな彼は気が付けば策を弄し、他者を蹴落とし、煌びやかで私欲に満ちた生き方を求め続け。


 先代当主である父が亡くなり、自身が当主の座を継いでからは、家の名を使い、コネを使い、騎士団大隊長の肩書を実力ではなく裏工作で手に入れた。


 その後はその権力に心酔する者たちを探し、子飼いを増やして部隊の大半を自分に都合の良い、貴族にへつらう、志の低いもので塗り固めた。



 更に任務に乗じて、彼は子飼いだけを引き連れた任務で悪逆非道に堕ちる事になる。


 悪逆非道。


 魔獣被害の救援に行った辺境の小さな村に、子飼いだけを引き連れた任務で、討伐完了時にかなりの被害が出た村の、ごくわずかな生き残りを。


 その中に含まれていた若い娘を子飼いに好きにさせた。


 そして国には討伐任務は成功したものの、救援は間に合わずに、村は全滅したという報告を上げ。


 子飼いの部下を共犯者という形で、完全に掌握した。


 騎士団大隊長という権力を歪んだ形で行使して、人を己の意のままに使えるという、権力欲に溺れた男。


 そんな男はいつしか国の善政を壊し、より巨大な権力を得ることを求め始めた。

 温和な仮面、部下想いの良い隊長という見せかけの裏で、私利私欲がまかり通る状況を作れないかと野心を滾らせ。


 ある時そんなウィンストに接触してきた、国家転覆を企む組織の工作員がいた。


 その女はシェフィールド領をターゲットとし、あの忌々しいグライスを篭絡し、貶めて、民に裁かせるという。

 ウィンストにとって、この上なく歪んだ欲望を満たす、最悪で、最高の提案を打ち出した。


 グライスという男に一方的な恨み、妬みを持つ男に、その提案はとてつもなく甘美なエサとなり。


 最初はそんな事が出来るのか、半信半疑ではあったが。



 この怪しい雰囲気を持つ女と何度か夜を共にしてからは、ウィンストは完全に女を信じ切っていた。



 いや、都合のいい傀儡となっていた。




 そして計画を開始してから3年と少しが経ち、シェリーヌとそれが所属する組織は予定通り暗躍を続けた。


 当初の予定通りシェフィールド卿夫人を亡き者にして。


 シェフィールド領都を中心に、領内のほぼ全域を覆い尽くす、広範囲の思考誘導魔法陣を施し。


 グライスを篭絡して、魔法で傀儡にして。



 領内の反抗勢力を情報操作で作り上げた。



 領都全域という広大な範囲を対象に、人々の思考を誘導する恐ろしい魔法を構築してしまう。


 そんな、強大な力を持った組織。



 彼等は崇高な男の心を壊して傀儡に貶め、ウィンストの歪んだ欲望に最高の快楽を齎した。

 その組織に誘ってくれた最高の女は、その身にも心にも、夢の様なひと時を与えてくれた。



 自分が利用されてるとも気付かずに。



 ウィンストはその組織の力に、思惑に。


 蜘蛛の糸で絡め取るように、欲望の鎖で縛りつけた女に。



 完全に染め上げられていた。



 そんな自分にとって、既に無二の存在となった女が消息不明になった。


(馬鹿なバカなばかなっ!アレが、あの女そんな簡単にっ?なにがあった!?なぜ行方が分からなくなったっ?)



 混乱する。


 あの女は確かに工作員ではあったが、騎士団大隊長を拝命している自分から見ても明らかに格上。


 戦って勝てるビジョンなど一度として見えたことが無い。


 もちろん、この男は騎士としての実力ではなく、爵位を武器に騎士団に取り入った男である。


 数々の武勲を上げたのも、自身の欲望を満たすため。


 貴族教育の賜物として指揮能力はそれなりに高いが、一人の騎士としては、並以下の実力である。


 同じ隊のレイノルドとは比べるべくもない。


「その、隊長。報告はまだありまして。その時に一緒にミリエラの侍女も消えたそうです。」


「侍女もだと?どういうことだ?」


 侍女など消えたところで、何がどう変わるのか。



「彼らが推測するに、ミリエラを攫ったものとシェリーヌ様と戦闘し、おそらく攫ったもの。


 その侍女も確保されたという事は、同じものの可能性があると。」


(・・・・・・)


 思案する。


(同じものとすると目的はなんだ。アセリア様をここに来るよう要求したのは何のためだ?)


 状況と書簡の要求を照らし合わせ、計画が露見しているなどとはしらず、頭の中で整理していく。



 まさか、その書簡を送った魔女が。


「王国の至宝とまで言われるアセリア様と、騎士団長のセティス様にはぜひともお会いしたいですわ!(キラキラ)


 そうそう、ついでに王国の膿を出しますわっ!


 計画?先につぶしますわよ?」


 なんて考えてることは、一切思いつかない。


 セラフィーナが動いてしまった時点で、計画が既に破綻していることを、彼はまだ気付かない。



 そして欲深い彼の業は、自分に都合の良いように物事を、今起きている状況を解釈して。


(ならば魔女の居城さえ見つければ、ミリエラもシェルンとかいう女も見つかって。


 同時にシェリーヌも救い出せるのではないか?)



 そうすればかの組織からの評価も上がり、国家転覆後もより高い地位を戴き。


 より良い条件で、権力で好き放題できるようになる!


(ミリエラも見つかればそれを利用して、あの若造も。うまく魔女のせいにすればいけるか?)


 功名心と欲望を滾らせ、謀略を巡らせた男はこの任務を、私利私欲の糧として計算をする。




 その行いが、人の心を、想いを大切にする、優しくて悲しい魔女、王女の逆鱗に触れるとも知らずに。




 ―― ホルン岬沖の離島で。


(えっ?)


「セラフィーナ様?どうされました?」


 離島の上から陸地、岬の根本にあたるある一点を、いつもの微笑を浮かべず眺めているセラフィーナ。


 一緒にいるミリエラにとって、初めて見る表情。


 いつも優しく、慈愛の微笑を浮かべているのに。


 そんなセラフィーナが、その微笑みを消して。


「あちらに私利私欲にまみれ、人の尊厳を全く考えていない、薄汚れ、染まり切った魂が視えます。」



 悲しそうな、そして憐れむような。



 そんな表情で。




「あれは、救えませんね。悲しいですが。



 今夜は少し、動かしますか。」

魅力的な悪役というのを、なかなか思いつきません…


たぶんどこかで見たことあるようなネタになってしまうのが困ります。

セラ様もそんな感じですが…^^;

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